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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
ヴェスパニア騒乱編
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ヴェスパニア騒乱編~その㉓~宗像の奥の手

「――自害しろ!」


 宗像は殺人衝動の能力をもってソフィーに命令を飛ばした。彼の能力の影響を受けている以上、その衝動はソフィー自身へ向けられる。


「え?嫌ですけど…」

「ッッ!!?」


 ソフィーは宗像の能力については、まったく理解はしていないが故に、いったい何を言っているのだろうといった様子だ。

 しかし、宗像から見て殺人衝動に抵抗するでも抗うでもなく、普通に拒否をしたソフィーの様子に思わず「バカな!」と驚愕を口にした。


「無駄だよ。ソフィーは俺の能力の影響下にある。お前がいくら能力を使用したところで、意味は無い」


 熾輝は「あと他の3人もね」と付け加える。


「お前、いったい何をした?」

「何をって…、とある能力を使って、お前の能力を無効化しているってだけの話なんだけど?」


 熾輝が現在ソフィー達に施している能力は、一言で表すと【波動】だ。そして、その応用技である【破邪装甲】…この技は、対称を波動で包み込むと言う単純なものであるが、施している波動の効果は【癒し】【防御】の2つであり、宗像の精神干渉系能力を無効化しているのは、【防御】の方だ。


 ただ、遠隔操作に加え2つの効果を組み合わせるのは、非常に高度な技術が必要であることは言うまでもない。もしもメガロスとの死闘がなければ、こんな使用方法は出来なかったであろうが、これもチカラの核心に触れたが故に可能となったのだろう。


「チートだ…チート過ぎるだろうそんなの!」


 まるでズルを咎めるかのような言い分に対し、熾輝は「ちーと?」と、ゲームなど全くやったことが無く、言葉の意味に「?」を浮かべている。すると…


「は、はは、あははは!」


 急にタガが外れたような笑い声を上げる宗像。


「お前があるいんだぞ!お前みたいなガキが俺をバカにしやがったから、先生に使うなって言われていた奥の手を出さざるを得なくなったんだ俺は!」

「宗像、アレをやるのですね!?」

「あぁ、止めるなよ千々石ァ」

「判っています。この状況では仕方がないでしょう」


 いったい何をするつもりなのかと、熾輝はいぶかしむ視線を宗像へ向けている。

 宗像は、両手を突き出し、手のひらを熾輝に向けると再び黒い石があやしく光りはじめた。


「こりないの?精神操作の能力は効かないって言っているだろう」


 無駄だと言っても理解しない宗像に対し、呆れたため息を漏らす。だが、今回は様子が違うらしい…


「言ったろ奥の手だって!絡めてが通じないのなら、直接ぶっつぶすんだよ」


 言った宗像の両腕がガションッ!という音をたてて変形を開始した。元々、本物の腕に偽装するため、人口の皮膚で義手を覆っていたが、変形に伴い偽物の皮膚は内側から破れていく。


 そして、両腕の前腕同士がまるで合体をしたように接続しあう。それはまるで砲身のようだ。


「【呪詛ダイ黒曜石スレイブ】起動!」


 その名は熾輝にも聞き覚えがあった。数年前、フランス聖教を襲った悪魔【ベリアル】が使用したとされる宝具の名称だ。


「高密度の力の塊だ!コイツを見ても、そのスカした顔でいられるか!」


 手のひらの石から膨大な力が溢れ出していく。その力の塊は砲身の先で渦を巻きながら徐々に大きさを増している。


 予想される攻撃力は、メガロスを凌駕することは、一目瞭然だ。


「驚いた…」


 熾輝は思わず声を漏らした。しかし、それは宗像が繰り出そうとしている力に対してではない。


―――これだけの力を前にしても、まったく心がざわつかない。


 いぜん熾輝の思考はクリアなままだ。

 圧倒的力を前にしても平常通りであり、極意はおろか双極融合デュアルフォースすら発現させようとも思わないのだ。それ故、表情に変化は無い…


「いつまでも舐めプしやがって!だったら受けてみろ!お前が避けりゃあ、後ろの姫様たちも、諸共におさらばだ!」


 宗像の攻撃は間もなく臨界を迎え、打ち出される。


 時は一刻を争う状況に対し、熾輝はゆるりとした動作で両手を胸の前にもっていくと、まるでボールを持っているかのような構えをとり、いつものようにオーラを球体に形勢し始めた。


