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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
強者揃い
226/295

北の勇者~その⑥~良い意味でエピローグ

 超能力研究所を影から牛耳っていた松井は、倒された。

 社長とは名ばかりだった中富次郎は、全国から集めてきていたと思っていた子供たちが、実は誘拐されてきたと知り、ショックを受けている事から根は悪い奴ではないようだ。


「――俺は子供たちを連れて警察に出頭するよ」


 トラックの荷台に十数名の子供たちが乗り込み、電気ショックで気絶している研究員、簀巻きにされて気絶している松井が荷台に積まれた事を確認した次郎は、研究所を一瞥すると、溜息を吐いた。


「まだ超能力に未練がありますか?」


 そう聞いたのは、マコトだった。

 誰もが夢見る超能力、その魅力に取りつかれた次郎は、自分も超能力者になる事が夢だった。

 しかし、その夢を悪事に利用されていたショックは計り知れないだろう。


「そりゃ、あるに決まっている。…けど、夢見たままで終わらせなきゃいけないと、今回の事で判った」

「判ったとは?」

「はは、意地悪な事を聞くね。まぁ、俺は大人だから、…自分の夢のせいで、沢山の人達に迷惑を掛けたんだ。子供を誘拐なんて、あっちゃダメだろ。ましてや親御さんには殺されるくらいの覚悟で謝罪しなきゃならない。それでも諦められないなんてのは、子供の考えだ」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。人様に迷惑を掛けてまで超能力を得たいなんて、間違っている。そもそも僕が超能力に魅入られたのは、病床に伏せっている母を治したいと思ったからなんだ。それが気が付けば、周りを見返したいってものにスゲ変わっていた。まったく、情けない限りだ」


 中富次郎は、悪人ではない。

 ただ、自分の夢に正直だっただけ。

 本来、裁かれるべきは、彼の夢を利用した奴らなのだ。


「ふもとの警察に、俺の両親が来てくれています。一応、表沙汰に出来ない事件を専門に扱っている仕事をしているので、力になってくれるハズです」

「君達には迷惑ばかり掛けて悪いけど、今回の件は、俺1人では、どうにも処理できそうにない。お言葉に甘えさせて貰うよ」


 そう言って、次郎はトラックに乗り込むとエンジンキーを回した。


「罪を償ったら、真っ当に働くよ。幸い実家は大きな会社を経営しているから平社員としてなら雇ってくれると思うし」

「それが良いでしょう。アナタは良い意味で社長に向いていませんから」


 辛辣な鞘香の言葉に、隣で聞いていたマコトが『おまっ、ちょっと空気よんで!』と止めに入ろうとするが、意外な事に言われた本人である次郎は、声を上げて笑っていた。


「ははは!そんな良い意味は、聞いた事がない。…けど、何だか心が軽くなった気がする」

「えぇ、私の魔法の合言葉です。よかったらリスペクトしてもよろしいですよ?」

「そうだね、遠慮なく使わせてもらうよ」


 2人の会話を聞いていると、何だか良い事言っている様に聞こえるが、マコトは騙されない。


 なにせ、鞘香の口癖である【良い意味】なんてものは、誤魔化し言葉に過ぎない。


 良い意味で変態野郎…って、どんな変態野郎のこと?

 いい意味で変態ドМ野郎…って、どんな変態ドМ野郎のこと?


 ていうか、誤魔化し言葉にすらなってないんですけど?


「それじゃあ、もう行くよ。君たちも道中気を付けて!」


 ゆるやかに走り始めたトラックを見送り、マコトと鞘香は1つの疑問を口にする。


「結局、あの松井ってヤツの目的って何だったんだ?」

「さぁ?誰かさんがぶっ飛ばしてしまいましたらから聞けず仕舞いです。けど、大方能力のレベルアップ方法でも模索していたんじゃないですか?知りませんけど」

「うん、まぁ、そうだよね。後の事は、お父ちゃんたちに任せて、俺達は学園に帰るとしますか」


 事件も一段落したところで、学園へと向かおうとして、自分たちを見つめる視線に気が付いた。


「…ていうか、何で君たちは付いて行っていないの?」


 マコトと鞘香の後ろには、何故か双子の姉の水面生唯と妹の水面流唯がいた。


「いやぁ、なんや、このままマコピーに付いていった方が、おもろいかなぁって」

「マ、マコピー?」

「私たちの能力の事で、他に頼れる人がいませんし」


 京都弁特有のイントネーションで喋る生唯は、放っておくとして、今回の件で能力に目覚めた子供たちについては、両親が手配して、いずれは学園に入学する事になると説明をしているハズなのに、それでも流唯は付いてくると言い張っている。


