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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
強者揃い
222/295

北の勇者~その②~実は私、超能力者なんです

 どうしてこうなってしまったのか…人生において、そんな出来事はザラにある。

 大抵の場合は取り返しのつく失敗が殆どで、あとで笑い話のネタにされたりする。

 

「いや、やめて…来ないで」


 ただ、泣きながら震えた声で、目の前の男達を拒絶する少女は、もう取り返しがつかない所まで来てしまっている。


 銃を構えた男達がニタニタと嫌な笑みを浮かべながらジリジリと距離を詰めてくる。


「逃げるなら逃げてもいいんだぜ?」

「まぁ、逃げたら撃つけどな」

「けど、死んだところで誰も困らねえ」

「お前はランクFの出来損ないだもんな」

「実験のためのモルモットが俺達のストレス解消の役に立てるんだ。感謝しろよ」


 もはや彼女は男達の狩猟の獲物。野兎の様に震えることしか出来ない無力な存在。


 このまま殺されるか捕まるかの2択しか自分には無いのかと、諦めかけたその時である。


「女の子1人に大の男が5人掛かりかよ?」

「「「「「!!?」」」」」


 突然の声と同時、草むらから躍り出た人影に男達は、そろって驚いた表情を浮かべ、自然と銃口が乱入者の方へと向けられる。


 男達の前に立ち塞がったのは、特大のリュックを背負い、金属バッドを肩に担いだ少年、マコトだった。


「…なんだ、ガキかよ」

「ビビらせやがって」

「失せな、俺達は仕事中だ」


 マコトの容姿をみて、男達は銃口を外した。

 これが警察とかなら態度は違ったのだろうが、相手はバットを持ったただの子供。銃を持った彼等にとって、恐るるにたりない。


「今見た事を誰にも喋らなければ、ママのおっぱいを吸って、今夜はぐっすりと眠れるぜぇがはあぁんッ!!?」


 シッシッと、手を振って「失せろ」のジェスチャーをしていた男の語尾が変な風に砕けた。


 その瞬間をマコトと少女はしかと見た。男の頭上に躍り出たサヤカは、着地場所をキョロキョロと探し、良さそうな男ニクマットを見つけると、迷うことなく男の頭を踏みつける様にして着地したのだった。