 しかし、そこに出現したのは、単なる気功弾ではない。


 超超高密度に圧縮された力の結晶。


 それは、瞬く間に完成した。

 

 デュアルフォースへの開眼を果たした事により、チカラの一端に触れた熾輝の新たなる領域。


 チカラをかけ合わせると言う発想と、それを実現可能にする超絶技巧とも言えるコントロールによって、生み出された技なのだ。


 既にお互いの力は臨界を迎えており、トリガーにも指が掛かっている。



「粋がってんじゃねえぞクソガキ!俺は絶対にお前とそこの女を殺す!」

「だったら、俺は全身全霊を掛けて、ソフィーを守り、そして、お前を倒す」


 発射のタイミングは、息を合わせたかのように、ほぼ同じだった。


 撃鉄を打ったとたん、装填された弾は、一直線に標的へと向かう…


―――呪黒砲ダインスバスターッッ!!!


―――波動弾!


 弾道は、両者の中央で激突すると、激しい衝撃波を周囲に巻き散らかした。


 しかし、意外にも力と力のぶつかり合いは拮抗するどころか、圧倒的な推進力をもって一方的な展開になってしまった。


「ちくしょうぅあああぁあッ!!」


 発射後の推進力やコントロール等といった本来、能力者がこなす技術的側面を全て義手の機構が肩代わりでもしているのか、宗像の義手は熱暴走を起しはじめ白煙が立ち上っている。


「終わりだ」


 熾輝が波動弾の推進力を更に上げた途端、呪黒砲は完全に跳ね飛ばされ、一直線に宗像へと迫る。


「う、うあぁああッ!!!」


 目前の波動弾は、宗像が突き出していた義手の末端に触れると、まるで分解でもしているかの様に破壊している。

 その様子は、砲を構えていた宗像の目にもハッキリと見てとれていた。だからこそ、自分はこのまま死ぬのだと明確に理解できてしまった。


「あぁああッ!!嫌だ!死にたくない!助けて!先生エエェエエエ!!!」


 年甲斐もない叫び。

 しかし、迫りくる脅威を、もはや誰も止める事はできないし、誰も救いの手を差し伸べてくれることなんて、起こり得ないと、誰もが思っていた矢先、熾輝の波動弾よりも速く、何かが宗像と千々石の横合いから衝突して、2人を吹き飛ばした。


「…誰だ」


 熾輝が視線を向けた先は、吹き飛ばされた宗像たちの方では無く、その真逆だ。


 そこに居たのは、軽量型の鎧と白いマントに身を包んだ女性。まるで、その様は女騎士を思わせる風貌。

 そして、彼女の後ろには何人もの女騎士がずらりと並んでいる。


「ベアトリクス――?」


 その声は、熾輝の後ろで戦いを見守っていたソフィーから告げられたものだった。


 熾輝が知るなかで、ここヴェスパニア公国でベアトリクスと言えば、【王の剣】と表される最強の女騎士の名だ。


「1班と2班は、アレ等を回収しろ」

「「はッ!」」


 しかし、ベアトリクスは、熾輝とソフィーを無視し、部下数名に宗像と千々石の回収を命じる。


「隊長、2時の方角に標的3名と最優先事項の対象を確認しました」

「よろしい。アチラは私が対処する。お前達は、この場で待機だ」


 ベアトリクスの命令にその場の騎士達が整列した状態で「はッ!」と、乱れぬ返事をする。

 その様から、彼女たち騎士としての練度の高さがうかがえる。


 ベアトリクスは、騎士達をその場に残して、1人で熾輝たちがいる方へと歩みを進めた。


 しかし、その様子は、有効的とは程遠く、彼女から発せられる気配は、臨戦態勢そのものだ。


「ベアトリクス、助けに来てくれたのですね」


 精霊の民からベアトリクスがムスカ側に付いたと聞かされていたが、やはり、何かの間違いだったのだと、ソフィーは思っていた。


 なにしろ、今も一団を率いて、姫である自分の元へと駆け付けてくれたのだから。


「助けに?…いったい、いつまで自分が姫と言う立場でいられていると思っている」

「え?」


 しかし、ベアトリクスから告げられた言葉は、今までソフィーが効いた事もないような冷たさがあった。


「もはや貴様は、この国の姫ではない。むしろ貴様の存在は争いの火種にしかならんのだ」

「待って、いったい何を――」

「私の剣で貴様に引導を渡すのが、せめてもの情けと知れ」


 もはや聞く耳持たんと言っているかのように、ベアトリクスは細身のロングソードを抜刀し、ソフィーに斬りかかろうとした。その直前、2人の間に割って入った気配に、ベアトリクスは動きを止めた。


