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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
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第二〇話

コテージを出た葵は、円空が放った式神に導かれるままに森の中を移動していた。


すると、葵を誘導していた式神は、ある場所の上空で旋回を始め、そこに熾輝が居るのだと瞬時に理解した。


そこまでの距離は、さほど離れている訳ではなく、葵の足であれば、ものの数分で付く距離だ。


しかし、式神が上空を旋回している最中、大きな火柱が、その直下で登った。


「魔術!しかも、かなりの威力だわ。」


視認した炎は、葵の眼から見ても相当な威力の物で、それだけで、敵が相当な手練れであるのだと理解した。


自然と、葵の速度が上がり、熾輝の元へと急ぐ。


あと、ほんのわずかの距離まで近づいた所で、3人の人影を捉えると同時に、相手も葵に気が付いたのか、こちらの方へ視線を向けている。


気づかれはしたが、相手は逃走する素振りを見せないため、徐々に速度を落とし、目的の場所へと躍り出た。


3人の内の一人は、ロープで縛りあげられた熾輝、そしてもう一人の顔には見覚えがあった。


「・・・真部」


葵の声色に怒気が混じる。


名を呼ばれた真部は、背中に冷や汗を流しながらも平常を装い、葵に一礼をした。


「お久しぶりです。何年ぶりでしょうか?」


「知り合いだったのか?」


顔見知りの様な二人を見て、神狩が質問を投げかける。


「ええ、昔、東雲葵というより、双子の兄とちょっと接点がありまして。」


「ちょっとなんていう、そんな浅い付き合いでもないでしょ。真部、私はあの時の真実を知ったのよ。」


「あの時」という言葉に反応した真部は、僅かに葵から視線を逸らす。


その場に一瞬の静寂が訪れたのも束の間、一人の男が、一際大きな声を上げて葵を威嚇した。


「おいおいおい!昔話はどうでもいいだろ?それよりも、あんたは、五柱の東雲葵で間違い無いんだな⁉」


「・・・。」


一人で騒ぎ立てる男に視線を向け、葵は、ただ五月蠅いとしか思っておらず、それ以上の興味を持っていなかった。


しかし、


「無視かよ、なぁ、あんた。このガキを匿っていたらしいな?」


自分を無視していた事に我慢ならなかったのか、縛り上げられ、既に戦えなくなっていた熾輝の髪を鷲掴み、一気に持ち上げた。


「ぐっ!」


男の行動に、葵の眼の色が変わる


「お?いいねぇ、そういう顔も出来るじゃねぇか。」


「一つ、聞いておきたい事があるわ。」


神狩を睨みつけたまま、静かな声で話かける。


そして、普段の葵からは、とても想像できない雰囲気に、熾輝は驚きを隠せなかった。


「熾輝君を痛めつけたのは、彼方達なの?」


「いいや、やったのは俺だ。」


何が面白いのか、神狩は笑いながら答えた。


「・・・そう。」


その瞬間、葵の身体から、激流の様に魔力が放出された。


ビリビリと肌が痛くなるような感覚。


そして、一見して、制御を失っているのではないかと思われる激流の様な魔力の流れを見事に支配している葵に不思議と熾輝は見とれていた。


「なるほど、これが五柱か。だったら、」


神狩は、鷲掴みにしていた熾輝を放り投げると、魔力を高め、魔術を発動させた。


「アンタの魔術と俺の魔術、どちらが上か勝負しようぜ!」


神狩が魔術を発動させた瞬間、葵を中心に地面から火柱が上がる。


「まだまだこれからだ!」


炎は更に勢いを増し、熱風が離れている熾輝たちの所まで届いてくる。


「先生!」


「どうした!五柱ってのは、こんなものかよ!?」


依然として勢いを失う事のない炎は、葵が居た場所を燃やし続け、地面が融解し始める。


しかし、葵が炎から出てくる気配がまるでない。


「・・・なんだよ、まさか今のでくたばっちまったのか?」


その場に居る誰もがこの炎の中で無事でいられるはずがないと思った時、それは起きた。


パンッ!


と弾けるような音と共に炎の柱が一瞬で消え失せ、中に居た葵は、焼かれる事無く無傷で、最初に居た場所から一歩たりとも動いていなかったのだ。


「無傷だと!?」


流石の神狩も驚いた。


なぜなら、全力でないにしろ、彼が得意とする炎の魔術をまともに受けたはずの相手が涼しい顔をして立っているのだ。


「ねぇ、もう終わりなのかしら?」


「ハハハ、・・・安心しろウォーミングアップだ!」


再び神狩は魔術を発動する。


だが、それよりも早く、何かが神狩の足を貫いた。


「ぐああああっ!」


足のふくらはぎには、1センチ程の穴が開けられており、そこから血が噴き出している。


続いて、肩、肘、膝に激痛が走る。


痛みに耐えながら彼は、視線を葵に向けた。


葵は、人差し指を神狩に向け、魔術を発動させていた。


神狩の魔術と比べるまでも無い小さな術式と少しの魔力で。


「クソがあああ!」


激痛に耐え、強制的に魔術を発動させる。


今度は、全力で。


そして、彼が最も得意とする炎の魔術。


「芸が無いわね。」


段々と膨らむ炎の弾。


神狩の目の前に出来たそれは、葵の攻撃を防ぐ盾の役を担いつつ、殺傷力を徐々に高めて行っていた。


「これが俺の全力だ!幾らアンタでも、今からこの威力に匹敵する魔術は発動出来ないだろ!」


「確かにそうね。それを相殺しうる魔術の発動には、魔力を練る時間も無いわ。でも、」


再び葵は、魔術を発動させる。


その瞬間、「ドカンッ!」という音と共に、神狩の目の前で炎の弾が爆発を起こした。


爆煙によって、神狩の姿は確認できないが、未だ彼の魔力は健在だったため、死んではいないことは、わかった。


「きっと、妖魔や霊災ばかりを相手にしてきたのね、大きな術ばかり発動させようとするから隙が大きいのよ。」


葵が発動させたのは、極めて小規模な術式、神狩が炎の弾を造り上げていた際、彼の周囲の酸素濃度を急激に上げた事により、炎の制御を失って爆発させたのだ。


「次は、彼方の番かしら?」


葵が見つめる先には、先程から青ざめた顔をする男の姿があった。


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