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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
強者揃い
231/295

オンリーワン~その⑤~あの人は、許さない

 霹靂による衝撃音と光が静まり、地べたには黒焦げになった隆二が2体。


 隆二は、双方が本物だと言っていたが、凌駕の魔眼は誤魔化せない。


 隆二の片割へと近づくと、躊躇なく気功弾を頭部へと打ち込んだ。すると、人の形をしていたソレは、ただの灰の塊となり、風に吹かれて霧散した。


 そして、今度はオリジナルの隆二へと近づくと…


「まだ、息があるのか…」


 しぶとい、という意味では無く、あの一撃を喰らって生きている事に対し、素直に驚いているのだ。


「…おのれぇ、貴様を絶対に許さんぞォォッ!いつの日か必ず殺すッ!」


 息も絶え絶えに、指先ひとつとして、ピクリとも動かせなくなった隆二は、凌駕に向かって呪言を吐き捨てた。


「俺に何一つとして、勝っている物が無いお前には無理だ」

「何だとォ!?」


 結果的にみて、オーラも武術も能力においても、全てにおいて凌駕が隆二の上を行っていた。そんな彼に隆二が勝つ事など出来るハズがない。


「俺には最強の能力があるッ!この能力があれば――」

「もう止めろ!隆二ッ!」


 敗北してもなお、食い下がろうとしない隆二の元へやってきたのは、祖父の盗間文太であった。


「お前は身の丈に合っていない能力を得たせいで、周りが見えなくなっているんだ」

「爺様、いまさら俺に説教か?」

「そうではない……しかし、これでハッキリした。我等にかけられた呪いは今代においても健在なのだな」

「文太さん――?」


 文太は、隆二の目をジッと見つめて、やがて重い口を開けた。


「お前達は、我ら一族が何故このような扱いを受けているのかについて、どこまで知っている?」

「それは…盗間がクーデターを企てたって…」


 愛子は言葉を詰まらせた。なにせ当事者を前にそれを言ってしまえば、どうオブラートに包もうが「お前達のせいだ」と言っている様なものだからだ。しかし隆二は違う…


「お前らが弱かったからだろう!その上、敵に慈悲をうような真似をした!潔く死んでいれば、こうはならなかった!」


 身体は動かずとも声は上げられる。その怨嗟の声を文太も、そして文も黙って受け止める。


「概ねそのとおりだ。皆には箝口令を敷いていたが、やはりある程度の情報は漏洩するか」

「爺ィ、アンタさっきから何が言いたい!」

「黙って話を聞け」


 今の世代が知らない真実が、まるであるかのような口ぶりに隆二の苛立ちが募る。が、食って掛かる隆二の脇腹を凌駕の容赦ない蹴りが突き刺さり悶絶させる。


「最初は1人の子供から始まった――」


 ――今でこそ、彼等の一族は別々の姓を名乗り、一般人との間に家庭を作って生活を送っている。しかし、一族は元々同じ姓を名乗っていた…それが盗間だ。

 盗間の一族は斥候や隠密、情報収集に優れた一族だった。だが、戦闘力こそ至上と詠う昔の十傑や十二神将からすれば彼等は不要な存在としか認識されていなかった。そんな中、一族から稀有な能力者が生まれた。


