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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
強者揃い
230/295

オンリーワン~その④~あの人は、悪霊に憑りつかれていた

 凌駕と隆二、お互いが向かい合い、自然と足が動き出す。

 万が一にも香奈や愛子たちが巻き添えにならない様に場所を誘導する凌駕の考えを理解しているのか、隆二はあえて誘いに乗っている節がある。


 そして、改めて凌駕と隆二の視線がぶつかり合い、一気に空気が張りつめる。そして…


 先に動いたのは凌駕だった。間合いを潰し、接近戦に持ち込むつもりだったのだろう。しかし、2人の距離が縮まらない。

 接近戦を挑んだ凌駕に対し隆二は逆にバックステップを踏んで距離を広げる。


「馬鹿みたいに一直線。やはりガキだな」


 言った隆二の左手がバチバチと音をたてた。しかし、それだけではない、右手が地面に触れれば固い大地が隆起を始める。


「さぁッ、お前の能力を見せてみな!」


 昨晩と同じ状況。隆二による雷撃と地表操作による攻撃。それを凌駕は隆二と全く同じ雷撃と地表操作による迎撃で応戦する。


「なるほど、なるほど。お前の能力が何となく判ったぞ!」

「戦闘中にお喋りなヤツだッ!」


 能力発動による僅かなロスを見逃さず、飛び掛かった凌駕は蹴りを放つが、それを危なげなくガードされてしまう。が、それでも接近戦に持ち込むことは出来た。


「俺の能力が知れたって?言ってみろよ!」

「ふはは、判りやすい能力じゃあないか。お前の能力はズバリ【コピー】だ!」

「…さて、どうだろうな」

「それで誤魔化しているつもりか?」


 互いに攻防を繰り広げている最中、隆二は確信に迫る。


「最初は、反射カウンタータイプの能力かとも思った。しかし、お前がここへ五体満足の姿で来たことで、別の可能性が浮上した」

「それがコピー能力か?」

「そうだ!反射能力であるなら、美代子の能力を反射することも可能だったハズ!しかしそれが出来ず、美代子の能力を解除する方法は猛毒の能力をコピーして解除した!そうだろうッ!」

「ッ――!!」


 一瞬の隙を見逃さず、懐に潜り込んだ隆二が掌底を突き出す。ギリギリで反応したことにより腕を滑り込ませて直撃を回避した凌駕であったが、直後、全身を電撃が駆け抜けた。


「ふはは!図星を刺され動揺したか?」

「んな真似晒すかよ!」

「電撃を喰らってなお、反撃に転じるか。流石によく鍛えている。が、能力による迎撃が出来なかったのは、なにか理由があるのかな?」


 先ほどまでなら電撃には電撃で、地表操作には地表操作で迎撃していた凌駕が、ゼロ距離の攻撃に対応が出来なかった事に隆二は、そこに何かしらの攻略法があると当たりを付けた。しかし…


「つぁッ――!!?」


 今度は、間合いを一気に潰した凌駕による超至近距離からの雷撃を纏った掌底が撃ち込まれた事により、隆二の動きが止まり、続けて足刀蹴りが隆二の顔面を打ち抜き、口元から出血する。


「ヌグッ!…貴様ァ、やりやがったなァ!」

「戦闘中にペラペラと良く回る舌だ。俺をガキだと思って舐めてかかるから痛い目にあうんだ」

「言うじゃないか。しかし、そうだな。子供をたしなめるのは大人の務めか」


 切った口元から滴り落ちる血を拭うと、隆二は再びバックステップで距離を取ろうとした。それをさせまいと、前方へ体重移動を開始した凌駕の動きが止まる。何故なら後ろに下がったと思った隆二の身体が、ふわりと空中へと飛び上がったからだ。


「いったい、幾つの能力を持ってやがる」

「ふはは、今度はお前の番だ。俺が有する能力の正体。果たして判るかな?」


 隆二がこれまでしようした能力は、雷撃・地表操作・飛行の4つ。どの能力も、その系統はバラバラで一貫性が無い。となると隆二は単純に複数の能力を持っている、いわゆる【多重能力者】ということになる。しかし…