「あらあらまぁまぁ、大の男が情けない声を上げないでください」


 手を口元に当てて、男の背中に腰かけたサヤカの音声には、まったく感情が籠っていなかった。


「て、てめえッ!」

「ふざけやがって!」

「ぶっ殺してやる!」


 男達の銃口がサヤカへ向けられると、何の躊躇もなく引き金が引かれた。


 それを見ていた少女が恐怖のあまり、目をキュッと瞑ったのと、パンッ!と耳を突く様な音が炸裂したのは、同時だった。


 瞬間遅れて、カキーーン…という金属音。


「うわああああ!」

「痛てええぇえ!」


 先ほどまで銃をチラつかせて優位に立っていたハズの男達が、地に蹲り喚いている。


 何が起きたのかとキョロキョロと視線を巡らす少女の傍で、マコトが手に持っていた金属バットをフルスイングしたあとの様なフォームで止まっているのが目に入った。


 しかし、どう考えたところで、この位置からでは、何かが出来るハズが無い。


 男達からは、距離があるし、銃弾が飛ぶより早く殴り倒せるハズが無いのだ。


「とりあえず、全員埋めときましょうか?」


 サヤカの言葉を聞いて、少女はビクッとした。


「いやいや、埋めちゃダメでしょう」


 マコトの言葉を聞いて、少女はホッとする。


「え?埋める以外に何があるのですか?」

「…いや、縛ってから色々と聞き出さないと」

「マコトさまにそんな趣味が?」

「一応聞くけど、どういう意味かな?」

「駿河問いを御所望なのでしょう?」

「違うから!ていうか、今どきそんな事言って判る人なんていないからね?」


 先ほどまで命の危機に瀕していた少女の前で繰り広げられる漫才?の様な展開に、もはや思考が追いつかなくなってきた。


 故に「駿河問いってなぁに」と「?」を浮かべてしまう。


「とりあえずは、俺がコイツ等を縛るから、サヤカはその子の手当てを」

うけたまわりました」


 ようやく漫才を終わらせたらしいマコトとサヤカが、それぞれの作業に入るようだ。


 そして、ぽけーっとしながら、近づいてきたサヤカを地面に座り込みながら見上げる少女は、ようやく自分が助かったのだと自覚した。


「さて、あそこの変態野郎んん!マコトさまが男達を縛っている間に色々と話しを聞かせてもらいますよ?」


 咳ばらいをして言い直したが、少女は『変態野郎』という単語をしかと聞いた。

 故に思う、自分は本当に助かったのだろうかと……



◇   ◇   ◇




 少女の名前は、水面流唯みなもるいという京都の小学校に通う普通の6年生だった。

 だった、というのは、彼女と彼女の双子の姉が、ある日を境に超能力に目覚めた事から生活が激変してしまった。


 最初は、非日常を望む子供の好奇心だった。インターネットを利用して、超常現象のあれやこれやを調べていた姉妹は、あるページへと辿りついた。

 そこにあったのは、【超能力開発機関】という名のホームページ。そのいかにもな内容から、姉妹はそれほど本気にはしていなかった。


 しかし、ホームページの管理人を名乗る人物から贈られてきたメール。これに添付してあった薄気味悪い魔法陣…それを見た翌日から姉妹は高熱に浮かされた。


 病院で診てもらっても高熱の原因が判らず、一時は死の淵に立たされたほどだ。

 だが、高熱は嘘のように消え去り、変わりに自身の内なるエネルギーを感じ取れるようになっていた。


 その正体不明な力に流唯は最初こそ恐れを抱いた。しかし、双子の姉はその力を調べる内に、何も無い所から水を生み出せるようになったのだ―――。


「――それで、お姉ちゃんが力の事をもっと知りたくなって、ホームページの管理人宛にメールを送ったんです。そしたら……」

「おおかた誘拐でもされたんでしょうね」


 呆れたように溜息を吐いたサヤカの言葉に流唯はコクリと頷いた。


「こっちでも似たような事を言っていたよ」


 話しが区切れたところで、男達の処理を終えたマコトが2人のもとへと戻って来た。


「どうやら連中、餌に釣られた子供を攫って来ては、能力の研究をしているらしい」

「みたいですね。というか、我が家の土地に研究所があるのですか?」


 ここら一帯の山はマコトの実家が管理をしている。

 もしも、誘拐犯のアジトがあれば、大問題である。


「いや、どうやら、ウチの土地ではないらしい」

「あぁ、そういえば、どこぞの資産家が我が家の隣の山を1つ丸ごと買い取ったと3年くらい前におば様が話していましたね」


 おそらくアジトがあるであろう方角に視線を向けたことから、サヤカは記憶を辿ってみた。すると…


「あのぉ、二人は私の話を信じてくれるんですか?」

「え?だって、誘拐されたのは、事実なんだろ?」

「いえ、あ、はい。それもそうなんですけど、私が超能力者だってことを……」


 マコトとサヤカはお互いに顔を見合わせて、僅かに沈黙する。そして、「あ、そういうこと」と納得したような表情を浮かべたあと、琉唯に打ち明ける。


「「だって、俺・私も能力者だから―――」」




◇   ◇   ◇




 北海道の奥地、人も寄り付かない様な秘境…といっても、人の手が入っていない訳では無い。

 

 産業革命の煽りから、広大な土地を利用できないかと、何度かプレジェクトが立ち上げられてきた。しかし、それらはいずれも計画半ばでとん挫した。その理由は、実に単純明快。


 彼の地にそびえる大自然を舐め過ぎていたのだ。


 木を切り倒しても切り倒しても、終わらない倒木作業…

 山を削れども削れども連なる山岳地帯…


 ついには資金が底を尽き、後に残ったのは、中途半端に舗装されたアスファルトの道路と無意味に削り取られた不細工な山。


 そして、今現在、とある資産家がその不細工な山を買い取り、開けた場所に超能力研究機関なるものをおっ建てた。


 人里への行き来は、中途半端に舗装された道路を利用して行われるが、車を利用できるのは、道路の末端までで、研究所まではそこから暫く歩かなくてはならない――。


「本当にあったよ……いや、信じていなかった訳じゃないけどね」


 険しい山道を踏破したマコトたちの目の前に奇天烈な建物がそびえ立っていた。


 近代のスタイリッシュな建造物に喧嘩を売っていると思わせる、まるでピカソの絵を見せられている様な、そんな感覚…


「こんな怪しいものに引っ掛かったのですか?」


 流唯が引っ掛かったという件のサイト……を電波が来ているこの場所で持ち前の携帯電話を使って検索すると、目の前の建物がデカデカと表示され、見比べるサヤカの冷たい視線が突き刺さる。


