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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
強者揃い
224/295

北の勇者~その④~こちらのバット、種も仕掛けもございません。

 研究所の最上階に位置する所長室は、中富次郎の部屋だ。


 所長兼、社長兼、出資者という肩書は、彼の自己顕示欲を示したものであり、施設で働く研究員の誰も彼には逆らえない。


 研究所の最上階…といっても、せいぜいが3階建ての建物レベル。実家の会社は、都内有数の高層ビルだ。当然、社長室はその高層ビルの最上階に位置しており、そこから見る景色は絶景。


 最上階に行くには、何重にもなるセキュリティーをパス必要があり、各階に警備の者が控えている。


 それに習って、次郎が所有するこの施設も各階に上がるのには、それなりのセキュリティーが掛かっており、所長室の前には警備員が配置されている。ハズだったが、セキュリティー自体は、警備員が持っているカードをピッとするだけで解除される極々ありふれたもの。


「警備の者はどうした!?」


 ヒーロー見参!とテンション高めに名乗ったのに、それに対する反応が無い事にマコトは、少なからずショックを覚える。


 そして、若干顔が赤くなっているのは、自身の発言が恥ずかしい物であったと言う後悔の念から、思わず(/ω\)と、顔を覆い隠す。


 しかし、それをいちいち気にしていたら先に進まないので、

   (/ω\)

を解いて

   (`・ω・´)キリッ

とした表情になる。


「お前の手下は、部屋の前で眠ってもらった!」

「何だと!?」

「諦めて、誘拐した子達を解放しろ!」


 バットの先端を次郎に突き付けて勧告する。

 戦いにおいて、頭を潰すことこそが早期終結への近道なのは、いつの時代も変わらない。

 故にマコトは最短距離で、施設の最上階を目指したのだ。


 ちなみに、施設の最上階に所長が居ると言う情報は、外でマコト達を捕まえに来た男達に教えてもらった。その際、木に縛り付けて、多少手荒に情報を吐かせたのは、言うまでもない。


