北の勇者~その③~超能力をどう思う?…スゴイと思います。
超能力研究機関は、その名のとおり超能力を研究する機関である。
その研究所内部にある警備室では、先ほどからアラームが鳴り続けていた。
「侵入者だと!いったい何処の企業だ!」
研究所の出資者である中富次郎は、耳障りなアラームを『止めろ!』と一喝する。
そして、警備員が映し出したモニターを見て、目を疑った。
「こども…だと?」
画質はあまり良くなく、顔まではハッキリと判らないが、それでも背格好から判る。そこには、まだ小学生もしくは中学生くらいの子供3人の姿が映し出されていた。
北海道でも秘境と呼ばれ、しかも人が滅多に立ち入らないこんな辺鄙な場所に何故、子供がいるんだ?と訳が判らない様子。
「大方、山の探検をしていたときに迷い込んだのでしょう」
「なら、早く摘まみ出せ」
「まったく、人騒がせな」とため息を吐いた次郎は、警備室を後にしようとして…
「あの子の様に遭難されても厄介だ。ちゃんと家まで送り届けるんだぞ」
「…はい。すでに警備の者を向かわせました」
警備員の答えを聞いた次郎は、精神的に疲れた表情を覗かせながら、今度こそ部屋を後にした。
「やれやれ、ウチの社長は、気が短くて困る」
「そういうなよ。あんなヤツでも金は持っているんだ。少しくらいの我がままは聞いてやろうぜ」
「そうだな。自分が利用されているとも知らないアホを見ているのは、存外楽しいし」
雇い主に対し言いたい放題な彼等は、ニタニタと嫌な笑みを浮かべながら業務に戻ろうとして、ふと気が付いた。
「あれ?ガキの捕獲に行った連中から報告入ったか?」
「いんや。…どうせまた隠れた場所でガキを痛ぶって遊んでるんだろう」
「いやだねぇ、何が楽しいのやら」
捕獲に向かった連中の性格を熟知している2人は、ヤレヤレと言った様子で、いつもの事と割り切り、放っておくことにした――――。
◇ ◇ ◇
中富次郎は、日本でも有数の実業家、中富重工の御曹司だ。
しかし、彼は親の会社を継げるわけではない。何故なら、その会社を次ぐのは彼の兄だからだ。
言ってしまえば、金持ちの家に生まれただけの運のいい男…と、小さい時から周りに言われ続けて来た。
昔から何をやっても兄には勝てず、成績も中の下といった具合だった。
だから成績の良い兄といつも比べられ、親からも特に相手にされてこなかった。
故に彼は、周りの連中を見返したかった。そんな時に出会ったのが超能力者だった。
それは、彼が高校生だったとき、金持ちの息子と言う理由で誘拐されてしまった事が切欠。
誘拐犯は、ヤクザのような男達が何十人といて、例え親が身代金を払ったとしても、顔を見てしまった自分は殺されてしまうのだと、己の運命を呪ったそのときだ。
銃や刃物で武装したヤクザの前に彼は現れた。
その男は、押し寄せる何十人というヤクザたちを千切っては投げ、千切っては投げ、銃弾も刃物も男の皮膚に傷を付ける事は出来なかった。
次郎は聞かずにはいられなかった。なぜ、そんな超人的な力を持っているのかと。
すると男は答えた…「俺には人と違う力…そう、超能力があるのだよ」と。
あれ以来、次郎は人が持つ潜在能力…そう、超能力に魅入られてしまったのだ―――。
「…これでは駄目だ」
次郎は、目の前の資料をポイっと床に投げた。
「こんなものは、超能力とは言えない」
「しかし社長、現段階で既に超能力と呼べるのではないでしょうか?」
次郎は自身のボディーガードである男に向かい…「松井、いいか?」と話を進める。
「例えばこの、水を生み出す能力をどう思う?」
「何も無い所から水を生み出すなんて、スゴイと思います」
「出てくる水の量がコップ一杯溜めるのに、3分も掛かるんだ。これでは蛇口を捻った方がマシだ」
水を生み出す能力を水道以下だという雇い主は続けて…
「この火を生み出す能力はどうだ?」
「何も無い所から火を生み出すなんて、スゴイと思います」
「火力が線香花火並で、持続時間はマッチ以下…しかも能力使用後は、満身創痍。これでは、俺が持っているライターの方がマシだ」
火を生み出す能力をライター以下という雇い主は続けて…
「このテレパシー能力はどうだ?」
