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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
ヴェスパニア騒乱編
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ヴェスパニア騒乱編~その⑰~封印されし力

 身体中の細胞に火を灯すように、思いっきり空気を吸い込む。集束していくオーラの色が赤みを帯びて、次第に色濃く紅蓮の色彩へと変化を遂げた。


「たまらねぇ」


 まるでご馳走を前にしているかのように、メガロスの口内は、唾液で一杯になっていた。


流星歩―――


「ッッッ!!!?」


 流れ星が如き速さ。

 それは、熾輝のMAXスピード。

 そのMAXスピードによるタックルがメガロスに炸裂した。


 木々を薙ぎ倒し、まるで先程のお返しだと言わんばかりの勢いそのまま、今度はメガロスが崖に叩きつけられる。


 密着状態の二人、突進力は未だ衰えず、このままメガロスを圧殺する勢いだ。


小さな身体で、巨木を薙ぎ倒しながら俺を押し込んだ。並の修行では――


 押し返そうとしていたメガロス。しかし、目の前の反発していた力が急に解かれ、前のめりになる。


 間合いをとった熾輝は、そのままターンをして顔面に蹴りを叩き込んだ。


「ヌグッ――!」


 まるで叩きつけられたカエルのように、岸壁に張りつけになったメガロス。しかし、その表情から、ダメージを計ることが出来なかった。


「ぬはッ♪」

「うおぉおおッ!」


 目前に迫る熾輝の渾身のストレート。それを迎えるメガロスの拳。しかし、完璧な攻撃モーションの熾輝に対し、メガロスは未だ岸壁に身体を預けたままだ。


 ようは、手打ちだけによる攻撃。にもかかわらず――


「ッッ―――!!?」


 熾輝の渾身の一撃は、相殺されたのだ。


「なんだ?それが全力か!?いい速さだったが…筋肉マッスルが足りてねえ!!」

「ぐあッ」


 合わさった拳にメガロスが力を込めただけで、いとも容易たやすく吹き飛ばされた。


「俺はヒドラによって、筋肉を増強させた!皮下に収まんねえ程の筋肉によって、速さと力が底上げされてんだよ!」


 それは、知っている。付け加えるとしたら、バカげたオーラ量の増加だ。

 しかし、熾輝が知るヒドラ使用者とメガロスのパワーアップには、あまりにも開きがありする。


「薬だけで、こんなにも力が増すものなのかって表情かおだなオイ!」 


 時折りみせるハイの状態のせいなのか、メガロスは「いいぜ、教えてやるよ」と言って、急に饒舌じょうぜつになった。


「ヒドラはよ!この国で採掘される精霊石マテリアを利用して、従来以上の効力を発揮できるようになったんだ!」

「ッ!?」

「つっても、今はまだ、俺みたいにヒドラに適合できる奴は少ねえらしいが、それも時間の問題だろう。なにせ、もうすぐこの国は、俺達の物になる。そうすれば、今以上に研究は進み、軍事利用のめどがたつんだからよぉ」


 マテリアの採掘、軍事利用というキーワード。

 それは、先ほどソフィーと話していた内容が、一つの答えを導き出した。


「お前達は、ヒドラを使って何を企んでいる!」

「戦争だよ。裏社会と表社会なんて枠組みを取っ払って、好きに暴れてえ。ただそれだけさ」

「バカな!そんなこと、世界の守護者たちが黙っていると思うのか!?」

「黙ってねぇだろうな。けどよぉ、そいつ等とも殺し合いが出来るって考えただけで、俺ァ最高だと思うぜ?」

「なん、だと?」


 熾輝には、目の前の男の言動が何一つとして理解することが出来なかった。


「誰かに理解してもらおうなんて、これっぽっちも思っちゃいねえ。俺は暴れたいから暴れる。その結果、誰が死のうがどうでもいい。この国の王様達みたいに――」


 ペラペラと喋り続けるメガロスの言葉が、突如途切れた。

 それは、彼が意識して行ったことではなく、何者かによる投石がメガロスの後頭部に当たった結果だ。


「そんな、…そんな理由で、お父様とお母様を殺したのですか」

「ソフィー!ダメだ!さがれ!」

「…あん?なんだよお姫様ぁ。お前を殺すのは後なんだから、そこらへんに隠れて――」

「お前みたいなヤツのせいで!いつも誰かが不幸になる!わたくしは絶対にお前を許さない!」

「………ピーチクパーチクうるせえガキだ。だいたい、俺の自由を縛る権利が誰にあるっていうんだ?人はなぁ、生まれながらにして自由なんだよ。お前の両親も、城に居た護衛たちも、アイツらの自由で俺と戦って死んだ。悪いのは、弱いくせに挑んできたテメエのパパとママだろうがよおおお!!」


 力の奔流がメガロスから立ち上り、一直線にソフィーへと向かって行く。

 ハッキリ言って、掠っただけで、彼女はミンチにされるレベルの過剰なまでの力が込められた一撃だ。


 その殺意をあてられて、彼女は逃げることも出来なかった。しかし…


「全部ッ!お前が悪いんだろうがあぁあッ!!」

「ぬはッ♪さっきのやりなおしか?知ってるよな?力じゃ俺には敵わないって♪」


 激突する拳と拳!今度の撃ち合いは、両雄そろってのフルスイング!

