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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【下】
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第一四九話 魂魄融合

日の沈み掛けた空が茜色を帯びている。


いつもなら、この場景じょうけいが美しいと、感嘆を漏らしていただろう。


しかし今に限っては、空の茜が闇へと誘う不気味な血の色に見えてしまう。


間もなく黄昏たそがれどきを迎える。


日没と共に冷たい風が街全体を吹き抜け、体が凍える程に寒くなってきた。


街の住人も外の冷気から逃げる様に家への帰路を急ぐ。


人気も徐々に薄れ始めた街の中、人の流れに逆らう様に歩く2人の人物


1人はスラリとした長身の男性、黒髪をオールバックに整え、フード付きのコートを羽織っている。僅かに彫りの深い顔から、彼が日本人っぽくないと思わせる様な雰囲気を感じさせる。


そして、もう1は背中まである長いブロンドの髪、深い碧眼が特徴的な女性。彼女の腕の中には、スヤスヤと寝息を立てて眠る少女の姿がある。


彼女は、少女の体が冷えないよう、自身のコートを羽織らせ、まるで宝物を扱うように抱いている。


「アリア、もうすぐ私たちの悲願が成就する。だから、そんな顔をしないでおくれ」

「わかってる。……でも、理屈じゃないの。判ってくれるでしょ、ローリー?」


少女の顔を見る度に、表情を曇らせるアリア。


それは、悲しそうで寂しそうで、それでいて申し訳ないといった感情が滅茶苦茶に混ざり合った、とてもではないが言いようのない表情だった。


そんな不安定な精神状態で、尚も男の言いなりなるのは、それだけ彼……ローリーが彼女にとって大きな存在である事を示している。


そして男は歩みを止め、アリアの目を真直ぐに見る。


「もちろんだよ。私が居ない間、彼女は君を支えてくれた恩人だ。だからこそ、君たちを引き裂かないために、これから私たちは1つになるんだ」



アリアの事を全て判っているかのように、…彼女の身を案じているかのように語る男は、まるで全ての悪を包み込んでしまうような慈愛の笑みを浮かべる。


「それに、これは彼女のためでもある。きっと、彼女だって君を孤独になんかしたくないハズだ。心では、それが判っていても、まだ幼すぎる彼女には、私たちが成そうとしている行いを理解するだけの知識も心も備わっていない」


言葉の節々にアリアの不安を煽る言霊を織り交ぜつつ、少女は自分たちの理解者足りえると、身勝手な論法を振るう。


「だけど、私と1つになれば、彼女は理解するだろう。そして、君に感謝をするハズだ」

「感謝―――?」

「そうさ、これからずっと一緒に居られると……彼女もきっと、それを望んでいるハズだ」


ローリーの言葉が次々に力の篭った言霊となって、アリアの心を埋めていく。


気が付けば、彼女の表情からは不安の色が薄れ、代わりに強い意志を秘めた感情が顔を覗かせていた。


その変化を男が満足そうに眺めると、僅かに口元を歪ませる。


「さぁ、もう大丈夫かい?」

「…ええ」


そう応えたアリアからは、迷いのないハッキリとした答えが返ってきた。


2人は、止めていた歩みを再び進める。


その最中、ローリーは自身の周りに気配を感じとった。


「…首尾は上場かい?」


くうへと声を発する男、見る者によっては、独り言のように思える行動だが、間違いなく聞き手は存在していた。


「ああ、問題なく処理したぜ」


虚空からいかつい体格をした男が現れ、ローリーとアリアの後ろに続く。


「なぁにが、問題なくよ。アンタは好き勝手に暴れただけで、殆ど私がやったんじゃない」


続いてギャルのような女が現れ、文句を言う。


「あなた達、子供等に酷いことしていないでしょうね?」

モウ問題マンタイよ。今は、力を奪って異相空間に閉じ込めているわ」

「よく言う。る気満々だったじゃねぇか」


殺す気だったと言う剛鬼の言葉を聞いて、アリアの目がスッと細められる。


「勘違いしないでよ。あくまでもる気で挑まなきゃならない相手だったって意味だからね」

―((嘘つけ―――))


