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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
16/295

第十五話

山の中に木刀がぶつかり合う音が響き渡っている。

熾輝が修行を開始して丁度1年が経過していた。


師匠である清十郎に何度も打ち込んでいくが、あっさりと弾かれて、逆に打ち込まれ、その度に、身体には鈍い痛みが走り抜けるが、痛みに耐えている暇すら与えられず、次から次へと打ち込まれてくる打突を必死に受ける。


「また呼吸が乱れているぞ!」

「っ!」


息を乱していた熾輝の腹部に蹴りが突き刺さり、そのまま後ろへ大きく飛ばされる。


流石に今の蹴りには耐えられなかったのか、腹部を抑えながら、嘔吐してしまう。


しかし、そんな状態であるにも関わらず男は一切手を抜こうとはしない。


「痛がっているからって、同情してもらえるなんて思うな!」

「がっ!」


続く男の打突を受け、振りかぶられた二発目を転がって躱す。


すかさず男に渾身の一撃を放つが、あっさり躱され、少年の胴に木刀がめり込んだ。


再び後方へ飛ばされたが、今度は、痛みに耐え、素早く木刀を構える。


そこへ、男の打突が何度も襲い、それに応じて少年は、受ける、打たれる、打ち返すを何度も繰り返していく。


そして、限界を迎えたのか、少年は遂に立つことさえ出来なくなっていた。


「・・・今日はここまでだ。」

「あ、ありがとう、ございました。」


全身に力が入らず、仰向けに倒れたままだが、振り絞った声で、なんとか師匠に礼を言った。


清十郎は、そのまま少年を放置して立ち去っていく。


少年は、すぐそばを流れる川辺まで這いずって移動し、流れる川に顔を付け、水分を補給させる。


暫くした頃、ようやく身体が動かせるようになったため、血と汗と泥にまみれた身体を洗おうと、服を脱いで、川の中に入る。


「痛っ!」


全身は、痣だらけになり、手のひらは、木刀を数えきれないほど振り続け、皮膚がズル剥けている。


そんな、自分の手を眺めながら少年は、俯いていた。


(才能ないなぁ)