「多重能力者にしては、どれも練度が高すぎる。つまり他の理由が考えられる」

「ほぅ、その可能性を真っ先に切り捨てたか」

「解せないんだよ。複数の能力を発現させたら、器用貧乏になる場合が多いからな。しかも4つの能力を持っていて、どれも練度が高いときている」


 空中に離脱した隆二は、ニタニタと嫌な笑みを浮かべながら凌駕を見下ろしている。対して凌駕は、既に何らかの解を得ているのか、落ち着き払った…いや、苛立たし気に睨みつけている。すると、先ほどの様に右手をピストルの形にして指先を隆二へと向けた。


「つまり、お前の能力は、能力収集系スペックホルダータイプ


 確信に迫る凌駕の指先にオーラが集中し、狙いを定める。僅かに眉をひそめた隆二の表情から先程の様な嫌な笑みに影が差した。


「それも他人の能力を奪う薄汚い力だッ!」


 図星を刺されたことにより、僅かでも同様してくれれば気功弾が当たる確率が上がるだろうと、ワザと挑発的な言い方をして、言い終わりのタイミングで撃ってみたものの、あっけなく躱されてしまった。


「…正解だ」


 凌駕がこの答えを導き出せたのは、隆二の能力を実際に見て見極めただけが理由ではない。

 ここへ至るまでの情報収集の中で、集落の若者が寝込んでいると聞いたときに感じた違和感。そして超能力開発研究所なんていうふざけた機関をわざわざ立ち上げた事も理由に上がる。


 おそらく隆二は集落の若者から能力を奪う事によって、その影響により彼等は現在も床に伏せっているのであろう。そして超能力開発研究所なる機関では、有力と判断したら彼の能力を増やす目的…あるいは彼の手足として兵隊を量産するのが目的といったところ。


 そう考えれば、全ての辻褄が合う。


「しかし、薄汚いとは言葉が過ぎるぞ?」

「他人を食い物にするんだ、言い足りないくらいだろう」

「口の減らないガキだ」


 先ほどまでの余裕が完全に消え失せ、明らかにイラついた雰囲気を纏わせている。


「だが俺の能力が知れたところで、お前では俺には勝てない」


 『何故だ?』とは言わず、代りに睨み付ける凌駕に隆二は続けて言葉を紡ぐ。


「所詮貴様の能力は俺の下位互換なのだからな!」


 言って、発現する能力…しかし、今度は1つだけではない。

 

 見れば隆二の右腕がメキメキと音を立てて変質していく。


「複数同時展開…いや、混成能力だ」


 いったい幾つの能力を同時発動させているのか、鉱石の様で、マグマの様で、鋭利な刃物の様でetc…

 目で見えているだけでも最低9つの能力が同時に発動されている。


「貴様を抹殺するために考えうる能力を同時に発動させた。喰らえば跡形もなく消滅するぞッ!」


 一瞬で隆二の姿が消えた。

 およそ人が認識できるスピードを超えた動きで凌駕の前に高速移動をした隆二は、撃滅の威力を孕んだ一撃を何の躊躇もなく振り抜いた。


 その威力は、大地を根こそぎ抉り、遥か先にある寺の壁を簡単に破壊した。


「……確かに捉えたと思ったが?」


 確殺したと思っていた隆二の期待とは裏腹に、彼の視線の先には無傷の男が立っていた。

 しかし、先ほどとは明らかに雰囲気が違う。


「ほぅ、それが五月女が有する魔眼【モーションサイト】というやつか」


 ぶつかり合う視線、その一方…凌駕の右眼が赤く変色していた。

 

 魔眼モーションサイトは、時間を引き延ばしたかの様に見る事ができる…つまり動きをスローモーションで捉えることが出来るということ。しかし、この魔眼の真の能力は、そこにあるのではなく、オーラを見破れるところにある。


「その魔眼で俺の攻撃を避けたか…だがどうだ?貴様は魔眼を片目にしか宿していない。つまり未だ魔眼を掌握出来ていないという事だ。オンリーワンと持てはやされている割に、まだまだヒヨッコではないか」

「その称号に胡坐を掻いた事は無いし、ましてや俺はその呼ばれ方が嫌いなんだ」


 凌駕の雰囲気が変わったのは、なにも右眼の魔眼だけではない。先ほどまで纏っていたオーラにも明らかな変化があった。


「なッ――!!?」


 魔眼による変化よりも隆二を驚愕させたのは、そのオーラ。


「貴様ッ!その歳で至ったと言うのかあぁあッ!!?」


 彼が纏うオーラは、能力者でない者が肉眼でも認識できる程に異質で異彩。

 魔眼と同様、赤々と輝いている。


 通常、人が身に纏うオーラは無色透明に見えるが、実は人それぞれオーラには色があるとされている。しかし、オーラに色を持たせる事が出来るのは、ある一部の者だけ。その一部の者とは……


