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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
ヴェスパニア騒乱編
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ヴェスパニア騒乱編~その⑧はーはっはっは!何処へ行こうというのだね?~

 専用機という単語をニュース以外に耳にする事はなく、見る機会など人生の中であるかないか。


 ましてや王族専用機などというものに乗るなんて、普通はありえない。だと言うのに…


「――意外と小さいんだね」


 乗れることの幸運を正確に理解出来ていない者が一人。


「旅客機じゃないのです。一般的な飛行機と比べないで下さい」


 搭乗した熾輝は、キョロキョロと周りを見ながらソフィアと一緒に座席へと向かって行く。


「まったく、姫様にも困ったものだ。帰国に日本人を連れていくとは」

「なんだい大臣、アタシ等の護衛に不服でもあるってのかい?」

「ある訳が無かろう。エレオノール王女殿下の代から貴殿には世話になっているのだ。その実力を疑いはせん。しかし、アレは……」


 エレオノールとは先々代の王女の名を指す。つまりはソフィアの祖母と言う事になる。


 どうやら、昔から昇雲とヴェスパニア公国とは、何らかの関係があるようだ。


 それゆえ、昇雲が護衛としてソフィアについてくる事に対しては何の文句もない。

 あるのは、彼女の弟子である熾輝に対してだ。


「心配いらないよ、アレでもアタシの弟子さね」

「役に立つのですかな?」

「そう思ったから連れてきたんだよ。まぁ、その内わかるさね」

「むぅ……」


 傍から見れば熾輝はただの子供だ。13歳にしては、どこか落ち着いた印象を受けるが――


「――ソフィー大変だ。この飛行機、ベッドルームがある!」

「王族専用機ですから」

「会議室があるよ!」

「王族専用機ですもの」

「衛星電話が――」

「王族――」

「パラシュート――」

「王――」

以下略――


やはり子供は子供であると、渋柿の様に顔のシワを寄せ集める大臣の心労は、想像に難くない。


 歳のせいでもあるが、なんとなく胃痛を感じて薬を飲む大臣を横目に、昇雲はヤレヤレと息を漏らしている。


 そして熾輝達を乗せた飛行機は、離陸を開始する。

 時刻は日本時間で午後8時00分、ヴェスパニアまでの飛行時間は9時間程だ――。



◇   ◇   ◇



 熾輝達を乗せた飛行機が離陸を開始したちょうどその頃、海の上に浮かぶ一隻の貨物船の中――。


「それで?一流の殺し屋の自由フリーさんは、いったい何をしているんだ?」


 嫌みを孕んだその言葉を発した男の四肢は、見ただけでは判別は出来ないほど精巧に造られた義手と義足がハメられている。


 その男はかつて…とは言っても、ほんの3カ月前に熾輝が参加していた世界魔闘競技大会を襲った敵の一人、宗像むなかたと…


「今回の失態について、教団われわれの上層部もアナタに期待していた分ガッカリしています」


 彼の横に立っているのは、同じく襲撃者だった一人、だ。


「それで?ボクを消しに来たのかなぁ?」


 重症患者専用のベッドの上で、まるでミイラのように全身を包帯でグルグル巻きにされ、いたるところに点滴の針を何本も打ち込まれているこの男からは、反省の色と言うものがまるでない。


「…まさか、俺たち2人じゃあ一流様には敵わないのは判っている」

「感心感心、例え重症を負っているとはいえ、今のボクでも君たち程度なら問題なく殺せる。敵との実力差をちゃんと計れる様になって偉いじゃないか」


チッ、――と舌打ちをしたのは、3カ月前の襲撃で戦力を計る事が出来ず、無様な敗北を晒しているが故に、それを咎められたと思ったからだろう。


「しかしだ、…となると、教団はこのボクに次はいったい何をさせたいのかな?」


 任務を失敗した者には死を…という訳では無いのは明らかだ。


 なにせ、使いに寄こしたのが、どう足掻いたって自由フリーに勝つ事が出来ない宗像と千々石の2人だけ。


 もしも、彼を殺す目的なら、それにふさわしい実力の者を派遣するのがどおりだ。


「アナタには、このまま私たちと一緒にヴェスパニア公国に向かってもらいます」

「フムフムそれで?」

「…標的は変わらずソフィア・ヴェスパニアの殺害」

「失敗したボクをまだ使ってくれるとは、教団は余程お優しい組織なのか、それとも単に人材不足なだけなのか、はたまた使い捨てかなぁ?」


 探るような視線を向ける自由フリーであったが、目の前の2人の表情からは読み取ることが出来ない。…正確には2人はそこまで教団の内情を知らされている訳では無い、ただのメッセンジャーなのだ。