「…その歳で、これ程までの気配。貴公は何者だ?」

「八神熾輝。悪いけど、俺の友達を傷つけようと言うのなら、容赦はしない」


 言って、熾輝はラドから拝借していたナタをベアトリクスに向けて構えを取った。


「待ってシキ!お願いベアトリクス、話を聞いて!私はお父様とお母様の仇を取るためにムスカと戦います!だから、アナタにも力を貸して欲しいの!王の剣であるアナタだって、ムスカを許せないと思う気持ちは一緒でしょ!」


 精霊の民からの情報で、ムスカがクーデターを起したと聞かされている。

 ならば、王都奪還の名目でムスカを捉え、裁く事だって可能なハズだ。


「いつまで、…いったい、いつまでその様な子供じみたワガママを言うつもりだ!」

「ッ――!!?」


 明らかな怒りと拒絶の咆哮にソフィーの身体は萎縮した。


「前王の仇をとる?笑止!もはや事態は、貴様が思っている様な簡単な次元の話では無くなっているのだ!そんな事も解らぬ小娘に、この国を守ることなど出来はしない!ソフィア・ヴェスパニア、貴様の命、このベアトリクスが貰い受ける!!」


 凄まじいオーラの奔流がベアトリクスから迸り、剣の切先がソフィーへと向けられた。


 熾輝は、右手のナタを逆手に持ち替えると片手だけという変則的な脇構えをとり、空いた左手をベアトリクスへと向けた。


「…面白い構えだ。敵わぬと知り、一か八かの一撃必殺を狙っているのか?」

「勝てない理由が見当たらないな。そっちこそ、子供だと侮っていると痛い目を見ますよ」


 いつ斬りかかってもおかしくは無い一触即発の状況下において、お互いが隙を窺っている。

 その緊張感は、この場のあまねく全ての者が感じ取り、一切の手出しが出来ない。もしも2人の制空権内に入ろうものなら、一瞬で命を刈り取られると誰もが理解している。


 ジリジリと、お互いが間合いを詰め始め、既に両者の制空権同士が交わっている。


「――既に、お互いが必殺の間合いだ」

「ッ、頭領さん、目を覚ましたのですね」


 先程まで虫の息だった精霊の民の女頭領が目を覚まし、熾輝とベアトリクスの戦いを観察していた。


「しかしこの戦い、男の分が悪いぞ」

「何故です?」


 ソフィーの質問に頭領は、若干イラつきを孕んだ声で「これだから」と毒づく。


「あの東洋人の男の剣には、まったく殺気が込められていない。対してベアトリクスの剣には、余りある程に殺気が込められている。殺さずに仕留められるような相手じゃない事が判らないのか?」

「…たぶん、ワタクシのせいです。シキは、ワタクシが大切に想う者を傷付けないようにしてくれているのです」

「それが本当だとしたら、戦士として三流以下だ」


 批判する女頭領は、それでもこの戦いから目を離そうとしないのは、熾輝に対して理解できない…正確には異質な何かを感じ取っているからなのかもしれない。


 熾輝とベアトリクスの間合いが更に縮まる。もはや手の届く距離に「近すぎだろ!」と頭領は突っ込まづにいられない。


 途端、熾輝の鼻から血か滴り落ちる。


「何という集中力!」

「どういう事ですか!?」

「達人同士の戦いは、気の読み合い。その読み合いを制した者がこの戦いの勝者ということだ!」


 頭領は「なんて熱い!」と自身が重症患者だという事も忘れ、いつの間にか手に汗握って戦いを観戦していた。


 そして、遂に2人が切り結ぶ瞬間がやって来ようとしたその時…


『――双方、剣を収めよ』


 まるで、頭の中に直接語り掛けてくるような声が響き渡った。


 この場の誰もが戦いに向けていた意識を無理やり剥がされ、何が起こったのか理解できずに場が混乱し始める。


「静まれ!」


 ベアトリクスの一喝に混乱する部隊は、静寂を取り戻し、そして、戦っていた両者は同時に構えを解いた。


「アレは、もしや――」


 その場の誰もが、突然の事態に動揺する中で、精霊の民は、音源の主に向かって恭しく膝を付いた。


 その先に居たのは、一頭のライオンであった―――。

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