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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
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第十二話

文才が欲しい

『痛い――――苦しい。』


壮絶な痛みが全身を襲う。

暗闇の中、少年は、たった一人その苦痛に耐えていた。

以前にも、似たような苦しみを少年は、再び体験していた。


『苦しい、苦しい、苦しい』


情人ならば、気が狂いそうなほどの激痛。

だが、狂う事すら出来ない。

狂える感情が無い。


ただ痛みだけが少年を支配していた。

ただひたすらに痛みを受け入れるしかなかった。


ふいに、暗闇の中で淡い光が灯る。


その光は、徐々に広がり、少年を包み込む。

まるで誰かに抱きしめられているかのような感覚だった。


それが、炎だと気が付いたとき、一人の少女を思い出す。


優しい炎。


包み込まれているだけで、心と身体が癒されていく。


『―大丈夫だよ―』


少女の声が聞こえた気がした。


炎に勢いがつき、暗闇を照らしていく。


さっきまでの痛みが、苦しみが、嘘のように消え去り、少年は、安らかに眠り始めた。




気が付くと、ベッドの上に寝かされ、身体の至る所に計測機器の端子が取り付けられており、ベッドの横には、デジタル式の画面が幾つもの山を作っていた。


身体を起こそうと、力を入れるが、掛けられていた布団が何かに押さえつけられているせいで、中々起き上がれない。


頭だけを起こし、布団を抑えていた物の正体を探ると、長い髪の女性が腕枕をして眠りこけていた。


(誰?)


寝息を立てながら気持ちよさそうに眠っている女性に心当たりがない。

起こすのも悪いので、暫くそのままにしておこうと思った矢先、外の方から人の足音が聞こえてきた。


足音は、部屋の前で止まり、ゆっくりと扉が開かれた。


「おや、目を覚ましたかい。」


白髪交じりの老婆が部屋の中に入って来て、そのまま熾輝の額に手を当てた。


「ふむ、身体に異常はないみたいだね。」


目つきは鋭くて何か圧力のようなものを感じさせるこの老人は、ベッドに腕枕をしながら眠りこけている女性に視線を移すと、「やれやれ」と首を振り、左手を突き出したと思ったら、そのまま薬指と親指で力を溜めて、でこピンをした。


「きゃっ!」


女性は、驚いて身を起き上がらせ、勢い余って座っていた椅子から後ろ向きに倒れてしまった。


「痛ーい、もう、何するんですか。」


女性は、頬を膨らませてプリプリと起こり始めた。


「居眠りしていたから起こしてあげただけさね。」

「起こし方ってものがあると思いますよ?」

「それよりもほら、熾輝が目を覚ましたよ。」

「え?」


女性は、目が合ったと思った瞬間、抱き付いてきた。


「熾輝君!」

「え?」

「よかった、良かったよぉ。」


女性は、熾輝に抱き付いた途端、泣き始めてしまった。

だが、熾輝には、目の前の女性が何故泣いているのかが分からない。


思い出せるのは、香奈と一緒に遊んでいた時、急に部屋に入ってきた少年達に囲まれて、外へと放り出された後に、火だるまにされた所までで、気が付いたら今いるベッドの上で寝かされていたのだ。


