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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
国際魔闘競技大会
253/295

魔闘競技大会~その⑮~鬼幻宗

――こいつは思った以上に厄介だな。どうやって対処したものか………っと!


 思考を巡らせていた威吹鬼は、己の反射神経に従ってその場から跳んだ。


 次の瞬間、威吹鬼のはらわたを削り取らんと掌底の指が獣の爪の如く迸った。


 横に避けると空振りの勢いを利用して、そのまま追尾してくるので、身の安全を保つにはとにかくヒビキの攻撃範囲が及ばない後方に跳躍するしかない。


 だが、避けるだけだはジリ貧である。


 ……実のところ、ヒビキの体力が尽きるまで攻撃を避け続ける事も可能であるといえば可能なのだが、それでは流石に芸が無い。


 そこで威吹鬼は再びフック気味に放たれた掌底を敢えて横に大きく跳んで避けた。


あさはか!」


 当然の如く、ヒビキは回転を加えて追撃にかかる。


――かかった!


 威吹鬼は自らに迫る横薙ぎの掌底を前に、床を軽く踏み鳴らすと軽業師の様に身体を空中へ躍らせた。


 標的を仕留めそこなった掌底が空を切り、ヒビキのバランスを崩させる。


「何だとッ――!?」 


 まさかの行動で必殺の型を凌がれてしまったヒビキは焦燥から顔を歪める。その様子を見て、威吹鬼は勝利を確信……


「……愚かな」


出来なかった。


 覆面越しに笑うヒビキの手が素早く地面に触れる。その瞬間、上下が逆転すると同時に蹴り足が襲い掛かった。


 威吹鬼は空中で回避は不可能と判断すると、咄嗟に拳を打ち出した。


 乾いた衝突音が鳴り、生み出された衝撃によって、お互いに飛ばされる結果となった。


 ヒビキの浸透系の攻撃は実のところ掌底だけでなく、足技においても可能だ。故に空中に逃げた威吹鬼に蹴り技が決まっていれば、確実に沈める事が出来たハズ。


 しかし、完全に捉えたと思っていた攻撃を不安定な空中において的確に迎撃して見せた威吹鬼の技量は、ヒビキを精神的に追い詰める事に成功していた。


 優勢と思っていたにもかかわらず自身の不利を感じ、後方に跳躍したヒビキと入れ替わる様にして、威吹鬼が武舞台に着地する。


 だが、一息ついている暇などない。間合いを外そうとバックステップを踏むヒビキの足が地面に着地するより先に、再び大地を蹴った。


「チッ!」


 ヒビキは、半ば反射的に腕を振るう。後方に跳躍しながらの体勢では横なぎに振るうのが精一杯であり、威吹鬼はそれを地面を転がる様に前転で避けた。


 素早く体勢を立て直したあとは、起き上がりながらヒビキの顎を撃ち抜かんとアッパーカットを放つ―――そこで、身体を仰け反らせて避けようとしたヒビキの頬を掠り、覆面が破けて素顔が晒された。


