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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
国際魔闘競技大会
247/295

魔闘競技大会~その⑨~無才の力

――幻幽拳げんゆうけん


 動きに慣性をつけ、さらに威圧によるフェイントを駆使する事によって発生する残像。

 クリスの初撃は熾輝の本体を叩いたつもりでいたが、その実、彼が狙わされていたのは熾輝の残像だった。


――疾風怒涛しっぷうどとうッ!


 横合いからの一撃をまともに受けたクリスの大勢が崩れ、畳み掛けるように放たれる連撃。

 その一撃一撃が不規則な軌道を描きながらクリスを襲う。まさに滅多打めったうち状態。

 攻撃の軌道が不規則であるが故に、喰らう方は見切るのが難しい…


「よぉ、こんなもんかよ三下ァ」


 見切る事が困難なハズの攻撃、それをいともたやすく見切り、攻撃の手を掴み取った。


――チッ!


「ーーーーッ!!?」


 喋るという隙を晒したクリスの金的キンテキを蹴り上げる。


 見事な蹴りが男の急所に入り、思わずクリスの握力が緩むと、そのまま膝蹴りを顔面に叩き込む。


 そして、首を鷲掴むとそのまま背負い投げ、顔面ごと武舞台の床に叩きつけた。


 熾輝の猛攻は終わらない。まるでサッカーボールのようにクリスの顔面を蹴り飛ばした――。



◇   ◇   ◇



「――つえェッ!!!」

 

 観客席から試合を見ていた威吹鬼いぶきたちは、怒涛どとうの勢いでクリスを責め立てる熾輝の闘いを見て、手に汗を握っている。


「確かに強い。黒神さんには悪いけど、一回戦より明らかに…」

「いえ、強すぎます。昨日、私と戦った時は全然本気では無かったのですね」


 夜瑠よるはマコトの言葉を否定し、そして肯定した。

 一回戦で熾輝に破れた黒神夜瑠くろがみよるは、悔しく思う一方で、その戦いぶりに魅入られていた。


 彼等が観戦している間にも熾輝は攻撃の手を一切緩めることは無く、急所という急所に対し次々と攻撃を喰らわしていく。


 クリスは反撃を試みるも、攻撃を躱され重い一撃を浴びせられる。そして、距離をとっても、瞬く間に間合いを潰されて一撃を浴びせられる。


「スゴイな。試合が一方的になってる」


 もはやこの試合は熾輝の独壇場と化した。

 誠の言葉に皆がそう思った矢先、再び試合が動き始めた――。



◇   ◇   ◇



――その程度かよォ


 と、猛然とラッシュを続ける熾輝の耳に入り込んできた言葉。


 次の瞬間、熾輝のラッシュを意にも介さない右のフルスイングが放たれた。

 顔面に走り抜けた衝撃によって、身体が仰け反り、そのまま空中で一回転しながらぶっ飛ばされる。


「ぐッ――!!?」

「スタートダッシュきめたぐらいで調子こいてんじゃねえよ」


 ダウンした熾輝は、膝を付いたままクリスへと視線を向ける。


「まさかこれで終わりじゃねえよな?さっさと立ちやがれ」


 顔からボタボタと流れ出る血は、攻撃を受けた時に口の中を切ったもの。試合に影響が出る様な事はない。


「教えてやるぜ三下ァ。越えられない差ってやつをな」


 ニタニタと試合開始前から変わらないイヤな笑み。

 しかし、そんな事よりも信じがたいのは、熾輝の猛攻を受けておきながら、クリスにはほとんどダメージが無いことだ。


――とんでもないタフネスだな


「クハハッ!ガッカリしたか?テメェの攻撃なんざクソみてぇなもんだ」


 クリスも口の中を切っていたらしく、『ペッ』と血の混じった唾を吐き捨てると、「金玉は流石に効いたけどな」と声を漏らす。


「まだギアを上げられるってんなら、さっさとやれ。じゃねぇと、あのクソ雑魚女のように、さくっとぶっ殺しちまうぞ♪」

「……調子こいてんじゃねぇぞ、クソ野郎ッ!!」


 安い挑発。しかし、今の熾輝には十分すぎる効果があった。


 頭に血が上り、怒りのままに突進した勢いで拳を放ち、クリスの鳩尾みぞおちを打ち抜く。


「おいおい、俺の話し聞いていたか?」


――うるせえッ!