「ぐだぐだ言っていないで判りましたって言えばいいんだよ。アンタは一流の殺し屋で、契約は絶対なんだろう?だったら、請け負った仕事は最後までこなせよな」

「ンッン~、生意気な口をきくじゃないか。流石オーガに目を付けられたってだけはあるぜ」


 飄々とした音声で話してはいるが、その実、発する言葉とオーラにはしっかりと殺意が内包されている。


 それを受けて、僅かにビクッと身を震わせる2人の様子を見て、自由フリーはニコリと笑みを浮かべる。


「いいさ♪そっちは使い潰す気満々だろうけどボクも一流。そう簡単には終われない(色々な意味で)。あのボーイとババアに借りを返したかったしね♪」

「安心しました。私たちも良い結果を上に報告できま――」

「たっだ~♪一国の姫様を殺すのに、刺客が僕一人ってこたぁないんだろう?」

「ケッ、んだよ判ってたのかよ。ああそうだよ、先生オーガは今回の件に何人かの刺客を送り込んでいる」

「ンッン~♪ならタイミングを考えれば、まずは行きの飛行機ってところかぁ」


 一流の殺し屋としての勘がそう告げているのか、彼は船の上から、熾輝達がいる空を眺めるのであった。(重症でベッドから動けないので、眺めているのは、ただの天上だ)



◇   ◇   ◇



 熾輝達を乗せた飛行機は、まもなくヴェスパニア公国の領域へと入る。


 フライト時間も7割を消化した機内では、昇雲と熾輝を交えての話し合いが、機内にある会議室で行われていた。


「――それで?結局のところ王と王女を殺したのは、何処のどいつなんだい?」


 昇雲の質問で、部屋中が一気に重苦しい雰囲気に包まれた。


「実行犯は、ジェイカトラーというアメリカ人の能力者で、通称【メガロス】と呼ばれています」


 昇雲の質問に応えたのは、警護隊の隊長であるキースだ。

 その彼の音声には、怒りと憎悪がハッキリと含まれている。


「事件当時は、お二人直属の護衛は、王命により別任務に付いており、その留守を狙われました。代役として護衛に付いていた私の部下30名もメガロスに殺されています」

「足取りは?」

「事件以降、ヤツの行方は不明です。現在、あらゆる手段で捜索を続けていますが、尻尾すら掴めていない状況です」


 ギリリと拳を握る音が耳に入る。

 それはキースだけではなく、ここにいる殆どの警護隊員たちからもだ。


「犯人の情報がそこまで判っていて尻尾が掴めないんじゃあ、相当深い闇組織…教団が関わっているとみていいだろうね」


 昇雲の言葉に「おそらくは」とキースが相槌をうつ。


「状況は、概ね把握した。そのうえで、アンタ等は今回の黒幕が誰だか判っているのかい?」

「それは…」


 核心をつく昇雲の質問に、この場の誰もが口を噤んだ。

 それは、決して容疑者が浮かんでいないからという訳では無いし、ましてや彼らが無能という訳では決してない。


 この質問に対し、誰もが応えずらそうに…正確に言えば、この場に居る一人の姫の心をおもんばかっているのだ。


「…そこの姫さんは、聡い子だよ。アンタ等が気を使っていても、それとなく気が付いているハズさね。というより、簡単な図式だろう?きっとアタシの弟子にだって判ることさね」

「しかし、証拠がありません。これは高度に政治的な問題で、一歩間違えれば国が傾くことに繋がります――」

「それでも、わたくしは聞きたいのです」


 言いよどむキースの言葉に対し、共に会議に出席していたソフィアが重い口を開いた。


「わたくしの考えが正しいのかどうか、知りたいのです。残念なことに、今のわたくしには、何の力もありません。民の心を掴む事も、動かせる兵も、心を置ける者も、財力も、何もかもありません。ですが、自分の両親を殺めた相手の事を知っておきたいのです。それは家族として当たり前の事ではありませんか?」