「――ッ!?」


 その素顔を見たとたん、威吹鬼は目を見開き驚愕した。逆にヒビキからは高濃度の殺気が放たれる。


――女ッ!?いや、そんな事よりもコイツは…


雛子ひなこ――」

「私をその名で呼ぶなッ!!!」


 激しい怒りを感じさせる音声おんじょうに威吹鬼は、困惑する。


 一拍して、ヒビキは不敵な笑みを浮かべながら言葉を紡いでいく。


「改めて、久しぶりだな威吹鬼。お前が里抜けをしてから7年が過ぎた。その7年の間に私は八鬼将はっきしょうにまで上り詰めたぞ」

「………」

「何だ?感動の余り言葉も無いか?それとも私に臆したのか?」

「…素直に驚いているんだよ。ガキの頃は、俺の後を付いて回っていた妹のお前がまさか八鬼将なんかになって、俺の前に立ちはだかっているんだしな」

「八鬼将なんかに…だと?」


 威吹鬼の言葉に怒りを感じたヒビキは、目を鋭くして睨み付ける。


「お前、八鬼将になるって事がどういう事か判ってんのか?」

「ハッ、幻鬼宗であるのなら、判っていて当然だろう。責務を放り出して逃げたお前と一緒にするな」


 幻鬼宗における八鬼将の立ち位置と言うのは、強さと才能を兼ね備えた存在であり、強い遺伝子を残すための選ばれた存在だ。


 故に里の者たちの宗教的象徴とされ、八鬼将は彼らにとって神にも等しき存在なのだ。


「今の私は幻鬼宗、八鬼将の響鬼ひびき!里抜けをして、ぬるい連中とお遊戯ごっこをしていた元八鬼将の威吹鬼オマエ如きでは、私には勝てんぞ」

「…お遊戯ごっこっつぅのは、俺に勝ってから言えってんだ」

「ハッ、先程の攻防でお前の力量は知れたぞ。長らく姿をくらましていたからと言って、別段腕を上げたという訳では無いようだな?」

「いやいや、それを言うのならお前の方は腕が鈍ったんじゃないのか?昔はもっと攻撃に容赦がなかったぞ」


 戦闘そっちのけで言葉を交わす両者。

 しかし、言葉の端々に挑発的な声音こわねを織り交ぜて隙を窺っているのだ。


「それに、もう里とは無関係な俺に何を怒ってるんだ、八鬼将の響鬼。もしかして八鬼将に選ばれたのは俺の後釜としてか?俺の後釜はそんなに荷が重かったのか?」

「のぼせ上がるなよ、いつまで私の上でいるつもりだ。幻鬼宗を束ねているのも八鬼将に選ばれたのも今は私だ!」


 先に挑発に乗ったのは響鬼だった。

 怒りを発露させる様にオーラが放出される。


「貴様の時代は終わったんだ!」

「ッ――!!?」


 目にも止まらぬ速さで威吹鬼に接近した響鬼の攻撃が放たれる。


――速いな 


 威吹鬼は次々と息つく暇もなく繰り出される掌底の数々を受け流し、躱し、捌き、いなす。


 危なげなく相手の攻撃を処理していくが、それも集中力が持続する間だけの話だと冷静に分析する。


 がしかし、響鬼の攻撃が不規則な軌道を描き始めた途端、猛虎を彷彿とさせるかいなが掠り、威吹鬼の頬を僅かに切った。


「しっかりと比べると良い、私と貴様のどちらが優れた戦士であるかを!」

「――ッ!!?」


 速さが増し、ギアを一気にトップスピードに上げた響鬼。


 手数の多さ、攻撃速度、そして何より移動スピードが格段に増している。


――やっべ!捌ききれねぇ!


 堪らず距離を取ろうと武舞台を縦横無尽に駆け抜ける威吹鬼。


「ははは!敵に背中を見せるとは、戦士の風上にも置けないな!」


不規則な動きで駆ける威吹鬼の後ろを惑わされる事無くピタリと張り付いて攻撃を加えていく。

 逃げる相手の後ろから撃ち込む打撃は、大したダメージにはならないと判断して、手刀、足刀、果ては引っ掻きによる攻撃が撃ち込まれ、威吹鬼の道着ごと切り裂いていく。


「なろッ!調子に乗んなよ!」

「ようやくその気になったか!」


 距離を取ろうとした選択は、判断ミスだったと割り切り、振り返りざまに響鬼へと接近し、間合いを一気に潰す。


 ぶつかり合う瞬間に放たれる6連撃。常人には目で追う事も敵わないその速度。まさに一瞬の間に交わされた攻防は、お互いにダメージを与えた。


「一撃…喰らってしまったか」


 響鬼の道着の肩が破かれ、あらわになった肌にうっすらと痣が浮かぶ。

 