刹那の言い訳めいた言葉に、ローリーと剛鬼は彼女のげんが嘘であると見抜いていた。


だからこそ、彼女のお目付け役に剛鬼を傍に置いたのだ。


「…力は刹那達の方が遥に勝っていたハズだが?」


別に彼女の言葉尻を取ろうとしての意味ではない。単純に刹那と熾輝の実力には開きがある。熾輝自身もそれは十分に理解はしていたことだ。


「単純な力は、私の方が上なのは事実……だけど、気が付けばこちらが追い込まれるような状況を作り出すのよアイツは」


熾輝との戦闘を2度、体験した刹那であるが、確かに2回の戦いにおいて、序盤は彼女が有利だった。しかし、気が付けば追い込まれているのは自分だったというパターンに持ち込まれていた。


「はは、おめえはからめ手に弱いからな」

「うっさい!アンタこそ罠にはまって黒焦げに―――」

「おいおい、俺はお前を庇って、ああなったのを忘れたか?」

「ヴヴぅ……」


一見、身を犠牲にしたと聞こえる。…がしかし、実際は熾輝の戦術にハメられていたのは、事実であり、それを隠すために刹那に押し付けていたりする。


「ははは、なるほど。どうやら事前の情報と違って、君たちにとっては色々と厄介な相手だったみたいだね……君はどう思う?」


先ほどから黙って聞いていたアリアに水を向ける。


「あの子は……熾輝は、基本的に頭で戦うタイプよ。事前に戦う相手の情報があれば、幾つもの対応策を用意して挑むわ。私たちも今までそれに助けられてきた―――」


そう語るアリアは、今も腕の中で眠る少女に視線を落とす。


これまで、魔導書を封印するに当たり、異相空間で敵の情報を得られれば、躊躇なく撤退し、対応策を用意した上で戦闘に臨む。


そういった事前準備を愚直にこなす事によって、仲間の安全性を十分に確保しつつ、達成率を確保し続けてきた。


「基本的に…かい?」


アリアの言葉に気になる点をみいし、ローリーは質問を投げかける。


「周囲の状況に左右されやすいと言うのかしら?余裕のないときは、考えるよりも先に行動していたわね。あの時も自分を犠牲にしてまで………って、やめましょうよ、この話は!」

