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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
113/295

第一一二【決裂Ⅶ】

『どうやったら限界を超えられるかって?』


修行の最中、熾輝が昇雲に尋ねた事がある。


『修行あるのみ!自ずと身体が覚えるさね』


返ってきた答えに首を傾げてみせる。


『そうさねぇ・・・人間、意識して出来ることは、精々が制限(リミッター)を解除することぐらい。』


熾輝の場合でいうと獅子奮迅がそれに当たる。


脳が無意識に制限を掛けている肉体の枷、それを取り外して出来ることは、人間本来の力を発揮するところまで


『もしもこの先、もう駄目だ!限界だ!って状況に陥ったとき、大切な人のことを思い浮かべな。その人を守って見せる!って・・・そうすれば、お前を限界のもう一歩先に連れて行ってくれる。』


この話を聞かされたとき、当時の熾輝にとって大切な者とは、師匠達のことであり、彼らを守るという想像が出来なかった。・・・だって、彼らがピンチに陥る姿など、想像することすら出来なかったのだから――――



◇   ◇   ◇



「熾輝さま!熾輝さまああああっ!」


夜の街に双刃の声が虚しく響き渡る


「一体何があった!」


彼女の様子を見て、尋常でない状況にコマが駆け寄ってくる。


そして、戻ってきた者の中にただ1人、熾輝の姿が無い事を直ぐに理解した。


「アリア殿!お願いします!もう一度ゲートを開いてください!」

「・・・無理よ」

「アリア殿!」

「ごめん、もう魔力が無いの」


アリアの言葉に双刃の表情から色が抜けていく


「下がっていろ!」


コマから放たれる力が虚空に吸い込まれると同時、空間が歪曲を始める。


「少年、待っていろ!今、助けにっ!?」


しかし、コマを拒むようにして、空間に干渉していた力が弾かれた。


「何だと!?」

「コマ様、空間に結界が!」

「このままでは異相空間へ渡る事が出来ません。・・・もっと強力な力で結界を破るしか!」


右京左京の言葉は、その場に居た全員の心に絶望を感じさせた・・・ただ1人を除いて


「右京左京・・・お願い、私を咲耶ちゃんの所に連れて行って!」

「「・・・御意」」


燕の言葉に、思わずその場の全員が彼女を見る


「お嬢、しかし―――」

「判ってる・・・熾輝くんたちが何のために頑張っていたかなんて、判ってる。でもっ!」


燕はコマの言葉を待たずして、自分の気持ちを素直に吐き出す


「みんな間違ってる!」


ただ一言、それだけ言うと、燕は融合した右京左京に飛び乗って、夜の街へと駆けだした。



◇   ◇   ◇



街の中心地にある大きな家、ここは乃木坂可憐の自宅


そお家の一室にあるソファーに座っていた少女は、手元にある分厚い本をただ眺めていた。


(アリア…熾輝くん…)