「姫様……」


 彼女は言った、心を置ける者が居ないと。それは、彼女にとってこの場に居る者も信用していないという意思表示だ。


 何が彼女にそこまでの拒絶を強いているのか、その様な考えに至る事になってしまったのか。


 しかし、彼女は知らねばならない。己が両親の仇を…


「申し訳ありませんが、お答えしかねます」

「大臣…何故ですか?」

「証拠がございません。憶測だけで姫様を混乱させる訳には――」

「それでも構わないと言っているのです!」

「なりません!アナタはまだ13歳の子供なのです!身の丈をわきまえて下され!」

「ッ……!」


 頑なに口を閉ざす家臣に何を言っても無駄と悟る一方で、ソフィアは『アナタもわたくしを小娘だと侮辱するのですね』と声を震わせていた。


 そして、彼女は自分の後ろで待機していた熾輝に振り返り…


「シキッ、アナタの考えを聞かせてちょうだい!わたくしの考えと一緒なのか、確かめたいの!」

「ソフィ―――」

「応えてくれなのなら、わたくしはアナタの事を信用しない!護衛もここまで!これっきりよ!」

「………」


 彼女がどこまで熾輝を信じてくれているのか…正直なところ、今でも彼女は誰も、熾輝の事すら信用などしてはいない。


 それでも護衛として傍に置いているのは、彼女の何らかのメッセージなのかも知れない。


 やや脅迫じみた質問だが、熾輝は周りの者達からの意思ある視線を一切シャットアウトして、口をひらく。


「論理的に考えれば、ソフィーの次に王位継承権のある人物。叔父であるムスカ・ヴェスパニアだ」


 たった一言、結論のみを応えた熾輝だったが、ここに至るまでソフィーに関するありとあらゆる事を調べ上げた結果に導き出した答えだ。


 一国の姫の情報、ましてや王族や国の機密情報をただの13歳の少年に知り得る事など普通は不可能。

 しかし、その不可能を可能にする頼もしい式神が彼にはいる。


「ムスカ・ヴェスパニアは軍部トップの役職についていて、平和主義のサクラ王女とは考えが合わず、度々揉めていたんだろ(式神がサルベージした国家機密)。そして軋轢が明確なものとなったのが近年発掘されたマテリア――」

「もうよい!やめい!」


 核心を突く熾輝をこれ以上、喋らせる訳にはいかないと、大臣が声を荒げる。


「昇雲殿、確かにアナタの弟子は有能なようだ。しかし、あまりに有能すぎるのは考えものですぞ!」

「それは褒め過ぎさね。13才の子供が判るような事なんだ、少し考えれば誰にでも判ることなんだって、アンタ等も判っているだろうに」


 二人の言い合いを目の当たりにしていたソフィアは、神妙な面持ちだったが、しかしまるで、喉に刺さっていた小さな骨が取れたかのような感覚でもあった。


「やはり叔父上が…」

「姫様、それは何の確証も無いことです。ムスカ様が一番怪しいと言うだけで証拠がある訳ではなありません。くれぐれも無茶をなさいませぬよう、ゆめゆめ忘れてくださるな」

「…わかっています」


 今のソフィアは、驚くほどに冷静だ。

 しかし、この類の冷静について、熾輝は覚えがある。

 人間、度を越した怒りを感じると、信じられないくらいに頭が冷えていくものだと、熾輝は経験上知っている。


――しかし、まだ子供であるソフィーを渦中に巻き込まんとする心は理解できる。…けど、何もかもが後手に回り過ぎている今の状況は、最悪と言っていい。もしも俺が敵の立場なら、今が現王家の喉元を食い破る絶好の機会だと、行動を起こすところだ。


 現状、熾輝が知りうる限りの情報と彼の式神であるミネルヴァがシュミレートした、これから起こりうるであろう事態に、彼らが何処まで気が付いているのか、それだけだ気がかりでならなかった――。


「――とにかく、ここより先は、国の行く末に関わること。昇雲殿と、特にそこの少年は護衛以外に余計な口を挟まぬようお願いする」


 熾輝が危惧していた事を口にしようか迷っていた間に釘を刺されてしまった。


 これには、流石の熾輝も『判りました』と、応える他なかった。


「はぁ、どうやら茶が冷めてしまったようだ。代りの物を持って来させよう」


 と、大臣がテーブルに置かれていたティーカップに口を付けたが、その中身が冷たくなっていた事から、乗務員の呼び出しボタンを押して、マイクを通し、お茶の入れ直しを伝えた。


 間もなく、女性の乗務員がティーセットを乗せたカートを押して入って来た。


 余談だが、王族専用機に搭乗している者は、パイロットから乗務員に至るまで、国の厳しい審査によって選ばれたプロフェッショナルだ。

 故に、その身上に至るまで余すことなく調査され、問題ないと判断された者だけが、王族専用機の専属乗務員として資格を得ることが出来るのだ。


「ありがとうございます。あとは、わたくしが」


 いかに資格有りとされる専属乗務員であれど、王族に一定以上近づくことは許されない。

 故に、ソフィアの専属侍女であるエマがカートを引き継ごうとした。しかし…


「…えぇ、ですが、お茶菓子のカットには少々コツがいりますよ?」

「はい?」


 カートに乗せられてきたティーセット、おそらくはお菓子を乗せているお皿に被せられた金属製の覆いを乗務員の女性は、おもむろに外した。


「いかん!離れな!」

「ッーー!!?」


 昇雲の警告よりも早く、覆いによって隠されていた何かが無数に空中へと飛び出した――。


 


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