「…そうだね。すまなかった。」


仮にも自分が裏切ってしまった仲間の話だ。誰も好き好んで話をしたいとは思わないだろう。


と、ここで彼らの歩みが止まった。


「さて、到着だ」


そう言った彼らの視線の先には、広大な敷地をぐるりと囲うようにフェンスが敷かれ、入口には頑強そうな鉄製の門が設置されていた。


門の横には、大きな文字で【白岡小学校】と刻印された表札が一つ……


そう、ここは熾輝たちの通う小学校だった。


「では、手筈どおりに…剛鬼は結界の設置を頼むよ」

「判った」

「刹那は、学校内に残っている人が居れば外に摘まみ出しておいてくれ」

「はいは~い」


事前に詳細な説明は済ませていたのか、簡単な指示だけを2人に飛ばす。


校門前で、別々に行動を開始し、ローリーとアリアは校舎内へと入って行った。



◇   ◇   ◇



階段を昇り、最上階にある鉄製の扉を開けると、そこは夜のとばりに包まれた闇が広がっていた。


「…配列が整うには、まだ十分時間があるね」


男は懐から古めかしい懐中時計を取り出し、時刻を確認している。


「先に、彼女の準備を進めておこう…アリア」

「わかった」


男の呼びかけに応じて、彼女は腕の中で眠る咲耶をそっと下ろす。


すると、アリアの身体が金色に包まれ、見慣れた大杖へと変化すると、ローリーの手に収まった。


「…あぁ、懐かしい感覚だ」


自身の手にある大杖アリアの感触を確かめるように、幾度いくどとなく握り直す。


「ちょ、ちょっと!ローリー!?」

「あ、あぁ、すまない。つい懐かしく感じてしまってね」

「もう!……ばか」


幾千の時を超えて、1人の魔術師と1人の女性が真に触れ会う事が出来た瞬間だと、…アリアは、そう感じずにはいられなかった。


「では、………始めよう」


名残惜しさも早々に切り上げ、男を中心に魔法式が展開された。


「さぁ、眠りの時間はお終いだよ。……ゆっくりと立ちなさい」


ゆったりとした声で言葉を紡ぐと、彼の目の前で眠っていた少女がゆらゆらとした動作で立ち上がった。


しかし、その瞳に光がない。……いまだ意識は覚醒していないのだ。


「アリアを握って……そう、……さぁ、次は魔導書を出すんだ」


ローリーの言葉に誘われて、少女は次々と彼の言い付けどおりの動作をする。


「では、…君と、魔導書にまつわる物語を今終わらせよう」


そう言った男の手に出現した最後の魔導書……名をヒストリーソース、対象の履歴、つまりは人生を閲覧することを可能にする秘術


彼は、最後の魔導書を高らかに掲げる。


「君の手で、アリアと共に、最後の魔導書を封印するんだ!」

「………」


咲耶は、手にした大杖アリアの先端を掲げられた魔導書へと向ける。……しかし


―(動かない?……チッ、深度が足りなかったか)


意識が無いハズの少女は、封印の光を放とうとしない。


むしろ、男の言葉に抗おうとする様に、大杖を握る手が僅かに震えている。


だが、そんな少女の抵抗を嘲笑うかのように、男から一層強い魔力が注がれる。


そして………


無意識の抵抗は、一瞬にして終わり、少女が握る大杖アリアへと流出する魔力が黄金へと変換される。


「…ふ、う……いん」


操り人形の様に、行動を支配された咲耶は、ついに最後の魔導書を封印するべく、黄金の光を放つ。


その最中、少女の頬に一筋の涙が流れた事に気が付く者は誰もいなかった――――



◇   ◇   ◇



光はうごめく式を呑み込むと、所持する魔導書へと封印された。


「ふ、ははは!………おめでとう、結城咲耶さん。君は見事に試練を乗り越えた。そして、今日、この日から生まれ変わる!あらゆる事象を改変する最高の魔術師…いや、魔導士へと!」


感極まったように、意識の無い咲耶へと演説めいた言葉を投げかける。


それと同時、少女の身体が浮かび上がり、魔導書のページがバラバラとめくられ、次々と封印されたハズの術式が放出さていく。


「さあ!我が魔導書よ!今こそ真なる力を示せ!裏術式、【魂魄スピリット融合フュージョン】!」


そして紡がれる魔法名、咲耶を中心に荒れ狂うように蠢いていた術式が次第に規則性を得た新たなる術式へと変貌を遂げていく。


「ローリー、これが魔導書に隠されていた力なの?」


ヒストリーソースを封印後、人型へと戻ったアリアが男の傍へと歩み寄り、咲耶の身に起きている状況に目を奪われる。


「あぁ、これこそが私の魔導書の真の力。魂同士を融合させる秘術スピリットフュージョンだ」

「こんな術式が隠されていたなんて」

「だけど、コレだけじゃ不十分。この術式を完成させるには、龍脈の流れ・星の配列・時間、そして………なによりも重要な要素は、魔導書の所有者が各地に散らばった術式を封印するという儀式が必要なんだ」


次第に完成されつつある術式を前に、男は秘術の解説を行う。


「魔導書に収められた術式には、私が造った自律型魂魄が内臓されていた。それが魔導書の術式を外へと出し、適性を持った妖魔に憑依する。自律型魂魄は憑依した時点で役目を終えて消滅するが、ある仕掛ギミッが施される」


自身の解説に酔っているのか、ツラツラと講釈を垂れ続ける。


「術式を魔導書へ封印した者と魂を結びつける……いわば所有権の上位、魔導書の管理者としての繋がりを持たせるための仕掛けだ。だから、魔導書と魂の接続が完全となることで、スピリットフュージョンはより完全なものとなる」


