表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
強者揃い
235/295

学園へようこそ~その③~四天王

 ドキドキワクワクの学園生活初日。

 初授業であるホームルームでは、どの学校でも恒例となっている自己紹介が繰り広げられていた。しかし…


「ふはははは!我が名はイブキ!たちばな威吹鬼いぶきだ!暗黒の衣を纏い、現世に舞い降りた邪神の眷属である!皆の者、我を括目せよ!」


 初っ端からキツイのが来た。


「おおッ、我が右腕に封印されし邪神も新たなる出会いに歓喜しているようだ。まったく、コイツを押さえるのは骨が折れると言うのにetc…」


 邪神の眷属と名乗っているのに、何故か右腕に邪神様が封印されている摩訶不思議現象。

 そんな設定ブレブレな自己紹介が途切れることなく5分間フルで使い切り、さらにオーバーして続けようとしたところで…


「はい、次の子いってみようか~」


 教師によるブレイカーが発動した。


 しょっぱなから、すごい自己紹介を終えた威吹鬼は、「フッ」と鼻を鳴らし、席に着いた。


「何よアレ」

「な、なんかすごかったね!」

「もしかして、アレが学園風の自己紹介の仕方なのかな?」


 今まで、私立の学校に通っていた咲耶や燕にとって、威吹鬼は新しいタイプの人種であり、学園ではソレが普通だと思ってしまっている。が、朱里が「いや、アレは――」と訂正をしようとしたとき…


「そのとおりです。今、生徒の間では、ああいった設定が密かな流行なのです」

「「「ッ!?」」」


 気配を全く悟られる事無く、その少女は3人の後ろに座っていた。


「初めまして、そして、お久しぶりです。私は御剣鞘香と申します」

「「あ、はじめまして」」

「御剣ィ、適当なこと言って2人を――」


 困らせるなと言おうとした朱里の目の前で信じられない事が起きた。


「ふははは!我が名は倉科香奈!五月女家の分家にして、次期当主の右腕!今宵も我がまなこに封印されし力が邪悪なる者の真実を暴きたてる!etc…」

「なんてことだッ!」


 いったい、自分がいない間に学園で何が起きた!?と頭を抱えている朱里を差し置いて、教壇では次々と自己紹介が続いていく。


「ふははは!我が名は、剣崎誠!以下略…」

「ふははは!我が名は、以下略…」


 きっと、悪い夢をみているのだと現実を直視できずにいると、再び後ろの席から声がかかる。


「現実を見て下さい城ケ崎さん。この流れを断ち切りチキン野郎の汚名を被るか、アナタも勇者となるか、2つに1つです」

「チキンか勇者?」

「そうです。アナタはどちらですか?」

「わ、私は…私は…」


 ブルブルと震える朱里。しかし、その手を取る者がいた。


「大丈夫だよ。朱里ちゃん」

「うん、皆で勇者になろう」

「ふ、二人ともぉ…」


 そうじゃない。勇者になりたいわけじゃないんだ!という想いも虚しく咲耶が教壇へと向かった。


「ワハハハ!我が名は結城咲耶!暗闇よりも深い魔導の深淵を見る者!……2年前に魔の力に覚醒した新参者と侮るなかれ!諸君!我が魔導を括目せよ!」


 これが咲耶ちゃんの全力全開だ。ちなみに皆が「ふははは!」に対し「ワハハハ!」だったのは、やけっぱちで声が上ずったからで、途中の「……」の間は、現在進行形で必死に考えていたからだ。そんな彼女の名乗りに対し…


「「「「ワーーーッ!」」」」


 拍手喝采はくしゅかっさいが巻き起こる。

 しかし咲耶は、涙目になり、顔を真っ赤にして俯きながら席に戻ると、朱里の胸へとダイブした。


「うえ~ん!恥ずかしかったよ~!」

「でしょうね!なにやってるの!?」

「次は私だね!」


 咲耶の雄姿を見た燕は、「ふんす!」と息巻いて教壇に向かった。

 その際、「ちょッ、待――」という朱里の制止は彼女に聞こえていない。


「ふははは!我が名は細川燕!しかし、それは世を忍ぶ仮の名!今はまだ、我が真名を明かす訳にはいかないが、時が来たら皆も知ることになるだろう!それまでは神薙かんなぎとしての姿を括目するがいい!」