「一対一で痛み分けだな」


 対戦相手にも一撃を叩き込んでいた事から引き分けだと言う響鬼。

 しかし、威吹鬼の口元から垂れる血液がそうではないと物語っている。


「…そうだな」


 顔面に攻撃をもろに喰らって、思いっきり強がりをしているのか、浮かべる笑みが若干ひきつり、苦笑いにしか見えない。


 そんな威吹鬼の強がりを目の当たりにした響鬼は、サディスティックな笑みを浮かべ、なんともいえない高揚感に満たされる。


「どんな手品を使ったんだ?動きが見違えたぞ」

「手品…だと?」


 先程までの笑みが固まり、消え失せた。

 そして、『本当にそう思うのか?』と述べた響鬼の姿が威吹鬼には一瞬で消えた様に見えた。


 次の瞬間、背後に回り込まれ、掌が触れた。


鬼幻術きげんじゅつ震天動地しんてんどうち

「ッ――!!?」


 喰らえば致命傷、そう判断した威吹鬼は頭で考えるよりも速く。もはや脊椎反射と言っていいレベルで間合いを外しにかかった。


「逃がさん!」

「がああッ!!!」


 威吹鬼の動きよりも更に速い。真正面に現れた響鬼から放たれる浸透系の撃ち込みが胸部に炸裂した。


「うっ、………ぐっは!」


 貫通した威力によって一瞬心臓が止まったかと錯覚する程の攻撃に僅かな時間、呼吸困難に陥った威吹鬼は、なんとか息を吐き出した。


 だが、受けたダメージは甚大。

 片膝を付いて、乱れた息を整え始める。


「何故貴様は、私の方が優れていると考えない!先程までは、私が手を抜いていたとは何故考えないんだ!」

「ッ――!?」

「私如きが貴様相手に手を抜いて戦える訳がない…そう思ったか?」

「………」

「のぼせ上がるなと言ったハズだ。私はもはや貴様より強い!里から逃げて学園などというぬるま湯に浸っていた代価を敗北をもって知るがいい!」


 憤る響鬼は、未だ片膝を付いたままの威吹鬼に容赦なく攻め立てた――。




「―――理解できたか?貴様より私の方が優れていると」


 執拗に攻撃を受けた威吹鬼は、身体の至る所に傷を負い、ゼェゼェと息を乱していた。


 彼が見る響鬼からは、先ほどまで発露させていた怒りやサディスティックな笑みは見る影もなく、つまらなそうな気の抜けた表情を浮かばせていた。


「理解出来たなら……トドメだ!」

「ッ――!!?」


 突如として響鬼が纏うオーラが爆発的に増え、激流の如く荒れ狂った。


「驚いたか?始めて見ただろう?これはオーラと鬼幻術を煉り合せた戦闘術でな、私が作り上げたものだ」


 オーラの最大出力は、熾輝が先の試合で見せた游雲驚竜ドラグーンよりも遥かに凌ぐ。


「誇りに思え、この技は先日完成したばかりでな、実戦で試すのは貴様が初めてだ。何しろまだ名すら付いていない」


 独自の修練の末に編み出したという響鬼の奥の手。

 先ほどまで完全優位に立っていた彼女が更に力を増しているのだ。もはや威吹鬼の手には負えない…そう思っていた。


「いや…名前ならある」

「なんだと?」


 あたかもその技を知っている口ぶりに響鬼は、疑いの眼差しを向けた。


鬼闘術きとうじゅつと言う――」


 言って、威吹鬼のオーラが炸裂するかの如き轟音を撒き散らした。

 身に纏うオーラの脈動は、響鬼とまったく同じ。…しかし、その最大量は遥かに凌ぐ。


「本当は、この技を使いたくはなかった。……気を付けろよ響鬼、この技は俺も上手く加減ができないぞ」


 全身を巡るオーラの流れが右腕に集中していく。

 拳を突き出した瞬間、炸裂音が鳴り、まるで雷のような一撃が響鬼の横を通過する。


「こんな…バカな…」


 武舞台の床は抉られたように破壊されていた。

 その惨状を目の当たりにした響鬼の額からは冷えきった汗が滴る。


「うあああああぁッ――!!!」


 たった一撃、それを見ただけで響鬼と威吹鬼が発動している【鬼闘術】の格の違いを思い知らされた。


 だが認める訳にはいかなかった。


 響鬼は悲鳴にも似た声を上げて、威吹鬼に襲い掛かる。


――やめろ


 鬼闘術を発動させた状態からの必殺の型【震天動地】。その威力は威吹鬼が身をもって知っている。当たれば衝撃が貫通し、身体の内側を簡単に破壊する。


 しかし、それをてのひらを差し出してむかえると、響鬼の必殺技を無効化してみせた。


――八卦はっけ相克そうこくッ!!?