この一年の修行で、わかったことは、少年に武術、魔術の才能が無い事だった。


武術において、全くと言っていいほど、センスが無く、更に魔術においては、生まれながらの魔力量は、多いものの、いざ魔術を発動させれば、まったく発揮出来ない。


そんな事が分かってから、少年は腐ることなく、努力し続けてきたが、最近は、才能の無さを身に染みて実感する事が多くなった。


そんな、俯いていた少年に、後ろから声が掛けられた。


「随分と頑張っているじゃないか。」


後ろを振り向けば、いつも少年が修行をしている様子を遠目で見ていた男が珍しく声を掛けてきた。


「法師」

「正直、直ぐに根を上げると思っとったが、意外と根性あるのぉ」

「・・・」

「なんじゃ?元気が無いのぉ。」

「師匠達が一生懸命に教えてくれているのに、全然上達しなくって、正直申し訳がないです。」


少年は、俯いたまま答える。


「ほう、何故上達してないと思う?」

「だって、教えられた事をどんなに頑張っても、中々出来ないし、魔術もつかえないから・・・」


才能が無い事は、修行を初めて直ぐに分かっていた、その分人の数倍努力を重ねた自信もあった。

しかし、それでも努力が実とは限らない。


「お主は、何故強くなりたいのじゃ?」

「約束したから。」

「約束?」

「強くなって、また会おうって約束をしたんです。」


少年は、魔界で共に生きた少女の顔を思い出す。

今までも、少女との約束があったから、頑張って来れた。


「ふむ、強くとは、具体的にどれ位を指すんじゃ?」

「え?」


どれ位と言われて、迷っていた。

正直、ただ強くなることだけを漠然と考えていた少年にとって、強さの目標が見えていなかったのだ。


「何かあるじゃろう、これくらい強くなったら、会いに行くとか具体的な目標が」

「・・・ただ、大切な人を守れるくらい強くなりたいです。目の前で大切な人が殺されるのは、きっと悲しい事だから、もう、あんな思いをさせたくない。」

「(自分では無く、誰かのためか・・・)」


円空は、遠い昔、自分の愛する人を守れなかった事を思い出してしまった。

しかし、同時に彼の弟子と同じ様な事を言った少年に少し興味が湧いたのだ。


「上を向け、目を見開け、そして目標を掲げよ、熾輝。確固たる強さへの目標を。」


少年は、円空と目を合わせる。


「強さの目標・・・・・欲しい。誰にも負けない【天下無敵】の強さが欲しい!」

「よく言った!それはお前が獲得した強さへの欲求という感情じゃ!」


感情を失ってから、何に対しても心を動かすことがなかった少年にとって、久々に感じた衝動、少し前、夏羽と別れる際に感じ取った物とは、違う。


しかし、少しずつではあるが、これが少年に感情が戻ってきている証拠でもあった。


「よろしい!八神熾輝よ、今日から儂がお主に【仙術】を教えてやる!」

「え?」

「仙術は、オーラや魔術とは比べ物にならない程に会得が困難だ。努力しても開花するとは限らんし、生半可な覚悟で挑めば死ぬかもしれん。それでもやるか?」


少年は、目の前の仙人の顔を見つめる。

仙人の瞼は閉じられている。それでも、何も見えない眼を少年は見返して答える。


「やります。教えてください。僕は誰にも負けたくは無い、自分自身にも!」


満足したのか、円空は、首を縦に振り、少年を弟子にすることを決めた。


「(昇雲よ、お前の言う【愛】が27代目まで受け継がれ、また新たある雛鳥に継承されようとしているぞ。もしかしたら、27代までの誰もが会得出来なかった、儂の仙術を会得出来る雛かもしれん。)」