説明も終わったところで、男は「さて」と一泊置くとアリアへと視線を向けた。


「全部の準備が整うまで、まだ時間がある。あとは2人の到着を待とう―――」

「…ローリー?」


屋上へ来て、今に至るまで、それ程時間は経っていない。


しかし、2人…彼の式神である刹那と剛鬼に言い渡した任務は、もう終わって合流していても可笑しくはないくらいには時間は経過していた。


「いまだ結界が敷かれていない。……どういう事だ?」

「そういえば、……2人から連絡は?」


アリアの言葉を受けて、懐から携帯端末を取り出した男は、ディスプレイのボタンを操作して、発信ボタンを押そうとしたその直後、………彼の動きが止まった。


「どうしたの?」

「………」


その動きを不審に思ったアリアが声を掛けるも、男はそれには答えない。代わりに、視線を流し、屋上の一点を見つめる。


「まさか……ここへきて、君が立ちはだかるとは」


男の視線の先、屋上へと続く鉄製の扉、そのドアノブが回され、ゆっくりと扉が開く。


「っ!?――まさか、…なんで?」


ローリーの視線に誘われるように、アリアもまた、突然の来客へと視線を向ける。


しかし、その来客を目にして、驚愕を禁じえなかった。


なぜなら、その者は自身が知っている限り、戦う力を持たない。


非戦闘員と言っても過言ではない。


魔術に対する知識もなく、身体能力も同年代の者と比べて平均をやや下回っている程だ。


そんな者が、アリアたち…魔術師が生きる世界に単独で乗り込んでくればただでは済まない。


それなのに何故―――


「こんばんは、――アリアさん、咲耶ちゃん、迎えに来たよ」


白衣びゃくえに身を包み、緋袴ひばかまを着用した少女―――


誰が見ても由緒正しい巫女の姿―――


彼女こそ、この街をいにしえから守護する神をまつりし神社しんでんの守り人にして、わざわいを祓う者―――


「燕―――」


名を口にしたアリアの表情が途端に曇る。


そんな彼女の様子を見て、燕は困ったような笑顔を浮かばせる。


そして、一泊置いたのち……


「初めまして、私は法隆神社のかんなぎ、名を細川燕と申します」


アリアの横に佇む男に、折り目正しく頭を垂れる


その動作の一つ一つが流麗で、普段の彼女からは、想像も出来ないくらいに美しい


「これはこれは、御丁寧に…そちらが名乗った以上は、こちらも名乗りを返させてもらいましょう」


男は、心臓の前に拳を握り、左手を腰に回すと軽く頭を下げた。


「我が名はエアハルト・ローリー、アリアの真の所有・・()だ」

「エアハルト・ローリーさん……そうですか」


一瞬、彼女の息が詰まり、男に対する畏怖がよぎる。しかし、同時に何かを納得したように心を静めてみせた。


「早速で申し訳ないのですが、エアハルト・ローリーさん―――」

「ローリーで構いませんよ、小さな巫女さん」

「…では、ローリーさん、お二人を返して下さい」


「巫女さん」と呼ばれ、少女の口が僅かにムッとなる。


「お二人……とは、アリアと結城咲耶さんのことですか?」

「判り切ったことを言わないで下さい。彼女たちは、私の大切な友達です。彼方の様な悪者わるものの傍に置いておく訳にはいきません」

「悪者、ですか……酷い言われようですね」

「そう言われる様な事をしてきたのは誰ですか?」


燕の言葉に「はて?」と顎に指を添えて考え込むローリー


「心当たりが無いのですが?」


何も悪い事はしていませんよ?と語る彼を燕は、眼をスッと細めて睨み付ける。


「以前、…街の土地神に何をしたのかを覚えていないと?」

「あぁ、そう言えば、そんな事もありましたね。いやいや失敬、余りにも昔の事すぎて、思い出せませんでした」

「このっ、―――」


まるで彼女を挑発しているかのような男の態度に、燕は「この野郎うぅぅう!」と叫びそうになったが、そこは堪えてやった。


「そう、ですか。…でも、お二人は連れ帰らせてもらいます」

「ほう、…ちなみに断ると言ったら?」

「本意ではありませんが、彼方を倒してでも取り返します」

「倒す?…君が?私を?」

「はい」


燕の言葉を聞いて、ローリーはポカンと口を開けたまま固まった。


そして、僅かな静寂ののち…


「クッ、あははははは―――!」


彼は、腹を抱えて笑い始めた。


「何が可笑しいのですか?」

「はははは、いや、すまない!はは!―――?」


余りにも突拍子もない答えに、ローリーは涙を浮かべて笑う。


しかし、燕の表情は真剣だった。


その表情を目の当たりにし、次第、彼から笑いが消えていく。


「……本気かい?」

「はい」

「ん~、一応私も君の事は知っているよ。細川燕、法隆神社の巫女。先代巫女である母親から巫女としての能力ちからを引き継ぎ、3人の神使を現世に顕現させる。巫女としての潜在能力は極めて有能………ただそれだけだ」