大切だった・・・彼女にとっては、今も大切な人である2人を思い浮かべるだけで、涙が込み上げてくる。


「咲耶ちゃん」


彼女を心配していた可憐が部屋の中に入ってくる。


「可憐ちゃん、私…どうすれば良かったのかな?」

「・・・。」


咲耶の問いに、可憐は応えることが出来ない。


可憐は、咲耶たちの住む世界に対し、傍観者という立場で関わってきた。だが、咲耶の気持ちを判ってあげることも、なんと声を掛けてあげればいいのかも判らない。


『関係ないヤツが出しゃばるな。何も出来ない君には、判らない事だろ。』


熾輝の言葉がチクリと胸を刺す。


「咲耶ちゃん…私には咲耶ちゃんが抱える苦しみを判ってあげる事が出来ないかもしれません。でも、一緒に悩んで、考えてあげる事なら出来ると思います。だから・・・」


それでも彼女は友達の力になりたかった


たとえ、自分に何の力が無くても


「私が咲耶ちゃんの重荷を半分背負って差し上げます。」

「・・・かれんちゃん」


それから咲耶は、可憐に話をした。


魔導書を封印する際に、自分がどれだけ怖かったのか。どれだけ頑張ってきたのか。


なんとか封印できても、次はどうなるか判らない。もしかしたら自分が怪我をするかもしれない。現実世界に逃げ出した妖魔が誰かを傷つけるかもしれない。


そういった重圧が常に纏わりついてきた。


だけど、そんな彼女の前に1人の少年が現れた。


彼とは最初、誤解から戦いになった。


しかし、誤解が解けてからは一緒に魔導書を封印する手伝いをしてくれた。


自分1人では難しかった事件も、彼が手を貸してくれる事で大事にならずに解決することが出来た。


いつも自分を守って、怪我をしないように、無理をさせないようにと・・・


気が付けば、自分は彼に依存するようになっていた。


その事に気が付いたのは、彼の師匠の孫だという少女に遭ったときだ。


依琳に言われて気が付かされた。


自分がどれだけ彼に甘え、どれだけ迷惑を掛けていたかなんて、そのときまで考えてもみなかった。


口ではアリアのためにと言っておきながら、自分では何にも出来ていなかった。


覚悟も足りていなかった・・・誓ったハズなのに。


だから、いざ彼がピンチの時に自分は怯えて何も出来なかったのだ。


彼に依存していた自分には何も・・・


「私は、アリアのために頑張りたかった・・・それは嘘じゃなかったのに、怖くて動けなくて、それで・・・熾輝くんが死にそうな目に遭っているのに助ける事も・・・今まで、沢山助けてもらったのに、それなのに・・・」

「・・・。」


咲耶は泣きながら自分の気持ちを吐露する。


そんな彼女の肩を抱き寄せて、可憐は黙って話を聞いていた。


「咲耶ちゃんの気持ちに噓が無いというのは判ります。…きっと、アリアさんにも伝わっていたハズです。」

「でも、アリアはもう、私の事なんて―――」

「それは違います!」


咲耶の言葉を遮るように可憐が大きな声で否定する


まるで、その続きを咲耶の口から決して言わせては、ならないとでも言いたいように。


「・・・ごめんなさい。でも咲耶ちゃん、これだけは私にも判ります。アリアさんは今でも咲耶ちゃんが大好きで、咲耶ちゃんを大切に思っているという事だけは。」

「じゃ、じゃぁ、何でアリアは、あのとき、助けてくれなかったの?」

「それは・・・」


病室での一件は、可憐も当事者の1人として、その場に居たから知っている。


熾輝に責められていたとき、助けを求める咲耶の視線をアリアが反らして、助けてくれなかったことも。


でもそれは・・・


「大切だから・・・きっと、そうするしか他に方法が無かったのだと思います。」

「?」


可憐の言葉に咲耶は首を傾げる。


実際のところ、可憐は熾輝とアリアが何を考えていたのかは、なんとなく察しがついていた。


しかし、それを言葉にして良いものかと悩んでいたが、それ以上に目の前で苦しむ咲耶を見ていられなくなっていた。


「私には、熾輝くんが全部背負うからと・・・そう言っているように聞こえました。」

「それって、どういう―――」

「咲耶ちゃんっ!」


2人の会話を遮って、少女の声が響き渡った。



◇   ◇   ◇



『グオオオオオッ!』


妖魔の咆哮と同時に繰り出される攻撃を紙一重で躱し、時には掠め、攻撃へと転じる。


一進一退の攻防が今も尚、続けられている。


そんな状況を1人の女性が遠くから視界に治めていた。


「あの子、またあんな無茶を・・・」


葵は熾輝たちが異相空間に訪れてから今までをずっと監視していた。


それはもちろん、熾輝が1人で妖魔と戦っている現在も変わらない。


妖魔の攻撃が熾輝の体を掠める度に、何度も飛び出して助けようとする気持ちを抑えている。


本来なら、此処へ来ることも止めていなければならなかった。しかし、葵はそうしなかった。


弟子を見守る・・・などといった師匠面をするつもりは毛頭なく、ただ単に熾輝の瞳に宿る思いに答えたに過ぎない。


かつて、葵の事を救ってくれた男は、全ての責任を1人で背負い、ずっと自分の事を守っていてくれた。そんな彼の背中を見て育った熾輝が今、師である清十郎と同じ道を歩もうとしている。