 だが忘れてはいけない。先ほど、熾輝の渾身の一撃に対し、メガロスは手打ちの打撃によって、それを相殺してみせたことを。


 故に、結果は火を見るよりも明らかだ…


「AAAAIIIIIーーー!」

「うおぉおおおッ!!」

「IIIIッ!?テメエ、リミッターを外したのか!?」


 拮抗する力と力

 メガロスた言うように、熾輝は肉体的なリミッターの外し技である獅子ライオン奮迅ハート、そしてオーラ出力の外し技である游雲ドラ驚竜グーンを開放させたのだ。しかし・・・


「ぬはははッ♪おそらくは、それがテメエの全力全開!しかもリミッター解除は、漏れなく時間制限付きってのが、相場が決まってる!全力同士が拮抗している時点で、テメエは、俺に――」

「UWWWWWWWWWーーーーッ!!」


 【極意】+【ライオンハート】+【ドラグーン】


「おぉおッ!?力、あがってねえか!?」


 +【波動拳】


「全身全霊を掛けて、お前を倒すッ!!!」


 怒れる拳が、ついにメガロスのパワーを上回った!


「ぬがッーーー!!!」


 再び岸壁に叩きつけられたメガロス。だが、その威力は先程の比ではない。

 崖に亀裂が走り、落石と砂埃が巻き起こり、衝撃波は森全体に響き渡っていた。

 

「やった…」


 思わず声に漏らす。

 仇の一人であるメガロスが今、自身の目の前で倒されたのだから。


「ハァ…ハァ……先を急ごう。メガロスが追手として来たってことは、ソフィーの生存が知られ―――」


 言葉が出てこなかった。

 ゾクリとした悪寒を熾輝は、己の第六感で感じ取った。そして、振り向いたその先には…


「嘘だろ…」


 間違いなく、熾輝の持ちうる力を総動員させた。まさに全身全霊の一撃のハズだった。

 にも関わらず、そこには、大したダメージも負っていないメガロスが、今まさに立ち上がろうとしていたのだ。


俄然がぜん、殺る気が湧いてきた」


 言って、取り出したのは、やはりと言うべきか、ヒドラが入った注射器。

 それを首筋にあてて、自らに注入する。


「言っとくが、さっきの俺の倍、強えぞ」


 薄緑色だった肌の色が更に濃く変色し、肉体も膨れ上がり、オーラ量も更に上がった。

 更なる変化として、身体の所々が、人の細胞組織から黒い結晶に変わっている。


 そして……


 ゴッ!!!!!!―――と、鈍い音と衝撃を感じたときには、メガロスの拳が熾輝の腕に突き刺さっていた。


「ぬははッ♪殺気を肌で感じて、ガードしやがったか!」


 辛うじてガードの上から叩かれたのは、無意識によるもの。

 構えを解いていた訳ではないが、それでもメガロスの動きを熾輝は、まったく捉えることが出来なかったのだ。


アッ!」


 ガードした腕は、折れてはいない。しかし、無事では済まなかった。


 左腕の骨にヒビ、衝撃を逃がしきれず、肋骨数本が完全に折れた。


――さっきまでと比べ物にならない!速さも、力も!!


「さっきのはマグレだったのか!もっかい撃ち合おうぜ!」


――無理だ!いくらなんでも、力が違い過ぎる!


