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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
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第一三一話【逃走中XV】

光と闇の衝突が激しい力の奔流となって辺り一面にぶちまけられる―――

決して交わる事のない2つの力、闇が光を呑み込み、光が闇を照らす―――


『ウオオオ!素晴らしいぞ!人間共!我が力に、こうも抗うとは!』


邪悪の化身から放たれる闇の力は、ベリアルの歓喜に呼応するかのように一層力を増し、拮抗していたハズの力のバランスが崩れ始める。


『もっとだ!もっと我を楽しませろ!』

「ぐっ!?―――これでもダメなのか!」


神剣をもってしても、邪悪の化身であるベリアルに届かない。聖痕スティグマを全開放した状態の使徒2人の力を合わせても掠り傷すら負わせられない。次第にシルバリオンの心に敗北の二文字が浮かぶ。


誰もがこれまでと、敗北を受け入れようとしたとき


(まだです!)


皆の心に直接語り掛けてくるような錯覚を覚えた


(皆さん!誇り高き騎士の皆さん!下を向くのも、膝を着くのもまだ早すぎます!)


神聖力セイクリッドをシルバリオンに注いでいるステイシーの心が響き渡る


(今一度、思い出してください。私たちが何故なにゆえに剣を取り、強大な敵に立ち向かっているを……敗北すれば、ベリアルに時間を与えてしまいます。その時間は、世界を絶望に叩き落すには十分過ぎる程の被害をもたらすでしょう。考えるまでもなく、フランスは瞬く間に蹂躙され、滅ぼされます。)


少女から突き付けられる事実を騎士たちは、憂いを孕んだ面もちで胸に刻む


(眼を閉じて、そして思い浮かんだ人達の笑顔を思い出してください。……それは決して失ってもいいものでは無いハズです。理不尽に踏みつけられていいものでも無いハズです。)


騎士達がその身に宿す魔力は、とっくに底を尽きている。魔力枯渇による症状は、精神的な倦怠感と生命活動の著しい低下だ。


限界を超えた彼らに対して戦えとは、無茶ぶりにも程がある。だがしかし、彼女の言葉で1人また1人と闘志を燃やす者達が悲鳴を上げる肉体に鞭を打つ。


(戦いましょう……戦って、戦って、戦い抜いて!誰も死なせず、誰も犠牲にせず、大切な誰かのために!)


彼女は叫ぶ―――

例え声にならなくても―――

今、この場にいる者達と心を通わせられると信じて―――


(さぁ、立ち上がるのです。フランス聖教が誇る勇者たち!)


「「「「「ウオオオオオォォ!!」」」」」


怒号の様な叫び声が至る所から上がった。


だが、魔力が尽きた騎士に、いったい何が出来ると言うのだろうか。誰もがそう思うだろう。否、人間に宿る力は魔力だけに非ず。


騎士達の身体から生命力という名の力が立ち昇る。




オーラ、それは人間の生命力。オーラ、それは生物の生存本能が臨界へと達した時に覚醒する力―――


邪悪の化身ベリアル、言い換えれば邪神とも呼ぶべき存在が目の前に居るだけで、生物が持ちうる生存本能は臨界に達することは至極当然といえよう。だからこそ彼等は能力者へと覚醒を遂げた。


『馬鹿が、たかがゴミの分際で能力に目覚めたからと言って何になる』


本来起こり得ない奇跡を目の当たりにしてもベリアルは嘲笑う。だが、彼の言っている事は間違いではない。オーラに目覚めたからと言って爆発的なステータス上昇を果たす訳ではないのだから。


「笑うのは、これを見てからにしろ!」

『なに?』


ベリアルは気付いた。大気を通して、流れるように騎士たちのオーラがただ一点へと向かっていることに。


それはまるでオーラの運河の如く、彼らの希望と祈りが折り重なって、1つとなる。


『調律…セイクリッドを行使した状態のまま、超絶技巧を可能にするか』


蓄えられたオーラの総量は、人1人が制御するには余りにも多すぎる。だがしかし、御するのは人を超越した存在。


神の御使いにして世界に12人しか存在しない。それこそが使徒―――

人類の守護者にして神の存在を証明する者達―――


(みんなの祈り、あなたに託します!)


「しかと受け取った!」


フランス聖教に所属する騎士達から受け取ったオーラが瞬く間にセイクリッドへと変換され、シルバリオンへと譲渡された。


「邪悪の化身ベリアル!我らの力を思い知れ!」


聖痕の全開放から更に限界を超えた超解放状態―――

神剣と化したベリサルダに過剰に投与されるセイクリッド―――


「はああぁあぁああ!」


それらの力が邪悪を押し返し、ベリアルに迫る


『ぬうぅっ!馬鹿な!人間ごときに我が押されているだと!?』


完全に優位に立っていた邪神に焦りが生じる。


『認めぬ!認めぬぞ!我は最強にして最凶の存在!』


べエリアルが放つ砲撃が力を増した・・・だが


聖なる力が邪悪を打ち破り、押し返す!押し返す!押し返す!