「良いではありませんか。いずれにしろ、マコトさまは彼女たちを囲うおつもりだったのでしょう?……変態野郎が」

「言い方!それに変態野郎って言うの本当マジでやめてくんない!」


 てっきり、鞘香はマコト側についてくれると思っていたのに、まさかの反対意見だった。

 それに、何故か不機嫌極まりない。


 その様子を見ていた生唯は、ニヤリとした笑みを浮かべ、キラッと目を光らせた。


「せやなぁ、このまま中富っちゅう人に付いて行っても、ええんやけど、そしたらウチ等がマコピーにされた事をご両親に報告せなアカンし…」

「ちょっと、まって!俺、君たちを助けたよね!変なことしてないよね!」


 なにやら不穏な気配を感じ取ったマコトは、生唯に詰め寄る。すると…


「イヤン、…またウチの胸を揉みしだくつもりなん?」

「むッ――!!?」


 両手で胸を守る動作をした生唯は、イヤンイヤンと体をよじらせる。


「流唯かて、あんないけない事されたこと無かったのに…」

「いやッ、あれはッ、だって……」


 事実だけ見れば、確かにマコトは、2人の胸に触れた。

 心剣を生み出す際、マコトは契を交わした相手に触る必要がある…が、それが胸部でなければならない理由は無い。


「おとんやおかんに何て言えば、ええんやろう」

「そうですね。力を与えるために胸を揉みしだかれました……とんだ変態能力ですね?」

「うおぉいッ!鞘香はどっちの味方なんだよ!」

「ハァ?古今東西、変態の味方をする女性が何処にいますか?」

「………」


 まるでゴミムシを見るかの如き絶対零度の視線がマコトを射抜く。

 マコトは口をパクパクさせながら、何も言い返せなくなった。

 すると、先ほどまで黙っていた流唯が声を上げた。


「お姉ちゃん、駄目だよ助けてくれた人を困らせちゃ」

「る、流唯…」


 ここへ来て、常識的な意見にマコトは、思わず涙を零しそうになった。

 さながら、悪鬼2人に屈する勇者の前に現れた女神の如し。


「は、恥ずかしかったけど…私たちがパパやママ達に言わなければ良いだけでしょ?」

「え――?」


 おっと、勘違い。おそらく流唯は素で迷惑を掛けてはいけないと思っているのだろうが、女神どころか、悪鬼共の最終兵器リーサルウェポンだったらしい。


「せなや、確かに恩を仇で返すなんて、ウチの流儀やない。胸を触られたことなんて、ウチ等が口をつぐめば良い話や……ピエン」

「ちょッ、何か言い方が引っ掛かるんですけど――?」

「とんだ変態鬼畜ドМ野郎ですね」


 マコトの2つ名がどんどんバージョンアップ?されていく。


「感謝の念を盾に女の子にやりたい放題……死ねばいいのに」


 カーッペッ!と何か女の子が出してはいけない物を吐き捨てた鞘香は、続けて…


「あの中富とか言う人は、自分の責任を取ると言っていたのに、それに比べてマコトさまときたら本当に……良い意味で変態鬼畜ドМ野郎ですね?」

「わ、わかったよ!連れてくよ!連れて行けばいいんだろう!」


 遂に白旗を振ったマコトは、もはやヤケッパチである。


「あ゛あ゛~、先生に何て報告したら良いんだよぉ」

「ありのままを報告すれば良いではないですか。あの先生も難儀な能力の持ち主ですから、色々と骨を折ってくれるでしょう。ただ…」

「ただ?」

「ゴシップ大好き倉科くらしなさんと、リア充滅びろのイブキくん辺りは色々と……ねぇ?」


 鞘香の口から出た2人の名を聞いたマコトは『あ゛~あ゛~』と、この世の物とは思えない深いため息を吐いた。


「ほな、話もまとまったところで、学園とやらに行きましょか」

「あ、そういえばマコトくん。改めて聞くのも変なんだけど…」

「なぁに――?」


 上目遣いをしながら、もじもじと恥ずかしそうにする流唯。

 見ていて『やっぱウサギみたいだな』と心の中で思うマコトは、少々鈍感である。


「えっと、マコトくんの名前。ちゃんと聞いていなかったなぁと思って」


 言われて『あぁ、そう言えば』と手を打ち鳴らして、一拍…


「俺は剣崎、【剣崎誠けんざきまこと】だ」


 これが後に北の勇者と呼ばれる剣崎誠の最初の物語である―――。



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