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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【下】
142/295

第一四二話 炸裂!魔術闘技!

地震発生から約1時間後の現在、シキたちは事前に決めていた場所に集合していた。


「おそらく、これが街に散らばった最後の1つだ。みんな、心してかかろう」


街に散らばったと付けたのは、残りの1つの所在が未だに正体不明の敵の手中にあることを指している。


そして、ここに集まった面々は、シキの言葉に首肯して応える。


「アリア、魔導書について、改めて説明してくれ」


事前に最後の魔導書の事は、説明を受けていたのだろう。


だが、改めて説明を求めたのは、慎重なシキの性格故とおのおのへの注意のためだ。


「わかった、街に散らばった最後の魔導書は【再演リフレイン】よ。この魔導書の特徴は、術式を起動してからの期間内に発生した霊的現象を再現させるわ…」


改めて説明をするアリアの表情が次第に曇りだす


「本当は、初期段階で封印したかった」


いつもの明るい雰囲気が、この時ばかりは、鳴りを潜めている。


そして、一泊置いたのちに語りだす。


「この魔導書の恐ろしいところは、霊的現象をただ再現させる訳じゃない。今まで私たちが封印してきた妖魔の復活と言ってもいいわ」


復活と表現したのは、おそらくアリアが危惧していた事柄に繋がる


「ただの再現なら、霊的現象は、過去の行動に沿った形でしか動かない。でもリフレインは、今も存在しているような動きをする」

「…存在しているような動き?」


以前、アリアはリフレインについて、説明を行った事があるが、その時は、今ほど詳しくは話していなかったため、サクヤから疑問の声が上がった。


「つまりはうつしみか」


サクヤの質問にシキが回答を示すと、アリアがその通りだと、首肯する。


「今から相手にするのは、過去に封印してきた魔導書を内包する全ての妖魔よ」


その絶望的な状況に誰かの唾をのむ音が聞こえる


そして、僅かな静寂が場を支配するも、それを破ったのは、可憐だった。


「今まで、咲耶ちゃんと熾輝くんが苦労して戦ってきた妖魔を一度に全部相手にするなんて、可能なのですか?」

「それは・・・」


その疑問は、あってしかるべきだ。


アリアもこんな絶望的な状況にしないよう、リフレインを初期段階で封印したかったと言っていたのだ。


尚且つ、今のシキとサクヤの状態は最悪と言っても過言ではない。


お互いの身体が入れ替わった状態で、戦えるとは誰も思っていない。


そして、現在の咲耶は魔術が使えない。


例え熾輝の身体から湧き上がるオーラがあろうとも、それを扱う術を知らないのでは、宝の持ち腐れだ。


ただ、彼女等が絶望する状況下において、唯一、平時と変わらぬ……いや、いつもと違い、自信に満ち溢れる声を発した者がいた。


「大丈夫だ」


シキだ。


声を発している身体は、咲耶のものだが、その中身は全くの別人


「サクヤ」


そして、シキはサクヤへと視線を送る


「な、なに?」

「これからサクヤ本来の力を証明する」

「…わたし本来のチカラ?」


言われてキョトンとする一方で、今までアリアから凄い才能を持っていると言われ続けた彼女は、心のどこかで疑いを持っていた。


それは、彼女の周りに魔術を扱える者がアリアしかおらず、魔術を教わっていた熾輝が劣化魔術を使っているところを数える程しか見た事がなく、自分と比べることがままならなかったため、自分の力に自信が持てなかったのだ。


