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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
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第一〇五話【来訪者XVⅡ】

「―――その後、エンジェルとご学友は帰宅しました。」

『御苦労だったアンドロメダ。』


携帯電話を片手にアンドロメダと呼ばれた女性(一見して主婦)が仲間に連絡を入れている。


「いえ、危うくエンジェルが連れ去られるかと肝を冷やしましたが、まさか奴が介入してくるとは私も思っていませんでした。」

『うむ、まさか土橋淳がエンジェルを助けるとはな。』

「奴自身、あの場にエンジェルが居たことには気が付いていなかった様子です・・・というよりも、絡まれていた子供を助けるために動いた節がありました。」

『なに?やはり噂は本当だったのか。』

「噂ですか?」

『ああ、例の事件以来、奴は日本を離れ、タイへと渡り、つい最近になって帰国したらしい。』

「タイにですか?・・・いったい何のために?」

『どうやら、ニューハーフになる為に性転換手術を受けていたらしい。』

「・・・・・ん?」

『そして、ニューハーフ・・・もとい、新人類の祖と呼ばれている人物と共に修行を重ねていたとの報告をある筋から聞いている。』

「な、なるほど。そのような人物から手解きを受けて、性別と共に心も入れ替えたという事でしょうか。」

『おそらくな。とにかくご苦労だった。我らのエンジェルを守ることが出来たのは君の功績だ。』

「いえ、そのようなことは。」

『謙遜するでない。確かに予想外な奴の介入はあったにせよ、事後処理が上手くできたことにより、エンジェルの活動に支障が出なかったのは大きい。今後も彼女の守護は君に任せよう。』

「はっ!ありがたき幸せ!」

『それでは私も別任務おしごとに向かう故、これで失礼する。…ジーク カレン!』

「ジーク カレン!」


そう言って、お互いに通話を切断した。


携帯電話をバッグにしまうと、女性は商店街に行き交う人込みに紛れ、家族が待つ自宅へと向かうのだった。


そして、何を隠そう彼女こそが乃木坂可憐非公式ファンクラブ、通称NHFの構成員が一人、可憐の守護者にしてNHFの眼!アンドロメダその人である!


今回の一件、可憐が男達に絡まれたことを現認し、商店街の構成員を集めて乗り込ませたのも彼女の仕業である。


しかし、今回、彼女にとって予想外だったのは、現場に到着した時に、仇敵であった土橋淳(現在は淳子と改名)が新人類に生まれ変わり、あまつさえ彼女を助けていたことだった。


この先、彼らNHFと淳子が再び運命の交差路で交わる事になるとは、まだ誰も知らない・・・。



◇   ◇   ◇



「送ってくれてありがとう、双刃ちゃん。」

「いえ、これくらい、お安い御用です。」


自宅の前まで辿り着いた咲耶は、送り届けてくれた双刃に礼を言った。


ちなみに、可憐も同様に現在、双刃の影分身が自宅まで送り届けたところだった。


「申し訳なかったわね、本当は熾輝と仲直りするハズだったのに。」

「あれは致し方なかったと思います。」


今日は、本来燕との一件を解決させた熾輝が、咲耶と可憐とも仲直りをする計画となっていた。


その計画を企てていたのは、アリア・双刃・依琳・劉邦の4人だ。


彼らは熾輝達に気付かれないよう水面下で行動を起こしていた。


しかし、先程の一件もそうだが、熾輝が放った殺気により、それどころでは無くなってしまったのだ。


「あの、咲耶殿、熾輝様は…」


双刃は、今回の熾輝が起こした行動を弁明しようとした。


しかし、仮契約とはいえ、式神である自分が主の交友関係に口出しをしても良いものかという迷いが生まれる。


「大丈夫、判っているから。」

「咲耶殿…」


うつむき加減だった双刃の顔が咲耶の言葉を聞いて上がる。


「きっと熾輝くんは、私達のために怒ってくれたんだよね。ちょっぴり怖いと思ったけど、やっぱり私の知っている熾輝くんだった。」


いつも自分たちを気にかけてくれる、いつも優しい・・・そんな熾輝が、あれ程までに怒った姿を咲耶は見たことがなかった。


確かに、あのときの熾輝を怖いと感じてしまったが、しかしそれは、後になって、怒ってくれた熾輝に対し、申し訳ない気持ちが彼女の中にもあった。


「今日は、仲直りが出来なかったのは残念だったけど、きっと大丈夫だから。」

「咲耶殿……かたじけない。」


なんの根拠もない。


しかし、大丈夫という彼女の言葉を聞いて、ホッとした双刃は頭を下げると、アリアと視線を交わし、熾輝が待つ自宅へと帰って行った。


双刃の後姿を見送る咲耶は、申し訳ない表情を浮かべていた。


「…なんだか色々な人たちに迷惑を掛けちゃっているね。」

「まぁ、それだけ咲耶達の事が大好きってことなんだよ。」


アリアの言葉に先程までの影の差していた表情に、少しだけ光が差し込む。


頬をほんのりと染めて、それでいて照れ笑いを浮かべる咲耶は、誤魔化すように自宅の中へ足を向ける。


(早く仲直りができるといいなぁ。)