だが、その道の先に守ろうとする者や守られる者の笑顔が無いことを葵は知っている。


知っているのに、自分はそれを止める事が出来ない。


少年の……熾輝の決意を汚す事になると判っているから。


だから彼女は、ただ無事に帰ってきてほしいと祈る事しか出来なかった――――




「うおおおおっ!」


熾輝の突きが、蹴りが、妖魔の体へ次々に突き刺さる。


我流限界突破:獅子奮迅ライオンハート・・・これにより熾輝の身体能力は飛躍的に上昇し、妖魔の身体強化された力とギリギリで渡り合っている。


だが、打ち込んでも、その場で妖魔の体がみるみると治癒されていく。


要するに熾輝の攻撃は決めてに掛けているのだ。おまけに体力もジリジリと削られていく。


『―――オオオオオオオッ!』


対して、龍脈の力を常時体に補給する妖魔は、無尽蔵の力を保有しており、いつまでも戦い続けることが可能だ。


この妖魔を倒すには、内包する再生の魔導書を抜き取るか、一撃で滅する他に手段がない。


希望があるとすれば、熾輝が所持するシルバーの中に装填されている付加魔弾を撃ち込むこと。


だが、このギリギリで行われている一進一退の攻防の最中に、魔法式を相手に送り込める隙がない。


熾輝の魔弾を使用するためには、身体を覆うオーラを魔力に切り替えて魔法式を送り込むという手順が必須となり、今、それを行えば妖魔の攻撃を防ぐ手段が無くなってしまう。


そんな自殺行為をする訳にもいかず、故に今現在はシルバーをホルスターに収め、体術だけで戦いを続けているのだ。


「はああーーーっ!」


熾輝の拳が鳩尾を捉えると、妖魔は思わず身体をくの字に曲げる。


その隙を見逃さず、熾輝が畳みかける。


「心源流…疾風怒濤!」


拳と蹴りが竜巻の如く回転を続ける状態で人体の急所目がけて次々と放たれる。


回転を続けることで技の威力が徐々に増していき、喰らっていた妖魔の体が次第に後退していく。


それと同時に熾輝の呼吸が乱れ始める。


息が上がり、一撃一撃を放つごとに体力が一気に持っていかれる感覚と悲鳴を上げる肉体


その全てを無理やり抑え込み、最後の一撃、収束していく力に全てを掛けて放つ。


回転を重ねる事で最大にまで引き上げられた攻撃力と練りに練ったオーラが収束していく。


そして、度重なる連撃に妖魔の体勢が大きく崩れたその一瞬を見逃さない。


虚空閃こくうせん!」


放たれた技は、心源流奥義!ただし、真の奥義に非ず!実際の虚空閃は、前動作に回転などの溜め動作は存在せず、空間もろとも一瞬にして光が駆け抜けるが如く敵をぶち抜く貫通技である。


その域まで到達していない熾輝にとっては、見様見真似がせいぜいである。ただ、この技の理論を知っているだけでも、とんでもない破壊力のある攻撃を放てるのも事実!


そして、熾輝の劣化虚空閃が妖魔の肉体を突き破る!右腕が肘近くまで入ったところで・・・


(掴んだ!)


妖魔の内に蠢くソレを鷲掴みにした熾輝は、一気に引き抜こうとする。


しかし・・・


「っ!?」


妖魔の腹筋が異常なまでに熾輝の腕を締め上げ、引き抜くことが出来ない。


それでも、力の限りを尽くし、ゆっくりとだが、手にしたソレを妖魔の体外に出そうとしていたその時


「ぐあっ!?」


妖魔の傷口から噴火の如く噴き出す瘴気がシキを襲う。


技の発動のため、一箇所にオーラを集中させていたことが仇となり、瘴気が熾輝の体を侵していく。


それでも、掴み取ったチャンスを手放さない。


熾輝が掴み取ったのは妖魔に内包された魔導書の1つ、再生の魔導書だ。


体を侵されながらも、それでもあと僅かで魔導書の1つを引き剥がせるところまで来ている。


だが、妖魔もただ黙って見ている訳ではない。


妖魔の口から瘴気が溢れ出し、それが炎を吐くドラゴンの咆哮ブレスの如く熾輝を包み込む。


「があああああっ!」


さながら、瘴気の咆哮ブレスとでも呼ぶべき予想外の攻撃に、熾輝は耐えきれず手にしていた魔導書を手放してしまい、そのまま床に転がりまわる。


「ぁがっ、・・・が」


オーラを纏わない状態で瘴気をまともに浴びた熾輝の体は、どす黒く変色し、至る所がグズグズに腐蝕しているのが判る。


その上、獅子奮迅ライオンハートの長時間使用に加え、疾風怒濤から虚空閃への接続技という身体を酷使する状態を続けていた肉体が、遂に限界を迎えた。


「っ!?」


(まずいっ!身体に力が入らない!)


