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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
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第一一九話【逃走中Ⅳ】

男の呻き声が室内に響く


「あああぁ、や、やめろ!来るなああぁ!うわああ!」


目を覚ました男、エギルは思わず飛び上がり、息を切らせていた。


「ハァ、ハァ・・・こ、ここは?」

「気が付いたか、この役立たずめ」


罵倒を浴びせる声の主に視線を向けると、そこには彼の雇い主であるクロッツォの姿があった。


「クロッツォ、さま」

「貴様には失望したぞ。ステイシー・ゴールドの逃亡を許し、このような姿を私の前に晒すとは、恥を知れ」


クロッツォの罵倒に帰す言葉もないエギルは、押し黙って奥歯を噛みしめる。


「ハァ……それで?何があった?」


深い溜息を吐いて一泊、クロッツォはエギルから事情を聞き出そうとした。


「ま、魔王だ」

「ん?」

「魔王が現れたんだ!アイツ!俺の聖剣を受けても傷1つ負わなかった!」

「…落ち着け」


支離滅裂なエギルに苛立ちを覚えるクロッツォだったが、彼の言っている意味をこの後、知ることになる。


「て、敵襲!」


衛兵の声が教会内に響き渡り、クロッツォが身を置く部屋のドアが勢いよく開かれた。


「クロッツォ卿!」

「なんだ、騒がしい」

「て、敵が攻めてきました!」

「敵?…敵とはなんだ?」


衛兵の言葉の意味が理解できない訳ではない。ただ、平和な現代において、敵が攻めてくるなんて事は、ありえない。


「そ、それは……ステイシー・ゴールド、聖騎士パーシアが教会に向かって来ています」

「なんと!あちらから出向いてくれるとは、ありがたい事ではないか」

「そ、それが―――」


まるで想い人が見つかったと安堵するクロッツォだったが、衛兵が言葉を濁している。


「なんだ、どうした?」

「2人の他にもう1人、恐ろしく強い男が配置した騎士たちを倒しながら教会に向かって来ています!」

「何をやっているんだ。そんなもの、聖騎士を向かわせて直ぐに制圧をしないか―――」

「ま!魔王だああぁぁああ!」


指示を飛ばそうとしていたクロッツォの言葉を遮り、エギルの絶叫が響き渡る。


エギルは「魔王が!魔王が来たあああ!」と頭を抱えガクガクと震えている。


そのあまりにも情けない醜態を見せた部下を軽蔑する目を向けて深い溜息を吐くと、改めて衛兵に指示を飛ばす。


「聖騎士長に伝えろ!早く事態を終息させて、背教者共を私の元へ連れてこいと!」


クロッツォの怒れる指示を受け、衛兵は「承知しました!」と了解すると、急いで部屋を出て行った―――



◇ ◇ ◇



「フハハハハ!どうした!この程度、ラジオ体操よりも軽い運動だぞ!」


押し寄せる騎士たちを千切っては投げ、千切っては投げを繰り返す円空を他所に、2人の女性は開いた口が塞がらない。


「エ、エンクウ様!彼等は純粋に神を信じているだけの信徒です!あまり乱暴をしては―――」

「平気、平気♪言ったじゃろ、ラジオ体操よりも軽い運動だと。ちゃんと生かさず殺さずは心得ておるわい♪」

「それ!死ぬより辛い感じですよね!?生殺しですよね!?」


中途半端に生き地獄を味あわせている円空に対し、パーシアが「お願い!やめてあげて!みんな、逃げて!」絶叫し、ステイシーは≪激しく同意!≫と書かれた紙を掲げている。


群がる騎士たちを前に戦う円空!本来であれば応援をする立場の彼女達が、「やめて!」と叫ぶには理由がある。


何故なら、人間をまるで玩具の様に扱う目の前の男は、騎士の1人をボーリング代わりに転がし、吹き飛んだ幾人もの騎士たちを見ては「ストライーク!」とガッツポーズを決める!そして、ある者は人間ブーメランにされて、敵を吹き飛ばして手元に返ってきた騎士を敢えてキャッチせずに放置プレイ!まさに魔王の如き所業!


「あぁ神よ、私たちの選択は本当に正しかったのでしょうか?」

≪激しく同意≫


地獄絵図と化した現実を直視できなくなったパーシアは胸の前で十字を切って天を仰ぐ。その隣では、先程から≪激しく同意≫と書かれた紙を掲げているステイシーの姿があった。


「やめろおおお!」

「ん?」


その時だ!騎士の群れが左右に割れ、1人の男が魔王の前に立ちはだかった!


「おのれ背教者!この私が相手になってやる!」

「「「「ア、アルベルトさまー!」」」」


両の拳に一際大き籠手、両の足に一際大きなレッグガードを装備した男…アルベルトが現れた。しかしこの男、拳と足以外には鎧を一切着込まず、ボクサートランクス一丁といった風貌だ。


「あの方は聖騎士アルベルト様!」

≪パーシア知っているの?≫

「はい……聖騎士の中でも屈指の武闘派です。彼の武術はサバットというフランス式キックボクシング、その拳は岩をも砕き、その蹴りは滝を割ると言われています。」


パーシアの解説が終わるとアルベルトは円空と対峙した。


「フム…そのオーラ、達人級と見て間違いないな。」

「私のオーラを感じて尚臆さないとは!貴様も中々の使い手と見るが、我がサバットは最強!殺された部下の無念、晴らしてくれるわ!」


屠られた部下たちの想いを胸に、アルベルトが駆けた!でも誰一人として死んではいません!


