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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
26/295

第二五話

深い森の中、異形の生物の咆哮が鳴り響く。


『ウゴゴゴゴゴゴゴゴッ‼』


岩鬼と呼ばれた妖怪は、空高く跳躍し、10メートル程の高さで一度制止し、そのまま落下を開始した。


「岩鬼の重量は、およそ1トン近くあります。落下のエネルギーを加算したらその倍以上のエネルギーが加わる訳ですが、どうやって凌ぎますか?」


人が行使する魔術の力には、限度がある。


魔力により結界等の障壁を構築しても、全ての攻撃を防げる無敵の盾が出来る訳ではない。


個人差はあるが、物理的な力に対してそれを防ぐ盾を造り上げた所で、それを防げるだけの効力が無ければ、盾は破壊される。


「確かにその重量を防ぐ術式を作り出すには、時間が掛かるけど、真正面から受け止め無ければいいだけの事。」


瞬時に葵が構築した魔法式が展開される。


発動と同時に岩鬼の直線的な落下の軌道が歪む。


岩鬼の攻撃は、葵が居る場所からまでは届かず、かなり手前で着弾し、地面を大きく掘り返していた。


葵は元居た場所からゆっくりと歩を進め始めた。


「流石に少しだけ重かったわね。」


重いと言ったが、これは別に葵自身が重さを感じた訳ではない。

彼女が構築した魔術は、物体の運動エネルギーに干渉する系統のものであり、彼女が設定した着地地点よりも手前に落下したため、岩鬼の重量を計ったのだ。


岩鬼の傍に近づいた葵は、再び魔術を発動させる。


すると、岩鬼を中心に周りの草木が地面へと押し付けられていく。


同様の現象が岩鬼にも起きているため、岩鬼は、その巨体を地面に押し付けられている。


「(これは先生の重力魔法。そうか、元々重たい岩鬼は、重力を掛けられただけで、自重を支えきれないのか。」


見えない力によって、大地へと抑えこまれている岩鬼は、丸太の様な四肢に力を入れるが、その拘束から逃れる事が出来ない。


「これで終わりよ。」


葵の掌に魔力が集まりだし、魔法式を構築していく。


岩の様な外皮に覆われた岩鬼は、先程みせた攻撃で自らを大地に衝突させるも、傷一つ負っていない事から耐久度が高い事が覗えたため、葵は目の前の元人間を確実に殺せるだけの魔力と術式を用意した。


動けない岩鬼の目の前で展開しする魔法式に光が灯る。


「苦しまないようにしてあげるからね。」


死を運ぶ者の言葉がその場に響きわたる。


徐々に光量を増す魔法式が臨界に達し、術式を発動させる寸前、岩鬼の眼からは、赤い血の涙がこぼれ始めた。


「ぃ、や・だぁ。パパ、マァ、ま・・・助け・・て」



動揺


それは、その場の有利を覆すには、十分すぎる隙だった。


岩鬼の悲痛な叫び、それは、かつての人であった頃の記憶が呼び起こされたのか、それとも妖怪にされてもなお、自我を残していたのかは、分からない。


だが、その助けを求める少女の声によって、葵の心は確実に動揺した事により、起動中だった魔法式を全て瓦解させてしまったのだ。


その隙をここに居る者達が見逃すはずが無い。


「先生!避けて!」


熾輝の言葉を辛うじて認識できた途端、無数の魔法が雨の様に降り注いだ。


まるで先程、熾輝が受けた攻撃そのものの様に。


攻撃は、葵を中心に広範囲に降り注ぎ、葵の傍に居た岩鬼をも巻き込みながら降り続く。


爆音が響き渡り、舞い上がった土煙で完全に視界が塞がれる。


そして、土煙の中では、息を切らせながら全身に軽い火傷を負った一人の男が立っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はっふははははははは!」


高らかに笑いを上げる男は、身体を仰け反らせ、天をあおぎ見る。


「やったぞ!俺が、この俺が五柱を倒した!完璧に、全力の魔術で!なにが五柱だ!なにが日本で5指の実力者だ!この俺こそが五柱に相応しい男だ!」


思いのたけを叫ぶ男は、再び笑い出す。


だが、ゆっくりと視界が回復するにつれ、男の歓喜の顔は、次第に歪められていく。


ボンヤリとだが分かる。


土煙の中に、先程まであの女が立っていた場所に、いる人影


だが、神狩には視界が開けずとも分かってしまう。


彼女の魔力が未だ健在だと言う事が。


「馬鹿な、俺の攻撃は完ぺきだったはずだ、あのタイミングで、どうやって防いだ!?」


次第に視界が開けていき、葵の姿がはっきりと見えてくる。


『私が何て呼ばれているか知らないの?』


その瞬間、神狩は女の二つ名を思い出す


「・・・言霊使い」


『あら、ちゃんと知っているじゃない。』


「そうか、魔術が当たる前に、何かしらの言霊で俺の攻撃を防いだか。」


『正解。』


神狩が睨め付ける葵は、身体から放出されていた魔力をオーラに切り替え、自身のもつ固有能力を発動させていたのだ。


「だが、まだ終わりじゃねぇぞ!」


完全に頭に血が上った神狩は、その勢いのまま魔法式を構築する。


しかし、


『無駄よ、彼方は魔力を知覚出来ない』


瞬間、神狩の手元で構築中の魔法式が砕け、意識して操作していた魔力も霧散してしまった。


「な!?」


「勝負有りよ。大人しく投降しなさい。」


神狩が魔力を知覚出来なくなったことにより、彼に対する脅威が無くなったと判断した葵は、オーラから再び魔力を身体に纏わせた。


「言っておくけど、私の言霊の効力は1日2日じゃ解除されないわ。」


「・・・るな、ふざけるな!魔術で勝負しやがれ!」


怒りを吐き出した神狩は、胸元にしまい込んでいたサバイバルナイフを取り出し、葵に向け始めた。


「・・・未熟ね、才能におぼれて戦いという物を理解していない。」


「なんだと!?」


「今の彼方なら、私たちの教え子で十分ね。」


「何をいっている、あのくたばり損ないが動けるわけが」


瞬間、神狩の首にロープが巻きつけられた。


気が付いた時には既に遅く、両肩に肩車の容量で神狩に乗っかった少年は、素早く首に巻き付いたロープで神狩を締め上げた。


「ぐごッ!てめぇ、クソガキ!?」


締め上げられた状態で、神狩は、視界の端に映る倒れ伏した真部と自分に巻き付けられたロープが先程まで少年を縛り上げていた物だと理解できた。


「(縄抜けだと!?コイツッ何処の忍者だよ!)」


首に巻き付いたロープを引き離そうとするが、皮膚に完全にめり込んだロープに指を掛けることも出来ず、僅か10秒足らずで神狩は意識を落とされた。


後に残ったのは、崩れ落ちた神狩と顎を撃ち抜かれ失神している真部


そして、神狩が放った魔術に巻き込まれた岩鬼が虫の息の状態で倒れ伏していた。


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