―――達人


 その二文字が隆二の中で反響していた。終ぞその領域に至ることの出来なかった自分の前に、よわい13歳の子供が至った事実を受け入れたくは無かった。


「ここからは、俺も本気マジだ。お前の全てを総動員して掛かって来い!」


 ここに来て、凌駕は初めて構えを取った。

 これから見せるのが彼…(()()ワンと冠される五月女凌駕の本当の実力ッ!!


◇  ◇  ◇


 右眼に宿る魔眼モーションサイト。そして、オーラの完全掌握によって至ることが出来る極意。いずれも隆二が手に入れる事が出来なかった、あるいは出来ないものだ。

 しかし、最初こそ驚愕していた彼だが、そもそも凌駕の歳で達人の領域に至る事に対する驚きであって、だからといって戦局が左右されるとは、微塵も思っていない。


「魔眼モーションサイト、オーラの極意…なるほど、それが貴様の絶対的な自信の正体という訳か」


 モーションサイトは、現存する魔眼の中でもトップクラスの希少性を有する。そしてオーラの極意によって、凌駕のスピード、パワー、防御力等は、通常のオーラを纏った状態とは隔絶した能力向上を意味する。


「だがしかし、それでもお前は俺には届かない。なぜなら……ヌアアァアアッ―――!!!」


 言った隆二の身体に変化が起きたのは直後であった。


「貴様が到達した領域など、俺の能力を持ってすれば容易いのだよ!」


 もはや隆二としての原型は留めていないそれは、単に筋肉の隆起だけにとどまらず先に放った攻撃時の形状を模している部分もあれば、四肢の一つ一つが何かしらの機構を備えているように見える。


「まるで、ごった煮だな」


 そのフォルムにシンメトリーは存在せず、奪い取った能力をめちゃくちゃに混ぜた。そんな感じだ…


「ふん、見てくれはアレだが、性能は保障するぞ」


 見た目に対し、思うところはあれど、その力には絶対的な自身があるらしい。そして、構えをとっている凌駕に相対するように隆二は上半身を低くして前傾姿勢を取った。そして…


「俺の動き!捉えられるものなら捉えてみろッ――!!!」


 まさに高速移動の如き動きで突進を繰り出した隆二の攻撃を紙一重で躱した凌駕は、擦れ違いざまに気功弾を撃ち込んだ。


「ぬぐッ!」


 隆二から苦悶の声が漏れる。効果ありと判断すると続けざまに気功弾を連続で放つ。が、体勢を立て直した隆二は、およそ人間の反射速度を上回る動きで軽々と回避運動を行って、それらを躱していく。


「見事な威力!しかし、俺の能力を持ってすれば、貴様の攻撃を躱すのは容易い!先程の様なマグレは二度と無いとしれ!」


 凌駕が魔眼とオーラの極意によって得たアドバンテージを、隆二は混成能力によって優位性を崩しにかかる。


「ならばどうする!俺の能力をコピーしてみるか!」

「………」

「出来ないだろう!俺が推察するに、お前は一度に1つの能力しかコピーが出来ず、更にコピーした能力はオリジナルと比べて一段落ちる!」


 既に凌駕の能力を見切ったと言わんばかりに隆二は饒舌になる。

 舌の動きが良くなる程に攻撃の回転が上がっていく。


「チッ、避けるのは上手いじゃないか。流石は五月女の魔眼だガッ――!!?」


 回り続ける隆二の舌が、強制停止させられた。

 一瞬、何が起きたのか理解できなかった隆二だったが、跳ね上がった顔と鈍く痛む顎が彼に教えてくる…攻撃を喰らったのだと。


「ペラペラペラペラと……二度目だぞ。俺を餓鬼だと思って舐めてかかるんじゃあねぇ」

「貴ッ―――!!!」


 強烈な痛みと共に腹の底から湧き上がる激情。それに後押しされるかのように隆二は…


「貴様アアァアアッ――!!!」


 咆哮と共に凌駕に飛び掛かった。

 五感全てを能力によって異常なまでに強化したそれは、もはや人間の動きではない。

 動体視力・反射神経の強化能力によって凌駕の魔眼と同等の力を得る。そして、言わずもがな、彼の能力【強奪】で得た力の引き出しコレクションは、まだまだこんなものではない。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねエエェエエッ――!!!!」