「君は何を言っている?誘拐だって?誰が誰を?」

「とぼけるな!アナタが能力に目覚めた子供たちを誘拐して、ココに監禁していた事は、流唯るいから全部聞いているぞ!」

「ルイ?…もしかして水面琉唯ちゃんか?」

「……そうだ」

「彼女は、無事なのか!?」

「………無事だ。ていうか、部屋の前で待たせている」


 『あれれ~、おかしいぞ~?』と、マコトが思っていた物とは違う反応に戸惑う。


 彼が予想していたのは、『ふふふ、バレてしまったか。お前の様なガキに我が秘密組織を嗅ぎつけられるとは、云々~』みたいな状況だった。


 だけど、どうだろう、目の前にいる男、中富次郎は流唯の無事を聞いて、心底安心している様に見える。もちろん、それはマコトを油断させる演技かもしれない。そこへ…


「えっと、呼びました?」


 と、ドアの前で隠れていた流唯がヒョッコリと顔を出す。すると、次郎は『ウオオォオオッ!良かったああぁあッ!』と両の拳を高らかと上げて叫び出した。


 その奇行にマコトと流唯は、そろってビクッと肩を震わせる。


「や、ヤバイよこの人、なんか薬でもやってるんじゃない?」

「コワイ、コワイ、コワイ」


 超能力者を誘拐する組織に踏み込んだつもりが、麻薬組織に踏み込んじゃった?と不安になる2人。


「いや~、遭難したと聞かされた時は、どうしようかと焦ったけど、無事で良かった。もしかして、キミが彼女を助けてくれたのかい?」


 マコトに対する警戒心ゼロのまま、喋り始める次郎。次第に演技じゃないかもとマコトの警戒心も薄れていく。


「遭難だって?いったい誰がそんなことを」

「誰がって、俺の部下だよ。流唯ちゃんがいなくなったと聞いて、みんな心配していたんだよ――」

「う、嘘です!」


 次郎の言葉を被せるようにして流唯が否定した。


「だって、私たちはココで酷い目に遭わされたし!私を追ってきた人たちは銃で撃ってきました!」

「そんなバカなこと――」

「彼女の言っている事は本当だ」


 今度は、流唯の言葉を否定しようとした次郎の言葉にマコトが被せる。


「俺たちが彼女を見つけたとき、男達が彼女に銃を使っていた」

「そ、そんな!ありえない!」


 信じがたい事実を聞きかされた次郎。しかし、どうしても信じることが出来ないでいる。


「そもそも、銃を持っていた男達と言うのは、どうしたんだ!」

「俺が倒した」

「君が?銃を持った連中を?」


 次郎の言葉を肯定する様にして首を縦に振ったマコトを見て、次郎は増々困惑の色を濃くした。


 なにせ、目の前に居るのは子供。子供が銃で武装した大人を倒す事が出来るものだろうか……答えは考えるまでもなく否である。


 故に、次郎の2人を見る目が段々と疑心的な物に変わっていく。


「そうか、判ったぞ。君たちは、お金が目当てなんだな?」

「「え――?」」

「研究所で酷い扱いを受けたなんて出鱈目を吹聴して、銃で脅されたなんて言われたくなかったらお金を出せって事なんだろう?」

「いや、ちょっとまって下さい。そんな事、一言も…」

「なんて子達なんだ。超能力開発のために色々と面倒を見ているのに、こんな仕打ちを受けるなんて、思ってもみなかった!」


 ヒートアップする次郎を前に、マコトはどうした物かと頭を悩ませる一方で、彼の言っている事に嘘が無いのでは?という不確かな感覚から確かな直感に変化している。


 冷静に考えて、次郎の意見はもっともだ。子供である自分たちが銃を持った連中を倒すなんて、普通じゃあ考えられない。故に自分たちがお金目的に嘘を言っているという考えも納得できる。


 しかし、なら、目の前の男が嘘をついていないとしたら、黒幕は他にいるのではないかという考えに至る訳で… 


「とにかく!俺は、そんな脅しに屈するような男ではないうええぇええッ!!?」


 今、次郎の目の前で信じられない事が起きた。…正しくは、マコトが起こした。

 それ故に、次郎は驚き、声を裏返すような『うええぇええ!!?』をあげた。

 

「俺もアナタが言うところの超能力者ってヤツなんですよ」

「え?バットが、出たり、入ったり、出たり、入ったりして、え?え?」


 別に卑猥な事をしている訳ではない。


 マコトが手にしていたバッド、それが身体の胸元に吸い込まれるように収納されると、次いでぬぬぬっと出てきたりしているのだ。それを繰り返して見せる事によって、次郎を強制的に黙らせようとしたのだ。


「とりあえず、落ち着いてくれました?」

「ぁ、はい」

「俺は、こういった事が出来るので、流唯を襲っていた連中も能力を使って倒したんです」 


 目を剥く様に凝視する次郎は、口をパクパクとさせながらマコトの胸元を見続けると…


「素晴らしいッ!本物の超能力者だ!やったぞ!やっと逢えた!」

「あれ?えっと、少し落ち着いて話を――」


 自分の能力を見せれば、話の信憑性が増し、ちゃんと話を聞いてくれると思いきや、更なる興奮を呼び起こしてしまったらしい。


「キミ!俺と契約を結ぼう!金なら欲しいだけ上げようじゃないか!だから、超能力を研究させてくれ!君さえいれば、今いる子達には悪いが協力してもらう必要がなくなる!本物の超能力をじっくり研究すれば、いずれは私も超能力者の仲間入りだ!」


 ヒャッホー!とハイジャンプを決めて、マコトの肩をガシッと掴んだ次郎の眼は、これ程ない輝きに満ち溢れていた。…が、近寄られたマコトはドン引きだ。


「いや、そんな話には乗れ――」

「そいつぁ、困りますよ社長ォ」


 次郎を引き剥がそうとしていたマコトの後ろ、…正確には部屋の唯一の出入口の方から聞こえた声。


 その音源から放たれる威圧プレッシャーにマコトの頭の中で警鐘が鳴り響いた。 


「松井、来たのか。聞いてくれ――」

「走れッ!流唯ッ!」


 先ほどから肩を掴んで離そうとしなかった次郎を蹴とばして引き剥がしたマコトは、胸元に手を添えると、自慢のバッドを取り出して流唯の方へと全力で駆けた。


 距離にして5メートルもない。しかし、マコトの視線の先にいる男。…松井と呼ばれたヤツの手には銃が握られている。その銃口が流唯へと向けられており、今まさに引き金を弾き終える瞬間……


 パンッ―――!!


 と耳を突く様な音が部屋中に鳴り響いた―――。



◇   ◇   ◇



 研究所内には、超能力に目覚めた子供たちが監禁されている。


 全国から集められた彼等彼女等の殆どは超能力に目覚めて日が浅く、未だ雛鳥と言っていいレベル。


 故に力も弱く、簡単に誘拐もされてしまう。


 研究所内では、超能力にAからFといった具合にランク付けをしているが、それは、能力の強さではなく、必要性や需要、希少性に対する評価だ。


「――なるほど、因みに、この魔法陣は誰が作ったのですか?」


 鞘香によって足蹴にされている研究員は、顔をボコボコにされて息を切らせながら質問に答えていく。


「わ、判りません…俺たちは、言われた通り、アクションがあった奴らにメールを送信しただけでんちゃわわッ!!?」


 研究員の語尾が砕けた。


 聞くことは聞いたので、もう要なしですと言わんばかりの一撃が叩き込まれた結果だ。


「容赦ないんやなぁ…」

「ゴミムシに掛ける情は、持ち合わせていませんので」


 お~こわっ!と身震いする生唯を横に鞘香は、部屋の隅でブルブルとウサギの様に震える他の研究員へと視線を向ける。


 ちなみに研究所に捕われていた他の能力者たちは、既に助け出し、鞘香や生唯たちと行動を共にしている。のだが、先ほどから研究員を1人1人、前に出させてはボコボコにしている鞘香を前に皆がガクガクと顎を鳴らせている。


