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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
強者揃い
233/295

学園へようこそ~その①~ハリー〇ッターとはじめての学園

 学園は、日本中から魔術師や能力者を集めて教育する国立の育成機関だ。


 学園に通う者のほとんどは、先祖代々から続く家柄であり、何かのきっかけで彼等の世界に足を踏み入れてしまった者は、二割に満たない。


 そして春、桜の花びらが舞い散る季節、あらたに学園の門を叩く者がいた。


「なんか、思っていたのと違う」

「朱里ちゃんが言ってたじゃん。燕ちゃんが想像していたのとは全然違うって」


 学園指定の制服に身を包んだ2人の少女、結城咲耶と細川燕だ。

 彼女たちからは、学園の前で建物を見上げながらガッカリした様子が垣間見える。


「だって、魔術や能力とかってファンタジーだよ?そんなファンタジーな世界観をぶっちぎりで破壊された気分だよ」

「うん。まぁ言いたい事は判るよ」


 彼女たちが何にガッカリしているかというと…


「なんで都会のど真ん中のビルが学園なの!?」

「学校の門…ていうか自動ドアだしね」

「学生証にICチップが入ってるよ!」

「ドラマとかでよく見るゲートを通るときに使うあれだね」


 これでは、まるで会社に出勤するサラリーマンだ。


「ちなみに聞くけど、燕ちゃんはどんなのを期待していたの?」

「あれだよ。ハリー〇ッターのホグア〇ツみたいなやつ」


 よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに答えた燕だったが、それは流石に夢見過ぎだと軽く突っ込まれてしまった。


