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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
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第一一五話【決裂Ⅹ】

異相空間内部が激しく揺れ、空間に亀裂が入る。


「「きゃー!」」


崩れ落ちてくる天井が可憐と燕へと降り注ぐ。


「お嬢たちは・・・」

「我らが守る・・・」


バラバラと振ってきたコンクリートの破片が障壁に阻まれる。


「右京!左京!」


彼女等が張った結界が2人を守った。


「いったい何が起きているんですか?」


異相空間の突然の変化に可憐が困惑する。


「おそらく崩壊が始まったのです。」

「崩壊って、いつもと違うよ?」


双刃の答えに燕が驚くのは無理もない。彼女等が知っているのは、妖魔を倒した後、緩やかに異相空間が消滅し、現実世界に戻れるというもの。しかし、今回の状況は全てが違い過ぎる。


「おそらく、霊災の予兆です。このままでは、現実世界に瘴気が溢れ、甚大な被害が引き起こされてしまいます。」

「そんな!じゃあ熾輝くんたちは!?」

「・・・」


驚愕する燕の問いに双刃は押し黙る。


「大丈夫です。」


しかし、可憐の一言が不安に駆られる燕を引き戻した。


「なんとなくですけど、きっと、咲耶ちゃんと熾輝くんが何とかしてくれる・・・そんな気がします。」

「・・・そう、だよね!約束したもんね!みんなで無事に帰るって!」

「はい、熾輝さまたちを信じましょう。」


異相空間が崩壊するなか、彼女等は熾輝たちを信じ、待つことを決めた。



◇   ◇   ◇



「―――けっかいしたりゅうみゃくのぎゃくりゅう?れいさい?」


目の前で膨張する妖魔の亡骸を視界に収め、咲耶は頭から白い湯気を立ち上らせ、目の前の状況を必死に理解しようとしていた。


「え~っと…つまりね、ダムに大量の水が貯水されているでしょ?」


咲耶のオーバーヒート寸前の頭に、熾輝が判りやすく今の状況を説明する。


「だけど、水が許容量を超えるとダムは決壊して、近所の村を呑み込む。」


熾輝の言葉が何となく頭に入ってきている咲耶は、イメージしながらコクコクと頷いてみせる。


「今回の場合、水が瘴気、ダムが異相空間、村が現実世界。」

「・・・街が大変なことになっちゃう!」

「そう、それが霊災」


ようやく理解した咲耶に熾輝が浅く溜息をつく。


「だけど、どうする?このまま放っておくと本当に大変な事になるわよ。」

「うむ、流石にこの規模の瘴気は、私にも手の出しようがない。」


打つ手なしの状況にアリアとコマは揃って悩ましい表情を浮かべている。


「どうするもこうするも、ここで浄化して気の流れを正します。」

「・・・なにか手があるのか?」


至って冷静な熾輝の提案に、この場の全員の視線が集まる。


「まぁ、力技になりますけど・・・」


そう言った熾輝が、今も沸騰した頭から湯気を出している咲耶へと視線を流す。


「まさか・・・・そういうこと?」

「え?なに?」


1人状況が呑み込めていなかった咲耶に全員の視線が向けられている事にようやく気が付いた。


「―――てわけで、街の命運は咲耶に託された。」

「・・・ええええぇぇええええ!!?むりムリ無理ィ!」


大役を仰せつかった咲耶からは、悲鳴に似たムリィが3回連呼された。


「大丈夫だよ」

「し、しきくん?」

「無理だと思っている内は、意外と余裕がある証拠だって、師範が言ってた。」

「そんな精神論を聞きたいわけじゃないよ!ていうか師範ってだれ!?」


グッと親指を立てて微笑みかける熾輝を見て、咲耶は目の前に居る少年が自分の知っている熾輝とは別人の様に感じて逆に不安になった。


「はっはっは、こんな時に突っ込みが出来るとは、大したものだ。」

「ちょっ、黙ってて!ていうかコマさんワザと!?ワザと言っているんでしょ!?」


緊張感などまるで無いといった感じのコマが盛大に笑い、咲耶は逆にキレそうだ。


「ぁ、アリアァ」

「咲耶・・・大丈夫!この際、龍脈ごとパー!って、やって見ちゃお!」

「はいっ!もういいよ!みんなキライ!」


パー!というお気楽な台詞を吐く心の友からも見放された咲耶ちゃんからキライ!を頂いたところで、話はまとまった。


「冗談はさておき、現実問題あの瘴気を一掃できる術すべはアリアの破邪の光が一番有効的だ。」

