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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【下】
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第一六九話 それぞれの終結

「くっくっく、…」


病室から出て、車を止めている駐車場へ向かうまでの間、木戸は笑いを堪えていた。…が、その笑い声は、絶えず漏れている。


「なんすか?気持ち悪い」

「うるせえよ。…それより神狩、おぇさんからみて、あの坊主…八神熾輝はどう映った?」

「はぁ?」


木戸の質問の意味を考え、神狩は一拍考えてから答える。


「…そうっすね、以前に会った時より、段違だんちで腕を上げてたって感じでしたよ」

「だな。しかし、ありゃ段違いっていう枠から完全に逸脱している。俺ァ纏ってるオーラを見た瞬間、五月女の昇り龍の姿を重ねちまったね」

「まさか、あんなガキが絶対強者と並ぶっていうんすか?」


木戸の熾輝に対する評価に神狩は納得がいかない様子だ。


「そこまでとは言わねぇよ。比べれば天と地ほどの差がある。…けどよぉ、間違いなくあの坊主は五月女清十郎の弟子だって言いたかっただけだ」

「……そりゃあ、アイツには絶対強者を含めて化物揃いの師匠連中が居るのは事実ですからね」


何を今更といった表情を浮かべる神狩に対し、「そういう事じゃあねぇよ」呟いた木戸は、振り向いた先にある病院を見上げた。


「こりゃあ、才能云々で測れなくなってきやがった」


木戸の記憶にあった八神熾輝という少年は、以前までは明らかに弱者であった。

しかし今日、久しぶりに見た少年は、まるで別人のようなオーラを纏い、とてつもない力を宿しているという印象を感じた。


「…まぁ、浸るのは、いいっすけど、この後の事後処理の事を忘れないで下さいよ?」

「………」


神狩の一言で一気に熱が冷め、深い溜息を吐いた木戸は、「わぁってるよ」と心底つまらなそうな表情を浮かべて車に乗り込むと、そのまま病院を後にしたのだった。


◇   ◇   ◇


ここは、フランス聖教の騎士見習いが隠れ家としているとあるマンションの一室…


「―――はい、―――はい、―――了解です。―――いえ、全て滞りなく。――――――はい、対策課に対し一連の報告書を女教皇プリエステスの名の下に送りました。―――え?しかし、……判りました。その様に伝えます。―――はい、このまま任務を継続します。―――はい、それでは」


受話器を置いたキャロルは、緊張から解放され、ホッと息を吐いた。


「お偉いさん、なんだって?」


キャロルが通信を終了するまで、一同は固唾をのんで待機していた。


「一連の騒動、お嬢様の使徒としての力が表に出ない様に情報を操作したので、お嬢様は今後、今まで通りの生活が送れると思われるが、このまま乃木坂可憐の監視を続けるようにと、…それと、ドニーには別任務が与えられました」

「「え――?」」


キャロルの言葉にフローラとマリーが驚いた声を上げる。

今回、彼女たちフランス聖教の騎士見習いたちは、一連の騒動を傍観するだけに留め、使徒である可憐の身を危険に晒してしまっている。


しかも、極秘任務であるにも関わらず、羅漢という第三者の介入を良しとし、あまつさえ救援要請をする始末…


当の羅漢は、事件後、一度このセーフハウスを訪れ、事の顛末を報告したのち、保護していた左京を連れて出て行ってしまっている。


そういった事に対する何らかのペナルティーがあるかもと覚悟していたが、まさか同僚のドニーだけが割を食う形になるとは思ってもみなかったようだ。


「落ち着けよ、監視の任についていながら、旦那の力を頼ったんだ。…覚悟は出来ている」

「でも、ドニー…」


2人は納得がいかないのか、悲しそうな表情を覗かせる。しかし…


「何か勘違いをしている様ですが、ドニーは別任務が終了次第、我々と合流してもらいますよ?」

「「「ぇ?」」」


てっきり左遷、あるいはクビの宣告かと思っていた3人は、目を丸くしながら素っ頓狂な声を上げた。


「もう、キャロル!人が悪いよ!」

「そうだよ!てっきり左遷かと思ったよ!」

「いえ、私は別任務が与えられたと言っただけで、そんな事は一言も…」


思わぬ同僚からの叱責に、キャロルは困惑しながら言い訳をする。


「…で?別任務ってのは何だ?」

「そ、そうでした。んんっ、…ドニー騎士見習いは、明朝一二〇〇ヒトフタマルマルよりセーフハウスを脱し、同日一八〇〇ヒトハチマルマルまでにポイント【ベータ】に出頭するように……との事です。」

「ベータ、……了解だ」


キャロルから司令内容を聞かされたドニーは僅かに目を丸くすると同時、神妙な顔を覗かせる。


その雰囲気を機敏に察知したフローラ……だったが、彼女は指令の内容を聞いてもイマイチ理解していない様子だ。


「ベータって何があるの?」

「…対悪魔専門の騎士、…祓魔師エクソシストの日本支部だ」


彼等聖騎士は、元来、悪魔と戦うために生まれた組織だ。

文化圏が異なるこの日本に悪魔が侵入する事態、珍しいケースのハズだが、数年前の神災以降は、増加傾向にある。しかも、新たなる使徒が生まれたこの地で、少女の監視を行っていた彼が呼び出されるという事は、何らかの関係性を予見せざるおえない。


