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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
強者揃い
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学園へようこそ~その⑤~幻の4人目

 授業開始前、咲耶と燕が寮を出て校舎へと向かっていた。

 今日は、朱里が日直だったため、彼女は2人より一足先に寮を出たのだが、その時を狙われた。


「――おい、お前達、ちょっと面ァ貸せよ」

「「え――?」」


 白昼堂々とは、この事だ。

 周りにも校舎へと向かう生徒達がいると言うのに、見慣れない男子生徒(見るからに柄の悪い)数人が咲耶と燕を取り囲んできた。


「…何でですか?」

「私たち、これからホームルームなんです」


 これたぶん付いて行ったらダメなヤツだ。…と確信した2人は、相手にしない様に取り囲む男子生徒の人垣を掻き分けて進もうとした。


「いいから面ァ貸せって言っているんだよ!痛い目に遭いたくなかったら、おとなしく着いてこい!」

「俺らを今井一派と判った上で、舐めた事ぬかしてるんじゃねぇよなァ!」

「「全然知りません」」


 ですよねぇ。学園に来て、まだ3日目の彼女たちが、そんな派閥を言われたところで知るハズもない。

 だが、今井という名には覚えがあった。なにせ入学初日に朱里からこの学園における四天王ビッグフォーについて説明を受けたのだ。


――関わっちゃダメよ


 そう言われていたので、…というより、不良連中と関わりを持ちたいなんて、そもそも思わない。


「「それじゃあ、失礼します」」


 ペコリと『ごめんなさい』をして、立ち去ろうとした2人を、尚も人垣をもって立ち塞がる。

 見たところ、彼らは中等部から高等部の生徒で編成されている。しかし、ヘタに手を出そうとしないのは、咲耶と燕が特別クラスの生徒だと知っているからだろう。

 なにせ、この学園において、特別クラスとは、一般生徒とは実力が違い過ぎる事を意味している。


 故に、あまりにしつこい彼等の態度に、そろそろ警告の意味を込めて力を使おうとした彼女等の前に、敵さんの援軍がやってきた。


「お前ら、なにチンタラしてやがる」


 やって来たのは、3人の高等部生徒…しかも明らかに雰囲気が違う彼等は、特別クラスの生徒だ。


 『あ、ちょっとヤバイかも…』と2人が目配せしていたそのとき…


「ふははは!我が名はたちばな威吹鬼いぶき!暗黒の衣を纏い、現世に舞い降りた邪神の眷属である!」


 クラスメイトの橘君が来てくれた。

 ちなみに暗黒の衣というのは、学生服が黒だから!しかし、制服の所々が破けていたり、傷んでいるのは、彼が自分でダメージ加工を施した珠玉の一品だから!