こうして熾輝は、新たに円空という師を得て、修行を開始することとなった。



―――――――――――――――――――――――――――



森のを駆け抜ける一人の少年が居た。


年は9歳、黒髪に黒い瞳、右眼の視力が極端に悪いため、白い眼帯を付けている。

身長は、9歳の子供の平均より高い位で、顔だちは整っているが、女の子みたいな造りをしている。


しかし、9歳の子供とは思えない程に引き締まった体をしている。


筋肉質という訳ではないが、薄い脂肪の下には、発達した筋肉が敷き詰められている。


少年は、息を切らせながら目的地に向かって、全速力で走っている。

視界に大きな一本杉を捉え、全速の速度から更に加速させた。


限界を超えた動きに、肉体が悲鳴を上げ、酸素を欲する身体、その全ての声を無視して目的地へと到達した。


ゴールした直後、少年は倒れこみ、思いっきり呼吸をして、体中に酸素を送り込む。


吸い込んだ途端、少年の脳天目がけて木刀が振り下ろされる。


しかし、振り下ろされようとする一瞬、両腕で地面を押して、腕の力だけで起き上がり、少年を狙っていた打撃を躱した。


躱したが、次から次へと襲い掛かる打撃を紙一重で躱していく。



そして、1時間程経った同じ場所では、少年が意識を刈り取られ、倒されていた。


前もって用意していたのか、少年に打突を打ち込んでいた男は、バケツ一杯に入った水を少年に思いっきりぶっ掛けた。


「うわっ!」

「やっと、起きたか。」


ぼんやりとした意識の中で、顔を上げると、少年の師匠が木刀を右肩にトントンさせながら見下ろしていた。


「無手で、武器を持った者とやりあう時は、もっと相手の呼吸を読めと言っているだろ。これが真剣だったら100回は、死んでたな。」

「ようやく、100回ですか。」


少年は、自分の身体に付いた痣を見ながら、そんなことを漏らした。


「そんなんで、喜ぶな。確かに最初は1万回は死んでいたがな。」

「それでも、九千九百もの進歩じゃないですか。」


仏頂面をしながらも、少年は言い返す。


「それでも、手加減をして100回は死んでいる事を忘れるな?」

「・・・手加減って、今のは、どれ位強い人を想定して100回死んだんですか?」

「お前より3つ年上の剣道全国1位だ。」

「・・・」


それを聞いた少年は、思わず苦笑いしてしまった。


「さて、一旦帰るか。午後からは葵と修行するんだろ?」

「はい。でも今日は、定期試験の日なんです。」

「ああ、そういえば一昨日から、問題を作っていたな。勉強は大丈夫なのか?」

「問題ありません。・・・けど、音楽だけはどうしても苦手で・・・何で音楽なんか勉強しなきゃ駄目なんですか?」

「俺に聞くな。アイツの教育方針に口を出すと、偉い目に合ったのは、お前も知っているだろうに。」


少年と男は、溜息を吐きながら家へと帰るのであった。



熾輝が修行を開始して、もうすぐ5年が経とうとしていた。

訳あって、少年は学校には行っておらず、その代り、彼の師である東雲葵が彼の家庭教師を務める事となったのだ。



机の問題用紙によどみなく鉛筆を走らせ、試験終了20分前まで時計の針が進んだところで、少年は持っていた鉛筆を机に置いた。


回答を見直す事はせず、答案を持って、教卓の前に居る女性に手渡す。


「先生、終わりました。」

「見直さなくてもいいの?」

「大丈夫です。早く終わった分、修行を付けてください。」

「・・・わかったわ。」


教室もとい、家のリビングを出た二人は、外に出て魔術の修行を開始することとなった。


基本、魔術の修行は、知識を得ることが大部分であるが、熾輝が行っている修行は、魔力操作がその大部分を占めている。


座禅を組み、魔力に意識を向ける。


身体を覆っていたオーラから魔力に切りかえる。ただひたすらこれを繰り返す。


魔力とオーラは、全く異なるエネルギーであり、オーラを使用している最中は魔術を使えず、魔術を使っている最中はオーラを使えないので、二つを使う熾輝には、この切り替えのスピードを早く行うのが必要であり、修行の最初、必ずこれを行っている。


熾輝が、修行に入ってから直ぐに、清十郎が近くに寄って来て、何やら葵と話し始めた。


意識の端っこの方で、それを感じつつ、3年程前から急に変わった二人の変化に少年が驚いたのを最近のように感じている。


修行を始めた最初のころ、葵は清十郎と全く話をしていなかった。それどころかお互い目を合わせる事すらしていなかったのである。


少年も二人については、仲が悪いのだと感じていたが、流石に行き過ぎているのではと、思っていた。


師範達に二人の事を聞いたことがあるが、その時は、知らなくていい事だと切り捨てられて、それ以上は聞くことが出来なかったのである。


ところが、3年ほど前のある日を境に、二人が妙にお互いを意識し始め、目を合わせるようになり、たまに口を聞いている所を何度か目撃し、最近では、自然に他愛のない話までする様になっていたのだ。


そのことを師範達に聞いても、これまた何も教えてくれなかったのは、熾輝の記憶に新しい。



その日の夜、熾輝が眠りについた後、5人の師匠達がある話し合いをしていた。


「それで?実際あの子はどの程度まで上達しているんじゃ?」


そう聞いたのは、聖仙こと佐良志奈円空である。

彼は、長い事荒事から身を遠ざけていたため、現代の武術家、魔術師の実力を知らないのだ。


「そうですね、最近は、俺の弟の実力を想定して訓練を行ってましたから・・・」


清十郎は、自分の歳の離れた弟の事を話した。

清十郎の父である五月女勇吾には、年を重ねてから出来た息子が一人おり、その子は熾輝とは3つ歳が離れ居ている。


しかし、その弟は稀代の天才と言われており、既に同人代に敵は無く、大人に交じって仕事をしている。


「まぁ、武術をたしなむ中学の不良が何人相手でも負けることは無い位には成長していますが、まだまだです。」

「ふむ、達人クラスには遠く及ばぬか・・・」


少年の実力について、少なからず不満をもらす彼等だったが、9歳の子供が大人を相手にして負けないと言う事実について、その意見は、おかしいと思うものが居た。


「当たり前ですよ、あの子は、まだ9歳の子供ですよ?何処の世界に9歳で達人並の実力を持った子供が居るんです!私から言わせれば、今の状態で十分異常です!」


言葉にこそ力を持たせて発言はしているが、少年が寝ているため、特に大きな声を上げずに葵が講義した。


「私も葵殿と同意見です。これといって才能の無いあの子が、この五年程でここまでの力を付けるのに、どれ程の努力をしてきたかお二人もご存じのはず。それに、清十郎殿の修行は私から見ても常軌を逸している時があります。」


咎めるように清十郎の修行方法に意見をする白影ではあるが、彼とて常人から見れば十分常軌を逸した修行を架していることを棚上げにしていることは、本人ですら気が付いていない。


