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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
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第一一四話【決裂Ⅸ】

「熾輝くん!大丈夫なの!?・・・怪我、は?」


咲耶は粉塵から姿を現した熾輝の元へと降下し、安否を尋ねた。


しかし、先程まで満身創痍な上にボロボロだった身体には、掠り傷さえ残っていない。まるで最初から怪我なんて負っていなかった様に。


「大丈夫、もう何ともないよ。」


両手を広げ、無事をアピールする熾輝だったが、そんな事よりと言って、咲耶と視線を躱すと頭を垂れた。


「ごめん、ごめんね、咲耶」

「え?」

「これまでのこと、僕は咲耶に謝らなきゃいけない事が沢山ある。」


そう言った熾輝の表情は、どこか弱弱しかった。


いつも無表情な熾輝が、こんなにも弱い姿を表に出す事なんて、彼女の知る中で一度もなかった。


「・・・熾輝くん、私は―――」

「仲直りも良いが、一先ず後にしないか?」


咲耶の言葉を遮ったコマが、ヤレヤレと溜息をついた。


「敵は未だに健在だ。この難局を乗り越えなければ、仲直りもへったくれも無いぞ。」

「「・・・」」


コマに諭され、2人は無言のまま顔を見合わせた。


お互い気まずい空気が流れるかと思いきや、自然と笑みがこぼれる。


「そう、ですね。・・・なら取りあえずは、コマさんには休んでいて貰いましょうか」

「・・・えっ!?で、でも熾輝くん!私たち2人だけじゃ―――」

「大丈夫」


熾輝の提案に咲耶が驚愕する一方で、コマは「ほぅ」と息を漏らす。


「行けるのか?」


コマの問いに熾輝は首を盾に振って肯定を示すと、咲耶を見る。


「僕1人では無理だ。でも、僕と咲耶が力を合わせれば必ず勝てます。」

「・・・よかろう、ならば暫くの間、観戦させて貰おうか。」


一切の迷いのない、それでいて自身に満ち溢れた熾輝の表情を見てコマは2人に戦場を預ける事にした。


そして、もう一度、自分を信じてくれた熾輝の言葉に咲耶もまた、心を奮い立たせるようにグッと握りこぶしを作った。


「咲耶、もう一度、僕と一緒に戦ってくれるかい?」

「うん、うん!戦おう!一緒に!」


咲耶の元気な答えに熾輝の口から思わず笑みがこぼれる。


「この戦いが終わったら・・・・もう一度、謝らせて」

「うん、その時は可憐ちゃんも一緒だよ?」

「・・・ああ、乃木坂さんにもお同じことを言われたよ。」


お互いに視線を交わしたまま顔を綻ばせた。そして


『―――オオオオオオオッ!』


「どうやら、奴の回復が終わったらしい。・・・熾輝、咲耶、油断するでないぞ!」

「「はい!」」


お互いに息を合わせたかのような返答にコマは、満足そうに頷くと、そのまま後方へと下がった。


「さてと、・・・・お前には本当に手を焼かされたけど、これがファイナルラウンドだ。」

「もう逃げたりしないよ!まだ、少しだけ怖いけど、熾輝くんと一緒なら戦える!」


粉塵が収まり、姿を現した妖魔が熾輝と咲耶を睨み付ける。


「僕の・・・・僕たちの全身全霊を持って、お前を倒す!」


『グオオオオオッ!!』


撃咆と共に駆け出した妖魔に呼応するように、熾輝と咲耶が動いた。


弾かれたように二手に分かれた熾輝と咲耶、それを見た妖魔がまず先に狙いを定めたのは、後退しながら上昇する咲耶だ。


遠距離からの攻撃を得意とする魔術師を先に潰しておくことで、後の戦いを有利に運ぶ算段なのだろう。


だが、遠距離攻撃が出来る者は咲耶だけではない。


ドゥルルルルルルルル!


