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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
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第一〇八話【決裂Ⅲ】

「熾輝くん!熾輝くん、お願い目を覚まして!」


真夜中の街で燕の声が虚しく響き渡る。


彼女の目の前には血まみれの少年が倒れ、そのまわりには咲耶たちがいる。


異相空間から戻った彼女たちだったが、帰還した4人の中で1人だけ意識を失っていた熾輝を見た燕が直ぐに駆け寄り声を掛けたが応答がない。


単に意識を失っているのではなく、息をしていないのだ。


だから燕は、これほどまでに取り乱しているのだ。


可憐も口元を手で覆い、狼狽えている。


咲耶にあっては、ただ茫然と崩れ落ちている有様だ。


「「コマ様!」」


騒然となった現場に右京と左京が現れた。


「来たか!」


待っていたと言わんばかりにコマが2人の方へ向き直る。


そして、視線の先には待ち焦がれていた人物の姿があった。


五柱、東雲葵だ。


「容体は?」


葵は周りに目もくれず、一直線に熾輝の元へ駆け寄ると、傍に控えていた双刃に声を掛ける。


「心臓が止まってから3分が経過しています。心臓マッサージをしようにも肋骨が折れて手の付けようが・・・」


悔しそうに語る双刃の報告を受けて、素早く触診を行った葵は、瞬時に容体を把握すると幾つもの魔法式を展開させた。


そして、熾輝が来ていた上着を展開させていた切断の魔法で切り取って脱がすと、アバラの下、脇腹付近を何のためらいもなく切った。


その状況を見ていた少女達は、皆がビクッと驚きを見せていた。


切られた部分からは血が流れ出ている。そこへ・・・ズブリッ、と手を差し込んだ。


葵は肘近くまで腕を差し込むと、その手に熾輝の内臓に触れる感触を得て、それを掴み、力を込める。


彼女が手にしたのは熾輝の心臓、それを直に触れてマッサージを開始したのだ。


そして、葵は今も呼吸をしない熾輝の口に自分の唇を重ね合わせると人工呼吸を開始した。


心臓マッサージと人工呼吸を繰り返し行う。この時点で熾輝の心臓が止まって5分が経過していた。


咲耶たちが見守る中、葵の蘇生措置が続く。そして・・・


「ゴホッ!」

「熾輝くん!」


むせるように咳をした熾輝は息を吹き返した。それを見た燕は泣きながらへたり込む。


だが、意識が戻った訳でもなければ、怪我が治ったわけでもない。


未だ予断を許さない状態は変わっておらず、葵は熾輝の脈を計ると同時に時間を気にしていた。


「双刃ちゃん、急いで病院へ連れて行くわよ、手伝って。」

「承知!」


葵は血がべっとりと着いた腕で熾輝を抱き上げると足早にその場を去ろうとする。


(時間がない、今この子達の前でアレを見せる訳にはいかない。)


腕時計に視線を落とすと、午前0時まで1分もない。


これまで、熾輝が重症を負うたびに怪我を完治させてきたのは、例の炎によるものが殆どだ。


ただ、あの能力について、師である葵はおろか円空達にも全てを把握できていない。


唯一わかっていることと言えば、午前0時に能力が発動し、どんな怪我すらも治してしまうという点だけ。


だから葵は熾輝の蘇生を優先した。


今まで熾輝のこの能力が死んだ状態から発動して蘇生するという経験がなかったからだ。


ある仙人は試そうとしたが、それは倫理的に問題があるとして葵が突っぱねた。


当然と言えば当然である。仮に仮死状態で実験をするとしても、弟子にそのような危険な真似はさせられない。そもそも能力とは、能力者が意識的あるいは無意識的に発動することがあるが、それは生きていればの話で、死んだ状態から発動する能力など過去に例がない。


そして、熾輝はこの能力の事を知らない。師の間でも教えるべきかどうか論議されたが、基本的に熾輝は自分の命を軽んじる傾向があり、もしもこの能力を知れば、どうせ治るからと危険な事をしでかしそうという結論に至り、熾輝が成長するまで教えないという事になっている。