 荒れ狂うオーラは暴走状態。まるで暴走する隆二のそれを体現したかの様。

 そして、繰り出される怒涛の攻撃は、スピードもパワーも、もはや達人の域。

 その一撃一打に雷撃・火炎・毒・水刃・鋼etc…様々なバリエーションで繰り出される。しかし…


「…荒いな」


――メキッ!


 という生々しい音が響く。が、それで今の隆二を止めるには至らない。

 ならば、止まるまで撃ち続けるのみだと、凌駕から放たれる攻撃。


 逸らして撃ち込み、躱して撃ち込み、組んでは撃ち込み、投げては撃ち込み、打ち込み撃ち込み射込み討ち込み続けた……


「何故だアアァアアッ!!何故俺の攻撃が当たらない!何故お前は無傷なんだ!」


 ついに失速した隆二から出たのは、苛立ちと憎しみの篭った呪言。

 激しく殴打された彼の肉体は、撃ち込まれ続け蓄積したダメージによって能力の維持がついには出来なくなり、元の彼の姿へと徐々に戻っていく。


 そして、元の隆二に戻ったとき、彼の肉体には凌駕から受けた攻撃が体に刻まれ、所々に惨い痣や骨折によってひしゃげた四肢が露わになった。


「覚えておけ、正しい気の運用は、暴走する気に勝るんだよ」

「ふざけんなあぁあッ――!!!」


 肉体を変化させていた能力は無くなった。しかし、五感を強化していた能力は未だに機能しているらしく、十分に人間離れした動きで凌駕へと向かって行く。


 例え四肢が骨折していようと、肉体のダメージが重かろうとも隆二は止まらない。彼の中にある怒りが彼を突き動かしている。


「気の起こりを読み、先の先を制し!後の先を制する!」

ァッ――!!!」


 隆二が繰り出すあらゆる攻撃が凌駕によって迎撃され、動くより先に被弾し、応じ技カウンターを喰らう。


「呼吸を読み、自身の呼吸に相手を誘い、戦いの流れを制す!」

「ゼェハァッ、ゼェハァッ!」


 無意識に動きが誘導され、多大な疲労が蓄積し、誘導先に待ち受けていた拳に自分から飛び込んでいる。


「人間離れした力を手に入れて、達人の領域に至ったつもりらしいが、勘違いしてんじゃあねえぞ」

「ぐうううぅうううッ――!!!」

「術を駆使してこその達人なんだよ!」


 凌駕が纏う赤いオーラが一層激しさを増した。荒れ狂う凌駕のオーラ。しかし、荒れ狂っている様に見えるそのオーラは、隆二の眼から見ても完全に制御された物だと不思議と理解できた。


「流石だオン!だが、俺にだって隠し玉は有るんだよ!」

「だったら使え!お前の全てを凌駕する!」

「吠えたな小僧オオォオオッ!!」


 とっくに限界を迎えていたハズの隆二の最後の力。

 魂を燃やすかのように発動した能力は、【ダブル】!彼の肉体からもう一人の彼が分離される!

 寿命を代償に隆二と言う存在をもう一人創り出すそれは、命を代償に使うこの能力発現時、先ほどまで受けたダメージを完全に回復させる。

 しかも、お互いが隆二本体であり、偽物は存在せず、能力が半分になると言う制約は存在しない。つまり…


「「二対一だ!卑怯と罵りたければ――」」

「来いッ!」

「「…あぁ、行くぞ!オン!」」


 弾かれた様に動いたのは、隆二だった。左右に別れ再びの身体が変化していく。が、先ほどのごった煮のような異形ではない。片方はスリムなフォルムへと変化し、片方はガッチリとしたフォルムに変化した。


――スピードとパワーにそれぞれ振ったか!


