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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
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第一話

この世には大きく分けて三つの世界が存在する。


一つ目は、人間たちが住まう【下界(人間界)】


二つ目は、魔族たちが住まう【魔界】


三つ目は、魂の行き着く【天界】


この三つの世界の他にも規模こそ小さいが、様々な世界が存在している。


お互いの世界には、境界線が存在しており、それは、次元を隔てた先にあると言われている。


上を見上げると、暗雲が立ち込み、その切れ間からは、赤黒く不気味な空が時折顔を覗かせていた。


周りには、何かが腐ったような匂いが充満しており、鼻で呼吸をするごとに、ビリビリとした痺れを感じて、段々と嗅覚が麻痺していくのが感じられた。


男の子は、先ほどまで、何もない荒野に立ち尽くしていたはずだが、突如、足元の空間が割れて、落ちていった。


まるで底の無い落とし穴にでも落ちたのかと思うほどの長い浮遊感を体験していたはずなのに、気が付くと、固い地面の上に、仰向けで倒れていたのだ。


不思議と心は落ち着いていた。いや、何も感じていなかった。


普通の人間であれば、自分の置かれた状況を理解出来ずに、恐怖するなり混乱するなり自分の置かれた状況を把握しようとするなりと、何らかのアクションを起こすものであるが、男の子にそんな素振りは一切みとめられない。


「・・・僕は・・・誰?」


そんな、言葉を発した男の子は、ひたすらに不気味な空を見つめ続けていた。


いったいどれだけの時が過ぎたのだろう。


男の子は、何をするでもなく仰向けのまま空を仰いでいた。


嗅覚が麻痺してしまったのか、先ほどまで痺れを感じさせていた鼻腔に痺れもなくなり、わずかな腐臭だけが、鼻をついていた。


ふと、痛みを感じる箇所に視線を向けると、傷口が腫れ上がり、ところどころが膿んでいる。


痛みは感じているが、男の子は、苦しむでもなく、泣きわめいたりもせずに、傷口を眺め、視線を逸らした。


「こっちだ、間違いねえ。」


「おい、待てよ。本当に人間がいるのか?」


「ああ、昔人間を見たことがあって、その時に嗅いだ匂いと似ているんだ。」


視線を逸らした先からは、男二人の声が聞こえてきた。


その足音は、段々と男の子に近づいて来ている。


草木を切り分けて進んできているのか、時折りベキッバサッという音が聞こえる。


そして、男の子の視線のすぐ先にあった茂みが切り払われた瞬間、二人の人物が現れた。


一人は、青白い肌に黄色い瞳、二本足で四本の腕が背中から生えており、額の少し上あたりには円錐状の角が生えている。


二人目は、隣に居る人物とほとんど変わらない特徴をしているが、目が顔の中央に一つしかない。


一見して、鬼のような二人だ。


「やっぱり、居やがった。」


「おい、これが人間か?何処にでも居そうなガキにしか見えないぞ?」


「間違いねぇ、人間のガキだ。よく見てみろ、微弱だが、霊気が出ている。」


「たしかに、妖気とは違うな。これが人間か、初めて見た。」


二人の男は、男の子を値踏みするかのように観察を始めた。


珍しいものを見たような表情をさせながら、一通りの見分が終わったのか、二人の男は相談を始めた。


「それで、こいつどうするよ?」


「決まってるだろう。連れ帰って他の奴隷たちと一緒に売り払う。人間のガキなんて滅多に手に入らないから、相当高く売れるぞ?」


「俺たちが食うってのはどうだ?」


一つ目鬼のような男が物騒なことを言い出すが、それはもう一人に却下された。


「よせよせ、人間ていうのは、食人鬼でもない限り食えねえよ。前に一度見た人間を少し食ったことがあるが、とてもじゃないが食えたもんじゃねぇし、一週間くらい腹を壊したことがある。」


「マジかよ?人間食ったことがある奴からは、相当旨かったって話を聞いたことがあるんだけど、そいつは、鬼じゃなかったぜ?」


「じゃあ、そいつは人間を食う類の妖怪だな。とにかく―」


二つ目鬼は、男の子が来ていた服の襟に手を伸ばし、ガシッと掴んで持ち上げる。


顔を近づけて、「まだ生きているな」と確認した後、そのまま手提げ鞄でも持つかのようにして、歩き始めた。


「おい、行くぞ。」


「はいはい、しかし、いい拾い物をしたなぁ。人間のガキなんて人間界に行かなきゃ手に入らないものをこんなところで手に入れられるなんて。」


「まったくだ。持っていくところに持っていけば、いい金になる」


二人の鬼は、そんな会話をしながら、歩き始めた。




森の一角、開けた場所に簡易な野営施設が設置されており、野営場所の中央には、小さな焚き火と外周には松明が数本設置されていた。


野営所の隅には、馬車が置かれ、荷台は牢屋のようなつくりになっており、中には10人程の女子供が監禁されている。


野営所の隅には常に数人の警備が置かれており、その内の一人が遠くから近づく人影を捉え、警戒したとき


「おーい、今帰ったぞぉ。」


二人の鬼が周辺の見回りを終えて帰ってきた。


しかし、野営施設から出るときには持っていなかった物を見て、警備を担当していた者は

「おや?」と思った。


「早かったな。手抜きはしてないだろうな?」


「するわけがねぇだろ。」


「ならいいが、その手に持っているのは何だ?」


「こいつか?」と己の右手を上げて、二つ目の鬼は機嫌良さげにニヤリとする。


「人間のガキだ。」


「あん?本物かよ?」


「ああ、間違いねぇ。弱ってさっきからまったくの無反応だが、霊気が出ている。」


「そんなもん、どこで手に入れたんだ?」


「へへ、拾った。」


虚ろな目をする男の子に警備の男は顔を近づけて、観察をしようとしたが、見回りを終えた二人の鬼は疲れているのか、「見るなら後にしてくれ。」と言って、そのまま野営場の中に入って行った。


男二人は、馬車の荷台に近づき、鍵の掛かっている扉を開けると、男の子をそのまま放り投げ、荷台の中に居る者達に「新入りだ」と言って、再び扉をしめて施錠した。


「おい、奴隷ども、そいつは高く売れるから死なせないように面倒を見ろよ」


一言そう言って二人の男はその場を立ち去った。


男の子は、投げ出されてから、荷台の中で倒れこんだまま動かない。


そんな子供を見て、声を掛けてきた一人の女性がいた。


「ねぇ坊や、大丈夫?」


声に反応して、視線を向けると、長い青髪をした女がこちらに近づいてきた。


女の身体には、あちこちに痣があり、服も破れていてボロ布がかろうじて服の原型をとどめている様な有様である。


女は、少年の頭にそっと手を載せて髪を撫でる。


「あなた、もしかして人間なの?」


女は、優しく問いかけてくるが、男の子には、女の言っている意味が分からなかった。


「・・・にんげ・ん?僕は、誰?」


女は、その言葉を聞いて、男の子が現在、どんな状態にあるのかを察した。


「かわいそうに。心を閉ざしているなんて、余程恐ろしい思いをしたのね。」


そう言うと、女は男の子の身体を起こして、優しく抱きしめた。


「もう大丈夫よ。今、私たちは囚われの身だけど、諦めずにいれば、きっと助かるからね。」


女の言っている意味は、男の子には分かっていなかったが、自然に「うん。」と言葉が出てきた。

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