 相手のオーラの流れに対し、同質、同量のオーラを逆回転で衝突させて消滅させる絶技だ。


「この技は、お前には早すぎる。使い続ければ自壊するぞ」


 握った手を通して、威吹鬼が練り上げた鬼闘術が八卦相克によって響の鬼闘術を抑え込んでいく―――。



◇   ◇   ◇



「――勝負あったな」


 試合観戦をしていた凌駕は、そう言って席を立った。


「凌駕様、もう行っちゃうの?まだ試合は終わってないよ」

「見るまでもない。威吹鬼の内にあった甘さが完全に消えた。その時点で対戦相手に勝機はなくなった」

「今までイヴくんが手を抜いていたってこと?」

「そうじゃない。ただ、迷いや戸惑いといった精神的な枷がアイツ自身を縛っていたんだ。そんな状態の全力で戦ったとしても、ポテンシャルは最低最悪だ」

「それって、調子が悪かったってこと?」

「極論はそう言う事になる。精神ってのは厄介で、俺たち能力者が身に纏うオーラの運用に直で左右するから、威力・速度・反射神経といったありとあらゆるステータスを大幅に上げる事もあれば、逆に大幅に下げる事もある」

「けど、もうイヴくんに迷いは無くなったから、だから負けないってこと?」


 香奈の問いに『そう言う事だ』と解答すると、凌駕はその場を去って行った――。



◇   ◇   ◇



「――おのれ何故だ!この7年の歳月は、私に力を!お前に衰えをもたらしたハズだ!なのに何故、お前はまだ私の前に立ちはだかる!」

「………」

「答えろ威吹鬼ッ!!」


 もはや、勝敗は誰の目にも明らかだった。

 しかし、その結果に納得する事が出来ない響鬼は、悲鳴にも似た声で叫んでいた――。





 最初の出会いは鮮烈だった。


 私の両親は任務で命を落とした。里ではよくある話だが、幼かった私にとって、それは全てを失った事と同じだった。


 寄る辺を無くし、両親の死と共に私の心が死んでいくことを実感したのは、涙が出ないと気が付いたときだ。


 生きる気力を無くし、糸の切れた人形の様に成り果て、あとは死を持つだけだった。


『――名は、何という?』


 それは、神との邂逅かいこうに等しい出会い。当時、最年少で八鬼将に選ばれた鬼才。八鬼将は里の宗教的象徴、神に等しい扱いを受けている。


 もちろん、私も八鬼将をそのように信仰していた者の一人だ。それが道端に転がる小石同然の私に声を掛けたのだ。


『…ッ、…ッ、……』


 言葉が出なかった。

 声の発し方も言葉も忘れてしまったのだと、あのとき始めて気が付いた。


 神を前に何という無礼を働いてしまったのだろう、もはや殺されても文句は言えない。…いや、死を望んでいた私にとって、神に殺される事は、この上なく幸せなことだ。


『…飲め、ゆっくりでいい』

『ッ――!?』


 その人が差し出してくれた湯飲みに注がれていた透明な液体。それを見て毒だと思った。


――これでやっと死ねる……と、口元から零しながら一気に飲み干した。


 しかし、いつまで待っても死ぬことは無かった。


『名は?何という?』


 その人は、柔らかい笑みを浮かべて、再度問うた。


『…ひな…こ』

『そうか、愛くるしいお前にピッタリの名だな。さぞや両親に愛されていたのだろう』


 その言葉の何処が私の抜け殻のような心に触れたのかは判らない。しかし、自分でも気が付かない内に、涙が溢れ、とめどなく流れた。


 私は泣いた…大声を上げて、声が枯れるまで泣き続けた。


 その人は私が泣き止むまで抱きしてめ、ずっとそばに居続けてくれた。そして……


『――若様、修練の時間です!』

『あぁ、もうそんな時間か』


 私は威吹鬼の義妹として、迎え入れられた。


『雛子、何度も言うようだが私の事を若様と言うのはやめてくれ』

『なりません。若様は八鬼将のお一柱ひとはしらです。他の者にも示しがつきません』

『八鬼将と言っても、血筋だけで選ばれただけだ。それに、妹にその様な呼ばれ方をする私の身にもなってくれ』

『しかし、若様――』

『やめろと言っている』

『……では、兄さまと……』

『まぁ、良いだろう』