「ちょっとアンタ達!遅いから様子を見に来たら、なんでこんなところで駄弁だべっているの!」


 一階ロビーであれこれと話を膨らませていた2人のもとへ彼女等と同じ制服を着た城ケ崎朱里が現れたのだが、なにやら酷く急いでいる様子だ。


「あっ、朱里ちゃんだ!おはよう!」

「制服似合ってるね!あとで3人で写真撮ろう!」


 春休みぶりに再会する友人と会えてテンションが上がる2人だったが、朱里は顔が痙攣しているかと見間違えるくらいヒクヒクさせている。


「浮かれているんじゃない!このまえ電話で話したでしょう!入学式の前に校長から話があるから集まるようにって!」 

「そういえば言ってたね」

「うん。想像と現実のギャップに押しつぶされて忘れてた」

「ア、アンタ達ィ~ッ!」


 2人の抜けた感じにガックシとしてしまう。


「もう!いいから行くわよ!」

「「はーい」」


 朱里の引率でゲートを潜り、エレベーター前に向かう。

 新しい生活にドキドキワクワクする2人を他所に、朱里は初日から既に疲れ切った表情を覗かせる。

 なにせこれから会う人物とは、彼女が緊張する程の人物なのだから…



◇   ◇   ◇



 ビルの最上階、そこに学園の校長室がある。


 その部屋から見える外の景色は、特段絶景という訳では無くい。

 付近に建ち並ぶ高層ビルによって遠くの方は見えないし、下を覗けば忙しそうに歩き回る人々が見えると言った具合だ。


 そんな殺風景な外を眺める人物こそ、学園の校長である【沢田さわだ豊子とよこ】だ。


 彼女は外を眺めていた視線を不意に切り、ゆったりとした動作でイスに座る。すると一泊置いて外からノックが響き、声が掛けられた。


 声の主は、部屋の外で待機していあ秘書の物で、予定していた来客の到着を知らせて来たので、部屋に通すように申し向けた。


「失礼します。中等部1年、城ケ崎朱里、入ります」

「いらっしゃい。時間通りね」


 部屋に置かれていた時計を一瞥した豊子の一言に、朱里は僅かに口元を吊り上げた。

 学園の生活では、ありとあらゆる事に対し、5分前行動が義務付けられており、本来なら朱里たちの行いは褒められた物ではない。

 故に遠回しに叱責を受けたと思った朱里であるが、実はこの校長、そこまで規則にうるさい方ではないので、言葉通りに受け取っても問題は無いし、精神的にもその方が良い。


「そちらの2人が編入生ね」

「はい」


 朱里の後ろで隠れる様にして様子を窺っていた咲耶と燕は、朱里から促されるままに校長の前へと出る。


「お名前を教えてもらえるかしら」

「結城咲耶です」

「細川燕です」


 先ほどとは打って変わって、声に緊張が籠っている。

 流石に校長という学園のトップを前に、いささか固くなってしまうのは、仕方がないことだろう。


「そんなに緊張しなくてもいいのよ。校長なんて立場ではあるけど、ただのお飾りなんだから。…そうね、ただのお婆ちゃん程度に思ってね」

「え?そうなんですか?」

「てっきりすごい人かと」

「ば、バカッ!冗談に決まってるでしょ!」


 豊子の戯れを本気に受け取った2人に朱里が慌てて否定した。


「校長先生、あまりからかわないで下さい」

「あらあら、城ケ崎さんは随分と2人を心配しているのね。昔は随分と跳ねっ返りだったのに」

「む、昔の話はしないで下さい!」

「そうね、もう昔とは違うみたい…良い出会いに恵まれたかしら?」

「………」


 言われて、ムスッとした表情を浮かべる朱里の表情が僅かに赤らんでいるのは、恥ずかしさがあるからだろう。

 豊子もそれが判っていて、咲耶と燕へと視線を向ける。


「さて、入学式の前に貴女達を呼んだ理由についてですが…」


 少しばかりの戯れを終えて、本題を切り出した彼女の方に3人の視線が集まる。


「簡単に言うと学園での心得を少し話しておこうと思ったの」

「こころえ…ですか――?」


 わざわざ自分たちを呼び出して、そんな事かと思った2だが、話はそう簡単では無かった。


「えぇ、八神熾輝くんと関わり深き者にとって、とても重要なことよ」

「「ッ――!?」」

「………」


 驚きを覚えた2人に対し、朱里が落ち着いた様子だったのは、おそらくこの話であろう事を予想していたからだ。


「残念ながら、学園に通う生徒の中には、神災で親や友人を失った生徒が数多く在籍しています」

「で、でも!アレは熾輝くんが悪いんじゃないです!」

「そうです!それに、事件の犯人が状況的に熾輝くんの親かもしれないってだけですよね!」

「2人とも落ち着きなさい!」

「で、でも…」


 豊子からもたらされた言葉にヒートアップする2人を朱里が慌てて止めに入る。


「…何でそんな事を私たちに言うんですか?」

「貴女達がいくら違うと訴えたところで、たった3人の、しかも子供の話しを素直に聞く者はいないでしょう」

「それは――」

「しかも、聞く耳を持たない者が相手なら尚更です」


 言い渡された非情な言葉に3人は押し黙ってしまう。

 それが現実であると頭の中で理解しているからこそ何も言えなくなっているのだ。


「では、校長先生は私たちにどうしろと言うんですか?」


 校長は自分たちに釘を刺すために呼び出したのだと、咲耶も、そして燕も、そのように理解していた。

 しかし、朱里はそうではなかった。豊子も朱里の質問に満足しているかの様な表情を浮かべていた。


「まず、自分たちの話を聞いてもらうには、実績を積みなさい。学園は実力至上主義です。実績を積むことで信頼も立場もおのずと付いてきます。信頼され立場を持った人間の言葉は受け入れやすいものです」


 諭すように言葉を紡ぐ豊子を3人はジッと見つめる。


「固執した考えを持ってしまったら、それを解きほぐすのは時間も労力掛かるでしょう。しかし、貴女達がこれから先、学園で何を成し、何を考えるのか…そして彼等に疑問を投げかけ続けるのです。自分自身を疑い、相手を疑い、本当にそれが正しいのか。思考停止に陥るのではなく、疑念を抱かせなさい」


 淀みなく、柔らかな声色で喋り掛けられる言葉の重みをしっかりと受け止める。


「素直な事は人として美点ではありますが、先ほどの貴女達のように私の言葉を鵜呑みにしているようでは、複雑怪奇なこの世界では生きづらいですよ」


 この部屋に入って直ぐの会話を思い出して、2人は気恥ずかしそうな表情を浮かべながら返事を返した。


「さて、私からの話は以上です。これからの貴女達の活躍を期待していますよ」

「「「はいッ――!」」」

「良い返事です。遅くなりましたが改めて…ようこそ魔術能力学園へ」


 微笑みを向けてきた校長からの歓迎を受け、いよいよ3人の学園生活がスタートする。



◇   ◇   ◇



 校長室を退室した3人は、エレベーターで下の階へと移動する。

 目的の階で降りた彼女たちの目の前に両開きの大きな扉が現れた。


「ここが入学式の会場?」

「やっぱり、このビル全体が学園なの?」

「さぁ、どうでしょうね」

「「――?」」


 ニカッと含みのある笑みと思わせぶりな言葉に小首を傾げる2人。

 しかし、彼女たちが何も知らないのも無理はない。なにせ入学が決まってから今の今まで、学園側からは何一つとして資料やパンフレットといった事前情報は開示されていなかったからだ。