むしろ、気が付いているのは、この中で武術のたしなみこそあれどオーラを使えない葵だけだった。


「それを、理解しているからこそ、細心の注意を払って、あの子に修行させています。」


正直、清十郎達の様な達人でなければ、そのような死線に身を置かせる修行など、出来るはずがない。


「まぁ、清十郎の気持ちも分からないでもない。」


そこに、今まで黙っていた昇雲の発言があった。


「清十郎、お前さんにいのは、ここに居る全員が理解しているつもりだよ。もうすぐ約束の期日が迫っているからこそ、必要以上に熾輝の修行をより過酷な方向へ持って行っているんだろうさ。私等だって何度もそういった修行を重ねてきた。しかし、そういった修行を行う時は、決まって武術家としての次の段階へ登らせるための時期が来たと判断した時だけだ。今を焦って、そんな修行をさせても、大した成果は見込めないよ。」


気持ちはわかる。しかし、清十郎の修行方法について賛成している訳ではない。


「・・・分かっています。」


理解はしているつもりだったが、それでも納得が出来ない気持ちのまま、ただ受け入れるしかなかった。


「それで、お前さんには、あとどれ位の猶予がある?」

「・・・半年後が約束の日です。」

「焦る訳だのぉ、あの子を助けに行くためとはいえ、天界と取引をしたと聞かされた時は、正直驚いたが、本当にそれで良かったのか?」

「後悔は、していません。あの時は、それが最善の選択でしたから。」


清十郎の言葉に全員が押し黙り、一時沈黙だけがその場を支配していた。

だが、沈黙を破ったのは、白影だった。


「確かに天界が出した条件は、過酷な物でしょうが、清十郎どのなら、やり遂げられると、私は確信しています。だから、彼方が帰ってくるその日まで、あの子の事は我々に任せてください。」

「・・・ありがとうございます。」


天界との取引により清十郎は、熾輝の救出へ向かう事が出来た。

しかし、その取引によって、何らかの条件を出された彼は、近い内に少年の元を去らなければならないのだ。


夜も大分更けて来たころ、ようやく会合を終えた5人は、それぞれ床に付くこととなった。



――――――――――――――――


清十郎達が会合を行った数か月後の日本某所で、ある一団が会合を開いていた。



「それで?あの術式についてはどれ位の分析がすすんだ?」


そう質問をしたのは、とある魔術結社の代表を務める男だった。


「依然として、分析は難航しております。やはり、術式の核となる者を研究しないことには、この状況は動きません。」

「そうか。」


質問の答えは、わかりきっていたが、男は不満の声を漏らす。

男の不満を感じ取ったのか、集まった面々は、それ以上、何も言えなくなっていた。


しかし、依然進まない会議に業を煮やしたのか、一人の男が提案を出す。


「やはり、核を捕獲して研究を進めるべきでは?」


沈黙していた場が一瞬どよめいた。


「しかし、例の少年は、五柱に保護されている故に手を出せないではないか。それに居場所すら分かっていないのだぞ?」


場に集められていた一人が発言すると、その他大勢も同意見なのか、捕獲という言葉に皆、乗り気では無かった。


「五柱といっても、警戒するのは、五月女清十郎たった一人。他の面子で分かっているのは、五柱としては、実力の疑わしい女と、老い先短い婆だけでしょ?何を恐れる事がありましょうか。」

「お主は、若いから知らないのも無理は無いが、五月女清十郎は、世界最強の一角と呼ばれている男なんだ。」

「それ位、私も存じています。しかし、所詮魔術を扱えない人間が魔術師たる我々を相手に敗北しないとは、到底思えませんね。それとも、皆さんの中で五月女清十郎の力を見たことがある人が居るんですか。」

「見たことは、無い。しかし、噂によれば、USAが保有する使徒を倒したと言われている。」

「だけどUSAは、認めていないんでしょ?」

「当たり前だ!そんな事実が公表されてみろ、USAは他国に弱みを見せることになるんだ!」

「では、事実かなんて分かったものでは無いですね。大方、話に大きな尾鰭がついただけでしょう?」


男の反論に対し、その場に居た者達も、口々に「確かに」という雰囲気を出し始めた。


「それで?どうするんですか、総帥。このまま、手元にあるデータと睨めっこを続けていても、成果なんてあげられませんし、以前こちら側に引き込んだ彼等を抑えるのには、そろそろ限界ですよ。」