もしも、この能力を知った第三者が熾輝に教えれば、熾輝はより一層、命を軽んじる考えを持つか、あるいは、この能力を研究しようとする勢力に目を付けられる可能性が高い。


だから葵は、熾輝を連れて早急にこの場を去ろうとしたのだが・・・


「ぁ、あの」


咲耶によって呼び止められた


正直、彼女には悪いが葵は無視をして、その場を立ち去ろうとしていた。


だが、咲耶の声が儚いくらいに頼りなく、そして誰かに縋らなくては生きていけない様な、そんな感じがして、葵の足は歩みを止めてしまった。


「わ、わたし、私…私のせいで・・・」


その表情は恐怖に歪み、そして、その瞳には絶望が映し出されている。


「咲耶ちゃん―――」

「葵殿、時間が!」


かつての自分と重なる何かを感じた葵は、咲耶のことをどうしても放っておくことが出来なかった。


このままでは彼女がダメになってしまう。


別に熾輝の事を忘れていた訳ではない。ただ、彼女のことも同じくらい放置できないと思ってしまったのだ。


だが、結果的に時計の針は午前0時を回ってしまった――――


『ゴオオオオオオオオオオオッ!』


突如、熾輝の身体から紅蓮の炎が燃え盛る。




――――――――結局、あの後アリアたちの目の前で起きた現象について何の説明もされなかった。ただ1つだけ約束させられたのは、あの事を誰にも口外しないこと。そして熾輝にも言わないことだった。


(あれは、一体なんだったの?)


その事を頭から振り払う事が出来ずに一夜を過ごしたアリアは、今朝方、コマから連絡を受けて熾輝が入院している病院へ1人でやってきた。



◇   ◇   ◇



「えー、それでは残りの夏休みも事故が無いように有意義に過ごして下さい。」


そう言って、担任の先生が教室を後にした。


周りのクラスメイトが今後の予定を楽しそうに話しているなか、咲耶は1人俯いていた。


「咲耶ちゃん、大丈夫ですか?」

「ぅ、うん」


咲耶は大丈夫と答えるが、表情に陰りがあり、その瞳には生気がない。


「今朝、燕ちゃんから聞きましたが、夜中に熾輝くんが目を覚ましたらしく、身体に異常は無いと言っていましたよ。」

「…そっか、」


自分を心配してくれる友人の声がまったく頭に入ってこない。


彼女の頭を占めているのは、昨夜の戦い・・・正確には自分は戦わずに怯えて傍観していただけで、襲われたという方が正しいだろう。その相手である妖魔のこと、そして、目の前で血まみれになって倒れた熾輝のことだ。