 隆二のフォルムと動きからその能力を看破した。が、「厄介な」と心の中で吐き捨てると、迎撃態勢を整える。


 右からパワータイプ、左からスピードタイプが襲い掛かる。それに合わせて、凌駕はバックステップを踏んで、間合いを図りつつ気功弾の狙いをスピードタイプへと向けた。


「やはり、そっちを狙ったか!」

「チッ――!」


 あらかじめ予想していたかのような言動。気功弾の撃ちだしに合わせてスピードタイプが更に加速。凌駕の周りを円を描くように走り抜ける。ただ単に早く走るだけの単調な動きであるならば、先読みをして気功弾を放てば簡単に当てられる。

 

 しかし隆二は、絶妙な慣性とジグザグとした不規則な動きを加え、狙いを狂わせてくる。加えて、上手く死角を突くようにしてパワータイプが襲い掛かる。


 スピードタイプにばかり気を取られれば、パワータイプが襲ってくる。敵ながら攻守のバランスが取れた隙の無い連携をしてくるなと、凌駕は嫌になってくる。しかも…


「動きを見切るというモーションサイト!しかし、それは視界に治めなければ効果を発揮しない!違うか!」


 戦いの中で隆二もまた凌駕を観察していた。そして突き止めたのだ、モーションサイトの弱点を!


「正解だ糞野郎!モーションサイトは、その性質上、目視で捉えた物の動きをスローモーションで捉える!」

「ハッ!やけにあっさり認めるな!」


 モーションサイトの性質を看破した隆二。故に彼が取った戦術はいたってシンプルだ。スピードで翻弄しているように見せかけて、凌駕を眼で追わせる。そして死角となった場所からパワータイプが襲い掛かると言うもの。


 それに対する凌駕の対応策は、周囲を円陣を敷くように動き回っていた隆二に突っ込むことだ。円陣の外に出て、距離を取り、改めて隆二を視界に治める。そうすれば連携は崩れるハズ…そう思っての行動だったのだが、簡単には許してくれない。


「かかったな!」

「ッ――!!」


 まるでこの時を待っていたと言わんばかりの声と共に、隆二から電撃が放たれた。

 凌駕は、すぐさま能力を発動させ、同じく電撃砲で迎え撃ち、2人の間でバチバチとエネルギー同士がぶつかり合った。そして…


「コチラがお留守だ!」


 電撃砲を撃ち続ける両雄。しかし、パワータイプと能力をぶつけ合っていた凌駕の死角からスピードタイプが強襲した。


「舐めるな!」

「なにッ――!?」


 とったと思った隆二から驚愕の声が漏れる。何故なら死角から襲った隆二の攻撃を凌駕は目も向けず、半身の状態、片腕だけで捌いたのだ。もちろん、隆二の攻撃も単発で終わるハズもなく、スピードという能力をフルに使って連続で攻撃を放ち続ける。


 しかし、一つとして凌駕に届かない。


「バカなッ!魔眼の死角から攻撃しているんだぞ!なぜ見切れる!」


 モーションサイトで捉えていない以上、隆二の動きは凌駕が反応出来る領域には無い。

 にも関わらず、凌駕は死角からの攻撃に対し完璧に対応してみせた。


――まさか、俺の読み間違いだったと言うのか!


 隆二の脳裏に嫌な考えが浮かんだ。それは、モーションサイトは視界に捉えた物の動きを見切るのではなく、凌駕自身の時間の流れを加速させることによって周囲の物体がスローモーションに見えているというもの。もしくは、本当は魔眼を直視した物の動きを遅くさせる等々…


 一度考えだしたら、もう止まらない。ありとあらゆる可能性が、まるで天から降り注ぐかの如く隆二の思考を圧し潰す。


 そして、負の連鎖に支配されつつある彼の眼に、まるで死神を手名付けているかの如く、凌駕に寄り添っている黒い何かを幻視させた。


「そんな事があってたまるかアァア!!」


 もはやスピードを活かした攻撃では、意味が無いと悟った隆二は一度退き、攻め方を変えた。


「消えろ!オンリーワン!お前は俺の野望の邪魔だ!」


 それが偶然だったのか…いや、もはや天啓と言っていい。敗北を目の前にした隆二の中で、答えへ導かれる様にして走馬灯が一瞬で駆け巡った。そして…


「喰らええぇええッ―――!!!」


 凌駕の左右から撃ちだされる電撃砲。元々、パワータイプが放つ電撃砲を食い止めるために動きを止めていた凌駕にとって、最悪のパターンだ。


 なにせ、凌駕が放っていた電撃砲は、先刻、隆二が言っていたようにオリジナルに比べて1段落ちる。それをオーラの極意による能力向上で、ようやっと五分に持って行っていたのに、ここへ来て更なる追い打ちだ。