「化物めッ!!」


 容赦なく迫るメガロスに対し、熾輝がとれた手段は、魔眼の解放。


 魔眼【星の瞳】の能力は、高速行動能力。


 それによって引き延ばされた時間で、メガロスの速さに対抗しようとしていた。


「もう鬼ごっこは、あきあきなんだ」

「ッッーーー!!!?」


 攻撃の回避。それならば、星の瞳をもってすれば、可能だった。

 しかし、メガロスは、熾輝を直接ねらうのではなく、その手前の地面を抉る様に打ち上げ、破片を飛ばして来たのだ。


 メガロスのパワーに加え、オーラを纏った破片だ。

 いくら極意と制限を外した熾輝でも、この攻撃はひとたまりもない。

 その証拠に、細かい破片のつぶてが身体中に突き刺さり、拳大の破片にあっては、打撃として、確かなダメージを熾輝に与えていた。


「シキーーーッ!!」

「大ッ、丈夫!!」


 歯を食いしばり、泣き叫ぶソフィーを守る様にして熾輝は、メガロスの前に立ち塞がる。


「ハァ…、ハァ………本当に、守るってのは、骨が折れる」


 実際に折れている骨の事を言っている訳では無い。


―――いいかい、守るってのは、至難の技なんだ。


 日本を発つ前に昇雲から言われた言葉が、脳裏に甦る。


―――心しな、お前が死ぬときは、お前が守っている者の命が終わるって意味だ。


「判っていますよ師範」


―――ならばどうする?強敵と相対したとき、諸刃の剣を使って勝ったとして、そのあと、お前がボロ雑巾の役立たずに成り下がれば、結果は変わらないよ?


「決まっています」


 もはや、メガロスに勝つためには、これしかない。

 熾輝は、覚悟を決めてた。


「あ?…オイオイ、何かッてに萎えてやがる!?そんなんで、どうするつもりだよ!」


 なんと、メガロスを前に、熾輝は切札であるハズの極意を自らの意思で解いてしまったのだ。だが、それは諦めたが故の選択では決してない。


―――すみません師範、禁を破ります。


 それは、師昇雲によって施されていた、とある封印の解除。

 かつて、その力を幾度となく行使し、その度に瀕死に陥っていた諸刃の剣。

 その名を……


「仙術発動ッ!」


 その封印を自ら解き放ったのだ。


―――出来るハズだ!今の俺なら!


 仙術の力の全てを掌握しようという訳では無い。

 言い換えれば熾輝が許容できる自然エネルギーの一端を宿そうとしている。


―――許容範囲を100%とするならば、10%、20%、30%ォ…


 まだ足りない。目の前の敵と渡り合うにはまだ足りないのだ。


―――40%…まだだ、この程度なら極意を発動させていた方が力は上だ。最低でもメガロスと渡り合えるだけの力が必要なんだ!


 まるで命を掛けた綱渡り。

 いくら許容範囲内の力だとは言え、自然の力と言うのは、人の身に余るもの。

 それを制御下に置くとはいえ、コントロールを誤れば死に繋がる。


―――ビビるな!大切なもの1つ守れないで、俺にあの場所へ帰る資格があると思うのか!


「80%オオォオオッ!!!」


 空が鳴き、大地が動く。


「天地が鳴動めいどうしている」

「ぬはッ♪これほど滾る戦いは、久しぶりだぜ。なぁ!おまえもだろ!ヤガミシキイイッ!」


 自然エネルギーを自身の許容範囲ギリギリまでその身に宿すことにより、ついに仙術による自壊を克服した。

 その力は、どれ程の物なのか…


「黙れ…」


 まさに一瞬、攻撃へと転じる気配を察知することもできず、メガロスの腹部に拳が深くめり込んだ。


「ッッッーーー!!?ウッ、オエェエエエッ!!!」

 

 その確かな一撃は、今まで決して膝を付かなかったメガロスに初めて土を付けさせ、あまつさえ嘔吐すらさせた。


「ハァ…ハァ……そんな奥の手まで隠していたとはな。まさかまさかだぜ」 


 間違いなく大ダメージを与えた。にも関わらず、メガロスに焦りの表情は窺えない。

 それどころか、痛みすら楽しんでいる様子に、熾輝は言いようのない不気味さを感じた。


「こりゃあ、俺も本気マジでやらにゃあ、ならんわなァ」

「聞き捨てならないな。まるで、今まで本気じゃなかったかのような言いぐさだな」

「いやまぁ、全力だったぜ?」

「?」


 聞き様によっては支離滅裂に感じるメガロスの言葉に、怪訝な表情が浮かぶ。


「けどよう、俺達がなんて呼ばれているのか、お前は忘れていないか?」

「……能力者」


 熾輝の言葉に合わせて、メガロスの口角が吊り上がる。が、わざわざ能力を発動させてやるほど熾輝も愚かではない。


 間合いを一気に潰し、連撃を叩き込む。その威力は、先程と同様に、メガロスに大ダメージを与えた物と遜色ない。しかし…


「ぬははは♪どうした?焦ってんのか?」


 防御体勢をとったメガロスは、笑みを浮かべながら熾輝の攻撃を受け続けている。


 弾き飛ばされ、転がり、木々を薙ぎ倒し、岸壁に衝突し、叩き付けられようが。しかし、メガロスは笑う事をやめない。


―――なんだ、この手応えは…


 不可解極まりなかった。

 能力発動の予告までしておいて、その実、メガロスは防御に徹している。

 にもかかわらず、攻勢に回っているハズの自分が追い込まれている。そんな予感がどうしても消えない。

 だが、その答えは、直ぐにやってきた。…メガロスのラリアットが己の胴にぶち当たった事により―――。

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