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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
国際魔闘競技大会
240/295

魔闘競技大会~その②~登場の八神熾輝!トーナメントはくじ引き!

 明日から始まる大会を前に前夜祭がもよおされる。


 国家間の様々な思惑の中、開催された今回の大会。


 表向きは、お互いの親交を深めると言うことになっているが、選手はそれぞれ国の威信を背負って戦う訳で、オリンピックのような平和の象徴とは程遠い。


 しかし、この会場には、そういった大人の都合をそっちのけにして、いる者もいる…


「――咲耶ちゃん、どう?」

「ううん、みつからない」


 キョロキョロと周りを見回す燕と咲耶。

 2人は前夜祭の会場入りをしてから、ずっとこの調子だ。


「お二人共、先ほどから落ち着きがありませんが、どうしたのですか?」

「え?あ、ううん、なんでもないの」

「そうそう、何だかすっごい人たちばかりだから、緊張しちゃって~」


 チームメイトである黒神くろがみ夜瑠よるが心配になって声を掛けるが、苦笑いを浮かべて誤魔化した。


「そうでしょうとも、何せ今回の魔闘祭は過去例をみない。各国の代表選手は国の威信を背負っているのです。それぞれが放つ威圧もさることながら、その身に宿す力は国の代表と呼ぶにふさわしい。まさに強者のそれです。その様な者を相手に戦える栄誉を賜るとは、まさに至福であり云々うんぬん~~――」

「お~い黒神ぃ、帰って来ぉい」


 気が付いたら自分の世界に入り込み、ひたすらに喋り続けるチームメイトを現実世界に引き戻そうとするが、威吹鬼の声なんて耳に入っていない様子。


「ダメだコイツ、完全にバカになってやがる」

「こら、女の子に何てこと言うんだ」

「あ、あはは…」


 もはや遠い目をしながら延々としゃべり続ける夜瑠。そんな彼女を非難する威吹鬼を誠が注意する。


「でも、黒神さんが言うように彼等は国の代表選手。その誰もが油断ならない相手だ。明日からの大会、勝ちあがるのは至難の技だと思う」

「そんな人達相手に勝てるかな?」

「大丈夫だよ、俺たちだって国の代表として選ばれたんだから――」

「それは、ちょっと甘い気がするなぁ」


 不安になっていた咲耶を誠が元気づけようとしたが、それを否定する声が威吹鬼から上がった。


「どういう意味だよ?」

「いやさぁ、俺も負けるつもりは無いけど、お偉いさんたちは俺らに期待しているのかなぁって思って」

「もちろんしているさ。でなきゃ俺達を出場させる意味がない。先生たちだって、今日まで特訓に付き合ってくれたんだ。その期待には応えないと……それとも何か気になる事があるのか?」


