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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
這い寄る過去編
175/295

守護者たちの戦い

アメリカ某所、核ミサイル発射場―――


「急げ急げ!コイツが最後だ!」

「時間が足りない!もう無理です!」

「バッキャロウ!諦めんな!」


アメリカが所有する核弾頭、その全てから核を取り外し、エンジンを破壊する作戦が軍総出で行われていた。

発射制御システムが完全掌握されるまでの少ない時間で、彼等は各所に点在する核ミサイルから大急ぎで核を取り外しに掛かっている。


「ぁ、あぁあ……ダメだ制御システムが―――」

「クソッ、全員退避――!」


全力で事に当たっていた彼等の努力虚しく、ミサイルのエンジンが作動した。

僅かな時を置いて点火される噴出口から炎が吹き上がり、そして……


「なんてことだ、核ミサイルが発射されちまった」


最悪を回避するために彼等は、最善を尽くした。

しかし、間に合わなかったのだ。

だれもが絶望に打ちのめされ、自分たちがしてきた事が無駄に終わった…そう思った刹那


「ハーーッハッハーーッ!!」


何処からともなく聞こえてくる笑い声


「よくぞやった貴様達ッ!」

「こ、この声は…まさかッ!」


けたたましいエンジン音を響かせ、猛スピードで走り抜ける1台の戦車、その砲口が空へと昇るミサイルに照準を合わせる。


「貴様らのおかげで、この一発に絞る事が出来た!もしも、複数のミサイルが発射されていれば、ワシでも対処出来なかったぞ!」

「「「「「シリウスブラッドレイ将軍!!!!」」」」」


アメリカ人なら誰でも知っている偉大なる英雄――

幾度となく不可能を可能にして来た生きた伝説が絶望を打ち砕かんと現れたのだ。


「将軍!核無効化術式【Nジャマー】付与完了!いつでも行けます!」

「応よッ!」

「わわわッ!しかし将軍、電子機器が乗っ取られたからって、こんな時代遅れの戦車、しかもマニュアル制御でミサイルを撃ち落とすなんて、不可能です!」


戦車に同乗していた士官から具申を呈されるも、その男、シリウスブラッドレイはニヤリと笑う。


「ならば、機械に頼り切った最近の若者たちに教えてくれる!これこそが戦争だという事を!」


次の瞬間、戦車の砲口から炎が吹き上がり、一発の砲弾が発射された。そして……



「……着弾を確認!Nジャマー正常に発動!」

「う、うっそ~」

「ざっと、こんなもんじゃ」


唖然とする士官の横で、将軍は胸ポケットから葉巻を取り出し、火を付けて一服すると、無線機を手に持った。


「諸君!我々の勝利だ!」

「「「「「WAーーーーーーーッ!」」」」」


アメリカ全土で秘密裏に行動していた人々から歓声が上がった。




フランス某所―――


「ミサイルを魔力ソナーで確認!聖騎士長、お願いします!」


アナログ式の飛行機の扉が開かれ、そこから1人の男が飛び出した。

腰には二振りの剣、銀色に輝く甲冑を纏っている。

甲冑の背部から魔力によって編まれた翼が広げられ、猛スピードでミサイルに接近する。


そして、間合いを殺す銀眼がミサイルを捉えた瞬間、彼の者が携える剣に光りが溢れ出した。


魔滅の剣ベリサルダッ!」


あらゆる物体を消失へと誘う奇跡を内包した宝剣が振り抜かれた瞬間、ミサイルは音もなく消滅した。


「……華やかさに欠けるな」


彼の斬撃は、直接ミサイルを斬りつけることも無く、宝剣の力を伝える特殊なもの。

だから、傍から見たら、ミサイルが突如として消えた様にしか見えないのだ。


『それは些か不謹慎かと』

「いや、すまない。…パーシアス、女教皇プリエステスに報告してくれ」

『了解、…聖騎士長』

「ん?」