「そして、この戦い、僕1人で片を付けて、それを証明する」

「「「!?」」」


余りにも無謀に聞こえる言葉に、その場の全員が驚愕に表情を染める。


「そ、そんなの無理だよ!今までの妖魔全部を相手にするなんて!」

「シキくん本気!?いくらなんでも無謀すぎるよ!」

「敵の数は圧倒的なんですよ!ここで無理をしてシキくんに何かあれば、咲耶ちゃんの身体はどうなるか判っていますか!?」


少女たちが口々に静止の声を上げるなか、ただ一人だけ何も言わずにシキを見つめる者がいた


「シキ…」

「うん?」

「アンタならやれるの?」

「っ!?アリアさん!?」


出来るのかと問いかけるアリアの言葉を疑うように可憐が声を上げる


「もちろん……だって、今の僕はサクヤなんだから」


まわりの少女たちの静止を気にも止めずに、アリアの問いに即答する


「……はぁ、わかった」


そして、彼女も覚悟を決め、目の前のパートナー(中身は熾輝)に戦場を預けることを了承した


「でも、言っておくけど、咲耶の身体に傷一つでも付けたら許さないんだからね!」

「心得ているよ」


もはや、本来の身体の持ち主であるサクヤを置いてけぼりにして、二人は話を進めていく。


がしかし、やはり彼女に了承を得られないことには、シキが好き勝手していいハズもないので、彼は改めてサクヤへ目を向ける。


「サクヤ、悪いけど今回の魔導書を封印するには、僕が戦うしかない」


さもなくば、現実世界への影響は、計り知れないとは言わない・・・しかし、彼女は、その事を理解している。


「そう、だよね。今のままだと私は戦えないし、シキ君の足を引っ張っちゃう」


また自分は、彼の後ろに隠れて傍観するしかないのかと、彼女の心はさいなまれる


「そんな風に思わないで」


だが、彼女たちと出会い、少しは人の優しさというものを理解した少年から出た言葉は、彼女が抱いた罪悪感から救い上げる


「サクヤだけじゃなく、僕は燕も乃木坂さんの事も足手まといとは思っていないよ。それにみんなから教わった事がある・・・」

「わたしたちが教えたこと?」


いったん言葉を切ったシキは、気恥ずかしそうに明後日の咆哮を向きながら答える


「…守ることで得られる強さもあるってこと」

「「「「・・・・・」」」」


少女達は言葉を失った


「と、とにかく!今回は、それがチームワークって事で納得してくれ!」

「は、はい!」


余りにも突然だった。


今までの彼であれば、今の様な台詞を吐いたりしなかった。


まるで、漫画の世界の主人公が言うような台詞をこんな所で聞くことになるとは、誰が予想できただろうか。


もちろん、言った本人ですら、後悔と恥ずかしさに耐えられなくなって、耳を真っ赤にしてたりする。


しかし、少女たちの表情からは、先ほどまでの絶望的な状況に対する陰りが吹き飛び、代わりに目の前の、1人の友人に対する絶対的な信頼が見て取れた。


「…それじゃあ、ゲートを開くよ」


シキの言葉に全員が首肯する。


そして、シキから魔力がほとばしり、空間ディメ魔術ションの魔法式が一瞬にして虚空に描かれた。


(す、すごい…一瞬でゲートを開いちゃった)


その光景にサクヤは目を見開き驚愕していた。


いつもの自分なら、魔法式を展開させるのに数分の時を要し、尚且つ、魔法式の展開にも円を描き、更に必要な式を書き加えるといった手順を要する。


だが、今目の前で起きた現象は、そんな手順をすっ飛ばしていた。


まるで、白紙の上に印を押すように、あらかじめ用意されていた術式を空間に出現させたようだった。


「さぁ、いくよ」


そんな絶技を披露したシキは、彼女の驚きに気付きもせずに、異相空間へと足を踏み入れた。


そして、彼の後を追うように、少女たちもまた、妖魔たちが溢れかえる戦場へと赴くのであった。



◇   ◇   ◇



セピア色の世界―――もはや少年少女たちにとって見慣れた光景だ。


だが、今回の異相空間は、これまでとは規模が違う。


街全体をフォールドとし、あらゆる場所から妖魔の気配が伝わってくる。


その数およそ108つ


ローリーの魔導書には本来、110の魔術が収められている。そして、今回の魔導書を封印すれば、残る魔導書は敵が保有しているヒストリーソースのみとなる。


「それじゃあ、始めるか」


シキは、魔力を拡散させて街全体に散らばる気配をくまなく探る。


現在、咲耶の身体に入っているシキの主な武器は魔法だけだ。


常時であれば、魔力・オーラ・仙術等の複合技術によって、半径500メートル圏内の気配を探知する事が出来るが、今はそれ等を使用する事が出来ない。


使えるのは魔力コントロールによる索敵だけだ。


己の身体を基点とし、ドーム型に魔力の膜を放つ―――これは、レーダーと同様の仕組みで、物体に反射してきた魔力波から、物の位置関係を把握する。


もっとも、妖魔に当たった魔力だけは、他の物体とは違い、変質して反射してくることから無機物と有機物の違いを判別させている。


(みごとに散っているな・・・・しかも、此方こちらに接近する気配が5つか)