 再びのラッシュ。怒涛の勢いで繰り出される連打。しかし、それでも尚、クリスは倒れない。


 それどころか、どこか余裕すら感じさせる雰囲気に、苛立ちを覚えた熾輝は、確実なダメージを与えるために喉元めがけてき手を放った。…しかし


「だから効かねえっての」


 寸でのところで腕を片手で掴まれ防がれた。


「お前才能えだろ?技の精度が低すぎる。だから身体を作って力で補おうとしたんだろ」


 無才…それは幾度となく言われ続けた言葉。

 しかし、技の精度が低いとは聞き捨てならない。今まで何千、何万回と繰り返し鍛練を続けてきた熾輝の技の練度は遥か高みにあるハズだ。


 だが、効いていない。


 クリス・エヴァンスという目の前の男は、自身の更に高みにいるのだと言う予感が過る。


「テメエと俺じゃあ、格が違う――」


 言って、熾輝の貫き手を防ぎ、掴んだままの腕を利用して、背負い投げた。


――ダアアアアンッ!


 という強烈な衝突音が会場中に鳴り響く。

 先ほど、熾輝が見せた背負い投げとは、威力が桁違いだ。


「ガフッ――!!」


 肺の中の空気が一気に吐き出される。

 受け身によってダメージを減らしたが、完全に殺す事は出来なかった。

 しかも、投げられた床は蜘蛛くもの巣状の亀裂きれつが走り、陥没かんぼつしている。


 攻撃は、これで終わりではない。倒れ込んだ熾輝の顔面めがけてクリスの踏み付けが放たれる。が、それをギリギリで躱して距離を取ろうとした熾輝の頭を鷲掴みにして万力の様に絞めつける。


「逃げんじゃねぇッ――!!!」


 鷲掴みにした頭部をそのまま床に叩きつけ、持ち上げると同時にアッパー、そして膝蹴り、肘打ち。


 倒れ込む勢いをも利用してそのまま床へと頭を叩きつける。


「お寝んねには早えぞ♪」


――ふわり


 と、頭部掴んだまま熾輝を持ち上げた次の瞬間…


――ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!


 何度も何度も顔面を武舞台の床に打ち付けた。そして、お返しかのように、こんどはクリスが熾輝の頭をサッカーボールの様に蹴り飛ばした。


「グッ…!!?」


 大きなダメージを負ってなお立ち上がろうとした熾輝の後頭部をクリスが踏み付けにして、再び床に押さえつけた。


「力の差は判ったか?」


 髪を掴み上げ、至近距離でお互いの目が交錯する。

 相変わらずニタニタとしたイヤな笑みを浮かべるクリスと、劣勢に立たされている熾輝の眼は、まだ死んでいない。


「無駄だっつってんだろバーカ♪」


 うなる剛腕。フルスイングで振り抜かれた右ストレートが熾輝の顔面を打ち抜いてぶっ飛ばした。


 身体が2回バウンドして、ようやく止まった熾輝であったが、ダメージの蓄積のせいか、それとも精神的ダメージによるものか、とにかく、一刻も速く大勢を立て直さなければならないこの状況で、地に伏したまま立ち上がる事が出来ないでいた。


――通用…しない…


 熾輝は理解してしまった。


 クリスはまだ本気すら出していないのだと。


 対して自分は、最初から全力で戦っていた。


 全力で戦って尚、及ばない。これが才能の差。


 だが、負ける訳にはいかない。


 たとえ圧倒的な差があるのだとしても、才能が無いのだとしても、力が足りずとも、熾輝には、どうしても引けない理由があるのだから…


――獅子奮迅ライオンハートッ!!!!