「3人とも、あとの事は任せたぜ」


そう言って、彼は明朝、定刻通りにセーフハウスを後にしたのだった。


◇   ◇   ◇


大昔、とある国のとある大地に1人の男が現れた。

誰も男の出自を知る者は居ない。

何故なら男は、突然現れたから……


男は現れたその瞬間から、何かの使命に突き動かされるように生きて来た。


『…まずは彼女を見つけないと―――』


男は自身が何者か、何をやらなければならないか、それを明確に理解していた。

だから、男の足取りに迷いはない。


◇   ◇   ◇


数年後、彼の地に破邪の力を宿した少女が生まれた。

しかし、少女は生まれながらにして人間ではなかった。

それは、奇跡を宿した宝杖の化身……人々は彼女を恐れ幽閉した。


どれほどの時が流れたのだろう、生まれてから数日、数ヶ月、数年……

彼女を閉じ込める岩戸によって光が入ってこない。

外界と物理的に切り離された事により、時間の感覚が狂ってしまっていた。


自分が何故生まれ、何故こんな目に遭うのか…その理由も判らず、たった一人泣いていた。

あの男が現れるまでは……


『こんにちは、素敵なお嬢さん、よかったら僕と世界を見に来ませんか?』


男は、彼女にアリアという名を授けた。


◇   ◇   ◇


彼は、アリアと共に世界を回った。


ある時は、魔物の軍勢を相手取り、またある時は日照りで困窮している村に雨を降らせたりと、主に人助けに尽力していた。


『こんな目立った事をしていると魔女狩りに遭うわよ?』


男の行動は、人道的であり、人々から感謝された。

と同時に、彼の力に恐怖を抱く者もいた。


『はは、僕は男だよ?』

『関係ないわよ、聖堂教会の連中は魔術を扱う者を容赦なく殺すんだから』


アリアの不安を他所に、男は敢えて目立つように魔術を使い続けた。

まるで自分の存在を知らせる様に…


◇   ◇   ◇

『ねぇローリー、彼方は何処から来たの?』

『ずっと遠くだよ』


男は自身の事を一切語ってくれなかった。

それなのに彼は彼女を知っていた風な口ぶりをたまに覗かせる。


『ねぇローリー、何を作っているの?』

『本を書いているのさ』

『何のためによ?』

『僕という存在がいた事を忘れないでもらうためかな?』


男は時より寂しそうな顔を覗かせた。


『忘れないよ……』


日に日に老いる彼を見て、アリアは気が付いた。

男と自分に流れる時間が違うのだと。



◇   ◇   ◇



ある日、男は暫く家を空けると言って、暫く戻らなかった。


それでも女は待った、彼の帰りを……


『なんで、……ローリー!』


暫く振りに帰ってきた男は、瀕死の状態だった。


『慌てるな、今すぐ死ぬわけじゃあない』


男を担ぎこんできたのは昔、一度だけ戦った事のある極東の島国で生まれたと魔王だった。


『なんで!誰がローリーを!』


男は自身の胸に顔を埋めて泣きじゃくる彼女をそっと撫でてニコリと笑う。

その顔には深いシワが刻まれており、人生の深みを教えているかのようだ。


『アリア、ごめん…失敗しちゃったよ』


女には何の事か判らなかった。

一体、ローリーは何をしていたのか、どんな使命を帯びていたのかを…


『どうか、この本を…魔導書を未来の子供たちの元へ…』

『いやだよ、ローリー…アナタがいないと…』


彼女から溢れ出る涙を指で拭い、男はいつもと変わらぬ笑顔を向けた。


『お願いだ、…忘れないで、僕という男が居たことを…』

『忘れない!忘れる事なんて出来ない!アナタは私の全てなんだから!』

『ありがとう、…君と過ごした日々は、幸せ、だった――――』


和かい笑顔を浮かべて、男はその人生を閉じた。


男は、その人生を終えるまで、様々な魔術を生み出した。

そして、世界に邪悪が押し寄せようとする時、どこからでも駆け付けて、人々を救った。

後に彼の功績を称え、人々は尊敬と畏怖を込めて、こう呼ぶようになった…大魔導と―――。


「あれが全部じゃあないけど、ローリーは、いつも誰かのために魔術を使っていた」

「うん、ローリーさんの想い、…きっと継いで見せる」


全てが終わったある夜のこと、咲耶とアリアはローリーに託された物を胸に秘め、夜空の星々に誓う。


「あーあっ!…結局、ローリ―が何者なのかとか、なんで魔人なんかと戦ったとか、アイツ一切告げないまま消えちゃったし!」

「ふふ、でもローリーさんらしいね?」

「あれはね、抜けているっていうの!」


エアハルト・ローリーがあの時語った全て、…それは無意識的にせよ意識的にせよ、多くの謎が残る物だった。


「そう言えば咲耶、新しい魔導書の名前はもう決めたの?」

「うん、それはね――――」


ローリーが託した魔導書は姿を変え、新たに生まれ変わった。

そして、彼の様に人々を救う事が出来る優しい魔法を…

その想いは、色あせることなく少女の胸に宿っている。

だから彼女は、そんな願いを込めて魔導書に名を授ける


不朽の願いエバーグリーンと―――



大魔導士の後継者編、――完――



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