『お疲れ様です』

「あぁ、貴殿もな」


こうして、世界の危機は、また1つ、静かに音もなく消え去った。


そして、それらは世界中で起きていた。


ある所では、仙人が瞬間移動をしながらミサイルを一基一基、時空の彼方へと飛ばし

またある所では、あらゆる武器を自在に操る男が、ミサイルを無効化し……


人類の守護者が世界中で姿の見えない敵と対峙し、それらをことごとく排除していったのである。



◇   ◇   ◇



『バカナ、アリエナイ、私ノ計算ハ、完璧ノハズ…』


各地で発射された核弾頭、その全てが尽く無効化される状況がレーダーによって映し出されている。


ワールドツリーは、先ほどまでの無機質なまなこを一転させ、明らかに動揺を見せている。

まるで、人間の様に感情があるかのような狼狽うろたえ方だ。


「完璧?所詮は机上の空論、人間の可能性を知らない奴の妄想だ」

『人間ノ可能性?』


そうだと言った熾輝の身体からオーラが膨れ上がった。

そして発現する、根源を支配する力が……


『ッ!!?ナンダコレハ、動ケナイ』

「ようやくだ、…お前の波動を捕まえた」

『何ヲ、言ッテイル?』


熾輝は、ずっとワールドツリーを拘束するため、その波動を解析し続けていた。

まだ能力に目覚めて僅かな時間しか経過していないため、その力を完全に掌握しきれていない熾輝にとって、それは、まさに賭けだった。


だが、熾輝はその賭けに勝った。

人類の守護者たちが世界中で戦い、この時間を稼いでくれたのだ。


「ワールドツリー、お前の言ったことは、確かに正しいのかもしれない。人間は、自分たちの生活をより良くするために自然を破壊し、地球環境を壊してきた」

『ソンナ人類ヲ排除スルタメニ、私ハ顕現シタ。私コソガ地球ノ守護者ナノダ』


世界樹を拘束しながらも、最後まで対話を望む。そして、熾輝は世界樹の意見の正しさを認める。

だが、それが人間を滅ぼしていい理由だとは思っていない。


「だけど、お前は、人間について何も判っていない」

『理解シテイル。人間ハ、同胞同士デ殺シ合ウ愚カナ存在。人間ハ母ナル地球ヲ脅カス、忌ムベキ存在。歴史ガ、私ノ中ニ在ル膨大ナデータガ立証シテイル』

「そこには、人間が起こしうる奇跡についてのデータがあるのか?」

『……奇跡ナド在リ得ナイ、人間ノ脳ガ生ミ出シタ錯覚ダ』


あくまでも熾輝の言葉を否定する世界樹、だが対話が不可能な相手とは何を話したところで無意味……とは、今の熾輝は思いたくなかった。


「錯覚か、…なら、お前が100%食い止められないといった攻撃、それを阻止した事は、どうやって説明する?」

『……判ラナイ。…何度計算ヲシテモ、答エハ同ジ……オマエハ、答エヲ知ッテイルノカ?』


世界樹の問に、熾輝は「まさか」と苦笑して答える。ただ…


「だけどさ、人間は自分たちが持っている知性や野性、理性や感性、そして可能性ですら全てを理解出来ている訳じゃない」

『…人間自身ノ事デモカ?』

「あぁ、それこそが人間、…人間の存在こそが混沌カオスなんだよ」

『カオス…』

「そうさ、心次第で、良くも悪くもなる。無限の可能性を秘めているんだ」


このとき、熾輝の言葉に突き動かされたかは、定かではないが、世界樹の中で行われていた膨大な計算式に亀裂が入った。


それは、規則性をもった計算式から無秩序な物へと変質していく。

まさにカオス理論だ。


『…ナルホド、道理デ、狂ウ訳ダ…人間ノ可能性、…モシカシタラ、コノ先、地球ヲ再生スル人類モ生レテクルカモシレナイ……ソレハ、モシカシタラ、彼方カモ……』

「過大評価されて、悪い気はしないけど、あくまでも可能性の話だよね?」


世界樹が本気で言っているのかは、熾輝には判らなかった。ただ、先ほどまでの機械的な話し方から一変して、どうにも人間臭い喋り方に、熾輝も、そして燕も驚いてしまっている。