 威吹鬼がいわんとしている事は、誠にも何となくだが理解できる。

 何故なら、この会場に集められた選手たちから伝わってくる力は、その誰もが自分よりも格上だと本能が理解しているからだ。


 だがしかし、負けると判っていて、自分たちが選手に選ばれるハズがないという論理的思考から、威吹鬼の考えを認める事が出来ないのだ。


「気になる事っつぅか、…やっぱ、あの人しか考えられないだろ」

「は――?」


 後頭部をカリカリと掻いて応える威吹鬼に対し、ますます意味が判らないといった表情を浮かべる誠だった。

 しかし突如として、会場中の選手たちからざわめきが起こり、誠もその原因へと視線を向けた。


 会場の視線を独り占めにして入ってきたのは1人の男。

 眼光は鋭く、その立ち居振る舞いは、まさに威風堂々。

 しかも、その顔立ちやスタイルは、そこらの芸能人が裸足で逃げ出すほどの美貌の持ち主。


「魔闘祭の覇者が着なすった」

「…五月女さおとめ凌駕りょうが


 学園生、いては日本の裏社会に生きる者なら誰でも知っている。

 日本が世界に誇る一族、五月女の直系にして最高傑作。

 若干12歳で二つ名を与えられた日本最強の15歳。


「つまりは、そう言う事だ剣崎」

「何となく言いたい事は判るけど言ってみろ」

「お偉いさんは、オンが優勝するって踏んでるんだ。その他大勢の俺らが勝とうが負けようがどうだっていいんだよ」

「………ムカつくな、それ」


 会場中の視線は、いまだ凌駕に注がれている。

 しかし、その眼差しは全てが闘争心と言う名の敵意。

 その全ての中に、知らず知らず自分たちも加わっている事に気が付いていないのか、それともわざとなのかは定かではない。


「けどさぁ、俺らが五月女凌駕を倒したら、お偉いさんたちは、いったいどんな顔をするのかねぇ」

「…なんだかワクワクしてきたな」

「あぁ、とびっきりにな!」


 なんだかんだと闘志を燃やしまくる威吹鬼と誠。しかし1人だけ『あの、同じ日本代表なんだから仲良く…』と、声を掛けるも今の2人には、これっぽちも入っていない。


 結局、黒神くろがみ夜瑠よるたちばな威吹鬼いぶき剣崎けんざきまことも自分たちの世界に入ったら帰って来ない、同じ穴のムジナなのである――。



◇   ◇   ◇



 咲耶と燕は会場中を歩き回るも、大会に出場するハズの熾輝を見つけることが出来ないでいた。

 時計を見れば、もうじき前夜祭も終わってしまう。

 このまま会えないまま明日の大会当日を迎えてしまうのかと思っていた咲耶と燕だったが…


「ねぇねぇ、そこの可愛いお嬢さんたち。俺らのテーブルで一緒に食事でもどうですか?」


 後ろから呼び止めてくる声。しかし、その内容がいかにもナンパで、突然の、しかも人生初体験のナンパをされて、どうしたら良いのか判らず2人は固まってしまった。


「そんなに警戒しないで。遠路はるばる遠い日本まで来たんだし、一緒に友好を深めようよ」

「すすす、すいません。私たち探している人がいるんです!」

「そうそう!めっちゃ急いでいるので!」

「そんな事を言わずにおいでよ~」

「ほ、本当に急いでいますのでッ!」


 断ってもしつこく誘ってくる相手に2人は『勘弁してッ!』と辟易していた。


「え~、もしかして俺のこと覚えてない?」


 しかし次に男が言った言葉に「え?」と振り返った咲耶と燕の目の前にいたのは、髪を短く切りそろえ、元々の髪色を金髪に染めた男。

 だが2人に共通の海外の知り合いはいなかったハズだと顔を見合わせてハッとする。


「「劉邦りゅうほうくんッ!?」」


 以前にあったのが2年以上前、その時の彼は短髪ではあったが髪を染めてはいなかった。

 印象はだいぶ変わっていたが、しかし雰囲気や顔立ちかられい劉邦りゅうほうだということは一目で判った。


「覚えていてくれたんだ。うわぁ嬉しいな」


 ニカッと、良い笑顔をする劉邦。

 久しぶりに会った友人との再会に3人のテンションは上がる。


「髪の色が変わっていたから、一瞬誰だか判らなかったよ!」

「背も高くなって、めっちゃ男らしくなってるしぃ!」

「イメチェンしたんだ。親父やお袋には『この不良息子!』って怒鳴られたけど、俺ってばこっちの髪の方が似合うと思うんだよね」


 ピストルの様にした手を顎に添えて、『どうかな?』と容姿をアピールしてみせる。


「あははは、劉邦くんカッコイイ」

「いかしてるぅ♪」

謝謝シイェシイェ――」

「何をしているカ劉邦」

「こんなところまで来てナンパをするな!」


 仲良くお喋りをしていた3人の元へ、劉邦と同じ中国代表選手と思われる男女がやってきた。


「ヤン姉ちゃん、ワン兄ちゃん」


 ヤンは頭の上にお団子を2つ乗せたスレンダーな女性で、目つきが猫の様に吊り上がっている。そしてワンは坊主頭でガタイが良い男性で、目つきは犬の様にクリっとしている。

 劉邦の態度から2人に懐いているのは、言うまでもない。


「2人とも紹介するよ。中国チーム代表のヤン・ミーとワン・シー、俺が所属する上海武術連盟の同門。ヤン姉ちゃんワン兄ちゃん、こちら結城咲耶ちゃんと細川燕ちゃん」

「ユウキサクヤ、ホソカワツバメ…2人が劉邦の言ってた日本の友達かァ?」

「初めまして結城咲耶です」

「細川燕です」

「2人の事は劉邦と依琳イーリンから聞いている。その節は2人が世話になった」


 お互いに握手をして挨拶を交わし、その後は親睦を深める様に会話を始めた。