「退けぇいッ!悪党ども!さもなくば我が右腕に封印されし邪神が貴様らを塵に変えるぞ!」

「…橘、相変わらずイカれてやがる」


 『フッ』と鼻を鳴らした橘君。


「さぁ、我が盟友たる乙女たちよ。間もなく刻限ホームルームだ。早々にここから立ち去るが良い」

「おい、何を勝手に――」

「ぐおおおぉッ!腕がああぁ!我の右腕に封印されし邪神が目を覚ますううぅ!」

「いい加減に―――」

「乙女たちよ!急げ!このままでは、君たちを巻き込んでしまうぅ!邪神を抑え込むのもそろそろ限界だああぁ!」


 ゼェゼェ、ハァハァ、と苦しそうに息を切らす橘君。

 ちなみに、そう言う事に耐性のない咲耶と燕は『大丈夫!?保健室いく!?』『救急車!救急車呼ばないと!』と素で心配していたりする。すると…


「あッ、違ッ、ちょっ、待って!と、とりあえず、ここは大丈夫だから、後は俺が話を付けておくから、先に言っても良いよってこと…です」


 急に素に戻った橘君は、意外とピュアに返される事に慣れていないのか、すごく焦っていた。


「んんッ!とにかく!心配無用!こうした荒事は、我の専売特許!可憐な乙女たちには似合わない――」

「待ってて!直ぐに保健室の先生呼んでくるから!」

「気をしっかり持って!呼吸はヒッヒッフゥ~だよ!」


 気を取り直してノリノリだった橘君だったが、やはり耐性ゼロの彼女たちの耳には入っておらず、ダッシュで助けを呼びに行ってしまった…。


「……さぁ、悪党ども!我が右腕に封印されし邪神の力をとくと見よ!」

「やっちまえ!」

「「「「オオオォッ!」」」」


 かくして、邪神の眷属たるたちばな威吹鬼いぶきは、2人の乙女を助けるために、勇敢に戦ったのだった―――。



◇   ◇   ◇



「本ッッッッッッッッッ当に!朝から何をバカな事やってるのよ!」

「城ケ崎さん、けっこう溜めたね」

「剣崎うるさい!」


 ここは保健室。今朝の乱闘騒ぎで駆け付けた剣崎誠けんざきまこと黒神夜瑠くろがみよるの手によって、たちばな君が担ぎ込まれて来たのだ。


「フッ、我としたことが。太陽アポロンの影響下では、力を失う事を失念していたッ!!」

何時いつまでふざけた喋り方してんのよ!いい加減にしないと、アンタのチ〇コぐわよォ?」


 鬼気迫る朱里の威圧に、思わず威吹鬼いぶきまことは、股を押さえる。


「じゅ、朱里ちゃん!女の子がそんなこと言っちゃダメえぇ!」

「それに橘君は、私たちを助けるために怪我をしたんだよ」

「そ、そんな事は判ってるわよ!そ、それについては、ア、アリガトウッ!」

「橘君、本当に助かったよ。怪我までさせてゴメンね」

「「それと、ありがとう」」


 女の子3人からお礼の言葉を贈られて、『テヘッ』と照れる橘君は、しかし直ぐに表情を変え…


「フッ、問題ない。あれしきの攻撃、我にとっては児戯も等しい。アリが象に勝てない様に、奴らがいくら束になって来ようと、この肉体に付与エンチャントされた不可侵(エーティー)領域(フィールドを超える事は叶わないだろう」

「言っている事はアホだけど、マジでお前の身体はどうなってるんだ?」

「本当に摩訶不思議まかふしぎですね。あれだけの人数に袋叩きにされていて、軽い擦り傷と打撲で済んでるなんて」


 不思議そうに威吹鬼の身体を見るマコトと黒神夜瑠。

 実際、彼の肉体は、殆どダメージらしいダメージは負っておらず、唾つけとけば治るレベルだ。


「興味深いわね。今度、アンタの身体を調べてみようかしら」

「フゥ、無知どもめ。我の肉体には邪神が封印されているのだぞ?下手に手をだせば、ば、ばばばばばッ――!?」


 やばいッ!威吹鬼が壊れた!


 突如、彼の語尾が『ばばばばばば』と砕け散った。


 そして、その原因は、魔術でも、ましてや何者かによる能力でもない!


 強いていうなら、肉体的接触によるもの!


 威吹鬼くんの身体を朱里ちゃんがペタペタと触っているから!