横合いから飛来する弾丸、それを発砲音で察知した妖魔が飛び退いて回避する。


弾丸の雨を降らせている犯人は、見るまでもなく眼帯の少年、八神熾輝だということは直ぐに判った。


スコーピオンからスコールの如く放たれる弾丸、それをコンクリートの塊に隠れてやり過ごす妖魔。


「流石に同じ手は何度も通じないか。」


しかし、影に身を隠している妖魔が身動きを取れないように弾幕を張り続ける。


「てててっ、鉄砲使ってる!」

『咲耶、その(くだり)は、もう私が言ったから。』


眼下の光景を見て、驚きをあらわにする咲耶をアリアが鎮める。


そして、僅かだったスコーピオンの弾倉が空になり、熾輝がマシンガンを手放した瞬間、今度は妖魔が動いた。


身を隠していたコンクリートに大剣をぶち当てて、砕かれた破片が飛来する。


『それはもう、効かないよ!』


アリアが魔法式を展開させ、咲耶が魔力を注ぎ込むと、熾輝の周囲に風が収束した。


飛来したコンクリート片は、見えない障壁に阻まれ、熾輝に当たることは無い。


付与魔法:風の鎧(エレメントアーマー)を纏った熾輝が一気に駆出し、応じるように妖魔も熾輝へと疾走する。


お互いに間合いに入ったところで、繰り出される最大威力の攻撃


妖魔は当然、大剣による撃ち下ろし。応じるは、熾輝の螺旋気流脚


身体強化された妖魔の攻撃は、今までの風の鎧では防ぎきれない・・・そう、今までなら


『ッ!?』


妖魔の予想を遥かに上回る魔法強度を誇る風の鎧エレメントアーマーが大剣の一撃を阻む。


「彼女の魔法は、一味違うだろ?」


そして放たれる心源流螺旋気流脚が妖魔の身体に深々と突き刺さる―――――






『―――これは!?』


熾輝の身体から紅蓮の炎が立ち上り、全身を包み込む。


負傷した箇所を一瞬で焼き、元の怪我1つない身体へと還る。


熾輝は己の身に何が起きているのか理解できなかった。


重度の負傷であるにも関わらず、それを一瞬で癒す術など、古文書に記された伝説の霊薬の他に考えられない。


だが、炎は熾輝の身体から突然吹き上がり、傷を癒した。


(この炎・・・・まさか)


けれども、熾輝には自身を包み込む優しくて力強い炎には覚えがあった。


『葵殿曰く、これは人が発現できる能力(ちから)ではないと言っていました。』


熾輝を包み込んでいた炎が次第に弱まり、徐々に治まっていく。


『おそらく神か、それに準ずる化身の加護を熾輝さまは得ているのではと、円空殿は見立てていましたが―――』

『そっか、・・・・ずっと・・・・・ずっと僕を護っていてくれてたのか・・・・夏羽っ』


消えていく炎を抱きしめ、熾輝は自分の目頭が熱くなるのを感じていた。


『どうやら、熾輝さまには心当たりが御有りのようですね。』


双刃の問いに、熾輝は何度も首を縦に振って応える。


この炎が熾輝にとって余程の意味を持つことは、彼を見ている周りの者は理解出来た。


『そして、ここからが熾輝さまの本当の能力・・・』

『え?』


全身を包む炎が完全に消え去った直後、熾輝の身体に変化が訪れた―――――





螺旋気流脚によって妖魔の身体が浮き上がる。


『熾輝さまの炎・・・円空殿が冠した名は【転生の炎】、それが発現した時にのみ発動する能力』


これまでとは異なる技の威力に妖魔の顔が苦悶の表情に染まる


『熾輝さまの全ステータスの向上、それがこの能力の力、そして、その上昇率は1.1倍!冠するならば、まさに限界値突破(リミットブレイク)


「咲耶!」


熾輝の呼びかけを待たずして、既に発動段階に入っていた咲耶の魔法式が魔導書から起動する。


「大地の鉄槌!」


隆起した大地が妖魔を圧殺すべく、双方から迫る。


『グッ、オオオオオオ!』


しかし、妖魔は大剣を使い片方の攻撃を粉砕する・・・・が、もう片方の粉砕には間に合わない。


空中では回避する事も叶わず、そのまま大質量の土に飲み込まれる。


「やった!」

「まだだ!」


土砂に飲み込まれた妖魔、しかしその土砂が突然爆ぜた。


中から飛び出した妖魔の身体からは瘴気が噴き出しており、ダメージも相当大きかったため、未だ再生途中の状態だ。


『もう!本当にしつこい!』


妖魔のしぶとさにアリアは思わず嫌気がさす。


咆哮(ブレス)に気を付けろ!」


言って、熾輝が飛び出した。


妖魔の注意を引くために・・・ではなく、確実に力を削ぐために


猛スピードで体の修復が行われるなか、妖魔は空中の咲耶に向けて瘴気の咆哮(ブレス)を放った。


瘴気の猛威が咲耶に迫り、そのまま彼女を呑み込んだ。


「いいのか?そっちにばかり気を取られていて。」


既に間合いに入った熾輝が攻撃のモーションに移り、手にした鞘から一振りの小太刀を抜刀した―――――





『それじゃあ、行ってくる』

『熾輝さま、お待ちを』


戦場へ戻ろうとした熾輝を呼び止め、双刃が腰に携えていた小太刀を差し出した。


『共に戦えない双刃の代わりに、これを持って行って下さい。』


それは彼女の愛刀、前回の戦いで砕けた物と全く変わらない姿でここにある。


『銘は紅桜、幾度折られようとも、主を守護するために何度でも修復する妖刀でございます。』


鞘は、漆塗り独特の漆黒の光沢があり、その小太刀からは力強い何かを感じる。


『・・・判った。双刃の魂、確かに受け取った。』


熾輝は差し出された妖刀紅桜を腰のベルトに差し入れた。


その姿を双刃は満面の笑みで見ると、「御武運を」と一礼し、熾輝を見送った―――――





斬っ!!


