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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
強者揃い
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学園へようこそ~その④~乙女に必要なもの

 学園生活二日目は、さっそくの授業が始まる。

 午前中は、一般教養を身に付けるため、一般の学校と変わらない教科をこなす。

 そして午後は、いよいよ魔術や能力に関する授業である。


「えー、今日は魔術による防壁について講義します」


 黒板に書かれていく内容を生徒達は、ノートに書き写していく。


「――とまぁ、概ねこんなもんやけど、これはあくまで理論。実証して初めて証明されるのは、化学も魔術も一緒や。てなわけで実践を交えていくで」


 広い教室とはいっても、魔術を発動する以上は、何が起こるか判らないので、一同は学園にある修練上へと移動した。


 修練上には、他にも授業を行っている学生たちがいたが、中等部とは明らかに体格も雰囲気も違う高等部の生徒たちだった。


 その高等部の教師に木戸が近づくと、2.3話をして、1人の生徒を連れて戻って来た。


「君たち、今日は学園最強の四天王ビッグフォー鈴城すずしろはるかくんが、手伝ってくれることになりました。みんな胸を借りるつもりで」


 突然、ビッグフォーが自分たちの授業に加わることになり、僅かに生徒達はざわめいた。


「先生、私たちと鈴城先輩とでは実力差があり過ぎるのではないでしょうか?」

「なんや黒神くん、やる前から怖気づいたんか?」

「ッ、怖がってません!ただ、このクラスには新しく学園に入って来た子もいるので、いきなり鈴城先輩の様な人が相手だと、自信を無くすのではと心配になっただけです」

 

 手を上げて発現した女子生徒は、このいきなりすぎる教師の方針に異議を唱えた。しかも相手は学園の4強だ。下手をしたら自信を喪失しかねないと思っての発言だった。しかし…


「ここでダメになるんなら、その程度だったと諦めてもらうしかないなぁ」

「なッ、教師がそんな事を言って良いんですか!?」

「なんや、勘違いしているようやから、ハッキリ言ったるけど、この学園は実力至上主義や」

「そんな事は――」


 知っていると言おうとして、女子生徒…黒神の言葉は「知っているよな?」という零士の言葉で止められた。


「遅かれ早かれ、君たちは一線の現場に駆り出される機会がこの先何度もある。もちろん、そういった道を選ばないのも一つの選択ではある。けど、この世界に足を踏み入れたが最後、本人が望もうと望まざると関係なく、何が起こるか判らないのが僕らがいる世界や。なら、いざという時に何も出来ませんでした。なんて言う事が無いように日頃から訓練しなきゃならん。違うか?」