歯を食いしばって、何とか立ち上がろうにも、足をもつれさせて転倒してしまう。


その様子を見た妖魔は、ニイイイィっと引き裂かれた様な笑みを浮かべて熾輝に近づいてくる。


このときが、熾輝が詰んだ瞬間であった――――




「…ここまでのようね」


熾輝が戦うビルの隣、高層ビルの屋上から戦況を監視していた葵が、これ以上の戦闘は不可能だと判断した。


(正直、よくここまで頑張ったわ。だけどね、これ以上はもう無理よ)


虚空を撫でるように複数の魔法式を展開する葵もまた、堪えた方だと言える。


普段、師匠連中から過保護だなんだと言われている彼女が、愛弟子が傷つく姿を目の当たりにして、最後まで手を出さなかった事は奇跡と言っても過言ではないだろう。


(熾輝くん、彼方は学ぶべきだわ・・・強くなければ、思いを突き通すことが出来ない事を)


彼女にしては少々厳しい評価が下る。


だが、それが真実


どんな固い意志でも、強大な力の前には理不尽に踏みにじられてしまう。


「だから、もっと強くなろう・・・・っ!?」


弟子には聞こえないであろう想いを口にした葵が魔力を高め、展開された魔法式が起動する直前、それは起きた―――





(・・・死ぬのか?こんなところで・・・)


既に限界を迎えた熾輝は、迫る妖魔を睨み付けながら己の不甲斐なさを恥じる。


(なんで僕は、こんなにも弱いんだ・・・大切な友達1人救うことも出来ない)


頭に浮かぶのは、おびえながら泣いている1人の少女


(っ!・・・負けられない、負ける訳にはいかない!コイツを倒さない限り、また咲耶が悲しむ!)


とうに限界を迎えたハズの熾輝の体から僅かに力が溢れてくる。


身体を起こし、膝をつく


身体の至る所には妖魔によって付けられた傷が無数にあり、腐蝕した部分からは血が流れている。


(それがどうした!)