「「「「ワーーーッ!」」」」


 再びの拍手喝采。

 どや顔で戻って来た燕ちゃんは、グッと親指を立てた。まるで「さぁ、舞台を温めておいたよ」とでも言っているようだ。もはや逃げるわけにはいかない。朱里は覚悟を決めて教壇へと向かった。


「…ふ、…ふははは!我が名は城ケ崎朱里!結界師の血脈を汲むもの也!至高にして究極!何人も我が絶界を踏み越えること、叶わないとしれッ!」


 やった!やってやったぞ!ていうか、やっちゃった!と目頭を熱くする朱里。しかし、教室内は静寂に包まれ、そして…


「「「「ワーーー!」」」」


 かつてない拍手はくしゅ喝采かっさいが巻き起こると、誰かが「せーっの」と掛け声を上げて…


「「「「おかえり!城ケ崎さん!」」」」


 咲耶と燕を除く、クラスの全員が朱里の帰還を喜んでいた。


「なッ、なななな!何よアンタたちッ!?」


 突然の級友たちからの歓迎に状況が飲み込むことができない。というよりはパニくっている。


「サプライズ成功やな。君が帰って来るいうから何かしようって話になってなぁ」


 京都弁のイントネーションで喋るのは、担任の木戸零士だ。


「ご苦労な事に進級して、みんな同じクラスになるって知って急いで考えてたらしいで?」

「そ、そうだったの…」

「あとで、歓迎会も兼ねた食事会を用意しているそうだから、新しい友達と一緒に参加しぃや」

「…はい」


 今まで、そんな事をされた覚えがない朱里は、嬉しいやら恥ずかしいやらで、顔を赤らめている。


「てなわけで、パパッと自己紹介を済ましたろうか?」

「……ん?てことはもしかして――」


 朱里は、このとき悟った。彼等のサプライズは先程の歓迎の声ではないことに。

 先ほどから後ろの席で耳打ちをしていた少女が教壇に上がり、流麗な所作で礼をすると…


「御剣鞘香です。初等部から一緒だった人は知っているかもしれませんが、今回新たに2人の学友を迎えられて嬉しく思います。私は魔術の方は得意ではありませんが、能力には自信があります。どうかお見知りおきを――」


 めっちゃ普通に、…いや、めっちゃ丁寧に自己紹介をした鞘香とそれに続くクラスメイトたちを見て、「やられたッ!」と嘆くと共に、学園生活初日で3人は黒歴史を作るハメとなったのだった――。