後ろに控える少女たちを一瞥し、シキは迫りくる気配へと意識を向ける。


「双刃、いるかい?」

「はっ!お傍に!」


声を掛けると同時、実在から離れていた式神が虚空から姿を現す。


もっとも、式神と言っても、シキと契約を交わしていないので、正確には知性をもった野良の高位霊と呼ぶべきだ。


「妖魔は、僕が相手をする。その間、彼女等の護衛を任せられるかな?」

「…主命しゅめいとあらば」

「ありがとう」


本当なら、シキの傍を離れず、共に戦いたいと言うのが本音だろうが、この場で、それを口にしても、彼を困らせてしまうと判っているので、口には出さない。


それに、シキの身体には咲耶がいるのだ。


とらえ様によっては、主の身体を守護するようなもの。


であるならば、彼女の役割は果たせていると解釈できる。


「アリアもサクヤたちの傍に――」

わたしが居なくても平気?」

「問題ない。むしろ、守りの戦力は多いに越したことは、ないからね」

「りょうかい」


念のため、彼女達を守る結界を張る事を忘れずに、一瞬で魔術行使を行う。


発動された術式は、魔力障壁と物理障壁が幾重にも重ねられた多重結界だ。


そう簡単には突破は、されないだろうが、念には念を入れて、過剰とも思える結界の層を造り上げていく。


「シキくん、魔導書を―――」

「必要ないよ。ローリーの書を使うには、莫大な魔力が必要になるから、ガス欠になりかねない」


サクヤは、小脇に抱えている魔導書をシキに渡そうとしたが、瞬時に展開された結界式が2人を遮ろうとし、慌てて声を掛ける。が、彼女の心配を他所に、申し出は断られた。


「取り敢えずは・・・」


心配をする少女達を背にする形でシキは、迫る妖魔に意識を向ける。


いまだ目視での確認は出来ないが、すでに周囲に密集している家屋1軒分を隔てて近づいている。


(落ち着いて、修行を思い出せ・・・心は熱く、頭は冷静に―――)