その事が頭から離れてくれない。


思い出すだけで、今も震えそうになる身体を必死に抑え込む。


そんな咲耶の手を可憐はそっと握る。


「大丈夫です。」

「・・・可憐ちゃん」

「きっと、熾輝君だって怒っていないと思いますよ。もしかしたら、再戦に向けて作戦を考えているかもしれません。」

「でもでも、私のせいで、あんな怪我を・・・」

「でしたら、これから3人で会いに行きましょう。私も一緒に謝って差し上げます。」

「可憐ちゃん・・・」


不甲斐ない自分のせいで友人に大怪我をさせた事実は消えない。だが、そんな自分を心配して支えてくれる女の子から僅かに勇気をもらい、咲耶の目から再び涙がこぼれた。


「あらあら、咲耶ちゃんは本当に泣き虫ですね。」

「ぅ、うっ、…ごめんね。」


優しい友人に手を引かれ、咲耶たちは熾輝が入院する病院へとやってきた。




病室は前もってコマから伝え聞いており、丁度お昼も終わった時間帯に3人はやってきた。


病室の前には、八神熾輝と書かれた表札が1つ付けられ、他に入院患者は居ないらしい。


というのも、完全個室の部屋だからだろう。


昨晩の一件もあり、咲耶は病室に入るのに躊躇ためらいがちであったが、可憐が率先してドアをノックする。


『……どうぞ』


僅かな間を置いて中から聞きなれた少年の声が聞こえてきた。


「失礼します。」


入室の許可を得た可憐が扉を開けると・・・・そこには3人よりも早く病院にやってきていたアリアの姿があった。


他に双刃も一緒にいるが、彼女達の表情がいつもに比べて固いと可憐は感じていた。


「熾輝くん、お加減はいかがですか?」

「…見てのとおりだ。」


熾輝は妖魔によって破壊され完治した腕を回して見せた。


しかし可憐は、熾輝の言動に何か違和感のようなものを尚更強く感じた。


「熾輝くん、無事でよかったよぉ。私、心配で心配で!」


燕は熾輝の元気そうな顔を見れてほっとしたのか、半泣きのまま熾輝が腰かけていたベッドの前までスタタッと駆け寄ってきた。

もう、そのまま抱き着くんじゃないかという勢いのまま・・・しかし、それは水際で阻止された。


「よさないかお嬢、少年は病み上がりなんだ。」

「コッ、コマさん!?いつの間にそこに居たの!?」

「ずっといた。お嬢が変なことをしないよう、実在から離れて見張っていたんだ。」


熾輝に抱き着こうとしていた燕の襟首を掴み、彼女の動きを封じたコマが、ヤレヤレと溜息を吐いた。


「…心配かけたね。もう大丈夫だから。」

「う、うん。」


折角の抱擁を邪魔されたことで、どことなくバツが悪い思いをしたが、それ以外に燕も熾輝に対する違和感を覚えた。


そして、その違和感の正体は、直ぐに判ることになる。


「あ、あの・・・熾輝君、わたし・・・」


病室に入って来てから身を小さくさせてた咲耶が、オドオドとしながら話しかけてきた。


彼女がそのようになるのも無理はない。なにせ熾輝は自分を庇うために大怪我を負ってしまったのだ。


正確には、死の淵をさ迷ったと言っても過言ではない。


「本当に、本当にごめんささい。私のせいで―――」

「まったくだ。」


咲耶の謝罪を最後まで聞き終えることなく、熾輝の辛辣な言葉が彼女の心に突き刺さった。


その途端、昨夜は足元が崩れるような感覚と悲壮感に襲われた。


「ちょっ、熾輝くん何をングッ!?」


ただならない雰囲気を感じ取った燕が2人の間に入ろうとしたとき、コマによって口を塞がれた。


「おかげで死にかけた。」

「ぁ、あの、わた、し・・・」

「そうやって直ぐに狼狽えて・・・昨日だって、君が普通に動けていれば僕はこんな事にはなっていなかった。」


熾輝は咲耶を睨み付けながら言い放つ。


言葉が出てこない。


咲耶は弁明しようにも熾輝の言っていることが事実である以上、言い訳が出来ないでいる。


「足手まといなんだよ、君は」

「っ!?」

「いつも、いつも、僕がどれだけ神経をすり減らしているのかも知らないで、・・・遊び感覚でやられちゃ迷惑だ。」

「ち、ちがうもん!遊びでやっている訳じゃないもん!私は―――」

「アリアのためか?」


今まで、決して遊び感覚で魔導書を封印してきた訳ではない。だから、熾輝のその言葉に、それだけは譲れないとばかりに反論をする咲耶であったが


「笑わせるな、アリアのためと言いつつ昨日だって彼女に守ってもらっていた君が、どの口でそれを言うんだ。」

「そ、それは・・・」


確かに昨日、咲耶は妖魔のプレッシャーに負けて動くことが出来ず、アリアにずっと守られていた。あまつさえ、異相空間からの脱出ルートも本来なら彼女がゲートを開ける役割を担っていたにも関わらず、それすら放棄してアリアにやってもらった。