「その能力こそ【狂戦士バーサーカー】、自身のみならず他者を狂戦士化させ、能力の覚醒を促すというもの」


 これにより、盗間の一族の戦闘力は劇的に向上し、彼等を軽んじる者はいなくなった。だが、その栄光も長くは続かない。


「副作用…ですか?」


 何となく予想できたのだろう香奈が声を漏らし、それに文太は頷いて肯定を示す。


「狂戦士の副作用は、端的に言えば狂暴化」

「まぁ、狂戦士っつぅぐらいだからな」

「ちょっと凌駕様は黙って!今、大事な話をしているの!」


 香奈に叱られた凌駕は、ムスッと不貞腐れながら口を結んだ。


「我々も最初は、能力を発現している間だけ狂暴化するだけだと思っていた。しかし、それが能力を使用していないとき…つまり常時狂暴化するとは思ってもみなかったんだ」

「でも、それって一番最初に能力を使用したときに気が付くんじゃないの?」


 文太の説明で愛子は「?」を浮かべて質問した。


「もしも最初、それに気が付いていれば、能力の乱用などしなかっただろう」


 つまりは、それに気が付く事が出来ない何かがあったという事だ。


「なにせ、その代償を狂戦士の能力者が全て引き受けていたのだから」

「精神の狂人化という負債をたった1人で…」


 当時、どれ程の人達に能力を使用していたかについては不明だが、それが並の精神力で出来るとは香奈には思えなかった。まさに狂気の沙汰だ。


「だが、限界は訪れ、狂戦士の能力者は、廃人となって死んでしまった」

「そして、私たちに残されたのは、あの子の能力によって覚醒した身の丈に合わない能力と、それをコントロールする事が出来ない狂人と化した精神だけだったの」


 辛そうに話しをする文太に変わって、文が引き継いだ。


「かろうじて、精神を保つことの出来た人たちは居たのよ?でもね、正気を失って暴れまわる仲間を全て止める事は出来なかった…」


――事態を重く見た当時の十傑及び十二神将は、直ちに討伐体を組織した。一般人に被害が出る前に狂人化した盗間の者を直ちに処理せよと。

 だが、そこで待ったを掛けたのが、当時は次期五月女家宗主である勇吾だった。


「勇吾さまは、私たちの願いを聞き届けてくれたの。どうか殺さないでくれ、どうか助けて欲しいという願いを――」


 当然、周りからの反発はあった。しかし、それを黙らせる程の実力を当時の勇吾は既に有していた。

 だが、五月女勇吾とて全てを救うだけの力を有していた訳では無い。いかに戦闘力がずば抜けていたとて、彼等の心までは救う事なんて出来るハズが無いのだ。


「なるほど、だいたい判った」


 話を聞いていた凌駕は、この先の話しについて、ある程度の予想が出来てしまったのか、憎たらしそうに、だけど、どこか寂しそうな表情を浮かべた。


「つまり、お前ら一族の狂人化を封じたのは、俺の母親、五月女瑠璃ってわけか…」


 文は、凌駕が導き出した解にたいして首肯すると、話の続きを語り始めた――


 当時の勇吾によって、狂人化した盗間の者は無力化され、瑠璃の能力を受けた。その能力とは【体質操作】である。


 体質操作と一口に言ったが、実はこの能力が及ぼす影響は、人を構成する全てに影響を及ぼす事が出来る。

 それが精神だろうと魂だろうと関係なくだ。


 だがしかし、五月女瑠璃の能力も万能ではない。狂人と化した盗間の者の精神を沈静化させることは出来ても、狂気を打ち消すまでには至らなかった…正しくはしなかった。


 それも当然である。人の精神を構成する要素として、誰しもが持っている狂気もまた、その人の一部なのだ。それを打ち消すという事は、その人の人格を変えてしまうという事であり、元のその人を殺してしまうに他ならない。故に五月女瑠璃は、狂気を鎮静化…元々、その者が狂気を抑え込めるだけの精神力、また脳が分泌するホルモンにより狂気が発現しにくい体質へと変化させたのだ。