 威吹鬼は、私のような者を義妹として迎え入れるくらい変わり者だった。それに誰が相手でも分け隔てなく接するのは生来の心根なのか、里の殆どの者は威吹鬼をしたっていた。


 きっとこれが人の上に立つ者の気風と言うものなのだろう。とても私より1つ年上とは思えない程の立ち居振る舞いだった。


『今日もあのよそ者達と修練をなさるのですか?』


 最近、里の外から招いた男から威吹鬼は教えを受けている。

 古来から続く忍びの一族である幻鬼宗が里の者以外から教えを乞うなどという事は、一部の上層部たちから反対の声も上がったが、無理を押して威吹鬼は彼らを招き入れたのだ。


『そう言うな、私の師匠だ。師には最上級の敬意を示さねばなるまい』

『それは判ります。しかし、あの者の弟子は、何なのですか』

『凌駕兄貴がどうした?』

『天上天下唯我独尊を地で行く様な態度!なのに里の女子おなごしゅうからもの凄い人気があり、キャーキャーと奇声が里中に響き渡る始末!兄さまに良からぬ影響を与えぬか心配になります!』

『褒めているのか、けなしているのか判らないな。それに、里の者は遺伝子レベルで強い者に魅かれるという性質をもつ。里の若い者で凌駕兄貴に勝てる者は居ない。私もその一人だ。故に女子衆の反応は里の者として普通なんだ』

『…今はです!大体、兄さまの歳は6!彼奴は9!年齢的にも肉体的にも彼奴が今のところまさっているだけのこと!きっとあと数年もすれば兄さまの元に女子衆が群がる事でしょう!』

『それは…こわいな』


 威吹鬼は、子供にしては大人びていた…当時の私から見たら聖人君主の如き振る舞いをしている様に見えたが、それは八鬼将としての責任感からきていたものだったのだと、今に思えば理解できた。


 私が威吹鬼の義妹として迎え入れられてから共に暮らし、共に修行を積み重ねた。


 過酷な修行も威吹鬼と一緒なら辛くは無かったし、戦いの中でもただ幸福だった。


 そして、私は八鬼将威吹鬼の義妹として、常に強くあろうとした。何故なら、強くなければ彼を守る事が出来ない、強くなければ彼の傍に居られない。


 それが彼に生かされた私の使命なのだと幼いながらも私自身に架した誓いだった。


『私が護るから…ずっと傍でお前を護るよ』


 私自身に架したハズの誓い。しかし、それは彼の望むところでは無かったと思い知らされた。


『雛子も兄さまをお守りします。いつまでも…』


 私には彼を護る以外の生き方が判らなかった。だから強くあろうとした。なのに…


「――兄さま…」


 突然だった。彼は何も告げることなく、私の前から姿を消した。


 それは神の如き敬愛した彼の明白な裏切りだった。


――嘘つき


 その日から私は再び生きる目的を失い、彼を憎むことで今まで生き永らえて来た――。






「――私は貴様に失望した!貴様を憎み!呪いさえした!そして必ず貴様を超える力を身に付け、私の手で貴様を倒してやると誓った!」


 抑え込まれていた鬼闘術を無理やり押し返し、響鬼のオーラが再び迸ると、威吹鬼に迫る。


「私は貴様を許さぬ!威吹鬼!」


 高速連打で打ち出される攻撃。しかし、その全てを八卦相克によって無効化させる。


「私の尊敬と信頼を裏切った貴様を絶対に!私はッ――!!」


 荒ぶる響鬼……しかし、彼女の怒りを封殺するが如く、反応すら許さない雷鳴の如き動きで打ち出された拳が彼女の目の前で炸裂した。


「…何故だ……何故…」


 威吹鬼の一撃は、彼女に当たる寸前で止められていた。

 しかし、その寸止めの一撃で十分だった。彼女の心は完全に砕け、敗北を受け入れるように、身に纏っていたオーラが霧散していく。


 そして、彼女の頬から涙が伝い、震える声で威吹鬼に問う…


「何故、私を置き去りにしたのですか……兄さまぁ」

「………」


 膝を付き、完全に戦意を喪失した響鬼に、しかし威吹鬼は何も答えない。


 彼の代わりに応えたのは、この試合の勝敗…すなわち威吹鬼の勝利がマイクによって観客たちに伝えられたのだった――。

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