 故に彼女たちは、ここ…都会のど真ん中にあるビルが学園だと未だに思い込んでいる訳で…


「行くわよ2人とも――!」


 扉を押し開けた瞬間、中から差し込んでくる光に思わず目を覆った。そして次に彼女たちが目にしたものは、ビルの中にある一室ではなく、何処までも続く広い空と緑あふれる庭園、そして大きな鉄の門だった。


「「………え?」」


 ドアを境に広がる別空間。

 呆けた顔を浮かべながら境界を踏み越えた途端、扉は消え去った。


「ここが私たちの学び舎、魔術能力学園よ!」

「………え?」

「………え?」

「えええええええええぇッ!!?」


 いきなり目の前に現れた……正しくは、彼女たちが学園の目の前までワープしたことを未だ理解ができずに叫び出してしまったのだった―――。



◇   ◇   ◇



 係りの人に案内された3人は、学園の大広間に並べられた椅子に座らされると、間もなくして入学式が始まった。


『学園の所在地って、実は国のトップシークレットなのよ――』


 入学式の前に朱里が説明した内容が先程から2人の頭の中をグルグル回っている。


 いわく、学園は日本の何処かにあるかもしれない。

 曰く、現実世界とは別の異世界にあるのかもしれない。

 

 等々、様々な憶測が囁かれている。


『だから、入学前の裏社会常識を身に付けていない段階での情報開示は危険ってことで、学園情報を流出させないためにパンフレットとかを一切渡してもらえなかったのよ』


 故に学園側の情報規制や規律等は徹底されている。


 例えば、入学式に参加できる保護者は、裏社会人である事が必須であり、咲耶のようなポッと出の父親は参加出来ないし、燕の父は裏社会の存在を知っているだけの一般人である為、参加できない。


 そもそも裏社会人って何だ?とツッコミを入れたいところだが、横やりを入れられるほど、今の2人に余裕はない。


『えっと、じゃあ外とは一切連絡が取れないの?』

『いいえ、普通に電話やネットはもちろん、テレビも使えるわ』

『情報規制は徹底しているんじゃないの?』

『学園の場所を漏らそうにも、そんな事、誰にも判らないんだから伝えようが無いわ。GPSやネットの基地局も、不思議な事に全部さっきのビルが基点になっているから、ここで現在地を調べてもさっきのビルに居ることになっているわよ』


 そう言われ、取り出した携帯端末の位置情報は、先ほどのビルから動いていない。


『え?じゃあ、情報漏洩しようがないだったら、パパ達が入学式に参加しても問題ないんじゃない?』

『例えば入学式に参加した一般人の父兄が写真を取って、それを誰かが見たらココはドコ?ってなったりしたら大変でしょ?常識を身に付けた裏社会人ですら学園に入るときに厳しいボディチェックをするのよ。それに、そもそも一般人を裏社会に関わらせたら駄目だって言う暗黙のルールがある以上は、好ましくないのよ』

『『あぁ、なるほど』』


 などと言う説明を受けたのが先刻のことだ。

 今は、入学式の真っ最中であり、いきなりの展開に頭が付いて行かず、壇上で喋る教師や先輩の話が全く頭に入ってこないまま、あっという間に入学式が終わってしまった。

 

「――さて、これからクラス別けが発表されるけど…まぁ私たちは特別クラスって既に通知が着ているから部屋の場所を確認するために発表場所へ向かいましょう」

「うん!」

「あ、朱里ちゃん質問!質問!」

「なぁに?」


 大広間から移動を開始する最中、燕は目をキラキラさせながら問いかけた。


「寮棟を決めるための魔法の帽子は、いつ被れるの?」

「そんな物は無いわ」

「ガーンッ!」

「燕ちゃん、ここはホ〇ワーツじゃないって」


 判ってはいた事だが、少なからず期待していた燕は、夢を打ち砕かれた気分になる。


「じゃあ、名前を言ってはいけないあの人とかもいない?」

「どんだけハリーポ〇ターが好きなの――」 

「それは、いるわ」

「「いるんだッ――!!?」」


 おそらく、このニュースが彼女たちにとって、今日一番のニュースとなったであろうことは、言うまでもない――。


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