「喰らえ!必殺、岩砕拳!」


岩をも砕く一撃が頭部に直撃する!


「まだまだああ!これは部下の分!そして、これも部下の分!全部まとめて部下のぶんんん!」


岩砕拳の連撃、【岩砕連撃】が頭部目がけて炸裂する!


「岩をも砕く一撃か」

「なっ!?」


しかし、円空は無傷!


「確かに岩程度なら粉々だろうが、生憎あいにく儂の頭はオリハルコン並みの硬度じゃ!」

「ならば!我が必殺のレッグウォールを―――」

「あとがつかえているから、もうお終いじゃ!」

「はふんっ!」


必殺レッグウォールを放つ体勢に入った瞬間、円空の拳骨がアルベルトの脳天に落とされた。


脱力するように地面に崩れ落ちた聖騎士アルベルトは、滝をも割る必殺技を放つことさえ許されずに沈黙したのであった。



◇   ◇   ◇



「「「「「アルベルト様ーーーー!」」」」」


騎士達の絶叫が木霊する。


「さあ、どんどん進むぞ」

「……エンクウ様、せめて必殺技くらい気持ちよく撃たせてあげれば良かったのでは?」

≪アルベルトさん、かわいそう≫

「お主ら、儂をなんだと思っているの?」


円空の圧倒的な強さを目の当たりにしてきたパーシアは、「攻撃を受けてあげれば?」等と言い出す。これは、きっと敵であっても、相手に同情の念を抱いているからだろう。そして円空の歩みを止められない騎士たちは、聖騎士の敗北を前に道を譲るしかない。


「「「「「そこまでだ!悪党!」」」」」


歩み続ける円空達の前に、再び聖騎士が立ちはだかる。しかも、今度の聖騎士は台詞をハモらせてきた。


「あっ!あの方々は!」


パーシアの表情が驚愕に染まる!そして、太陽を背に現れた聖騎士が名乗りを上げる!


「怒りの炎が悪を焼く!火の精霊の力を借りて!聖騎士パラディンレッド!」

「風の刃が悪を斬る!風の精霊の力を借りて!聖騎士パラディングリーン!」

「聖なる水が悪を溶かすぜ!水の精霊の力を借りて!聖騎士パラディンブルー!」

「母なる大地が悪を埋める!大地の精霊の力を借りて!聖騎士パラディンブラック!」

「閃光の稲妻が悪を穿つわ!雷の精霊の力を借りて!聖騎士パラディンイエロー!」


「「「「「悪霊退散!悪魔昇天!精霊の加護を宿した聖なる騎士!聖騎士戦隊、パラディンジャー!」」」」」


5人の後ろで爆発が起きる。


「…なんじゃありゃ」

「エンクウさま!見た目に騙されてはいけません!あの方々は何れも精霊に愛された大騎士です!」

≪かっこいい≫


5人の異様な登場に流石の円空も顔を引き攣らせる。


「悪党!俺達が来たからには、仲間に手出しをさせんぞ!」

「死んでいった仲間の無念を思い知りなさい!」

「行くぞ!みんな!」

「「「「応!」」」」


息を合わせたかのように5人が飛び出す!でも誰も死んでいません!


「火の精霊よ!俺に力を貸してくれ!必殺!火炎斬り!」


レッドの剣に炎が宿る!


「風の精霊よ!悪を斬り裂け!必殺!真空斬り!」


グリーンの双剣から風の刃が撃ちだされる!


「水の精霊よ!悪を叩け!必殺!水流鞭!」


ブルーの刀身が無い柄から水の鞭が繰り出される!


「大地の精霊よ!悪を砕け!必殺!ダイヤモンドナックル!」


ブラックが大地を叩き、金剛石の槍が跳び出す!


「雷の精霊よ!悪を穿て!必殺!サンダーマグナム!」


イエローの拳銃から雷を纏った弾丸が飛び出す!


5つの属性攻撃が一斉に押し寄せ、円空を呑み込んだ!そして、やっぱり爆発が起きる!


「なるほど精霊術か……だが!」


爆炎の中から聞こえてくる声に5人が揃って「何っ!?まさか!?」とここでも息を合わせてハモる。


「精霊の召喚がまだまだ未熟!雑念が精霊の力を落としているわ!」


爆炎から火・風・水・土・雷の属性を持った龍が姿を現す。


「今度はこっちの番じゃ!必殺!五天龍!」


円空の魔法式から放たれた5属性の龍が一斉にパラディンジャ―を襲う!


「馬鹿め!精霊の加護を宿した俺達に、同属性の攻撃は効かないぜ!」

「果たしてそうかな?」

「なに?」


レッド・グリーン・ブルー・ブラック・イエローにそれぞれの属性攻撃が襲い掛かる!


「グッ!ああああああああ!」

「「「「ぎゃあああああ!」」」」


五天龍に吞み込まれたパラディンジャ―が叫び声を上げ、天高く吹き飛ぶと、そのまま落下して地面に叩きつけられた。


「ぐはっ!な、何故……俺達に加護精霊の攻撃は効かないハズなのに」

「精霊の力を過信したな。精霊術師は、己で制御しきれない力を受ければ、当然ダメージが入る。覚えておけ!」

「そ、そんな・・・精霊術以上の魔法なんて、あり、えない。」


パラディンジャーは、そのまま沈黙した。




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