 話の中で意外だったのは、ヤンとワンは熾輝が中国にいたころに同じ釜の飯を食った仲であった事だ。

「――それじゃあ2人も熾輝とは、会えていないのか?」

「うん。さっき座席表を見ながら確認して来たんだけど…」

「なんか、同じテーブルに座る他の選手にめっちゃ睨まれた」


 どれどれと、各選手に配布されていた席次表お確認する劉邦。

 そこには確かに八神熾輝の名があった。

 そして彼のテーブルには、同じ日本代表の名とタイ・モンゴル・ヴェスパニア公国の選手の名が記されていた。


「あの子もしゃがない。久しぶりに会えると楽しみだたのに、顔を出さない気かァ?」

「もしかしたら、ワザとそうしているのかもな」


 ワンの言葉に未だ日本語には不馴れな感じのイントネーションで「どゆ意味ョ」と聞くヤン。


「熾輝のことだ。俺たちと仲良くしていると知られれば、周りから何を言われるのか判らんと奇遇したんだろう」

「え~、俺は全然気にしないのに」

「私もヨ、あの子は昔から気を使い過ぎ、良くないネ」

「私たちもそう思います」


 この場にいない友人に気を揉む5人。

 しかし、熾輝を想っている人が自分達以外にも居るのだとお互いに確かめ合う事ができて、5人は改めて良かったと思うのであった。その時だ…


キイイィン―――


 というマイクのハウリングが聞こえると、司会の女性が『静粛に』と一言置いて、本大会の責任者から挨拶がある事を告げた。


『まずは海外から来た諸君、此度は遠いところから来日してくれたことに感謝する』


 マイクを持ち、挨拶をしているのは十二神将のトップ木戸伊織いおりだ。


『今回の大会は、日本だけでなく各国としても例を見ない試みだ。こうして他国同士が集められ覇を競う。それによってお互いの親睦を図る…なんていうのは表向きの建前だ』


 伊織の言葉を聞いていた選手一同は、ざわつき始める。

 なにせ、国家間の争いを表明している様なものなのだから。


『おめぇさん等の中には、上から勝って国の力を示せなんて言われている連中もいるだろうさ。そういう意味じゃこの大会は国の威信や力を示す絶好の場所だ』


 つまりは、この大会の勝ち負けは国の戦力図を示す代理戦争と考えているのだろう。


『けどまぁ、そんな大人の事情にイチイチ構ってやる必要はねぇ。子供は子供らしく、自分のやりてぇ様にやればいい。あとの責任は俺たち大人がとる。おめぇさん等は己の実力を充分発揮すりゃあいいのさ』


 あくまでこの大会の主役は選手たちであり、大人ではないという事だろう。

 どんな結果になろうとも、大人が裏でどんな風に暗躍しようとも、選手たちに責任を負わせたりしないという表明でもある。


『まぁ、なんだ。古今東西、老若男女こいう場での長ったらしい話は嫌われるから、ここらで終いにするぜ。最後におめぇさん等の健闘を祈る!』


 言いたい事を言いきってやったゼ!といった感じに満足して壇上を降りようとした伊織。


『本部長!本部長!まだ終わりじゃありません!』

「あん?」

『大会のトーナメントをくじ引きで決めるんでしょう!』

「…あ」


 結構カッコイイこと言ってたのに、最後はしまらなかった。


 気を取り直して、伊織は『ンンッ!』と咳ばらいを一つすると…


『よっしゃ、じゃあトーナメントのくじ引きを始めるぜ!』


 まるで何事もなかったように…いや、この場合、ノリとテンションで誤魔化しているのだろう。とにかく明日からの大会のトーナメントのくじ引きが引かれる事になった。


『名前を呼ばれた者からくじを引きに来てください』


 壇上にはスクリーンで表示されたトーナメント表。

 それがAブロックとBブロック、各16名ずづに分けられている。

 そこに、次々と呼ばれた選手がくじを引き、名前が記されていく。


「咲耶ちゃんはA―3…第二試合だね」

「う~、今から緊張してきたよ」


 試合を明日に控え、今からソワソワとし始める咲耶を他所にくじは引かれていき、そして会場中にざわめきが起きる。


『――五月女さおとめ凌駕りょうが選手、B-16、明日の最終試合です』


 スクリーンに映し出される五月女凌駕の文字、対するは…


『アメリカ代表、ダニエル・ラルーソー選手、B-15、同じく明日の最終試合です』


 壇上でくじ引きを引き終わったダニエルは、金髪に若干天然パーマがかかり、見た目からしてチャラついている感じの男だ。

 しかし、この男、日本最強の15歳である凌駕との対戦カードを引き当てて、闘志を燃やすどころか、つまら無さそうに…いや、余裕すら感じさせている。


『――黒神くろがみ夜瑠よる選手、A‐2、明日の第一試合です』


「どうやら学園の初陣は、私のようですね。腕が鳴ります」

「おう、負けるんじゃねぇぞ」

「黒神さん頑張って」

「応援してるよ」

「パーッと、初戦を決めちゃってね!」


 やる気を漲らせる夜瑠。

 同じテーブル席に座る咲耶たちも彼女を応援している。

 そして…


『つづきまして、八神やがみ熾輝しき選手――』


「はい――」


 その名に、その声に、咲耶と燕は息を飲んだ。

 自身の名前を呼ばれる機会を伺っていたのか、会場の扉が開け放たれると同時に返事をした男。


 それはかつて、魔導書を封印するためにとある街にやってきた。

 それはかつて、共に悪魔崇拝組織を倒した。

 あの頃とは、体格も纏う雰囲気も、そして内に宿す力も何もかもが成長した八神熾輝の姿がそこにあった――

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