◇   ◇   ◇



四天王ビッグフォー――?」


 夜間、女子の学生寮。

 昼の食事会を終え、夕食と風呂も終えて、自由な時間を過ごしていた。

 そして彼女たちは、咲耶の部屋でパジャマパーティーをしていた。


「そう、学園最強の4人をそう呼んでるのよ」

「学園最強ってことは、初等部から高等部の誰かってこと?」


 燕の質問に朱里は首肯して応えた。


「さっきクラスのヤツらから聞いたけど、私がいたころの四天王ビッグフォーは代替わりしているみたい。けど、名前だけは知っている連中よ」

「知っているってことは、有名なんだ?」

「そうね、いい機会だから、名前くらいは覚えておいて」


 朱里は部屋にある生徒専用端末を起動させ、生徒名簿を立ち上げた。ちなみに自室のパソコンは外部とは一切繋がっておらず、完全に学園内だけの専用ネットワークである。


「まずは高等部1年、鈴城すずしろはるか

「わぁ、綺麗なヒトだね」

「堂々として凛々しい雰囲気――」

「雌ゴリラよ」

「「え――?」」

「座右の銘が【力と技と根性】のパワーバカ」


 学園最強がヒドイ言われ方をしている。

 2人の間に何かあったのか疑いたくなる。


「二人目、高校部3年、今井いまいつかさ

「ちょっと怖そうなヒトだね」

刺青イレズミいれたら完全にヤクザ――」

「人間のクズよ」

「「え――?」」

「不良グループの頭は、コイツだから近づかないようにしなさい。あと、今朝の連中もコイツの子分や」


 初等部の生徒を虐めていた連中を思い出したのか、鼻息を荒くして怒った表情を浮かべている。


「三人目、中等部3年、牧瀬まきせありさ」

「中等部にも四天王ビッグフォーがいるんだ」

「なんか他の2人に比べるとしとやかな雰囲気だね」

「そうね、四天王で唯一の常識人で中立派」

「あ、この人は大丈夫なんだ――」

「けど、見てみぬふりをする女狐よ」

「「え――?」」

「トラブルが起きても我関せずを地で行くし、何もしない。無害であること以外に良いところは無いわ」


 普通は無関係であれば、トラブルには関わろうとしないし、無害だったら良いと思うのだが。

 それとも朱里の認識が捻じ曲がっているのか、牧瀬ありさと因縁があるのか気になるところである。


「四人目は、…不明よ」

「「ん――?」」

「私が知っている限り、前の四天王から代が変わって5年が経つから、最低でも初等部5年よりも上だって事と、ユニオンっていう組織を作っているのと、幻の4人目フォースメンって呼ばれている事くらいしか判らないわ」

「その4人目って、誰も見た事がないの?」

「そもそも、四天王ビッグフォーってどうやってなるの?」


 4人目に対して目ぼしい情報が無い事に咲耶と燕から疑問が上がる。


四天王ビッグフォーの代替わりは、大きく分けて2つあるの」

「あっ、わかった!下克上げこくじょうでしょう!」


 閃いた!と手を上げて燕が解答した。


「正解…まぁ仮にも学園最強を名乗るんだから、勝ってビッグフォーの座を奪えって話よね」

「じゃあ、あと1つは?」

「継承…つまり、前の代に力を認められて、名乗る事を許されるのよ」

「あぁ成程ね……ん?でもそれだと4人目は、どうやって四天王になったの?」


 朱里の説明を聞いていた燕から、再び疑問が浮かび上がった。


「継承の方ね。これについては立会人不要で、一方的に言い渡すだけだから。代替わりのとき、本人に直接言って、お終いにしたらしいわ。まぁ先代って、実力は歴代トップクラスだったから誰も文句言えなかったらしいわよ」

「あ、珍しく朱里ちゃんが、けなしてないよ」

「別にけなしている訳じゃないわよ!…でもそうね、強いて言うなら唯我独尊って感じの人物で、結構適当な人だった…かな」

「やっぱり、言い方にトゲがない」


 何かあると睨んだ2人から変な視線が注がれる。


「べ、別に他意は無いわよ!ただ、その人って、ある意味、私たちとは無関係じゃないから…」

「え?学園で知り合いは、いないハズだよ?」

「唯一知っているのって、朱里ちゃん以外だと……もしかして紫苑しおんさん?」


 記憶を遡り、絞り出した人と言えば、熾輝の従姉いとこに当たる煌坂きらさか紫苑しおんだったのだが、朱里はその答えを否定するように首を横に振った。


五月女さおとめ凌駕りょうが……熾輝の叔父おじよ―――」




◇   ◇   ◇



 時間は夕刻まで遡る。

 学園生活初日、とは言っても入学式を終えて、ホームルームで自己紹介をしたら本日の授業は終了。


 お昼ご飯は、クラスメイトたちがパーティーの準備をしていたので、そのままご相伴に預かることになった。

 とはいっても、元々特別クラスの生徒は、各学年10人づつしかいないので、華やかと言うよりは、ささやかな物であった。

 前もって朱里から特別クラスにいる連中というのは、誰もかれもが油断ならないと説明を受けていたのだが、先のサプライズを見た限りでは、そんな事はなく、パティー中も和気藹々わきあいあいとしていた。

 しかし以前、朱里は人間関係に悩みを抱えていたと聞いていたのだが、そう言った気配が全然しない事に疑問を抱いていた咲耶と燕だったが、その謎は香奈によって明らかになった。


『ファンクラブってのがあってね。ほら、朱里ちゃんって可愛いし頭良いし正義感が強いしで、学園内で弱い立場の子を放っておけずに何度も助けてたの。そしたら、あれよあれよとファンが増えて。…けど、朱里ちゃん自身は余裕が無いっていうか、近寄るなオーラ全開に出していたから地下よりがたくってね。まぁ、それがあえってファン急増に繋がっちゃったんだけど云々…』


と、聞いてもいない事をペラペラと教えてくれた。ちなみにファンクラブを作ったのは学園最強と呼ばれる四天王ビッグフォーの誰かだとか、香奈もファンクラブに入っているだとか、『この学園大丈夫?』と思うような内容が多分に含まれていた。