「もう、無理だ・・・これ以上、君のお守りは僕には出来ない。」

「ま、待って・・・」

「この件から手を引け」

「待ってよ、私は」

「残りの魔導書は僕が集める。君は普通の女の子として―――」

「待ってよ!」


熾輝が言わんとしていることは咲耶でも判った。要するに魔導書も魔術も手放して一般人に戻れと言っているのだ。それは、彼らに・・・熾輝やアリアとも関わらない事を意味している。


だから、彼女は必至になっている。


大切な人と離れるなど、彼女に許容できるハズがないから・・・そして、いつもなら彼女の相棒であるアリアが一番に助けてくれるハズなのに、今日は助けてくれない。


ただ、彼女にはもうアリアしか頼れる相手はいない。だから咲耶はアリアに助けを求めるような視線を送った。・・・しかし


「っ!?」


救いを求める咲耶の視線をアリアが逸らしたときのショックは大きかった。


だから、熾輝に縋るように彼の服を掴む


「ごめん、ごめんなさい!もう、あんな風にはならないから!もっと頑張るから!だから、だから許して!」


泣きじゃくる咲耶には、ただ許しを請う事しかできない。


そんな彼女を見て、熾輝もまた、胸が押しつぶされそうになり、それを咲耶に悟られないよう必至に拳を握って自分の感情を誤魔化す。


「離せよ」

「熾輝くん・・・お願い」

「もう君には無理だ」

「ちがう、むりじゃないもん・・・私だって頑張ってる。確かに熾輝くんに甘えていたかもしれないけど、でも、もっと頑張れば私だって強くなれる。熾輝くんやアリアに守られなくても戦える、頑張ればいつか―――」

「ふざけるなよ」


縋るように服を掴んでいた咲耶の手を振り払い、今度は熾輝が咲耶の胸倉を掴んだ。


「何が頑張ればだ、生まれ持った才能に依存して適当な努力で魔術を習得してきた君が、今まで一度でも必死になって修行したことがあるのか?」


熾輝の言葉に返す言葉もない


なぜなら咲耶は、今まで彼女自身が持つ才能によって、それ程の努力などしなくても魔術を修得してきた。


必至になったことなど、記憶を思い返しても一度もない。


「もしも君が必死になって修行を重ねていたなら、こんな事にはなっていない。…遅すぎるんだよ、何もかもが。頑張れば?そりゃ頑張れば君ほどの才能があれば強くなれるだろうさ。だけど、君が強くなるまでに僕は一体何度死に欠ければいいんだ?」


胸倉を掴み、咲耶を睨み付けながら熾輝は更に続ける。


彼女の目からは止めどなく涙が流れ続けていることも無視して


「アリアのためだとか、僕が守っているとか、そんな聞こえの良い言葉ばかり並べてないで現実を見ろよ。いつまでも頭の中がお花畑じゃあ、こっちの身が持たない。」

「わ、私は本当にそうおもっている、から・・・大切な人の力になりたい。でも、熾輝くんの優しさに甘えていて、それが迷惑だったなら、足を引っ張らないようにするから・・・だから―――」

「僕が優しい?・・・勘違いするなよ、僕はただ君が持っている魔導書が目当てなんだ。君がいなくなれば目当ての魔術を起動してもらえる人が居なくなるから、仕方がなく君の面倒を見ていただけだ。」

「そ、そんなハズないもん!熾輝くんは本当に優しいから、だから―――」

「なんだ、そんな考えに行きつくんだよ………きみ、頭の中に虫でも湧いているんじゃないか?」


熾輝の言葉の刃が咲耶の心に突き刺さる。


先ほどから理論的に話をしていたハズの熾輝であったが、最後の方はもはや言葉の暴力でしかない。


その暴力を受けて、精神的に未熟な咲耶が耐えられるかと聞かれれば、当然否である。


もはや、熾輝に何を言っても許してもらえない。そう思った矢先


パシイイン!!