斬撃音と共に、今、双刃の魂が敵の大砲を破壊した。


『オオオオオオオッ!』


ドサリッと大剣を握っていた腕が地に落ちると同時、熾輝は妖魔の大剣を奪い取った。


が、その僅かな隙を見逃さず、妖魔が襲い掛かったその時、4つの光が妖魔を貫いた。


『グルオッ!?』

「ナイスアシスト」


放たれた光は、妖魔の後方、上空で大杖を構えた少女から放たれていた。


『ふ~、・・・瘴気を放ってきた時はヤバイって思ったけど、何とかなったわね』

「うん、熾輝くんから対悪霊の結界を教えて貰っておいて良かったよ。」


咲耶の身体を包み込むように黄金の結界が張られており、周りの瘴気を寄せ付けないどころか、触れた瘴気を浄化している。


『・・・グオオオオオオオッ!?』


怒り狂った妖魔が、再び動き出そうとした。しかし、身体が上手く動かない事にようやく気付く。


自身の身体を見たら、先ほど放たれた魔力弾が槍の形状となっており、先端が地面に突き刺さっている。


さながら、標本の虫が針で張り付けられているかの様だ。


これには熾輝も目を丸くして感心している。


「いいアイディアだ。」

「えへへ~」


珍しく褒められて、浮かれているのも束の間、熾輝は手にしていた大剣を宙に放り投げた。


「さあ、まずは1つ目の魔導書だ。」

「わっ、わっ、アリア!」

『ハイハイ』


空中で滞空した大剣めがけて黄金の光が伸びると、光の道筋に沿って、付与されていた粉砕の魔法式の文字が魔導書へと吸い込まれていった。


「「『先ずは1つ!』」」


妖魔の主力である粉砕を封じ、猛威を振るっていた三位一体を崩した瞬間であった―――――





「ほう、言うだけの事はある。」


戦況を見守っていたコマは、ビルの端にある大きなコンクリートの塊の上に、ドッカリと腰を下ろして感心していた。


「確かに、咲耶の動きに変化が起きた。私と一緒に戦っていた時よりも積極的で柔軟だ。」


先程からコマが注視していたのは、熾輝の方ではなく、むしろ恐怖心を抱えていた咲耶の方だった。


だが、彼の心配を他所に、恐怖心など忘れているかのような彼女の動き、そして熾輝の動きが判るかのような魔法発動のタイミング、加えて妖魔の動きを封じた魔力弾の形状変化は称賛に値する。


「まったく・・・この戦いを糧に成長して見せろとは言ったが、ここまで大きく変わるとはな。」


おそらく、彼女をここまで変えた要因は、目の前で戦っている少年によるものだとコマには判っていた。そして、少年の力を引き上げているのも彼女の力だということも・・・


「だが、ここからが正念場だ。・・・牙を失った獣は形振(なりふり)構わずに攻撃を仕掛けてくるぞ。」


戦う2人の姿を視界に捉え、コマは2人の勝利をただ信じるだけ、そして勝負の決着はもうじきハッキリするだろうと予感していた――――





魔力の槍によって動きを封じられている妖魔、穿たれた身体に未だ残っている槍のせいで、再生が機能しない。


このチャンスを逃さず、攻勢に出る熾輝と咲耶、しかし妖魔もこの戦いで学んだのか、傷口から大量の瘴気を放出する。


「目眩ましか」


どす黒い瘴気によって、妖魔の姿が隠されると同時、地面からは煙が上がり、床が腐蝕していく。


『この瘴気、オーラだけじゃ防げない!』

「熾輝くん!」


床の腐蝕状況を見たアリアの言葉を聞いて、咲耶が降下しようとするが、それを熾輝が手で制した。


この戦いで成長していたのは、なにも咲耶だけではないのだ。


「破邪・装甲!」


黄金の光が熾輝から放たれ、触れる瘴気を一気に浄化する。


「あれって、アリアと同じ光!?」

『う、うん。でも普通、あの光を疑似的に真似る事なんて出来ないハズなんだけど・・・』


破邪の波動を使用した熾輝を始めて見る2人、そして熾輝の変化に驚愕するアリアを他所に、熾輝は瘴気の中に身を隠した妖魔の気配を探る。


(・・・・やっぱり、瘴気が邪魔で気配が探りにくい)