『止まれ!止まれ!止まれ!』

「皆の力が1つとなって生まれた奇跡!これで負けてたまるかあああ!」


シルバリオンの…いや、力を紡いだ全ての者達の想いに応えるように、ベリサルダの輝きが増し、激流葬の如き聖なる力が邪悪の咆哮を遂に打ち破った!


『ば、馬鹿なあああああ!』

「滅びろ!ベリアル!」


邪神の阿鼻叫喚が響き渡ると同時、光が空間を支配した。


そして巻き上がる粉塵が荒野を埋め尽くした――――














「ハァ、ハァ、ハァ…………やったのか?」


最初に声を上げたのは、シルバリオンだった


「やった・・・俺達の、勝利だ!」


誰が言ったのか、歓声がその場を伝播していく。


(終わったの?―――っ!?)

「やりました!やりましたよ!ステイシー様!」


数々の奇跡を起こし、初の聖痕解放による疲労がたまっていたのか、その場に膝を着いて崩れたステイシーに駆け寄ってきたパーシアが抱き着いた。次第に実感が湧いてきた…が、パーシアの力強い抱擁に酷使し続けた体が悲鳴を上げる。


「パーシア、ステイシー嬢は使徒とはいえ、身体は常人と差異が無いんだ。少しは手加減をしてやれ」


言われて「ハッ!」と気づいたパーシアは「ももももも申し訳ありません!」と慌ててステイシーから身を離す。ステイシーも彼女からの拘束を解かれて「ふぅ」と一息入れる。


そんな2人の光景を目の前で見ていたシルバリオンは、その手に握られたベリサルダに視線を落とすと「よく、やってくれたな」と神剣としての力を出し切り、元の宝剣へと戻った愛剣に労いの言葉を向ける。


そして、何はともあれ・・・


(誰も死なせなかった・・・)


激しい戦いの末、ベリアルという巨悪を前に誰一人として死んだ者はいない事実に対し、安堵と喜びが入り混じった涙を流す。


(エンクウさま・・・私たち、やり遂げまし―――)

「ステイシー様!!」


天を仰ぎ見ていたステイシーにパーシアが慌てた声を出して、彼女を突き飛ばした。


ステイシーはされるがままに地面に押し倒され、自身に重なる重たい感覚に眉をひそめ・・・


(痛い、パーシアどうしたの…………え?)


身体を起こそうとしたステイシーからズルリと落ちるパーシア


(パーシア?)


彼女に触れた手にベットリとした感触と鉄の臭いが鼻腔を通る


地面には赤い水たまりが広がり、パーシアの胸部に1センチ程の穴が穿たれていた。


(う、そ…パーシア!)

「ゴホッ!」


僅かに意識はあるのか、器官に溜まった血液を大量に吐き出す。


「パーシア……馬鹿な、なぜ、生きている」


驚愕に目を見開くシルバリオンの視線の先に、粉塵から身を表すヤツの姿が克明に現れる。


『フム…使徒の小娘を狙ったつもりが、僅かに照準がズレたか。やはりこの姿で顕現するとなると、コントロールの微調整が必要になるか。』


悩ましいといった風でベリアルは、己の身体を見回している。その姿は、まるで悪魔そのもの。2本の角、コウモリの様な翼、槍の様な尻尾…だが、変わったのは姿形だけではなく、その内包する力もだ。


「次元が、ちがう」

『ん?当たり前だ。そもそも神の位に位置する我と人間とでは霊格そのものが違い過ぎるのだ。』


何を今更言っているのだと、呆れの混じった溜息をベリアルは漏らした。


「今まで全力では無かったという事か」

『いいや、我は全力だった。だからこそ、この姿にならざるを得なかったのだからな』


言っている意味が判らないという表情を浮かべるシルバリオンを他所に、ベリアルは続ける


『そもそも、先程の我は人間を相手にするために敢えて霊格を落として戦っていた。その意味がわかるか?』

「意味だと?」

『そう、我は絶対的存在。故に人間と同格まで霊格を制限することで、相対する者の土俵で戦う。その上で蹂躙する事で我の力を知らしめるのだ。』

「いったい、それに何の意味があるというのだ…」

『………』


暫しの沈黙の間、ベリアルは手で顎を摩りながら考える素振りを見せると、口を開いた。


『神々の遊び?』

「ふっ!ふざけるなああああっ‼」


怒りと共にシルバリオンは飛び出していた。腰に携えたデュランダルとベリサルダを抜き放ち、2刀による十字切りが打ち込まれる。


「なっ!?」


驚愕!シルバリオンの宝剣がヤツを捉えたと確信した瞬間、刀身はベリアルの身体を虚しく通過した。斬ったのではなく、すり抜けたのだ。


『無駄だ。神の領域に達していない人間など、我に触れる事すらできん』

「こ、高次元体?」


「あぁ」と肯定を示した。そして、ベリアルのかいながシルバリオンに触れた


「ぐあああああああああああっ!」


突如として発生した炎がシルバリオンの体を呑み込んだ!