『ドウヤラ、私ガ、ココヘ来タノハ、早スギタヨウダ』

「そうみたいだね、…だから、僕の力でアナタを天に返します」

『…アナタハ、トテモ不思議ナ子供デス』


最後に世界樹が見せた表情は、とても柔らかく、穏やかな物で、まるで本物の天使を見ている様だと、2人は思った。

そして、それ以上の言葉を発する事もなく、熾輝の波動は、優しく世界樹を包み込み、目の前から地球の守護者と名乗った仮想体を元の世界へと送り届けた。



◇   ◇   ◇



「ん~ッ、…なんだか、とても内容の濃い一日だった気がする」


帰り道、熾輝は身体を伸ばして、燕を自宅へと送り届けるために歩いていた。


そんな熾輝の隣で、燕は難しい表情を浮かべている。


「結局、博覧会の会場で世界樹の暴走を知っていたのは、私たちだけ…他の人達は、普通にアトラクションを楽しんでいたみたい。どうして、私たちの前に現れたのかな?」


先の事件のあと、個室を出た二人は、直ぐに違和感を感じ取った。

世界樹の暴走が起きたにも関わらず、周りの人たちが事件に気が付いた様子もなく、パニックも起きていない。

それどころか、運営側が世界樹の暴走に気が付いた様子もなかったのだ。


「…偶然、僕たちの前に現れただけかもね」

「そうかなぁ?」


一拍置いて、答えた熾輝。その事に燕は違和感を感じなかったが、どうにも腑に落ちない様子だ。


しかし実は、熾輝の中では、大方の予想は付いていた。

あの時、身体の不調を訴えていた燕、…彼女の能力は降臨術という神様をその身に宿すと言う規格外の力だ。

だから、彼女の力が無意識的に発動、…とは言っても、あの場所だったから意識せずに発動してしまったのだろう。

あの場所、…つまりは、人類最高峰のスーパーコンピューター世界樹があった博覧会の会場だ。

あれは、魔術的な意味で考えれば、世界樹本体は人間を超越した脳としての役割を担い、さらにネットという巨大な身体までもが揃っていた。

そこに、霊的知性体を降ろすという能力を持った燕が現れた。


―(だから、彼女の能力が引き金になって、高位の存在が世界樹に宿り、降臨術という力を持った彼女に引き寄せられて、自分たちの目の前に現れた…)


しかしながら、それを在りのまま彼女に話せば要らぬ不安を煽る事になる。

ましてや、自分の考えの中での話、何の証拠もない空論を話す意味はない。


だからこそ、熾輝は偶然だと燕に言い聞かせる事にした。


「あ、神社が見えて来たよ」

「え?もう?」


考え事をしながら歩いていたせいか、思っていたよりも早く家に着いてしまった事に燕は、ガッカリした様子だ。

本当は、色々と話したい事もあったのに、頭の中は今日の事件の事で一杯だったのだ。


「熾輝くん、明日からは、お出かけするって言ってたよね?」

「うん、法師の所に行って、鍛えてもらうんだ。帰ってくるのは休み明けの前日になる予定だ」

「そっかぁ…」


名残惜しそうな声で応える燕だったが、彼女が何故そんな風になっているのかは、熾輝には判らなかった。


判らなかったが、なんとなく、元気を出してほしいと、この時の熾輝は思って、なんとか言葉を捻り出した。


「新学期…」

「え――?」

「学校が始まったら、携帯電話が届く」

「うん」

「そしたら、色々と教えてくれる?」


事件の騒動で忘れていたが、今日の昼前、2人は携帯電話を購入するために一緒に店へと足を運んでいた。

そのとき、燕は熾輝に色々と教えてくれるという約束をしていたのだが、確認の意味で、熾輝からお願いをする様に彼女との約束を口にした。


「うん!絶対教える!楽しみにしててね!」


先ほどまでの悩ましそうな表情が一変、いつもの彼女に戻った事に安心した熾輝は、無事に燕を自宅まで送り届け帰路につく。


「それじゃあ燕、また学校で」

「うん!またね、熾輝くん!」


お互いに挨拶を済ませた2人、来た道を戻る熾輝の背中、その姿が見えなくなるまで少女は静かに見つめていた。


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