乾いた音が室内に響き渡った。


「……ごめんなさい、だけど言葉が過ぎますよ」


可憐のビンタによって、熾輝の頬にズキズキとした痛みが走る。


彼女も熾輝に言いたいように言われている咲耶を見ていて、黙ってはいられなかったのだ。


だけど、そんな可憐のことすら、熾輝は睨み付けて言葉を紡ぐ


「関係ない奴がでしゃばるな。何にも出来ない君には、判らない事だろ。」

「それは、そうかもしれませんが、でも―――」

「もうやめて!」


可憐と熾輝がお互いに言い合いを始めようとしたとき、咲耶が泣きながら二人の喧嘩を止めに入った。


「わかったから!もぅ、私は・・・魔導書には関わらないから。」

「咲耶ちゃん、でも」


咲耶は泣きながら熾輝やアリアに言った・・・もう自分は魔術の世界には関係を持たないと。


それは、自分にとって大切な人・・・・アリアとの別れを意味している。


「アリア、今までありがとう。それと・・・・ごめんね。」

「咲耶ちゃん!」


別れを告げた咲耶は病室から逃げるように出て行ってしまった。


「………熾輝くん、本当にこんなやり方で良かったんですか?」

「うるさい、・・・もう帰ってくれ。」


可憐は先程のやり取りからか、それとも拳を握る熾輝の手が震えている様子を見て何かを感じ取ったのか・・・ただ、何かを言いたそうにして、何も言葉を掛ける事をせずに病室から飛び出して行った咲耶を追いかけて行った。


「うっ!」


咲耶と可憐が出て行ったあと、熾輝は苦悶の声を僅かに漏らすと、服を握るように胸に手を当てていた。


今まで感じたことのない感覚に胸が苦しくなるのを感じ、動機をもよおし、気が付けば呼吸までもが乱れていた。


「熾輝さま!?」


苦しそうにする熾輝に双刃が傍に駆け寄る。だが、これは精神的な問題であって、別段身体に異常がないことは双刃にも判っている。


「だ、大丈夫・・・何でもない。」


熾輝は呼吸を整えながら寄り添う双刃に応える。


そんな熾輝の様子を見て、先ほどからコマに口を塞がれていた燕が、ようやく自由になり悲しそうな表情を浮かべている。


「熾輝くん、どうして?」

「・・・。」


燕の質問に熾輝は答えることが出来ない


「約束したじゃない。仲直りするって、それなのに・・・」

「お嬢、やめろ」


責めている訳ではない。ただ、燕には熾輝の行動の理由がわからないのだ。


だが、そんな燕をコマが止めに入る。


「少年は・・・熾輝は咲耶のために、ああ言うしかなかったのだ。」

「それって、どういう―――」

「コマさん!」


事情を知っているコマは、燕に全てを打ち明けようとした。しかし、熾輝がそれを止めようとするが・・・


「もう見ていられんのだ。・・・・熾輝よ、このままでは君が壊れてしまうのではと、私も…そして皆が心配をしているのだ。」


そう言ったコマの視線が、自分に寄り添う双刃やアリアい向けられている事に気が付き、熾輝は吊られるように周りを見渡すと、そこには不安な表情を浮かべる双刃と悲しそうな表情をするアリアの姿があった。


「八神熾輝、もっと周りをよく見ろ。そして頼れ、お前ばかりが責任を感じる必要は無いのだ。・・・お前の味方をする者は、ここに居る。重荷に感じている責も我々が一緒に背負おう。だから、孤独を抱き1人で背負いこもうとだけはしてくれるな。」


コマの言葉に、熾輝は知らず知らずに抱えていた物が少しだけ軽くなった事を感じた。


「熾輝くん、教えて。私、言ったよね?何があっても熾輝くんへの想いは変わらないって。だから・・・」


燕は、切なそうに熾輝の手をそっと包み込み、きゅっと握ると熾輝の言葉を待った。


「・・・参ったな、燕には一生敵いそうにないや。」


自嘲気味に笑う熾輝は、いつものように何処か空虚な雰囲気で答えた。


ただ、燕にはそれが弱弱しく感じ、握っていた手に自然と力を込めさせていた。

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