「じょッ、城ケ崎さん!そろそろその辺で勘弁してあげて!」

「そうです!大したことは無いとはいえ、橘君を休ませてあげて下さい!」


 心の友による救出作戦?によって、威吹鬼くんの精神は守られた。


「ねぇ、倉科さん」

「なぁに?」


 一部始終を見ていた燕は、ヒソヒソと香奈に話しかけていた。


「橘君て、もしかして朱里ちゃんのこと…」

「うん。ホの字なんだよ」

「「やっぱり!」」


 咲耶も話に加わり、聞こえない音量で、女子3人はキャーキャーと恋話こいばなに華を咲かせている。


「初等部1年の時からだから、かれこれ7年越しの片想いだね」

「なんだかキュンキュンしちゃうね♡」

「でもでも、朱里ちゃんは気が付いていないみたい!」

「そうなんだよ。クラスの全員は知っているけど、朱里ちゃんだけが気が付いていないの!」

「ワーッ、ワーッ、なんだかれったい!」

「ちなみに、威吹鬼君があんな風に喋るのも理由があって、朱里ちゃんを前にすると全然喋れなくなるから、キャラを演じているらしいよ」

「あ~ん、なにソレ可愛い(笑)」


 とまぁ、そんなこんなで威吹鬼の怪我は大したことはなく、このあとホームルームに遅れて行った面々は、何事も無かったかのように授業を受けて下校となった。


 ちなみに、放課後は、クラスメイト達が寮の前まで見送りをしてくれたので、帰り際に待ち伏せされるような心配はなかった――。



 そして夜…


『―――はい、アイツら修練上の予約を入れていたんで、張り込んでいたら案の定でてきました』


 女子寮から野外の修練上へ向かって行く少女3人の姿を、今井の子分が目撃していた。


 その報告を講堂に集められた子分たち…総勢50名に伝えられた。


「行くぞ、お前ら」


 今井の子分たちは、学園の一般生徒たちから不良グループにカテゴライズされている。

 しかし、不良というだけあって腕力には自信がある連中が揃っているのだ。しかも彼等は普通の学校の不良とは、訳が違う。

 その誰もかれもが、魔術やら能力という異能を持つ厄介極まりない連中ばかりだ。


 今宵、彼等の悪意が、何も知らない3人へと向けられる―――。

 


◇   ◇   ◇



「テメェ、また邪魔をする気か?」


 暗闇に紛れて…というよりは殆どの生徒が、今は一日の疲れを癒すために自室で休んでいるので、大人数を引き連れて歩いたところで、目立ちはしない。


 今井たちの目的は、言わずもかな。面子メンツを潰した朱里への報復だ。


 子分共をゾロゾロと引き攣れて修練上への最短コースである校庭を突っ切っていた彼等の前に立ち塞がったのは、今朝方、大人数に袋叩きされたハズのたいばな威吹鬼いぶきであった。