限りなく、身体のりきみを排除し、自然体に近づける様に心身をリラックスさせる。


シキが纏う雰囲気がガラリと変わり、その様子は少女たちが見ても一目でわかる程の変化


…ゴクリと、彼女らの誰かが喉を鳴らす。


そして・・・


民家の死角から5つの影が躍り出た。


それぞれシキを囲むように四方八方の位置からの接敵。


あらかじめ妖魔同士で打ち合わせをすると言う事は、まずあり得ないだろう。


だとすると、同時に攻めてきたこの状況は、偶然と断言できる。


「悪霊退散、急急きゅうきゅうにょりつりょ


詠唱を唱えると同時、シキを基点として衝撃が放たれる。


「「「「「っ!!?」」」」」


四方八方から襲い掛かっていた妖魔が、目に見えない衝撃を受け、吹き飛ばされる。


土気どき木気もくきしょうず」


作り出された隙によって、更なる魔術を行使


つま先で、地面を2度、コンコンと蹴る事によって、地中に存在する樹木の根に魔力を伝えると、アスファルトの地面が盛り上がる。


大地に敷かれた固い蓋を安々と突き破り、月が昇る夜空に向かって5つの樹槍が突き出された。


樹槍が貫いたのは、夜の虚空でも空の月でもない・・・衝撃によって吹き飛ばされた5匹の妖魔だ。


「まずは5匹」


大地から放たれた槍によって、穿たれた妖魔を目視で確認することなく、シキは歩みを進める。


樹槍によって、核を破壊された妖魔の写身うつしみは、霧散するように夜の闇に溶けていった。


「す、すごい…あっという間に5匹も倒しちゃった」

「確かに凄いけど、驚くべきは、術の発動スピードと正確性よ」


瞬く間に妖魔を倒した事に驚くサクヤに対し、アリアはシキが発動させた魔術に驚愕する。


詠唱から樹槍へとつなげる一連の魔術行使


発動させている魔術自体の難易度は、それほど高くないものばかりだ。


それでも、あれほど淀みのない発動を行使できる人間は、彼女の長い人生の中で、どれだけ居るだろうか。


しかも、動く的に樹槍を当てる事がどれだけ難しいか・・・それをシキは、当てるにとどまらず、妖魔の核をピンポイントで貫いたのだ。


「なんで、シキはこれほどの実力があるのに、今まで隠していたの?」

「アリア、そ、それは・・・」


シキは魔術を使えない。


その事実を知らないアリアの疑問は当然と言える。


「シキ様は、実力を隠していた訳ではございません。単に魔術を使えなかっただけのこと」

「双刃ちゃん!?」


内緒にしてくれと頼まれていたシキの秘密をあっさりと明かした事に、サクヤは耳を疑う。


「使えなかった?」

「はい、シキ様の魔力は、サクヤ殿のように万能型ではないので…」

「なるほど…特定分野の魔術に偏った才能って訳か」


魔術師の特性として、咲耶のように、あらゆる魔術を扱える者は少ない。


普通の魔術師は得意分野の探求をするのが一般的だ。


魔術を理解しているアリアだからこそ、双刃の言葉足らずな言い方で、己の答えを導き出た。


もっとも、彼女の答えに対し、肯定も否定もしないのは、主の秘密を守るため、あえて口にはしないだけで、双刃は一言たりとも嘘は言っていない。


そうこうしている内に、シキは付近に点在する妖魔へ向けて走り出した。


走り出したと言っても、肉体に頼った動きではなく、魔術を行使しての移動だ。


地を蹴る力のベクトルを強化し、飛ぶように移動を開始する。


咲耶であれば、魔導書の飛行術式を起動させて、文字通り空を飛んで移動するのだろうが、あいにく、飛行術式は魔導書などの補助魔道具を使用しなければ、行使が困難な術式のため、ここでは使用できない。



◇   ◇   ◇



シキが移動を開始して程なく、既に数体の妖魔を祓っている。


そして現在、数えるのも面倒臭くなるほどの妖魔の群れがシキを追うように追従していた。


後方を一瞥し、妖魔の動静に気を配る。


ときに妖魔から放たれる攻撃を躱し、防ぎ、相殺して…数で勝る妖魔の猛攻は、休ことなくシキを攻め立てた。


だが、シキは危なげなく、それら全ての攻撃に対処をして、一定距離を付かず離れず、様あを引き連れて街中を走り抜ける。


(そろそろか………やっぱり、頭の良い妖魔は、おびき出されないか)


妖魔の群れを引き連れながら移動するシキは、再び後方を一瞥すると、目前に迫る目的地に向かって一気に駆け抜けた。


一気に群れを突き放したように思われたが、妖魔たちはシキを視認できる直線上にいるため、見失う事はない。


というよりも、先ほどから己の存在を教えるために、魔力を放ち続けているので、当然と言える。


単に魔力探知を使うのは、敵の居場所を把握するだけではなく、自分の存在を強く印象付けることによって、咲耶たちのところへ妖魔が向かわないようにしていたのだ。


「ここで一気に仕留める」


街の一角にある広場に躍り出たところで、シキは立ち止まり、後ろを振り向く。


視線の先には妖魔の群れ


だが、彼に焦りはない


なぜなら、これこそが彼が思い描いていた最善の形なのだから


(まだ、街の数か所に妖魔がいるけど……頃合いだ)


迫りくる妖魔がシキのいる広場へと侵入を開始した。


広場中央に陣取っている少年に焦りの色はない。


(十分に引き付けて・・・・・今!)