 そんなこんなで、少々あわただしい一日を終えた現在、生徒たちは各々の寮に戻って自由時間を過ごしていた頃、とある講堂に集まる生徒たちがいた――。



「ボス、新入りを連れてきやした」


 フードを目深に被って腰を曲げ、ゴマをるようにして手を組んだ、いかにも子分な感じをかもし出している…が、実は女子である。


 申し出に対し、ボスは顔バレしないためのヘルメットを被ったまま、「うむ」と返事をすると立ち上がった。


「諸君、よくぞ呼びかけに応えてくれた」


 ヘルメット内に変成機でお仕込んでいるのか、声の質が変えられている上に微妙に反響しているため、元の声を特定するのは難しい。

 しかも体格が判らないようにマントを羽織っているが、マントの外からでも判るほどに肩幅が異常にデカい。


「君たちを呼び出した理由を単刀直入に言おう。それは、我が軍門にくだってもらうためだ!」


 ざわざわ…と講堂内に呼び出された者達から不安の色が窺える。


「今、この集いに来てもらった者の中には、俗に半妖と呼ばれている怪異を身に宿す者や力に目覚めて日が浅い者もいるだろう」


 見渡してみれば、集められた者の中には、瞳の形が違っていたり、耳が尖っている者がいる。


「君たちの様な存在は学園内で蔑みの対象となっている。それは何故か!この学園のモットーは実力至上主義をうたっているからだ!故位に強者は弱者を踏みつけにする!その証拠に今朝、か弱き初等部1年女子が、あろうことか歳の差が一回りも違う者の魔手に襲われた!」


 クラス分けの掲示板を見に来ていた、ほとんどの者は、その現場を目撃していただろう。

 故に講堂内からは、口々に目撃証言が出てきている。


「私は悲しい…強者は弱者に何をしてもいいのか!弱い事が悪なのか!強い事が正義なのか!否である!実力至上主義、大いに結構。しかし、その言葉の真の意味は弱気を助け悪を挫く!強者は弱者を守るために存在するのである!」


 ボスの演説にサクラと化している子分たちから『そうだ!』という声が上がる。


「そして、諸君は見たハズだ!正義を体現した彼女の姿を!そう、我らが学園のアイドル、城ケ崎朱里の正義を!」


 語尾の「!」のタイミングで、講堂の映写機を通してスクリーンに朱里の写真(画角的に盗撮)が映し出された。


「彼女こそ、学園に舞い降りたアイドル!彼女の学園生活を守る事で我々も護られる!故に我は、このユニオンを設立した!さぁ、共に彼女とのめくるめく学園生活を送ろうではないか!」

「はーい、皆さん。こちらユニオンのパンフレットと会員証のバッジです。入会費は1人500円で、ブロマイドは100円から取引されているよぉ」


 ボスの演説のあと、子分たちがパンフレットを配り、ユニオンの詳細な説明を行っていく。

 何となく聞いていた演説は、ふざけた内容っぽいが、パンフレットには小学1年生でも判るようにルビが振られ、子分が親切丁寧に説明している。


 彼等ユニオンの規則を説明すると、

   その①…仲間同士で助け合おう。

   その②…悪い事はダメ、絶対。

   その③…アイドルについて語り合おう。

と、かなりふわっとした内容のものである。

 そして、ユニオンの構成員では対処できない事態が発生した場合、ボスこと学園最強の一角が全力をもって対処するという…判りやすく言えば、ユニオンの構成員は四天王の庇護下に入るという事だ。

 しかも会員の証であるバッジは、学園生であればユニオンの会員であると誰もが知っている。


「うへへ、ボス。今年も大収穫ですね」

「うむ。後の事は任せても良いか?」

「それは構いやせんが、どちらに?」

「少々、面倒な案件を明日までに片付けなければならなくてな」

「ボスを手こずらせる程の案件と言いますと、…まさか!」

「あぁ、入学前の課題がまだ終わってない!」

「提出日は明日ですぜ!間に合うんですか!」

「ばっきゃろう!出来る出来ないじゃねぇ!やるかやらないかだろおぉ!」

「ボスううぅ!素に戻ってますよ!」


 この男、学園最強である四天王ビッグフォーの一角にして、ユニオンのボス!しかし、彼の素顔を知る者はおらず、幻の4人目と言われているとかいないとか―――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