 その変化に最初に気が付いたのは、対戦相手であるクリスだ。


 立ち上がる熾輝の雰囲気が変わり、威圧プレッシャーも増した。


「クハハッ!ようやくギアを上げやがったな!最初ハナからそうすりゃいいんだよ!」


 肉体の制限リミッターを解除した熾輝。その姿をの当たりにしたクリスは、愉快に笑った。


「……ぶち殺す――ッ!」


――ドゴオッ!!!…と、いう衝撃音。


「ガフッ――!!?」


 さっきまでのスピードが遅く感じられるほどの動き。


 動きの初動が捉えきれず、クリスには熾輝が一瞬で目の前に現れた様に感じ、そして鳩尾に拳が突き刺さる痛みを認識した。


――ドドドドドドドドッ!!!…と、目にも留まらぬ速さで打ち出される拳がクリスの頭をまるでピンボールのように跳ね上げた。


 脳しんとうにより、視界が僅かに暗転。


 無防備になったクリスの脇の下に左右から挟み込むように拳を打ち込んだ。


「~~ッ!!!?」


 先程とは違う威力がクリスの身体にダメージを与えていく。…が、


「シャアッ――!!!」

「ッ――!!?」


 痛烈なダメージを受けてなお、クリスの反撃が熾輝の顎を跳ね上げた。


「いいぞ三下アッ!もっと死ぬ気で来い!!」


 反撃を受けてフラついている熾輝に向かってクリスが攻勢に出た。


 剛腕によるフルスイング。当たれば試合がひっくり返る一撃であることは、イヤと言う程わかっている。


「どうした?お前、遅くなったか――?」

「オ゛オ゛ッ!!?」


 熾輝は剛腕を片手で受け止めて、すかさず放たれる胴蹴りがクリスの身体を浮かせる。


――更に速くなった!!?


 撃ち込むごとに血飛沫ちしぶきが舞い、武舞台を赤く染め上げていく。


 しかし、一方的に熾輝が押している訳では無い。


 攻撃を撃ち込めば、クリスも返してくる。


 もはやお互いに躱す事を忘れ、武舞台の中央でど突き合いを繰り広げている。


――いい、……イイゼェ……オマエぇ……お前なら、ついてこれるよな?