「さて次は…」

「ちょ、調子に乗るなよガキが!俺たちにこんなことをして、ボスが黙ってないぞ!ボスは本物の超能力者なんだ!お前なんて相手にならねぇぞ!」


 子供である鞘香にいいようにやられた研究員おとなたちの1人が声を荒げた。


 それに対する鞘香と言えば…


「非情に興味深い事をいいましたね」

「ぐえっ!?」


 グイっと胸倉を掴むとそのまま持ち上げる。

 体重70キロはあろう大人を鞘かは片腕で持ち上げたのだ。

 そんな怪力がこんな子供…ましてや女の細腕で可能なのだろうかという研究員の思考は、直ぐに恐怖と言う色に塗りつぶされた。


「アナタたちのボスとやらは能力者…なら、いったい何の目的でこんなことを?」

「ぐッ苦しい!…けど、俺らがボスの事をゲロると思ったら大間違いいい痛い痛い痛い痛い!」

「あ゛あ゛!!?私の質問に答えられないだあ゛ぁ゛あ゛?」


 胸倉を掴み上げていた手が研究員の頭に移った。

 そして、その手にはアレが装着されていた。

 そう、彼女がこの夏、心血を注いで作り上げたあの自由工作、画鋲グローブが!


「痛い~!やめて!うそ!嘘です!本当は何もしりません!ボスの目的なんて!よくわかり前ん!」


 散々ひっぱった挙句、実は何も知らされていないと喚き泣く研究員。そしてその光景を見ていた他の者達もイヤイヤと首を振り、自分たちも何も知らないんですアピールをしている。


「なら要はありません」

「「「「「ぎゃあああああああ………」」」」


 このあと、鞘香は肉体的苦痛をもって、研究員たちを沈めていった。


「さ、鞘香ちゃん。不味いんちゃう?」

「あら、どうしましたか?」

「さっき、コイツ等が言うてたやん。ボスが超能力者やて…」

「それが、何か問題でも?」

「問題て…コイツ等のボスが来はったら、今度こそ絶体絶命や。もちろん、鞘香ちゃんの力を疑ぅてるわけちゃうけど……」 


 組織のボスが超能力者だと聞かされて怯えているのは、生唯だけでなく、他の子供たちも一緒だ。


「心配いりませんよ。能力者でない下っ端を従えている様なヤツがお山の大将を気取っているというのなら、私たちの敵ではありません」


 そもそも、しっかりとした教育を受けているのなら、能力の何たるかを理解しているハズ。にも関わらず、超能力研究などと銘打って能力が発現した子供を変な実験に利用している。


 もしもまともな戦力としての能力者が欲しいのであるならば、能力の使い方と戦い方を徹底的に仕込むものだ。


―(私のように…)


 横たわる研究員から視線を切って、鞘香は歩き出す。


「生唯さんは、皆さんを連れて逃げて下さい」

「え?鞘香さんはどこへ?」


 問われた彼女の表情に張り付いていた笑みを見て、生唯は戦慄した。


「調子こかせてもらいに行ってきます――」 




◇   ◇   ◇



「――バットで銃弾を打ち返しただと?」


 松井が握っていた拳銃がゴトリと音をたてて床に落ちた。


 視線の先には流唯を庇うようにしてバットを構えるマコトの姿。


「なるほどォ、てめぇも能力者か」

「てことは、やっぱり、お前もか…」


 超能力とは言わず、能力者と言った松井の言葉。そして、先ほどからビシビシと感じる能力者特有の威圧にマコトは、警戒レベルを高める。


「ま、松井ッ!何をやっている!子供になんてことをッ――」

「うるせえぇええッ!!!」


 意識をぶっ飛ばされそうな程の威圧に当てられ、次郎の意識が暗転しそうになるが、ギリギリ持ちこたえられたのは、おそらくは偶然だ。


「お飾りの社長は黙ってろォ!テメエは金さえ出しておけばいいんだよォ!モルモット共の面倒はこっちで勝手にやらせてもらうからなァ」

「なッ!!?じゃあ、この子達が言っていた事は……」


 次郎の問に松井は答えない。その代り、ニヤ付いた笑みが何よりの答えだと理解した。


「さてと、色々と知られちまったってんなら、本当は、お前を始末するしかないんだが……一応聞いておくぜ。俺達の仲間にならねぇかァ?」

「なに――?」

「ガキとはいえ、能力者。研究所ここにいる下っ端共よりは役に立つだろう?」


 マコトはまだ知らないが、研究所にいる構成員たちは、松井以外は能力を持たない通常人だ。

 故に松井は自分の手足としての兵隊を欲しているのだ。


 しかし、マコトはその問いに対して…


「断るッ!」


 全身からオーラを迸らせて、松井に向かって行った―――。

 


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