シキめがけて襲い来る妖魔を目前に、一気に跳躍


「捕縛術式、…地縛じばくろう!」


地面が隆起し、広場の外周を囲うように、ドーム型の牢獄が形成される。


質量を持った結界が妖魔を封じ込めるのと、新たに編んだ術式が発動するのは、ほぼ同時だった。


炎渦えんか胎動たいどう!」


大地が燃え盛り、土はマグマ状にドロドロと誘拐を始める。


牢獄内に炎獄が顕現する。


地獄の歩脳に焼かれた妖魔は、抗う余裕すらなく、一瞬で消滅した。


牢獄を形成する土からは、一瞬にして水分が奪われ、各所に亀裂が入る。


そして、牢獄内で滞留していた熱は、外部へと逃げるために亀裂が入った箇所へと集中し、その熱量を外界へと解き放った。


その光景は、まるで火山噴火である。


凄まじい爆音と粉塵が周囲を覆いつくす。


「……よし、次だ」


目の前で起きる光景に目もくれず、妖魔の消滅だけを確認したシキは、残る妖魔の殲滅に駆け出した。



◇   ◇   ◇



突如出現した山が、次の瞬間には炎を噴き出しながら爆発した。


その光景を目にした少女たちからは、もはや驚きの声しか出てこない。


「な、なんて出鱈目な魔法力!」


驚愕しているのは、少女たちだけではなく、戦況を見守る双刃も同様だ。


「以前から咲耶殿の魔法力は群を抜いているとは、思っていましたが、よもやここまでとは!」

「・・・」


いつもなら、「私の咲耶なら当然よ!」と、自慢げに誇るアリアですら、声が出てこない。


(ウソでしょ!?何でここまで威力のある魔術を人間が発動できるの!?しかも、この規模…魔導書に匹敵する殲滅力、こんな魔術師・・・ローリーを超えている!?)


彼女の知りうる中で、最高峰の魔術師を超えているとさえ思わせる魔術師の存在


その人物の中身は、まったくの別人であるのだが、しかし、そのポテンシャルは、紛れもなく彼女の傍らで佇む1人の少女の片鱗だ――








(―――これが、本来の私のチカラ?)


そしてここに、戦闘が開始されて以降、驚きに身震いする少女の姿があった。


魔術を発動している身体の本来の主、結城咲耶である。


(これが……本当の魔術なんだ)


その身震いは、決して恐怖や畏怖によるものではなく、彼女が初めて魔術に触れてから、久しく忘れていた感動によるものだった。


おとぎ話に語られる魔法を始めて使った日、彼女の心は踊っていた。


しかし、魔術に触れれば触れるほど、恐ろしさも感じていた。


魔導書が引き起こす事件で、何度も危険な目に遭い、いつもギリギリの精神こころで戦い抜いてきた。


そして、・・・・目の前で繰り広げられる本当の魔術戦


術の威力や効果は勿論のこと、その多彩さ―――


何もかもが彼女の心を惹きつけ、目に焼き付いて離れない


心が躍り、ゾクゾクと何度も身震いをする。


(わたしも―――)


魔を自在に操り、己が物とする。


そんな彼を見て、彼女は渇望する。


(わたしも、あんな風に魔術を使いたい)


それは、彼女が真に触れてから初めて持った目標でもあった―――





「―――ん!――ちゃん!――サクヤちゃん!」

「…え?」


食い入るようにシキが戦う光景を見つめていたサクヤに、可憐が焦ったような声を掛けていた。


「みなさま、お下がりください」

「え、なに?」

「……敵です」


敵と口にした双刃の視線の先に、暗闇から彼女等に迫るシルエットが覗いた。


「最悪の敵ね…まさか、こっちに現れるなんて」

「あの妖魔って、……まさか」


そのシルエットには見覚えがあった。


ボロボロの大剣を引きずりながら、ゴリゴリとアスファルトを削り、頭には2本の角を生やした妖魔


見上げる程の巨体と溢れ出す瘴気


目が血走り、敵意だけで相手を射殺せるような眼差し


その妖魔の正体は・・・


「はい、粉砕・身体強化・再生と…我々を苦しめた最凶の敵です」


彼女らの前に3か月前の悪夢が再び顕現した。



◇   ◇   ◇



サクヤたちに危機が迫っていたころ、シキは妖魔の気配が彼女らに向かっている事を察知していた。


(この感じ…粉砕クラッシュの妖魔か!?)