 ど突き合いの最中、クリスもまた己のかせを外した。


 身体中の血管が浮き上がり、激しく脈動するそれは、熾輝と同様に制限リミッターを解除したに他ならない。


「関係ねぇ、ぶっ殺してやる…」

「クハハ、お前、人間辞めてるな?」


 お互いの威圧が虚空で衝突し、オーラのせめぎ合いが起きる。


 全身を駆け巡るオーラが充実し、臨界を迎えた途端、2人は弾かれたように衝突した。


 放たれる攻撃と言う攻撃は、今までにない速度とパワーを得て、信じられない激突音を会場中に撒き散らす。


 常人には追う事すら出来ないスピード。大会に出場している選手の中でも彼等の超攻撃戦を眼で捉えられている者がいるのかも怪しい。


 乱暴な言い方をするのであれば出鱈目デタラメに速いのだ――。



◇   ◇   ◇



「――クリスめ、勝手な事をしおって」


 VIP席から試合を観戦していたのは、ロシア代表チーム…というより十字軍クルセイダーの隊長であるバラライカだ。


 バラライカというのは、もちろん本名では無く彼女のコードネーム。


「格下相手に制限リミッターを解除するとは不甲斐ない」


 葉巻を吹かしながらクリスの失態に苛立ちを感じさせていると…


「おやおや、ロシア最強の15才もウチの弟子に手を焼いているようだね」


 いつの間にかバラライカの隣の席にどっかりと座り、タバコを吹かす昇雲がいた。


「ふん、誰が手を焼いているって?老いぼれて目が悪くなったか?」

「おかげさまで視力は2.0をキープしているよ。そんな事より、お前の部下が使っている技を早く止めさせた方が良いんじゃないかい?」


 現在、熾輝とクリスの二人が武舞台の中央で真っ向勝負の殴り合いを続けている。


 お互いに身体の制限リミッターを解除しており、力関係は互角だ。


 しかし、この技は長く使えば使う程に肉体を破壊する。


 以前、熾輝が魔導書の回収のために幾度となく、この技を使っていた。しかし、使用していた最中に限界を迎え、身動きが取れなくなると言う事態を何度も経験している。


 常人であれば肉体が崩壊し、再起すら危うい。まさに諸刃もろはつるぎなのだ。


生憎あいにくと物が違う」

「なに――?」

「クリス・エヴァンスという男は、生まれながらにして…いや、生まれる前からの強者なのだよ」

「…聞きたかぁないが、アンタの所は、まだDNA操作なんてものをやっているのかい?」

「ふふ、そんな国家機密に関する情報をアナタみたいなお婆ちゃんに話せる訳がないでしょ?」

「………」


 バラライカの言葉は、どれもこれもがクリス・エヴァンスという男がDNA操作によって生まれたと匂わせている。


「しかしまぁ、ご忠告は聞いておく。ただ、クリスの制限リミッターが外されても、何ら問題はない。なぜなら、この試合の制限時間である15分で身体が壊れるようなやわな造りをしていないんでね」


 『むしろ、そちらの弟子を心配した方が良いのではないか?』と、付け加えるように語るバラライカ。


「フン、見くびるんじゃないよ。ウチの弟子に制限時間タイムリミットなんてありゃしない」

「なに――?」


 聞き捨てならない発言をした昇雲をバラライカの鋭い視線が射抜いた。


「あの子には、昔から過酷な修行を課して来た。それこそ傍から見たらオーバーワークとしか見られないような修行を365日休まず八年間ずっとだ――」


 心源流には【酷使無双こくしむそう】と呼ばれる修行法が伝えられている。初代昇雲が考案した修行法で、未だかつてこれをやり遂げた者は、長い歴史をもつ心源流の仲でも1人として居なかった。ただ1人を除いて。


「現代魔術医学のエキスパート東雲葵しののめあおい、中国4000年の歴史を誇る秘術を内包した蓮白影。それらの知識と秘伝が合わさる事によって、熾輝の肉体は本来100%の力を引き出して崩壊すると言う常識を打ち破った」 

「つまり制限リミッターを外しても肉体的負荷が無いと言うことか?」


 バラライカの質問に首を縦に振って肯定を示す。ただ、色々と能書きを垂れたものの熾輝が酷使無双を遂げたのは、彼が持つ能力【転生の炎】が大きな要因であることは、敢えて口にしない。


「チッ、たまに居るのだ。お前の弟子の様な突然変異イレギュラーが」


 何だかんだで弟子自慢を繰り広げる両名だったが、ただの肉体自慢で勝敗が決する訳もなく…


「――ふむ、心身のバランスが崩れていますな」


 VIPの観覧席に入室して武舞台へと目を向けた老人が漏らした声に昇雲とバラライカが反応した。


「なんだい、ようやくご到着かい?」

「おぉ、昇雲殿と…」

「お初にお目にかかる。ロシア十字軍クルセイダー総隊長バラライカだ。彼方の噂は兼ねがね…中国が誇る七天大聖セブンセンシズの死神こと蓮白影れんはくえい殿」


 どうやら所用によって会場入りが遅れていた白影。先ほどようやく到着し、弟子である熾輝の試合を観覧しようとVIP席にやって来た彼を昇雲とバラライカが出迎え、そして現状を聞きかじった。


「――なるほど、それであのような無茶な戦い方を…」


 武舞台で繰り広げられる真っ向勝負の殴り合い。それを目の当たりにしてヤレヤレと浅く息を吐く。


「しかし、決闘とは穏やかではありませんな」

「――同感です。それにクリスくんの態度も良くない」


 と、3人の元にやって来たのはアメリカチームのコーチを努める教育の達人と呼ばれるヤナギだった。


「フン、平和ボケしたか。闘争とセックスは本性が現れるものだろうが。クリスには一流の戦士になるよう訓練してきたのだ。強靭な肉体を備え、甘さを捨てさせ、より残忍になれるようにな」