「離れた場所にいる人間と話すなんて、スゴイと思います」
「携帯電話の方が凄いよ!だってこの能力、一方的に送るだけで、しかもノイズが酷い上にめっちゃ声が小さいんだもん!全然聞き取れないよ!」
その後も雇い主は『この○○能力はどうだ?』以下略…といったやり取りが続いた。
「これじゃあ、宴会用のビックリ人間だ。全然凄くない…」
満足する結果を得られず、頭を抱えたまま机にうな垂れる。
「まぁ、研究所をおっ建てて、まだ2年も経っていないんです。気長にいきましょう」
「そんな悠長なことを言ってられるか!そのうち、何処かの企業に先を越されるかもしれないんだぞ!そうなったら、俺はまた周りから何て言われるか……」
頭を掻き毟り、ヒステリーを起こす。
「社長の御意向は、判りました。私からも研究員に発破を掛けときますんで」
「………たのむ」
言って、松井は部屋を出ようとして、次郎に呼び止められた。
「そういえば、昨日、遭難した子供は、見つかったのか?」
「…いいえ、全力で捜索していますが、まだ見つかっていません」
「なんとしても探し出してくれ。このままじゃあ、彼女を預けてくれた親御さんに申し訳がない」
次から次へと発生する問題によって、次郎の精神が先に逝ってしまうのでは…そう思うくらいに彼の表情はやつれていた。
「そっちの方も俺に任せて下さい」
そう言うと、松井は部屋をあとにした――――。
◇ ◇ ◇
能力の開眼とは、元々の才能で使える者と死の淵から生還して目覚める者の2パターンとされている。
そしてここ、超能力研究所にいる能力者は後者である。
彼等の全員が怪しいサイトから送られてきたメールに添付されていた魔法陣を目にしてから高熱にうなされ、生死を彷徨い生還した。
これを運良くと言えば良いのか、運悪くと言えば良いのか…兎にも角にも能力が開眼し、研究機関に拉致されてしまったのだ。
そして彼女、水面生唯もその一人。
「――今日の実験は、ここまでだ。明日はもっとキツイから覚悟しておけ」
「………」
研究員の言葉に生唯は無言を突き通す…いや、既に返事をする気力もないのだ。
――(琉唯、うまく逃げられたかなぁ)
だが、目の前にいる研究員の言葉が頭に入ってこないのは事実。
なぜなら、彼女が心配しているのは昨日、この研究所から脱走させた双子の妹のこと。
自身の好奇心のせいで、妹をこんな危険な目に遭わせた罪悪感から、彼女だけでも逃がさなければならないという姉としての責任が生唯にはあった。
だがしかし、脱走計画は早々にバレてしまい、生唯は捕獲され、痛めつけられた。
そして、失った研究資料の補填を行うため、拷問のような実験を生唯は受けさせられていた。
「あぁ、そう言えば、あの出来損ないの妹ことは、諦めた方が良いぞ」
「ッ――!!?」
先ほどまで、頭に入ってこなかったハズの研究員の言葉が鮮明に彼女の脳内に叩き込まれた。
「ア、アンタ等、琉唯に何をしたん?」
京都弁特有のイントネーションが効いた言葉で、問いただした生唯に研究員は嫌な笑みを浮かべて答える。
「さぁね。ただ一つ言えるのは、追った連中っていうのは、とんでもないゲス野郎共だ。女なら見境が無いって、研究所ではもっぱらの噂さ」
「何やて!?」
「妹が捕まったら、どんな目に遭うか…おっと、これ以上の事を俺の口からは、とても言えないなぁ」
それを聞かされて生唯の顔面が蒼白になった。
未だ小学生の自分でもわかる。その悲惨な末路がどういう事なのか…
「アンタ等!こないな事して許されると思っとんのか!妹に、…琉唯に何かあってみぃ!ウチが絶対許さへんからな!」
「騒ぐなバカ。今のお前に何が出来る。水を出す以外に取り得の無いお前に」
「黙れ!超能力があっても無くても、ウチはお姉ちゃんや!お姉ちゃんは妹を守るもんなんや!アンタの喉笛噛み切ってでも、ウチは妹を守る!」
「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃ煩いんだよ。お前には、少し仕付けが必要なようだな」
言って、研究員は部屋の隅に取り付けてあるマジックミラーに向かって『おい、アレを持ってこい』と命じる。