覚えのある気配に、シキは焦りを覚え、身をひるがえした。


(急に姿を現すなんて…いや、あの妖魔は気配を絶つ事の出来るタイプだったか)


3ケ月魔の戦いで、件の妖魔が気配を消して戦っていたことは、記憶に新しい。


「待ってろ、今行くか―――っ!?」


行くからと言いかけたシキは、移動用術式を展開させ、サクヤたちの元へ向かおうとした矢先、彼を覆っていた障壁に衝撃が走った。


「なんだ?気配をまったく感じなかった・・・」


移動しようとした足を一旦止め、周囲に気を配る・・・しかし、いくら魔力を拡散させて周囲を探索するも、一向に敵を捕捉する事が出来ない。


「・・・っ!?」


再びの衝撃


だが、シキが展開する障壁には、キズ1つとして付いていない。


「これは…隠者ハーミットか!」


ハーミットは、術者の情報を外部に漏らさない術式だ。


そのため探知などの手段での捕捉は不可能。


ハーミットを捕捉するには、接触し、直接触った状態でオーラを感知する他に方法はない。


以前、シキは仙術による探知によって、物理的探知ではなく、精神探知によってハーミットを知覚していた。


その際、相手に触れて、ようやく認識していたが、今のシキにはオーラも仙術も備わっていないため、現在、この空間において、シキの天敵と言える相手である。


「この程度の攻撃なら無視して進む選択しもあるけど、・・・一度見失えば、捕捉は困難になる」


サクヤ達の元へ急行したいのは、やまやまだが、目の前の敵も見過ごす事ができない。


ならばと、シキは見えない敵を半眼で睨み付ける。


「あれから何か月経ったと思っている?・・・お前の対処法は、既に確立ずみだ!」


シキの身体から魔力が迸る


「姿をさらせ!探知魔法、真実の眼!」


魔術名を読み上げたシキの周囲20メートルにドーム状の魔法陣が形成された。


真実の眼は、例え相手が高次の存在であろうとも、形成された空間内に居る存在を1つの次元に留め、あらゆる隠匿を見破る魔術だ。


以前、彼の師である円空は、べリアルに対し、真実の眼を行使した。それによって、高次元に存在していたベリアルの本体を、現実へと露見させる事に成功し、物理干渉を可能にした事がある。


そして、行使された真実の眼がハーミットの隠匿をあばきたてる。


「ここまでだ…属性エレメント魔術マジック虹光なないろの宣告!」


七色の光が姿を暴かれたハーミットに襲い掛かる。


『キシャアアアアアアァァァァァ――――』


妖魔の断末魔が響き渡り、ハーミットは一瞬で蒸発するように消滅した。


「…待ってろ、今行くぞ」


消滅を確認したシキは、再び魔法式を展開させると、夜の闇へと飛び込んでいった。



◇   ◇   ◇



『グルアアァァァアアア―――』


激咆と共に、妖魔が振るう大剣によって障壁が粉々に砕かれていく。


「「キャアアー!」」


障壁が破壊される度に前進する妖魔が放つプレッシャーに可憐と燕が悲鳴を上げる。


「くっ、皆さま双刃の後ろに御下がりください!」


幾重にも張られた障壁の数が心許こころもとなくなっていく。


現在、妖魔が破壊しているのは、対物理障壁だ。


この物理障壁は、シキが張ったとはいえ、絶大な魔法力を誇る咲耶の力によって作られている。そのため、並大抵の力ではビクともしないハズだった。


しかし、相手が悪かった。


対物理に対し、ほとんど無敵といっていい粉砕を宿す妖魔の大剣は、あらゆる物体を破壊する。


だが、妖魔が破壊できるのは物理障壁のみで、交互に展開されている魔法障壁は無傷だ。


無傷ではあるが、その魔法障壁を妖魔は気にする必要もなく、すり抜けている。


なぜなら、魔法障壁と言うのは、魔力弾や熱量などのエネルギーに対して有効な障壁であり、妖魔が振るう大剣の物理攻撃は、全て通貨されてしまうのだ。


(まずい、あと2振りもされれば、完全に守りを失ってしまう!)