 ここに居る者は、多かれ少なかれ本物の戦争を経験している。そしてバラライカの語る一流の戦士とは、より強く冷酷であり残忍になれる者のことを言うのだろう。


「だとしたら、彼は強くなり過ぎたのかもしれない。身に付けた力に酔い、弱い者の立場に立って考える事を忘れてしまった」


 悲しそうな表情を覗かせるヤナギに『くだらん』と一蹴したバラライカ。そして、様々な思いを馳せる彼等の眼下で死闘を繰り広げる弟子たちにも変化が起きた――。



◇   ◇   ◇



 出鱈目デタラメな速さで激突する熾輝とクリスの超攻撃戦。


 肉体の制限リミッターを解除した者同士の攻撃力は、一撃一撃が必殺の威力をはらんでいる。


「――効くか阿呆あほうッ!!」


 ジャストミートした熾輝の攻撃を受けるも、ひるむことなく返してくる。

 どんなに良い一撃を叩き込んでも、まるで本当に効いていないのではと錯覚してしまうほどに。

 それ程にクリスの動きはきとしていて、ニタリとした表情も消えない。


――まだだッ!まだイケるだろうッッ!!


 ここに来て更にギアを上げるクリス。お互いに肉体の制限を解除している状態、しかし身体能力という一点においては熾輝がクリスを上回っている事は確かだ。


 にもかかわらず決められないのは、やはり戦闘センスという才能が大きなアドバンテージとしてクリスに働いているからだろう。


 物が違い過ぎる…攻撃一つ、受けの一つをとってもクリスは間違いなく今大会トップクラス。


 ゴリゴリの力押しで熾輝を追い詰める。そんなクリスに対して次第に焦りが大きくなる。


――認めてやるよォ。お前は最高の三下だァ。だからもっと……


「もっと俺を楽しませろッ!その程度かよッ!!」


 クリス・エヴァンスはロシア最強部隊である十字軍クルセイダー、その候補生の中で最強の存在だ。


 圧倒的力をもって敵を蹂躙じゅうりんすることこそが彼にとっての喜びだった。


 そんな彼が自身と互角に渡り合える強敵と巡り合う事によって変化しつつあった。


「うるせえエエェッ――!!」


 攻撃に転じる熾輝の連撃。しかし物ともせずに弾き返して連撃を叩き込むクリス。まさにタフネスここに極まれり。


――『『もっとだ!もっと力を引き出せ!!』』


 身体能力の限界を越え、両雄の力が共鳴しているかの如く、全力以上の力が引き出されていく。


 天才VS無才――期せずして高め合い、潜在能力ポテンシャルという階段をこの試合を経て一段づつ上る熾輝。それに対し…


「ッッッ―――!!!?」


 凄まじい轟音を撒き散らす一撃が熾輝の心臓を撃ち抜いた。


――十字軍式殺人術クルセイドサンボッ!心臓ハートブレイクショッッ!!


 まさに天才の名に相応しい進化ッ!

 潜在能力ポテンシャルという領域においてもクリスは段階を一段も二段も飛ばして進化していた。


「ア゛ァ゛残念だ。お前なら俺をもっと楽しませてくれると思ったのに」


 一撃必殺。


 ロシア式白兵戦闘術を改良し開発されたのが十字軍式殺人術クルセイドサンボだ。

 この武術は敵を完全破壊する目的で開発され、術者には命を奪うための冷酷非情な精神が求められる。


 そして、心臓を破壊する目的で放たれた一撃は、大量の吐血を撒き散らし、熾輝を武舞台へと沈めた。


「面白かったぜヤガミシキ。十分楽しませてもらった。誇れッ!お前はロシア最強をここまで追い込んだんだ」


 ゼェゼェと荒い息を吐きながら武舞台の床に倒れる熾輝から視線を切り、退場しようとしたクリスだったが…


「――感謝する。クリス・エヴァンス」

「ッッ――!!?」


 突如として襲ってきた悪寒、身体中の細胞が危険信号を発するかの如くブツブツと鳥肌が立つ。


あかいオーラだと…」


 振り返ったクリスの目に飛び込んできたのは、うな垂れながらも、その二本の足で立ち上がった熾輝の姿だった――。

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