「それは、…そうですが……」


 零士の言っている事が、この世界において正論である以上、黒神は何も言い返せないでいた。そんな彼女の近くに歩み出たのは、咲耶だった。


「黒神さん、ありがとう。私たちの事を心配してくれたんだね」

「結城さん…」

「でもね、私も燕ちゃんも、みんなが思っているほど弱くはないよ」


 ジッと黒神を見る咲耶の瞳からは、「見ていて」という強い意志が込められていた。


「どうやら、私は要らぬお節介を焼いてしまった様ですね」

「ううん。普通に嬉しかったよ」


 クスリと微笑みある2人。


「話は、まとまった様ね。それで?最初はアナタで良いの?」


 腰に手を当てて、ずっと2人を見守っていたビックフォー鈴城遥は、待ちくたびれたといった様子だ。


「はいッ!中等部1年、結城咲耶です!よろしくお願いします!」

「いいわねアナタ。根性すわっている感じがして、嫌いじゃないわ」


 学園生活における初の実戦形式の授業。それも相手は学園の4強である四天王ビックフォー

 相手にとって不足は無い。はたして咲耶は、四天王相手に何処までやれるのであろうか――。



◇   ◇   ◇



「――え~っと、なんや盛り上がっているところ悪いんやけど。実戦形式といっても、ガチの戦闘ちゃうからな?」

「「「「ええぇッ!!?」」」」


 散々盛り上がっている状況で、零士から水が差された。


「誰がガチバトル言うた?さっきまで防壁についての抗議しとったやろう?」

「「「「確かにッ!」」」」

「防壁っちゅうんは、護りのすべや。つまりは防衛魔術の授業で、君たちは何を想像しとったんや」


 ヤレヤレと肩をすくめる零士の横で、「あれ?戦わないの?」と口には出さずとも、ありありと「勘違いしていました!」と表情に現れている四天王ビッグフォーの鈴城遥。


「とりあえず、ルールを説明するから耳の穴かっぽじって良く聞いときぃや」


 『1度しか言わないからな』と付け加えて説明されたルールは単純なもの。

 その①…10秒の間に張れるだけの防壁を展開させる。

 その②…10秒経ったら、相手が突撃してくる。

 その③…相手が突撃を開始して10秒経ったらお終い。

 その④…相手が防壁を破壊している最中にも防壁の展開をしてもOK。

 その⑤…全ての防壁を破壊されたら負け。


「――あと、判っているとは思うけど、これは防衛魔術の授業やから、鈴城くんに攻撃をする事は禁止だから気ぃ付けぇや」


 ルール確認の後、咲耶と鈴城は一定の距離を取り、速やかに訓練が開始された。


――防壁シールドッ!


 開始と同時、咲耶は防壁を次々と展開していく。その数は5つ。

 10秒と言う時間制限内で、しかも複数展開が出来る生徒は、学園内にもそうはいない。入学するまでの特訓の成果と言えるだろう。

 故に、同級生たちから驚きの声が上がる。


「中々やるわね。…それじゃあコッチも行かせてもらうわ」


 言って、遥の両腕にオーラが集中すると、鈍く光る篭手ガントレッドが具現化された。

 そして、10秒が経過して遥のターン。


「せいやッ!」

「ッ――!?」


 何の変哲もない正拳突きが防壁の1つを割った。


「ほらほら、どんどん行くわよ!」

――防壁シールドッ!


 壊された傍から再び防壁を展開する。しかし、咲耶が術式を組み上げて展開させる間に遥は2つ3つと、どんどん防壁を破壊していく――。


「――咲耶ちゃんの魔法力で作った防壁が、あんな簡単に壊されるなんて」


 見守っていた燕の口から驚きが漏れ出た。


「術式自体のポテンシャルは最高よ。でも、あの式じゃあ鈴城遥の攻撃には耐えられない」

「せやな。今、結城くんが展開している防壁は、どんなに凄い魔法力を持っていたとしても、せいぜい150㎏の衝撃に耐えるのが限界強度や。ちなみに今の鈴城くんの攻撃力は、ざっくり見積もって190㎏はある」