 ただ、この結果に異議を唱えたのが当時の十傑と十二神将だ。

 彼等は、盗間の者の中にある狂気が消えてないのであれば、世代を超えて引き継がれる可能性があるのでは?という疑問を呈したのだ。

 その疑問には容易に大丈夫だとは答えられず、結局、追放の上、世代交代をしても問題が出ないかという監視体制を敷く結果となったのだ――。


「え?じゃあクーデターを企てたっていうのは?」

「たぶん、それは脚色されたんだと思う。盗間一族が力を持った事を恐れた、十傑や十二神将たちが勝手な憶測をたててソレが真実てあるかのようにしたんだよ」


 要は、臆病風に吹かれた末の出鱈目が、今なお引き継がれているという事だ。


「で?アンタは、今の世代にも、その狂気が引き継がれていると考えているのか?」

「……こうして目の前に居るコヤツが何よりの証拠だろう」


 言って、文太は己の孫である隆二に視線を向けた。しかし…


「舐めるなよ。俺の母の能力ちからだぞ」


 凌駕は何時いつになく剣呑な雰囲気を纏い、文太をジロリと睨んだ。が、そんな自分の態度が如何に愚かであるのかと理解し、深いため息を吐き捨て、今度は隆二を睨み付けた。


「実際、どうなんだ?」

「何がだ?」

「お前は、この爺さんが話した昔話を本当は知っていたんじゃあ無いのか?」

「「「!!!?」」」


 凌駕の問に文太と文、そして愛子は驚いた表情を浮かべる。


「だよね。だって、さっき言ってたもん。『慈悲を請うような真似をした』って。ただ追放処分を受けたのなら慈悲を請うなんて発想にはならないもん」


 隆二の言葉を聞いていた香奈も、この結論に行きついていた。


「そうだ!俺は親父から聞かされていた!だから許せなかった!弱い盗間も!俺を侮蔑する連中も!気に入らない!気に入らない!何もかもが気に入らないんだよ!」

「隆二、やはりお前の中には狂気が…」


 憎しみに満ちた叫びを聞いて文太は、膝を落す。僅かな可能性に縋りたくとも、自身の孫は、もう手遅れだと確信してしまった。しかし…


「いや、コイツのは、ただ性根が腐っているだけだろ」

「「「え――?」」」

「それを凌駕さまが言うの?」

「「「え――?」」


 言った香奈の脳天に拳骨が撃ち下ろされた。

 

「んんッ!…ていうか、お前らは何でコイツだけを見て、狂気が引き継がれただなんだいっているんだ?」

「そ、それは隆二を見ていれば判るだろ?」

「いやいや、おかしいだろう。そもそも他の集落の若い連中が普通に過ごしているのに、たった1人…いや、猛毒の女もか?とにかく少数のコイツ等だけを見てそんな事を言うのか?」

「ですよね。そりゃ沢山の人の中に悪い人が1人や2人居るのって、普通ですよね?」


 ここにきて、集落民との感覚の齟齬が発生。

 しかし、凌駕や香奈が言っている事の方が的を得ていると言える。


「おたく等の問題にこれ以上口を挟むつもりは無いが、今の世代の若い連中っていうのは、そんなにアウトローな奴らばかりなのか?普通に話を聞いて回った限りじゃ普通な気がしたぞ」

「ですよね。村長さんと揉めていたときも手を出したりしていませんでしたもん」


 狂気、狂気と騒ぐわりには、外部からきた凌駕と香奈は、集落の実状に対して、問題があるとは思っていない。


「ようするに、隆二コイツはアンタ等が過去にしでかした事を言い訳にして、自分を正当化しているだけ。身体は大人で、精神がガキのままなんだよ」

「言いたい放題ですね。一応この人も裏社会では仲間外れにされた事があるっていってたじゃないですか」

「可哀想だと思うのか?虐められる側にも原因はあると思うぞ。今のコイツを見ていると尚更そう思える」

「…まぁ、多分ですけど、罪もない人の能力を奪ったとかですかね」


 チラッと隆二を一瞥すれば、図星だったようで、視線をサッと逸らした。…が、直ぐにキッと睨み返して来た。


「何が悪い!雑魚は大人しく俺に能力を差し出せばいい!そうすれば俺が最強だガッ――」

「喚くな」


 自分勝手な意見を喚き散らす隆二の脇腹に、再び凌駕の蹴りが突き刺さった。


「お前の意見なんざ聞いちゃいねぇんだよ」

「グギッ、…ギザマ゛ァ……今に見ていろ!次こそは、お前を必ず殺してやる!」

「次なんてねぇよ」


 怨嗟の声を漏らす隆二に対し、凌駕はどこまでも冷たい眼を向けた。そして、彼の傍らには死神が現れる…


「貴様ッ、動けなくなって者を痛めつけるつもりか!それでも五月女か――!」

「黙れ」


 降り注ぐ威圧が隆二の言葉を強制的に止めた。


「お前は、やり過ぎた。このまま対策課に突き出すだけじゃあ割に合わねぇ」

「待てッ、何をするつもりだ!」

「大したことじゃない。お前が今までして来た事を俺がするだけだ」


 言って、凌駕の手が隆二の頭へと伸びていく。


「待てッ!待ってくれ!俺には、この能力が必要なんだ!」

「………」


 自分が何をされるのかと、隆二は直感した。

 凌駕の能力は、相手の能力を【ダウンロード】する。

 つまり、隆二の【強奪】を彼は既に得ている。


「頼むッ!慈悲をッ!もう悪い事はしないと誓う!奪った能力も持ち主に返す!だからッ―――」


 命乞いをするかの如き訴えを、しかし凌駕は無言で返す。そして…


「やめろおおぉおおッ―――――!!!」


 絶叫を上げた隆二は、そのまま意識を失って、動かなくなった。


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