「何を言っているのか判らんな…が、我が邪魔だと言うのなら、また良からぬことを企んでいるのではないか?」

「………」

「図星か。まったく、四天王ビッグフォーともあろう者が年下の女、しかも大勢を引き連れて襲おうとは情けない」

「黙れ雑魚が…オイ」

「「「ウッス――」」」


 どうやら威吹鬼と話すつもりが無い様子。

 今井が子分数名に声を掛けると、見覚えのある顔ぶれが前に出た。


「橘ちゃーん、また今朝みたくボコられちゃう?」

「またクラスメイトが助けてくれるなんて、思わない方がいいよー?」

「それとも自慢の右腕から何かすごいのが出てきちゃうのかなー?」


 ゲラゲラと笑うのは、高等部でも特別クラスに在籍する野郎共。

 特別クラスに居て尚、不良に堕ちてしまうと言うのは、この学園では、そう珍しい話ではない。


「先輩さぁ、こんな事をしてタダで済むと思ってるんスか?」

「おいおい、急にどうした?」

「喋り方が普通に戻っているぞ?」

「ビビっちまったんじゃねぇ?」


 学園は実力至上主義。

 故に、自分より遥に下の学年の者が最上級生をも屈服させるなんて言う事も在り得るのだ。

 そして、彼らにとって城ケ崎朱里は、それに当てはまる。

 よって、彼らは自分たちの立場を守るために才能ある者を数で潰そうとしているのだ。

 これ以上、自分たちが堕ちてしまわないために。


「学園側もこんな大それた事をした連中を放逐なんてしないハズだぜ?」

「ふふふ、バカですねぇ君は。我々が何をしようと学園側にバレなければ良いだけの話しですよ」

「いや、絶対にバレるって――」

「断言しますよ。我々が何をしようと君も、そして彼女たちも口をつぐむことになると」

「妙に自信たっぷりに言いますけど、向学のために、その理由ってのを聞かせてくれますかね?」


 今井一派の№2である谷川の言葉に、嫌な予感しかしない。


「なぁに、女なんて、ちょろい物です。剥いてやった写真の1枚や2枚をチラつかせれば、それだけでコチラの言いなりに――」

「オーケー判った。取りあえず、その口を閉じろ」


 やはりと言うか、何というか。教えてと言っておいて、やっぱり聞かなければ良かったと、今は後悔する。何故なら…


――こんなにも胸糞悪くなったのは、久しぶりだ


 聞いただけで、どうにかなってしまいそうな激情が威吹鬼の腹の中で暴れまわる。


「橘君、そこをどきなさい。正義面をして痛い目に遭わなければ理解できないほど子供じゃないでしょう?なんなら、君にも美味しい想いをさせてあげますよ?」


 この一言がトリガーになった。

 もしかしたら威吹鬼自身、プッツンという幻聴が聞こえたかもしれない。


「ア゛ア゛ア゛……お前ら生きてる価値ないよ」

「はい?」


 言った威吹鬼の全身からオーラが迸る。


「先輩ら、悪いんすけどここで沈んでもらいますわ」


 悪いとは言ったが、悪いなんて、これッぽっちも思ってはいない。


「お前、そのオーラは…」


 既に戦闘態勢をとった威吹鬼。その湧き上がるオーラを直視した今井は、驚愕すると共に、口端を吊り上げて笑みを浮かべた。


「そうか、お前が最後の1人か!五月女凌駕から四天王の座を受け継いだ幻の4人目!」


 言質をとった訳ではない。

 しかし、その雰囲気が、オーラが物語っていた。

 そして、威吹鬼もまた不敵な笑みを浮かべて応える。


「この戦いは天王山てんのうざん!お前らの様なヤツに絶対負ける訳にはいかねぇ!地べたを舐めたい奴はかかって来いッ!」


 構えを取り、総勢50名を前に威圧をぶつける。

 

「テメェ等ッ!ぶちのめせッ――!」

「「「「「オオオオオォッ――!!」」」」」


 魔術師と能力者が混成された一団。学園で鍛練を続けて来た連中を従える四天王ビッグフォーの今井司は、たった1人に己が持つ全てを掛けて潰しにかかった――。



◇   ◇   ◇



 時間は少し遡り、咲耶・燕・朱里が寮を出る前のこと。


 届いた荷物を寮監りょうかんから受け取り、部屋で開封を行っていた。

 簡素な梱包こんぽうを解いた中身は、杖と石が入っており、2人が手に持った途端、淡い光が部屋を照らし…


「ふぅ…やっと出られた」

「荷物扱いされるとは、思わなかった」


 人型の姿を得たアリアと左京が現れ、気伸びをしている。


「2人ともお疲れ様」

「咲耶♪逢いたかったわよ♡」


 人型になった途端に抱き着くアリア。


「大変だったね?」

「お嬢、次からは宅配便で送るなんてしないで欲しい」


 余程、自分たちの待遇がお気に召さなかったのか、左京は頬を膨らませてむくれている。


「しょうがないじゃない。学園に持ち込める式神の類は、検閲が必要なんだから。でも、何の問題もなく来られて良かったわ。別に心配はしていなかったけどね」


 腰に手を当てて、ヤレヤレと宥める朱里は、それでも友人との再会を喜んでいる。


「ちょっとやだよぉ、この子は。相変わらず素直じゃないんだから」

「ん、アリア違う。これはツンデレって言うやつ」

「だッ、誰がツンデレよ!」


 ちょいとオバサン臭く手をヒラヒラさせるアリア。そして、冷静に分析する左京。

 朱里は、照れているのか、少しばかり顔が赤い。


「ところで、3人とも学園はどう?楽しい?」

「友達100人できた?」

「楽しいよ♪」

「流石に100人は居ないけど、クラスの皆は、とっても良い人ばかり」

「そうなの?なんか前情報とだいぶイメージ違うわね」

「アリアさん、それには海よりも深く、山よりも高い理由があるんだよ」


 「「ね~」」と顔を見合わせて声を揃える咲耶と燕の様子にアリアと左京は「?」と小首を傾げる。


「そ、そんな事より、この後はどうするのよ。一応、身体を動かせるようにって、修練上の予約は取っておいたんだけど?別に窮屈な思いをしていただろうから動き回りたいだろうなとかは、思ってないわよ」

「朱里、ツンデレ発動」

「可愛いかよ」

「違ッ、私が修行するためにとっておいただけよ!アンタたちは、そのついで!」


 慌てる様に釈明する朱里。

 しかし、「どうしちゃったの?いつにも増してツンデレってるわよ?」とアリア。「きっと、私たちに遭えなくて寂しかった」と左京が言う。


「じゃあ、じゃあ、皆で修練上に行こう」

「入学してから身の回りの片づけとかで、全然修行が出来ていなかったもんね」

「「賛成~」」


 などと、女子女子したトークを一旦切り上げて、一同は修練上へと向かうのであった――。

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