「なら咲耶ちゃんが鈴城先輩の攻撃力を上回る防壁を張れれば…」

「今の状態で、その術式を張れる余裕はないわ」

「仮に試合開始の時、ゴツイ防壁を構築しようとしてたとしても、10秒では構築しきれないと判断して、今の術式にしたんやろう……と言っている間に終了やな」


 観戦していた生徒たちの目の前で、鈴城遥の拳が咲耶の目の前で寸止めされていた。

 つまりは、咲耶の敗北である。


「アナタ、中々やるわね!」

「ありがとうございました。…お世辞でも嬉しいです」

「あっはっは!私はお世辞なんか言わないわ!だって、私のターンが回ってきたとき、3秒くらいで試合を終わらせようとしていたんだもの」

「え――?」

「でも、時間一杯使わされたわ。正直、少しでも出遅れていたら私の負けだったもの」


 咲耶の健闘に称賛を贈る遥の言葉に嘘はなかった。


「しかも、私の威圧で防壁の展開速度が鈍るかと思えば、更にスピードが上がるなんて、アナタもしかして……」


 値踏みをするかのようにジッと見つめる遥に対し、咲耶は何を言われるのかとオドオドしていると…


「すごい根性の持ち主ね!」

「へ――?」

「みなまで言わずとも判るわ!アナタは私と同じ人種だって!」

「え?え?」

「良いこと?覚えておきなさい。乙女に必要なのは、力と技と根性!」

「は、はい?」

「見たところ、アナタは力と根性は良い感じ。あとは技術を磨くこと!」

「……はいッ!」

「結城咲耶、アナタの名前は覚えたわ。また機会があればやりましょう!」


 清々しいほど堂々とした立ち居振る舞い。咲耶は、遥が自分が知っている女性…煌坂きらさか紫苑しおんとダブって見えた。

 その勘は、あながち間違ってはいない。なにせ、彼女に四天王ビッグフォーの座を継承させたのは、煌坂紫苑その人なのだから。


「さて、じゃんじゃん行くでぇ。次は誰が――」

「私が行くわ!」


 誰がやる?と言いかけて、申し出たのは天才と呼び声高い我らが朱里ちゃんである。


「良い感じに締めくくっていたけど、親友の仇は取らせてもらうわ!」

「アナタが相手なら、私も全力で行かないとね」


 お互いに鼻息荒く向かい合い、火花が散る。

 そしてこの後、修練上から『うおおおぉ!根性おおおぉ!』と言う遥の勇ましき声が学園中に響き渡ることとなったのだった――。



◇   ◇   ◇



「――今井さん!大変です!」


 放課後、四天王ビッグフォーの一人、今井いまいつかさのもとへやってきた子分が、ある報せをもってきた。


「何ィ!?鈴城が中坊に負けただと!?」


 それは、彼と同じ四天王ビッグフォーである鈴城遥の敗北の報せ。


「は、はい。防衛魔術の授業で、鈴城遥の攻撃を城ケ崎朱里の結界術が上回ったとかで…」

「はんッ、どうせ鈴城のヤツが手を抜いたんだろう。中坊に華を持たせてやろうとか考えたんだろう」


 今井は鈴城の実力を良く知っている。

 自分と同じ高等部3年で四天王ビッグフォー

 しかも彼女は、あの煌坂紫苑から直々に、その座を譲り受けた。

 今まで今井と鈴城がやり合った事は一度も無い。しかし、やり合ったならば、認めたくはないが、軍配は鈴城に上がると、心の何処かで思っている自分がいる。


「アイツは、そういうヤツだよ。何だかんだで、結局最後は相手に華を持たせるんだ――」

「い、いえ、それが、…どうやら鈴城遥は、能力を全展開させていたらしいんです」

「なにッ!?篭手ガントレット以外に武具すべてだと!?」


 鈴城遥の能力は、全身を武具で完全装備させることによって、真価を発揮する。

 そして、今まで彼女に完全武装させた学園生は、今井の知る中で、ただの1人としていない。


「今井さん、どうします?」

「……何がだ?」

「城ケ崎朱里ッスよ!アイツはヤバすぎます!鈴城遥を負かしたとなれば、今井さんだってッ――!!?」

「ア゛ア゛!!?」


 負けるかもしれない……そう言いかけた子分の口を塞ぐようにして今井の手が伸び、ギリギリと顎を絞め上げていく。


「テメェは、俺が中坊に負けるって言いてぇのかァ?ア゛ア゛!!?」


 恐怖で泣きそうになっている子分は、必死に首を横に振って『そんなことありません!』と訴える。が、今井の気は収まらない。


「まぁまぁ今井さん、落ち着いてください」

「…谷川ァ、おまえ何時いつも何処から出てくるんだァ?」


 さっきまで居なかったハズの腹心がいつの間にか後ろに立っていた。


「はは、俺って影が薄いって、よく言われるんですよ。そんな事より、俺に良い考えがありますよ?」

「……ほぅ、聞こうじゃねぇか」

「実は、城ケ崎朱里なんですけど、学園に復帰するまでの間、どうやら家庭教師みたいなことをしていたらしいんです」

「家庭教師だァ?ガリ勉が考える事は判んねぇなァ。それで?だから何だってんだ?」

「それがですね、彼女が家庭教師をしていた女2人ってのが学園に入学していて、今まで一匹オオカミだった彼女が2人を親友だと言っているんですよ」

「……お前まさか」

「はい、そのまさかですよ。彼女たちを人質にとって城ケ崎朱里に焼きを入れてやりましょう」


 ゴクリと、今井が締め上げていた子分から唾を飲む音が聞こえる。


「悪くねぇ」

「ッ――!?」


 腕から力を抜き、子分を落した今井は、そのまま床に落ちた子分を睨む。


「おい、人数を集めろ。この際、徹底的にヤルぞ」

「けッ、けど今井さん、流石にそれはやり過ぎじゃ――」

「大丈夫ですよ、彼女たちの口を封じる方法なんて、いくらでもあるんですから」


――例えば剥いた姿を写真に撮るとかね…


 谷川の言葉に、子分は戦慄する。


 子分は、不良グループである今井の傘下に入ってさえいれば、出来損ないの自分でも舐められる事はないと思って今までやってきた。

 実際、今井グループに入ってからは、誰も彼をバカにしなくなった。

 しかし、まさか犯罪の片棒をかつがされるとは思ってもいなかった。


 だが、彼に選択肢は無い。今、断れば自分がどんな目に遭わされるかなんて、簡単に想像が出来る。故に彼は首を縦に振って、人数を集めに走った――。


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