すると、マジックミラーから中の状況を見ていたであろう者が部屋に入って来て、警棒を手渡すと…
『バチチチチィ――』
と電気の光が瞬きした。
「へへ、コイツは痛いぞぉ。前に使われたヤツは、3日間まともに動くことも出来ず、その間、ヨダレやジョンベンをずっと垂れ流してた」
スタンガン警棒の電源をオンにして、バチバチと電気が瞬く。
それをゆっくり、生唯に近づけ始める。
「いやや!こっち来んなや!」
「はは!さっきまでの威勢はどした!俺の喉元をかみ切るんじゃなかったのか!」
「本当、出来もしない事を口にしても虚しいだけですよ」
逃げようにも、彼女の体力は限界を迎え、動くこともままならない。
そのかんも、ゆっくりと男は近づいてくる。
「オラオラ、逃げてみろよ。きっとお前の妹も今頃、とっ捕まって、乱暴されているんだ。お姉ちゃんだけが無事なんて、不公平だろう?」
「そうですね。妹だけ助かって、逃がした姉が酷い目に遭うなんて、よろしくないですね」
「そうだろう、そうだろう………ん?」
先ほどから、チョイチョイ聞きなれない女の声が聞こえてくるなぁ。と後ろを向いた研究員の前に、見慣れない子供が1人……
「え?だれ?おまべべべべべべべべべべべッ!!?」
男が握る警棒の柄に、そっと手を当てて、そのままグイっと押し込むと、見事に男の顎へとクリーンヒット!
10万ボルトを受けたポケ〇ントレーナ、サトシくんの如く、光りが明滅し、肉が空けて骨が丸見え状態になる。
「あらあらまぁまぁ、だらしがない」
「あべべべべべべべべッ!!」
「ジジイのチ〇〇みたいにヒィヒィ言わないで下さい」
「るるるるるるるるっるるるるッ!!」
「もっと良い声で鳴いて下さいな。じゃないと全然萌えませんよ?」
「がぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ……………………」
「あら?変ですね?」
遂に声を出さなくなった研究員の様子を見て、ようやくスタンガンが彼の顎から…
「わたし、良い声で鳴いて下さいって、言ったんですよ?何を無視していやがるんですか?」
外されるどころか、手元の電流スイッチをカチッと押し上げてMAXパワーへと持って行く。
しかし、彼女が聞きたかった鳴き声は聞けず、電気反応でビックンビックンと痙攣する研究員の穴と言う穴から、遂に変な液体が零れ始めた。
「す、ストップや~!」
渾身の力を振り絞り、生唯は男に電気ショックを浴びせ続ける少女の腰に飛びつき『もうやめてあげて!彼のライフポイントはゼロよー!』という想いを込めて止めに入った。
生唯の願いによって、少女はようやくスタンガンを研究員の顎から外し、その辺の床にポイっとした。
「あ、アンタ、誰なん?どうしてウチを助けてくれたん?」
「お礼」
「……え?」
「助けてくれた恩人に対して言う言葉が、それですか?まずはお礼を口にするべきでしょう?」
スッと細められた少女の目に射抜かれた生唯は「うっ」と、たまらず息を飲んだ。
「あ、ありがとうございました。おかげで助かりました。」
ふらふらとする身体に喝を入れ、頑張って立ち上がった生唯は、少女に向かって深々と頭を下げるが…
「ぁ…」
過酷な実験のせいで、体力を使い果たしていた彼女の足から力が抜けて倒れそうになる。
それを察知していたのか、少女はすかさず生唯を支える様にして抱き留めると…
「よく頑張りましたね。あとは私たちに任せなさい」
「ぁ、…あなたの名前は……」
「私はサヤカ……御剣鞘香です」
鞘香は、力なくうな垂れる生唯をお姫様抱っこすると、倒れている研究員には目もくれず……正しくは踏みつけにして部屋を後にした―――。
◇ ◇ ◇
「――何なんだ君たちは!?」
研究所の所長室に居た中富次郎は、突如現れた来客に対し叫び声を上げていた。
アポなし訪問に対する叱責の叫びではない。
それは、部屋の扉を蹴破って侵入してきた不審者に対する驚きと恐怖と怒りの叫び。
だが、目の前の2人の侵入者は、どう見ても子供だ。
その子供の1人、大きなリュックを背負い、金属バットを肩でトントンしながら歩み出た少年は、次郎に告げる。
「ヒーロー見参ッ――!」