『地獄の業火というヤツだ。普通の人間であれば、一瞬で灰になるところだが……なるほど、ここでも神の加護に守られているのか』


クツクツと笑いながらベリアルは、眼下で炎に包まれ、もがいているシルバリオンを可笑しそうに眺めている。


「やめろおおおっ!」

「うおおおおっ!」

「全員でかかれええ!」


怒号と共に、騎士たちが、フランス聖教の勇者たちがベリアルに押し寄せた。全方位からの物量戦!個に対して唯一の優位は数による暴力!だが・・・


『浅はかなり』


つまらないと言いたげな溜息と共に、辺り一帯を覆う極大の魔法陣が出現した。


「これは!?」

「まずい!」

「防御を―――」


その術式がどのような効果を産むかなどは、おそらく誰も理解はしていなかっただろう。ただ、直感的にとてつもない事が起きるという事だけを、皆が感じ取っていた。


そして、巻き起こる大爆発―――

辺り一帯の地表が崩れさり、一切の生きとし生きる者が存在しない死の世界が体現された・・・ように見えた


『本当に・・・うっとおしい小娘だ』


苛立ちを隠す事もせずに、ベリアルは、ある一点を睨み付けた。


そこには、両手を広げ、仁王立ちをする少女の姿があった。だが、顔は下を向き、息も絶え絶えといった様子だ。おまけに彼女の服の至る所がビリビリに破かれ、白い肌が覗いている。


『ゴミ共を守るために、セイクリッドを使い果たしたか。』


そしてベリアルが見上げる視線の先には、宙に浮かぶ騎士たちの姿があった。


皆が一様に光の球体に包まれ、唖然と口を開いている。その中には業火に焼かれていたハズのシルバリオンから炎が払われて、うな垂れるように光の球体に守られていた。


『シュツェーリアの加護を騎士達に施す・・・なるほど、セイクリッドは元々聖域を意味する言葉。己が命と引き換えに皆を守ろうとでも言うのか?』

「・・・・」


ステイシーは応えない。例え声にならなくても、その意志をもってベリアルに対して抗う。


『なるほど、理解した』


ステイシーの姿に対しベリアルが何を思ったのかは、此処にいる騎士達には理解できないだろう。だがしかし、彼らの眼下で、邪悪の化身が少女に向けて歩を進め始めた事に狼狽を隠せない。


『聖なる乙女、貴様に我は有用性を感じた。故に、貴様には我が子を産む栄誉を授けてやる』

「「「「「っ‼‼?」」」」


その場に居た騎士達の顔から血の気が引いた。


『神と神の御使いたる使徒の子だ!それ等は人界において、恐怖と絶望を撒き散らす存在になりうる!』


口元を引き裂かんばかりに邪神が聖女に迫る。一歩、また一歩と・・・その度に騎士たちの悲鳴と怒りの声が響き渡る。やめろ!やめろ!と―――


しかし、邪神は彼等の声に耳を傾ける事はなく、少女の眼前に近づくと、その柔肌に触れようとして、奇妙な事に気が付いた。


『・・・貴様、何故笑っている?』


俯き、肩で息をしている少女―――

突き付けられる絶望的状況―――

その身を汚そうとする圧倒的存在―――


だが!少女の心に絶望はない!何故なら!


「嬢ちゃんの命はワシが頂いたんだ」


何処から戸も無く声が響き渡る!


「悪いが、小悪魔如きにくれてやる気はない!」

『ぬぅ―――――!!!?』


顔面に走る衝撃!と、同時に視界が歪んだ!


邪悪の化身、冥界の王、邪神として恐れららていたベリアルが、ヨタヨタとした足取りで、尻餅をついた!


『馬鹿、な…高次の存在である我にダメージを入れただと?・・・貴様一体何も――――!?』


キッと睨み付けながら何者だと問いかけようとしたベリアルの思考が停止した。


「何者だぁ?おいおい、ワシを忘れたのか?」


死を体現した大地を力強く踏みしめながら、肩で風を切る男の歩みは、全ての者に希望を与えてくれる。


『き、き、き、き、き、き、き、きききききききききぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃききききききききききききさささささまあああああああああ‼‼』


邪神の気の狂ったような叫びに、騎士たちは「え?」と思わず呆けた顔をする。


『サラシナ、エンクウゥーーーーー!?』


絶叫と共に聖仙の名が明かされた。


「おうよ!そんじゃあ、始めるか!」


驚天動地!吃驚仰天!今、東方の風来坊が力を解き放つ!




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