あらかじめ、魔導書に係る人間について調べていた情報を得意げに語る


「魔術の知識は無く、オーラでの戦闘は出来ない。仕えている神使も私が使役する式神に遠く及ばない」


ローリーの情報は、間違っていない。


彼女が魔導書事件に関わる様になって、戦闘面で役に立ったことなど1度も無いのだから。


「そんなこと、言われるまでもなく、私が一番理解しています」

「そんな君が、私を倒すと言うのかい?」

「何度も言わせないで下さい」

「…………ハァ」


いくら水を向けても、かたくなに対抗する意思を無くそうとしない燕に対し、若干の苛立ちが湧いてきた男は、深い深い溜息を吐いた。………直後


「っ!!?」

「ろ、ローリー!?」


腕を一閃、横に薙いだ瞬間、燕の目の前のコンクリートが横一直線にえぐられた。


たったそれだけの行為だが、顔から血の気が引き、足が震えてくる。


「細川燕、…巫女さんごっこは、お終いだ。その線は君と我々との境界線。もしも、その線を一歩でも踏み越えれば、命の保証は出来ない」

「や、やめてローリー!あの子は私たちとは違うの!」

「判っているよアリア。私も君の友人に手を出すつもりはない。……だけど、彼女が私たちの悲願を阻むのであれば―――」

「私が!私が説得するから、少しだけ待って!お願い!」


魔術による威嚇を放ったローリーに対し、アリアがすがるように懇願こんがんする


「燕!お願いだから帰って!これ以上、誰も傷つけたくないの!」

「アリアさん……」

「私は、ただ咲耶やローリーと一緒に居たいだけなの!独りになるのが嫌なの!だから―――」

「だから、私たちの傍から居なくなるの?だから、私たちから友達を奪うの?」


叫びながら燕を制止させるアリアの声を、澄み切った、それでいて良くとおる声で両断する。


「そんなの認めない。…大切な人が居なくなる苦しみを知っているからこそ、尚更」

「っ―――!」

「お母さんが死んだ私には、アリアさんの苦しみを少しは理解できるつもりだよ」

「そんなの、……人間である彼方たちには限りがあるけど、私には永遠に付き纏う。ましてや、彼方には優しい父親やコマ達がいるじゃない」


自分には何も無かった。


信じていた男にも先立たれ、周りを見れば力を求める有象無象


永遠とも言える人生を彼女は孤独に生きてきた


「そう、だね………それに、私には難しい事は判らない」

「だったら―――」

「でも、これだけは判る」


アリアの全てを理解できるだなんて、無責任な事は言えない。


まして、彼女の人生の重みを理解しようにも、人間で、しかも子供の自分には計り知れない。


だが、目の前で苦しんでいる友達を前に、このまま家に帰るという選択肢だけは、彼女にはなかった。


その事実だけで、不思議と震えが治まり、一歩を踏み出す力が宿る。


「悪者の言いなりになって、アリアさんが幸せになれる訳がない!」

「ツバメ!」

「ましてや、アリアさんを所有物扱いするような男が、どうして女の子を幸せに出来るって言うの!」

「だめえええぇえ!」


確かな意志を秘めた少女が今、世界の境界線をまたぎ、力強く大地を踏みしめた!


「駄々っ子さん、我がままの時間はお終いだよ」

「なん、で」


少女の行動に理解が追いつかない。


現実を直視する事が出来ずにアリアは少女から目を逸らす。


「やれやれ、出来れば大人しく帰って欲しかったんだが仕方が無い」

「ろ、ローリー待って―――」

「アリアの手前、手荒な真似はしたくなかったが、これは君の選択だ」


アリアの静止の声を最後まで聞くこともなく、いにしえの魔術師は、魔力を巡らせ、瞬く間に術式を構築すると同時、少女へと魔術を発動させた。


放たれた魔法は、漆黒のかいなとなって、か弱き少女へ一直線に伸び、彼女の存在を呑み込んだ。






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