双刃の後ろで身を震わせる少女たちを守れるのは、自分とアリアしか居ない現状、彼女は主の帰還を信じて待つしかない。


結界には、依然として魔力が供給され続けている。


であるならば、シキは魔力供給が可能な距離に居るハズ。


そこが例え彼の探知捕捉圏外だとしても、障壁の破壊という事態が起こっている以上は、この状況に気付き、ここへ戻ってきてくれるハズなのだ。


だから、双刃は己が主を信じて待つ。主ならばきっと・・・


(何を考えているのだ!私は!シキ様は、双刃を信じてこの場を預けて下さったのだろう!)


きっと助けに駆け付けてくれるハズだと、頭を過った瞬間、己の考えを振り払うかのように、小太刀を抜き放つ。


「妖魔め!来るなら来い!我はシキ様唯一の式神双刃!ゆめゆめ忘れるな!」


抜刀した小太刀が月明かりに照らされて鈍い光が放たれ、彼女から青白い力が溢れ出す。


『グルオオオオ!』


互いの気合がぶつかり合い、遂に最後の障壁へと妖魔の大剣が振り下ろされた・・・そのとき!


「空撃!」


一太刀が振り下ろされる瀬戸際、圧縮された空気の塊が妖魔を押し返した。


「「「「「シキくん・さま!」」」」」


少女たちの横を通過して、一気に接敵する。


エレメントアーマー


空気の膜がシキを包み込む。


対粉砕用術式を起動させ、体制を崩した妖魔へと踏み込んだ。


「シキ、ダメ!今のアンタの身体は咲耶なのよ!」


アリアの言はもっともだ。


接近戦において、八神熾輝の肉体ならば妖魔と渡り合えるだろう。しかし、今のシキは結城咲耶という少女なのだ。


学校の体育で運動をして、シキと共に護身術程度の練習はしていても、武術のために鍛え抜いた肉体を有している訳ではない。


つまりは、普通の少女より、少しだけ運動が出来る程度のものだ。


だが、シキの身体は攻撃体勢に移ってしまっている。今更止める事はできない。


『グルオオオオオ!』


うしろのめりになった妖魔は、体勢を崩したまま大剣を振り下ろす。


粉砕の術式は、当てるだけで必殺の一撃になりうる力がある。


「…並列ダブル高速コン演算パイ


互いがぶつかり合う瞬間、極小の魔法式が展開された。


『グルオ!?』


異変を最初に感じ取ったのは、相対している妖魔の方だ。


目の前の少女と交差した瞬間、天地がひっくり返り、気が付けば宙へと投げ飛ばされていた。


「ウソ!?」


宙を舞う妖魔を目にして、アリアは己の眼を疑った。


エクスプロージョン!」


術名と共に、妖魔の周囲で複数の爆発が起きる。


多重マルチ魔術プル!?」


二重ダブル魔術マジックを修行中の咲耶が展開された魔法式の数に驚く。


爆発の規模は、小さなものだが、それでも敵の肉体に深刻なダメージを与えるには十分な威力だ。


しかし、ダメージを負った傍から回復が始まる…だが、たとえ再生による回復があろうとも、そう簡単に治癒はしない。


妖魔が不完全に回復した状態で地面へ着地するのと、シキが攻め立てたのは、ほぼ同時だった。


崩拳ポンケン!」


中国拳法の中段突きを撃つさなか、再び極小の魔法式が複数同時展開する。


放たれた崩拳が突き刺さり、妖魔の身体がくの字に曲がる。


だが、妖魔の耐久力も伊達ではない。苦痛にあえぎながら接近したシキめがけて大剣を振り下ろす。


その動きを読んでいたのか、妖魔が体験を振り下ろすまでの間に、術式を発動させ、相手の側面に回り込んだシキは、既に新たなる魔術を発動させていた。


てつざんこう!」


シキの背面が妖魔に触れた瞬間、衝撃と共に相手を吹き飛ばした。