だから、今の状況が呑み込めていないし、目の前に居る人達のことも分からない。


「・・・お姉さん達は誰ですか?」


誰かと問いかけた一瞬、女性は、ハッとしていたが、一緒に居た老人がその答えをくれた。


「私は昇雲だ。皆は、私の事を師範と呼んでいる。ちなみに、アンタが記憶と感情を無くしている事は、清十郎から聞いている。」

「叔父さんから?」

「ああ、それに覚えてないだろうが、私もお前とは知り合いだよ。」

「・・・すいません。」

「謝る事は何もないよ。それと、この娘には感謝をしておきな。」


そう言って、視線を移した先には、未だに抱き付いたままの女性が居た。


いい加減、うっとおしいと思ったのか、昇雲は女性の首根っこを掴むと、熾輝から無理やりに引き剥がした。


「いつまで抱き付いている、シャキッとせんか。」


目を赤くしていた女性は、「スミマセン」と謝って、スッと身を正した。


「私の名前は、東雲葵よ。お医者さんをやっています。」

「この娘が、大怪我を負ったお前の治療をしてくれたんだよ。」

「僕の怪我を?・・・ありがとうございます。」

「私もね、熾輝君とは、知り合いだったのよ。」

「・・・えっと、」


まるで覚えていない熾輝には、どう返していものか困ってしまう。


「まあ挨拶は、この辺にして、私は清十郎に声を掛けてくるから、葵はこの子を見てやりな。大丈夫そうだったら、直ぐにでもここを出るよ。」

「わかりました。」


そう言って、昇雲は部屋を出て行ってしまった。

しかし、老婆が最後に言っていた言葉の意味がよくわからない。


葵は、熾輝が着ていた服の前ボタンを一つづつ外して、聴診器を胸に当て始めた。


「先生、これから何処かに行くんですか?」

「えっとね、師範の知り合いに会いに行って、暫くそこで暮らすの。」

「そうですか、折角会えたのに、もう行ってしまうんですね。」

「・・えっとね、熾輝君も行くのよ?」

「僕も?」


『何で僕が?』という顔をしていると、葵が難しい顔をしながら答え始めた。


「熾輝君は、怪我をした時の事を覚えてる?」

「・・・何人かの人たちが急に部屋に入ってきたと思ったら、囲まれて・・・気が付いたら身体に火が付いてました。」

「・・・」

「先生、悪魔の子って、どういう意味ですか?」

「・・・誰かにそう言われたの?」

「僕に火を付けた人が言っていました。僕、何か悪いことをしたのかな?」

「違うわ、熾輝君は何も悪いことはしていないわ。」

「でも、」

「今は、そんな事を考えなくていいから、もう少し休んでいなさい。」


無理やりに会話を終わらせた葵は、席を立って、部屋の隅に設置されていた冷蔵庫の中から飲み物を取り出して、コップに注ぐと、熾輝へと手渡し、再び語り始めた。


「五月女家の中には、魔界に居た熾輝君の事を良く思わない人がいるの。」

「魔界に居たことが?だから悪魔って言ってたの?」

「・・・多分ね、そういう考えの人もいるって分かったから、熾輝君の叔父さんも、五月女家と距離を置くために、ここを出る事にしたのよ。」


言い訳にしては苦しいと、葵も分かっていたが、何の情報も知識も無い熾輝に話したところで、嘘を見破られることは無いと、熾輝が寝ている間に話し合った事をそのまま話していた。


そこへ、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「目を覚ましたか。」

「叔父さん。ご迷惑をお掛けしました。」

「お前が謝ることは何も無い。」


清十郎がベッドに近づいて行くと同時に葵が席を立ち、清十郎から離れるように部屋の片隅へ移動していった。


「さてと熾輝、もう師範達から話は聞いたと思うが、これからこの家を出る事になった。」

「はい。」

「それでだ、これから向かう先は、人里からは隔離された場所になるから、街には中々戻れない。そして、ここからが本題なんだが、お前にはそこで戦い方を学んでもらう。」

「戦い方?」

「そうだ、今回のようにお前を狙ってくる輩がまた何時現れるか分からないからな。勿論俺達がお前を守りはするが、常に守ってやれるとは限らない。だから自分の身を守れるようにお前を鍛える。」

「俺達って?」

「私等のことさね。」


熾輝の疑問に答えたのは、昇雲だった。


「私は、お前の父親を弟子に持っていた事があってね、まぁ弟子の忘れ形見であるお前さんの面倒を見るのは、師匠の務めってことさね。お前さんには、武術とオーラの扱いを教えるよ。それに・・・」


いつの間にか熾輝の傍まで寄って来ていた葵に視線を向けていた。


「熾輝君は、私の家族も同然だから、あなたが傷つくのは我慢ならないの。だから私は、魔術を教えるわ。」


二人がそれぞれの動機と教える事を説明し終えると、部屋の扉がノックされた。


「皆さま、用意が整いました。熾輝様の調子は、どうですか?」

「問題ありません。直ぐにでも出発出来ます。」

「では、私について来て下さい。」


何やら、慌しく変わる状況の変化に対し、熾輝は若干の違和感を抱くも、言われるがままに、行動をするしかなかった。


屋敷を出た先には、一見して軍用バギーのような一台の車の駐車されており、全員が車に乗り込んだ事を確認した和也は、エンジンキーを回して車を発進させた。


車両は、街中を走るには、かなり目立つ型の車だが、車内は、それを上回る異質さをか持ち出していた。

一人は世界最強の一角とされる剣の達人、一人は日本でも五指に入る実力を持つ魔術師、一人は見た目こそ老婆であるが日本屈指の武術の達人。

そんな、ある意味化け物の様な大人たちに囲まれているのは、見た目はただの四歳児の子供である。


これから向かう場所も未来も、苦難を免れないという、ある意味地獄が体現された世界を少年は、体験することとなる。


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