「熾輝の技じゃダメなの?」

「僕のは限定的な規模しか展開出来ない。流石にあの規模に対しては、スズメの涙程度だ。」

「しかし、アリアの光とて、龍脈規模の瘴気を祓うだけの威力を見込めるのか?」

「う~ん、威力というか・・・」

「問題は出力です。その点は咲耶の魔力を上手く変換させて、魔法式を起動させれば理論上は可能です。」


おお~、という感嘆の声を上げる2人。咲耶を他所にトントン拍子で話が進む中、1人うずくまりながら人間不信に陥ろうとする少女がいた――――――





「はぁ」


膨張を続ける妖魔を前に、咲耶は深い溜息をついていた。


『さくや、まだ怒っているの?』

「ふんっ、知らない」

『むくれないでよぉ。みんな咲耶を和ませようとしていただけなんだからぁ。』

「・・・わかってるもん」


ご機嫌斜めの咲耶をアリアがあやすが、どうやら咲耶も皆が気を使ってくれている事は気が付いていたらしい。


「でも、やっぱり不安なんだもん。」

『さくや・・・』


目の前の脅威に対し、咲耶の細腰には、その重責は余りにも大きすぎた。いつも以上の不安が彼女の心にある。しかし、街の命運が何も彼女1人に託された訳でもない。


「大丈夫、そのために僕たちがいる。」

「・・・熾輝くん」


ビルの階段から降りてきた熾輝が咲耶の前にやってきた。


『みんな何だって?』

「・・・ここに残るって聞かなくて、仕方が無いからコマさんが皆と一緒に居てくれることになった。」


熾輝は状況の説明と作戦を伝えるために、一度、燕たちの元へ赴いて戻ってきたのだ。できれば、この空間から避難して欲しかったのが本音であるが、一緒に帰るという約束をした彼女たちの意思は固かったらしい。


「それと、乃木坂さんと燕から咲耶に伝言」

「え?」

「無事に帰ったら、みんなで夏祭りに行こうだって。」

「可憐ちゃん、燕ちゃん・・・」


2人からの伝言を聞いて咲耶の目に涙が溢れる。


「・・・咲耶、不安に思っているかもしれないけど、きっと大丈夫だ。」

「しき、くん」

「僕たちが力を合わせれば誰にも負けない。何だって出来る。・・・少なくとも僕は咲耶と一緒に居るだけで、そう思えてしまう。・・・咲耶はどうかな?」


熾輝の言葉を受け、頬に一筋の涙が流れる。


「うん・・・・うん!私も熾輝くんと一緒ならだれにも負けない気がしない!なんでも出来る!」

『ちょっとぉ、私を忘れないでよぉ。』


1人、のけ者にされたアリアが仲間に入れろと文句を言ってくる。きっと、この場にいない双刃が聞いたら、自分を差し置いて!と怒ったに違いない。


「じゃあ、そろそろ始めようか。」

「うん!私が魔力を放出して」

「僕が魔力のコントロールをする」

『私が魔法式を展開して発射!』


お互い役割を再確認した3人は、魔法式発動の体勢に入る。


咲耶と熾輝は、お互いに大杖アリアを支え合い精神を集中させてく・・・


それぞれが自分に出来る仕事を精一杯に努め、完成する三位一体の技


特に技の名前などは、考えていなかったが、それだと恰好がつかないと言い出したアリアの言葉を聞いて、咲耶が名づけることになったその名は――――


「「「合体術式【絆】発動!!!」」」


黄金の光が崩壊する世界を包み込んだ瞬間、一切の瘴気が浄化され、戦いの終わりを告げた。



◇   ◇   ◇



「神社のお手伝い?」


せっせと荷物をまとめている熾輝に葵が尋ねた。


「はい、今回の一件でコマさん・・・法隆神社の神使が契約破棄をして、再契約するために暫くの間は動けないらしいので、そのお手伝いをしたいんです。」


神使であるコマが力を開放するリスク、それは再び神使としての力を取り戻すために時間を必要とすること。そうしなければ、霊体である彼は、式神になる他に現世に留まる事が出来ないのだ。


そして、この時期は夏の風物詩である祭りなどの行事が盛り沢山であり、中でも祭りで神様に奉納する舞は、毎年燕とコマが執り行っていたのだが、今回はコマが動けないため、代役として熾輝が務めるようにと頼まれている。


「いいじゃない♪私もお盆は長期休暇が取れる事になっているから見に行くわ♡」

「・・・先生、楽しそうですね。」


今からビデオの点検をしている葵を他所に、熾輝の表情は優れない。


ちなみに、熾輝が優れない表情の理由は、あの一件の後、熾輝だけでなく子供たち全員が葵に物凄く怒られ、反省文を書かされていた。その上、熾輝は1ヶ月間、一切の修行を禁じられている。