「ふははは!やったぞ!これで貴様も一巻の終わりだ!」


 能力によるゴリ押し。しかしこれは、隆二が1人であったなら成せない業だった。

 命を代償に発現させた能力【ダブル】、これにより2対1という状況を作り出したからこそ得た結果なのだ。


「死ね!死んでしまえ!五月女も!十傑も!対策課も!この俺を侮蔑ぶべつした奴らは等しく死ねエエェエエッ!」


 この世に対する絶対的な負の感情を吐き捨てる様に、万感の思いを乗せた電撃が凌駕を圧し潰しに掛かる。


 最初こそ堪えてはいたが、やはり能力の練度に差があるのか、瞬く間に押し返され、まもなく電撃が凌駕へ到達する。


「何が五月女だ!何がオンだ!貴様らの思い上がりなど、俺の能力ちからの足元にも及ばん!俺が最強!俺こそが選ばれし者なんだ!」

「なら、その最強…俺が凌駕する」


 瞬間、隆二が放つ電撃が凌駕へ達する直前に拮抗した。


「何ッ――!!?」

――allオール specスペック installインストール Okオーケー!!


 隆二の耳に入って来た何か機械的な言葉。そして…


「雷撃砲のバージョンアップ申請」

――|ACCEPT(受諾)


 まるで何者かと会話をしている様子。「一体誰と?」その言葉を発する前にその答えは彼の眼に飛び込んできた。


「なんだ?……いったい何なんだソレはああぁああ!?」


 一瞬見間違いかと思った。しかし、それは存在していたのだ。

 先ほど、隆二が幻視したと思い込んでいた死神に見えた黒いソレ。


「お前にも視えたか。死神コイツの姿が…」


 途端、ソレは幻視ではなく、明確な存在として視認出来るようになった。

 凌駕の背後にピッタリと張り付くそれは守護霊か、はたまた背後霊か…もっと解りやすく言うならば、ゴゴゴゴゴを纏うスタ〇ドの如し!


「お前は、俺の能力について少々誤解しているところがある」

「誤解だとッ!」

「あぁ、お前は俺の能力を【コピー】だと決めつけていたが、実は【インストール】が俺の能力なんだ」


 いったい何が違う!?と言葉を発しようとする前に凌駕が続ける。


「単純なコピー能力は、お前が言うようにオリジナルに比べると一段落ちる。当然だな、自身に合っていない能力を使うんだから、そりゃ見劣りするだろう。けどな、インストールは、能力のパフォーマンスを発揮できるよう、俺専用に設定されて俺自身の能力になる」

「だからか!だから最初は俺の能力が勝っていた!それは、まだお前専用に設定されていなかったという事か!そして、美代子の猛毒が解除されたのも、お前が能力を自分の物として、自ら解毒を行ったという事か!」


 凌駕の説明で、隆二の中に唯一残っていた謎が今、ようやっと解けた。

 もしも凌駕の能力がただのコピーであるならば、解毒薬を作ったところで、能力的に上位にある美代子の猛毒を解除するには至らない。しかし、インストールであるならば、猛毒と互角の力を発揮できる。


「だがしかし!お前の能力がコピーではなく、インストールだから何だと言うのだ!今は能力同士のぶつかり合いが拮抗しているとはいえ、コチラは2人!時期にスタミナが切れてお前は俺に負ける―――」

―――completeッ!………能力名電撃砲のバージョンアップが完了しました。雷撃砲Ver1.2の新たなる能力名を設定してください。


 声の主が発する言葉の意味を理解し、隆二の顔が引き攣る。


「バージョンアップ時に能力名をいちいち付けなきゃならないのが面倒臭いが、そうだな…」


 戦いの最中にも関わらず、凌駕には余裕が窺える。

 そして、僅かに思案した凌駕の口から新たなる名と共に能力が解放された。


――サンダーボルトライトニングッ!!!


 それは、まるで大地から天へと伸びる霹靂。

 バチバチという電気音から、腹の底まで届く雷鳴と目を眩ます程の雷光が空間を支配した。

 もはや、隆二の生死、絶叫、勝敗など、霹靂が全て吹き飛ばしてしまった―――。

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