瘴気は妖魔の身の内から出ているもの、つまり妖魔の気配が周辺に充満しているのと同じ効果を発揮しているため、熾輝の探知にも引っ掛かりにくくなっている。


「っ!?」


突如飛来するコンクリートの破片に、熾輝は身を固めた。


咲耶の拘束から逃れたのか、妖魔からの攻撃が熾輝に向かって飛んでくる。1つ1つが拳大程の大きさを有しており、当たるとそれなりに痛い。


(痛~っ!動きを止めたら狙い撃ちにされる!)


熾輝は、狙いを定められないように動き回るが、礫つぶては熾輝を正確に狙って飛んでくる。


(奴には僕の気配が判るのか)


瘴気の中から攻撃を仕掛けてくる妖魔に、心の中で舌打ちをする熾輝だったが、その苛立ちも直ぐに解消された。


無風の空間に発生する突風が瘴気の霞を巻き上げた。


「もう、そんな煙は効かないよ!」


上空で待機していた咲耶が魔法式を発動させたのだ。


これによって塞がれていた視界が一気に晴れ、妖魔の姿を視認出来るようになった。切断されたハズの腕は、この時点で既に修復されている。


「本当に今日はいい仕事ばかりする。」


視界に収めてから、熾輝が動き出すまでは、ゼロコンマ単位の瞬間だった。


一気に妖魔との間合いを詰めた熾輝は、破邪装甲のまま拳を打ち出す。


迎え撃つ妖魔の魔手を掻い潜り、脇腹に一撃!


『ゴオオオオッ!』


妖魔を襲う魂に響く一撃、先程と違って打撃自体の物理的な力に脅威を感じる。


まるで(コア)を直接握られているような感覚、それは先ほど味わったものと同じ。たまらず後退する妖魔だが、距離を開けたところで再び肉体に突き刺さる激痛に襲われる。


『―――オオオオオオオオッ!』


目先の脅威に集中し、後方の魔法少女に対する警戒が疎かになったことにより、再度、槍によって地面に縫い付けられた。


その隙を誰が見逃すだろうか・・・・


「破邪・・・」


熾輝の全身を覆ていた黄金の光が拳へと集中していく。


この時点で妖魔の脳裏には恐怖しか無かった。しかし如何に破邪拳聖といえど、妖魔を完全に滅する程の力は感じられない。


『ダメだ!そいつを滅するには、まだ足りない!』


必殺の構えに移った熾輝に注意を呼びかけるアリアだったが・・・


「大丈夫」と口元だけを動かして己の意思を伝える


(この一撃で終わらせる。そして、この一撃のためにずっと爆弾を蓄積させてきた!)


現在の熾輝が持ち得る必殺技の中で最強の切り札が今、放たれる!


そして、この一撃を喰らえば、ただでは済まないという確信が妖魔にはあった。

その感情が身体の動きを更に縛っているとは、妖魔ですら気が付いていない。


「爆拳!」


そして放たれた魔を撃ち滅ぼす最強の一撃が妖魔の肉体を超えて魂を捉える。


『ギャオオオオオオオオオオオオォォオオオオオオオ――――――ッ!!』


妖魔の絶叫が空間に響き渡る。そして、もがき苦しむ妖魔の内側から爆発的に発光する黄金の光が肉体に亀裂を生じさせ、核を完全に消滅させた!そして・・・妖魔は遂に動かなくなった


天地波動流:熾輝ノ型【爆拳】

敵の体内に波動を蓄積させて、起爆させる熾輝ノ型最強の技

この戦いにおいて、熾輝の攻撃全てに波動が込められており、妖魔の体内に蓄積されていた。

スコーピオンによる射撃から体術に至るまで、体内に蓄積されていた爆弾が起爆したのだ。


「・・・終わったの?」

『たぶん・・・あれを喰らって生きていられるハズが―――』


熾輝の一撃を受け、動かなくなった妖魔を目にした咲耶とアリアが、戦いの終わりを予感した直後、魂の抜け殻となった妖魔の身体がビクビクと痙攣し、身体が膨張を始めた。


「・・・これは、流石に予想外だな」

『ちょっとー!どうなってんのよ!?』

「なに!?なに!?どういうこと!?」


困惑する一同を他所に、妖魔の身体は尚も膨張を続ける。


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