熾輝は、ゆっくりと立ち上がると、今まさに己の命を刈り取らんとする死神を睨み付ける。


「・・・破邪」


そして唱える・・・大切な者を守るために、少年は限界のその先へと至る


「装甲!」


次の瞬間、熾輝の身体から黄金の光が放たれた。


正確には熾輝のオーラが黄金の光を放っているのだ。


破邪装甲は今まで一箇所に集めて発動させていた破邪拳聖を身体全体にシフトした熾輝の新たなる技である。


これにより、瘴気に侵されていた熾輝の身体は一瞬にして浄化された。


『グルウウウゥ・・・』


熾輝の変化に、妖魔にも動揺が走る。


本能で判るのだ。目の前の敵は先程まではと何かが違うと


そして、その予想は当たっていた。


現在、己をの限界を超えた熾輝の変化は、身に纏う新たなる技だけではない。


感覚が異常に研ぎ澄まされた事により、熾輝が視る世界がクリアになり、全てがスローモーションになる。


次の瞬間、熾輝は妖魔へ肉薄した。


『ッッ!!?』


突き出された拳が妖魔の腹部に突き刺さり、激痛が駆け巡る。


ただの打撃による痛みではなく、まさに魂に響く一撃


肉体へのダメージなど大したものでは無い。それこそ、身体強化によって底上げされた肉体と再生魔法をもってすれば、物理的な力は無意味と言ってもいい。


だがしかし、今の一撃は、そういった物理的な力を凌駕するもっと別の力が働いていた。


妖魔は即座に危険だと本能で理解し、熾輝から距離を取るために飛び退いたと同時、妖魔の動きに合わせて熾輝も跳んだ。


『ッ!!?』


その動きに驚愕し、更に飛び退くが、逃がさないとばかりに、常に妖魔の動きに合わせて熾輝が追い縋る。


そして放たれる二の拳が妖魔を捉える。


『グオオオッ‼』


突き刺さった拳から流れる力が妖魔の魂に直接ダメージを与える。


思わず口から胃液に似た物を吐き出す。


先程と変わらず肉体へのダメージは殆どない・・・にも関わらずこの激痛


妖魔は自分が何をされているのかが理解出来なかった。


強靭な肉体と、どんな傷だろうと癒す再生能力、この2つがあれば、どんな相手だろうと決して負けることは無いと確信していた。


だが実際は、どうだろうか


人間の、それも子供相手に此処まで追い詰められ、命の危険すら感じている。


この感情は何だ?・・・自分が妖魔として生まれ変わってから初めて感じる底知れない恐怖に全身が縮み上がる。


無我夢中に体験を振り回し、腕を振るい、あまつさえ噛み付こうとすらして見せたが、少年はまるで自然な動きで全てを躱してみせる。


勝てない・・・かつて自分にこの力を与えた男同様に、目の前の少年に自分は敗北するのだと悟った。


だが、ただでは終われない。


渾身の力を振り絞り、内包する瘴気を喉元まで溜め込む。


熾輝は先程から手の届く距離にいる。それどころか、身体が触れるか触れないかという超至近距離だ。


広範囲を腐らせる瘴気の咆哮ブレスならば、絶対に避けられるハズがないと確信していた妖魔は、熾輝に向かって、凶悪な咆哮ブレスを吐いた。


瞬間、妖魔に肉薄していた熾輝を瘴気の炎が呑み込んだ。


このとき、妖魔は己の勝ちを確信した。最初に放った瘴気とは比べものにならない程に濃密で激しい瘴気だ。これを喰らって生き残れる者は存在しないとさえ思っていた・・・しかし、吹き荒れる瘴気の中から伸びてきた手が、その考えを一瞬にして無へと返す。


黄金に輝くその腕は、そのまま妖魔へと吸い寄せられるように迫ると、口元を鷲掴みにした。


口を押えられたことにより、ブレスを吐く事も出来ない。


そして、妖魔の眼が攻撃に移る熾輝を捉える。


熾輝の左手がギチギチと妖魔の顎を締め上げ、腰高に構えられた右手からは、目を覆いたくなるほどの眩い黄金が空間を照らしている。


死を予感させる一撃を前に、妖魔は恐怖し、思わず目を瞑る事しか出来なかった。


・・・・・・しかし、その一撃は一向に放たれることは無かった。


恐る恐る目を開いた妖魔は見た物は、黄金のオーラを失った熾輝の姿


それどころか、身体から完全にオーラが消え失せており、妖魔の顎を締め上げていた腕が突如として外れ、ズルズルと崩れ落ちていく。


息も絶え絶えに、辛うじて立っている目の前の少年のからは、闘志という名の光が殆ど感じられない。


時間切れ


度重なる負荷に加え、限界を超えた力に熾輝という器が耐えられなかった。


その状況に妖魔は一瞬、呆気に取られてしまう。先程まで自分を追い詰めていたハズの脅威が見る影もない。


こちらの油断を誘っているのかと思い、試しに小突いてみれば、簡単に転がって起き上がることも出来ないではないか。


かろうじて半身を起こそうと、もがいている姿は、なんとも見苦しい。


終わった・・・これでようやく目の前の少年を殺す事が出来る。


そう確信した妖魔が、トドメの大剣を振り上げた。


その光景を熾輝は力なく、ただ見つめる事しか出来ない。


(ごめんなさい先生・・・ごめん双刃、アリア、勝手なことをして・・・ごめん燕、約束を守れなくて・・・・)


熾輝に大切な者への想いが駆け巡る


(咲耶・・・僕が死んだら悲しむかな)


ごめんなさい、ごめんなさいと・・・心の中で何度も謝る


そして、命を砕く大剣が死神の手によって振り下ろされ、少年に終わりの時が訪れた・・・・・・かに思われた


「熾輝くんっ‼」


少女の声が響き渡った瞬間、極太の光が目の前の妖魔を吞み込んだ。






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