妖魔は、路側の壁面を突き破り、民家を突き抜け、反対側の路上へ出た所で、ようやく止まった。


「す、すごい…てか、魔術師が接近戦って、出鱈目ね」

「あれは魔術マジック闘技アーツと呼ばれる技法です」

「マジックアーツ?・・・聞いた事が無いわね」


魔術闘技とは、簡単に言えば魔術を発動しながら戦う接近戦闘術である。


口で言うのは簡単だが、その実、常に魔術を複数展開させるという技術と、相手の動きを先読みした先の目が必要になってくる。


先の段階で、熾輝が発動させたダブルコンパイルは、一言で説明すると、複数の魔術を同時展開しつつ、相手の動きに対応し、次の次の更に次の一手をゼロコンマで発動させるという魔術闘技を実現させるための鍵となっている。


魔術闘技は、蓮白影が考案した戦闘術であり、戦争時代、オーラ枯渇に陥る状況において接近戦を余儀なくされた際に戦う方法として生み出された技法である。


「―――そんな技法が生み出されていたのね…でも、まだ奴は健在よ」

「はい、しかし仕留めるための時間は出来ました」


戦況を見守る彼女たちの前で、シキが新たなる魔法式を展開させていた。


青龍せいりゅう白虎びゃっこ朱雀すざく玄武げんぶ勾陳こうちん帝台ていたい文王ぶんおう三台さんだい玉女ぎょくにょ―――」


真言を唱える度に縦横たてよこに空を切る


それは、碁盤の目を思わせる構図で、指先に灯った魔力光の軌跡が魔術的な意味をもたらす。


空中に浮いた式を軽く手のひらで押せば、その術は、真直ぐと妖魔へ向かい、身体を縛る呪詛となる。


『グルオオオオオオオオ!!!?』


絶叫が響き渡る。


妖魔の身体に真言をベースにした得体のしれない生物が這いまわり、その身体を焦がす。


だが、これで終わりではない。


「―――神軍を妨げし咎人に神罰を…喰らえ、むさぼれ、すすり尽くせ、悪鬼は神威かむいによって討ち滅ばされる」


そして紡がれる魔術名


消失ロストディメン空間ション!」


妖魔を基点として、空間に直系50センチ程の穴が穿たれる。


どこまでも果てない闇が穴の深部から、こちらを覗いていると錯覚する。


それは、周囲にある全ての者を呑み込まんとするように、あらゆる物を吸い込んでいく。


もちろん、妖魔を基点として展開された魔術なのだから、の者も例外ではない。


空間が歪み、穴の直径よりも大きな質量を有する物体も漏らさず呑み込んでいく。


『グルオオオオオオ―――』


どんなに叫ぼうと、この穴から伸びる不可避のかいなから逃れる術はない。


耐えることも、踏みとどまる事さえ許されず、最後には絶叫だけを残して妖魔は消滅した。


空間ディメ魔術ンション……いえ、空間ディメンションイーターの力を魔術的に発現させたの?」


もはやアリアの知る魔術とかけ離れた現象に驚愕を通り越して寒気すら感じていた。


「スゴイ、スゴイ!シキくん、あんなに手こずっていた妖魔を、あっという間に倒しちゃった!」

「確かに、3ヶ月前と同じ相手とは思えませんでした」


瞬く間に粉砕の妖魔を滅ぼしたシキへ向ける眼差しは、それぞれ違っていた。


若干11歳の少年が魅せる魔の深淵に畏怖の念を抱く者


魔術という力に魅せられる者と、様々だ。


しかし、そんな彼女達を他所に事態は動き出す。


「いったい、あの時の苦労はなんだったの―――」


過去の敵と対峙して、今まで以上の苦戦を強いられると予想していた少女の言葉を切り、大気を揺らす力の波を感じ取った。



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