葵曰く、罰は建前で、子供らしく夏休みを過ごさせてあげたいという思いもあった。


「だってぇ、熾輝くんが参加する行事って、運動会以外は中々顔を出してあげられなかったでしょ?だからこういうイベントの時くらいは、しっかり記録しなくちゃ☆」


時折り、語尾に♪や♡、☆が付いている様に聞こえるのは、きっと熾輝の気のせいだ。


「あまり人前に出るのは得意じゃないんですけど・・・・頑張ります。」

「うん、がんばれ♪」


葵の嬉しそうな顔を見て、熾輝も一緒に嬉しくなってしまう。


「あ、熾輝くん、そろそろ時間じゃない?今日は、みんなで咲耶ちゃんの家に集まるのよね?」

「はい、夏休みの宿題をみんなでやろうって約束を・・・」


気恥ずかしそうに答える熾輝を見て、葵の口元がほころぶ


「あまり遅くならないようにね。」

「はい・・・それじゃあ、行ってきます。」

「いってら、あっ!熾輝くん忘れ物!」


そう言って、差し出された3つのアクセサリー


「せっかく皆のために作ったのに、忘れちゃダメよ。」

「は、はい」


受け取った熾輝は、頬を僅かに赤らめて受け取ると、照れを誤魔化すように駆け足で自宅を出た。


その手に握られたミサンガは、以前、少女に作ると約束していた物。熾輝は大事そうにポケットに入れると再び駆けだした。


空は雲一つない快晴で、天高く昇った太陽が今日も街を照らしている。


少年は走る、友達の家に向かって。





◇ お ◇ ま ◇ け ◇





ここは超自然対策課の本部、その庁舎にある修練場では日々、職員たちが修行に精を出し己の力と技を磨いている。


そして、今日も彼らは己を磨く・・・・絶叫と共に


「ぎゃああああぁぁぁああああ!」


絶叫を上げる彼の名は風間透、対策課が誇る十二神将のエースだ。


「やめてええええぇぇえええ!」


もう一度言おう、彼は対策課が誇る十二神将の・・・


「ゆゆゆっ、許して下さい!」


エースなのかもしれない。


「あれぇ?もう根を上げちゃうのかなぁ?そ・れ・で・も・十二神将のエースなのぉ?」

「ごめんなさい!もう、エースじゃなくて良いです!」


風間は自らエースの座を降りた。


目の前の女性は、空を撫でるように魔法式を次々に展開していく。


「無駄口叩く余裕があるなら、もう少し威力を上げても平気よね?」

「え、あ、いや」

「平気みたいね♪」


魔法式から魔術が放たれ、爆音がそこら中に鳴り響く。


「せ、先輩・・・東雲先輩、もうこれ以上は―――」

「ええ~、私はまだまだウォーミングアップの途中だよ?それに、木戸のおじ様から君たちを自由にして良いって許可も貰っているしぃ・・・訓練中の事故ってよくあるよね?」


風間は目の前の女性・・・東雲葵の笑顔に戦慄した。


葵の目の前に魔法式が再び展開される・・・風間には判る。魔法式の規模、そして魔力量からして明らかに魂たまを取りに来る一撃が放たれると


「うおおおおおおっ!風の精霊よおおおっ!俺に力を貸してくれえええええ!」


半泣き状態、そしてギリギリの精神状態で、空気中に存在する風の精霊を召喚する。


修練場の床が隆起し、凄まじい質量の土が拳の形に形成されると、拳骨の如く天から襲い掛かる。


「負けるなああああっ!精霊たちよおおおお!」


風間を護るため、粒子状の精霊たちが幾千と集まり、風の結界を形成する。


「ううううぅおいっ!神狩ぃ!お前も寝てないで手を貸せぇ!」


必至に土の拳骨を食い止める風間、そしてこの修練場の端っこでは、彼と同じ十二神将の神狩が寝ていた・・・正確には既に葵によってKOされていた。


「あ~、すんません先輩、無理っす。首から下が動きません。」


医者である葵にとって、相手の神経を麻痺させるなど朝飯前。だから神狩の首から下が動かないのだ。


「おまっ!馬鹿野郎!諦めるな!お前なら出来る!戦いを好んでいた君は何処へ行った!戻ってこい!あの時のお前ええぇ!」


ちなみに神狩は、熾輝誘拐未遂事件の後、個人的に葵から説教という名の制裁を受けてボコボコニされた上、トラウマを植え付けられていた。


「せ、先輩!聞いてください!これは菩薩様ぼさつさまの御威光に沿って行ったこと!きっと何か考えが御有りかとオオオオオ!?」


拳骨の威力が更に上がる


「そうなのよねぇ、法師にも困ったものね。問いただそうとしても見つからないし。」

「「・・・。」」


風間の背中に嫌な汗が流れる。


ちなみに言っておくが、円空は神足通を使えば何処にだって瞬間移動が可能であり、既に国外逃亡をしていたりする。


「だから法師に対する罰も彼方達が代わりに受けてね♡」


笑顔で言った葵だったが、目が笑っていない。


葵の魔法によって爆音が鳴り響く。


本日、対策課修練場で修練?を行っていた2人の十二神将は心に深い傷を負ったのだった。



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