「待つんだ!今下手に手を出して、もしも失敗でもしてみろ、下手をすれば、我々もただでは済まんぞ!」


実行を促す男に対し、尚も引き下がらない少数派が粘り強く説得を試みる。


「何を呑気な、そもそも彼等を引き入れるようにしたのは、あなた方では無いですか?」

「そ、それは、対象が生きていた事を公表した五月女家前当主から、対象が奪い去られたと機関に連絡が入ったから、恨みを持つ者でも集めれば戦力になると思ったからで・・・」

「だけど実際は、他機関による強奪では無く、五月女清十郎が甥を保護するために身を隠しただけだった。まぁ、五月女家も表立っては認めないでしょう。例え縁を切った不貞の長男であっても、一族から罪人を出してしまってますから、これ以上あの家がこの件に口を出す事も無いでしょうし。」

「しかし!『静まれ!』」


会議場での言い争いは、総帥を務める男の一声で静まり返った。


「失われし神代魔法の技法復活の鍵が目の前にある。しかし、犠牲無くして、入手は困難だ。だが!我々はこれまでも新たなる魔法の習得に命を捧げ、その犠牲の上に今日まで失われた魔法の復活と進化に努めてきた!」


男は、総帥の証である杖そ掲げ、その場に居る全員に命令を下す。


「魔導を歩む者達よ!臆したならば、我等が【暁の夜明け】から立ち去るがよい!しかし、魔術師として生きていくならば、逃げた者には滅が待つであろう!そして、生涯この事柄から逃げた者と侮蔑を免れぬと知れ!尚も狂気の中で戦う覚悟を決めた者には、永劫の繁栄が約束されるであろう!さあ選べ、滅びか、繁栄か!」


高らかに宣言されたそれは、選べといいつつも、実行という二文字しか選びようのない命令であった。


しかし、その場に反対意見を述べる者は無く、満場一致の声が会場内を包み込む


「「「我ら、暁の夜明けは、己が命燃え尽きようとも、魔導の発展に飛躍の一歩を選ぶ者なり!」」」


そして、実行を促していた男が、一歩前へ出る。


「総帥、既に核の居所は掴めています。ご命令があれば、いつでも実行可能です。」


男は、流行る気持ちを抑えられないのか、表情を崩して、総帥の命令を今か今かと待ち望んでいる。


「ふむ、戦力は足りているのか?」


流行る男に対し、総帥は冷静に物事を動かそうとしている。


「勿論です。既に名のある猛者達が、牙を研いでいます。」

「殺しては、ならんぞ?生きたまま連れ帰らねば、それこそ意味が無いからな。」

「分かっております。連中の手綱は、私が責任を持って握りましょう。それに、こちらには十二神将の彼が居ます。」

「やつか、まだ若いのに十二神将とは、余程腕がたつんだろうな?」

「勿論です。総帥程ではありませんが、彼には期待して良いと思いますよ。」


それを聞いた総帥は、一度首を縦に振り、目の前の男に総指揮を命じると、号令を掛けさせる。


「時は来た!今こそ失われし神代魔法を我々、暁の夜明けが手にする!その時こそ、魔法の歴史が大きく変わる時!数年前のあの日!失われていたハズの神代魔法の使い手は、疎かにも100万人の犠牲を払い、術を発動させた!しかし!そんなものを魔法と認めていいのか!答えは否だ!ならば、我々がその魔法を解析し、正しい形へと導くのだ!核を、悪魔の子を保護という名目で匿っている共犯者共に正義の鉄槌を下すため、我々に賛同してくれた同志達を紹介しよう!」


男の宣誓により、会場入り口が大きく開かれる。

そして、会場に入ってきたのは、100人を超える老若男女の集団、しかし、ここに居る全員が、魔術を納めた魔術師なのだ。


「彼らは、あの日、家族や友人、恋人を失った者達だ。我々は、二度とあのような悲劇を繰り返してはならない!被害者は、犠牲になった100万人だけでは無いのだ!ここに居る彼等も神災、いや、悪魔によって作り出された被害者なのだ!正義は、我らにあり!」


ウオオオオオオオ‼


会場中を揺るがす歓声が上がり、彼等【暁の夜明け】が動き出した。


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