「こういう怪しさが逆に本物っぽいかなぁって…」

「怪しさだけなら本物ですね」


 マジかコイツという視線が更に突き刺される。


「ま、まぁ、ある意味、本物を引き当てちゃってるしな」


 超能力研究機関を名乗る組織は、確かに超能力者達を保有している。…が、その保有手段は法に触れている。


「しかし、判りませんね。能力者を強制的に生み出すような方法なんて聞いた事がありません」

「確かに、たいていは才能ありきか瀕死状態からの開眼だろ?」


 学園に通う彼等の知識をもってしても能力開眼の方法というのは、困難を極めると言うのが常識である。


「そうですね、……あ、コレが例の魔法陣ですか」

「え?なにしてるの?」


 先ほどから隣で携帯電話ガラケーのボタンをカシカシと超高速連打しているサヤカの携帯を覗き込む。


 そこには、サヤカの携帯に送られてきたメールに添付されていた魔法陣が表示されていた。


「試しにホームページの管理人にメールを送ってみました」

「そしたらコレが送られて来たってわけ?」

「ええ、ですが……」

「なにコレ、ずっと見てると目が疲れそう」


 携帯に表示された魔法陣?は、流唯が言っていたとおり、薄気味悪い…というよりは見ているとまるで車酔いをしたかのような気持ち悪さを感じさせる、そんな物であった。


「私たちが知っているものとは、全然違いますね。法則性が見当たりません」


 一見、魔法陣のように見える。しかし、彼等が知る魔法式のような魔術的要素がまったく含まれていない。


 故に携帯電話ガラケーをパタンと閉じたサヤカは、視ていてただ疲れる意味のない物として片付けた。


 ならば、流唯が能力に目覚める要因は他にあるのでは?という考えは強制的に打ち切られることになる。


「あ、誰か出てきた」

「あの人たちッ」


 建物の正面扉から黒スーツを着た男達が出てきたのを見て、流唯は肩を震わせた。


「知ってるの?」

「私とお姉ちゃんを誘拐した人達です」


 当時の記憶が蘇ったのか、流唯は膝をガクガクと震わせ、次第に顔色も悪くなってきた。


「大丈夫だ、俺がついてる」


 そんな流唯の肩にガシッと力強い手が乗せられる。

 そこに居たのは、自分と同い年の少年。普通に考えれば、目の前の男達に自分たちの様な子供が敵うハズがない。しかし、この少年は流唯が知る同級生とは明らかに異なる何かを感じさせてくれた。


「は、はい…」


 横目で見るマコトの勇ましい表情に、非常時であるにも関わらず目を奪われてしまう。すると……


「騙されてはいけません。そうやって、さり気なくボディータッチをするのが、その変態野郎の常とう手段なのですから」

「え――?」


 琉唯の肩に乗っけられた手がペシっと叩かれる。


「痛い!痛い!痛たたたた!え!?なに!?何で俺叩かれたの!?いや、それもだけど凄く痛いんだけど!?」


 ペシっと叩かれたにしては、異常に痛がるマコト、その答えは直ぐに明らかになる。


「夏休みの自由工作で作った画鋲てんこ盛り手袋……威力を実証できました」

「初等部最後の夏休みに何て物つくってるの!?」


 手袋に画鋲がビッシリと埋め込まれており、それで触られれば苦痛必至のサヤカの力作…ではあるが、宿題の採点では、点数をもらえない事は必至だろう。


「そんな事よりマコトさま」

「そんなこと!?」


 これ以上に大事なことが他にあるのかと叫び出したいマコトに対し、サヤカは告げる。


「団体さんがお出ましですよ?」

「あ……」


 ぎゃーすかと騒いでいたマコト達に向かって黒服の男達が向かってくる。

 

 それに反応するように急いで身を隠すマコトと流唯ではあったが、彼等の足取りに迷いはない。


「くっ、…気配を察知されたか」

「いえ、単純にマコトさまが騒いだのが原因です」


 サヤカの鋭いツッコミに「うぐっ」とぐうの音も出ないマコト。


「で、でもでも!アイツら俺達が騒ぐより前にこっちの動きを察知してたっぽくない?」


 騒いでいたのはマコトだけであるが、達と付けたのは、彼の最後の抵抗。


 しかし、サヤカはその抵抗を虚しく無視すると、衝撃の事実を口にした。


「あぁ、それでしたら、そこのカメラに私たちが映ったからでしょう」


 彼女が指さす方向を見てみれば、見つかりにくいように迷彩色が施された防犯カメラが……あちらこちらに設置されていた。

 

 それを目にしたマコトは、力なくガックシとうな垂れ、某コマーシャルの合言葉を一言。


「早く言ってよぉおぉお~~~。」



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