そんな事を思う彼女は、自宅ドアを開けて、いつも通りの日常へと戻っていった。



◇  ◇  ◇



「明日、中国に帰るから。」

「………え?」


熾輝は、唐突に依琳から帰国の報告を受けた。


もちろん、前もって帰国の日程は彼女から聞かされていた。


そのため、突然の帰国に思わず目を丸くした。


「待ってよ、まだあと一週間は居れるハズだよね?」


当然熾輝は、帰国の日程を確認をする。


「しょうがないでしょ!帰国する事になっちゃったんだから!」


まったく説明になっていない彼女の言葉に、思わず劉邦へ視線を移し、説明を求める。


「まぁ、何ていうか………1週間日程を間違えていました。」


劉邦によると、てっきり2人は2週間の滞在が出来る物だと勘違いをしていたらしい。


というのも、チケットを用意したのは依琳の祖父である白影なのだが、もちろん、白影は正確な帰国日程を伝えていた。


ただ、日本に向かうことに浮かれていた2人は、浮かれすぎて、ちゃんと話をきいておらず・・・


『あれ?いつまで日本に居られるんだっけ?』

『バカね、2週間よ。』

『え?1週間くらいしゃなかった?』

『アンタ、お爺ちゃんの話を聞いていなかったの?』

『え~っと、…あっ!そうだった、2週間だよネ~』


という会話があり、勘違いを―――


「え?今の会話の何処に間違える要素が?」


要するに、2週間というのは依琳の願望が脳内で決定事項となり『1週間?短いわよ!2週間よ!2週間!』という具合にさらな記憶領域に書き加えられた結果なのだ。


念のため、チケットを見せて貰ったら、キチンと明日の日程で飛行機が確保されている。


「・・・本当にもう、滅茶苦茶じゃないか。」

「はっはっは、・・・・面目ない。」


笑って誤魔化そうとする劉邦にジト目を向けるが、間違ってしまったなら、しょうがないと割り切ることにした。


「そんなことよりも、お前の方は大丈夫なのか?」


大丈夫とは、咲耶達のことを言っているのだろう。


結局、昼間の一件のせいで、仲直りをする機会を逃してしまった。


それどころか、彼女らを怖がらせてしまい、それどころでは無くなってしまったのだ。


「なんとかするよ。…燕とも約束したから。」


熾輝の言葉に劉邦は「そっか」と短く答え、それ以上は何も言わなかった。



◇  ◇  ◇



「えっと、初めましてと、さようなら?」


現在、急遽帰国することになった依琳と劉邦の見送りに来ている熾輝と、…その場には咲耶・可憐・アリアの他に初顔合わせの燕までがいた。


「初めまして、蓮依琳よ。」

「雷劉邦です。よろしく・・・ていうのも変かな?」


初めて会う者同士だが、会ってすぐにお別れという混沌が駅のホームで生まれていた。


「貴女の事は聞いているわ。シキに告白したそうね!」

「っ!?……う、うん。」


その一件について片は付いているのだが、まさか初めて会う娘・・・正確には2人(依琳と劉邦)に知られていたこともそうだが、面と向かって言われるとは思っていなかったので、思わず赤面してしまう。


そんな風に恥ずかしがっている燕を見て、依琳はクスリと笑う。


「帰るまでに会えてよかった。……シキを好きになるなんて、貴女中々見る目があるわね!」


公の場でそのようなことを大声で言ってくる彼女に対し、焦りはしたものの、太陽のような笑顔を向けて言われると、燕も嫌な感じはしてこなかった。


してこなかったが、やっぱり恥ずかしい事に変わりはなく、彼女は赤面を通り越して、首元までリンゴのように真っ赤になっている。


「私が言いたかったのはそれだけ!シキを頼んだわよ!」

「え、えっと・・・・・・はぃ。」


それだけ言うと、依琳は燕と握手を交わして咲耶と可憐の方を見る。


「本当に残念だよ、せっかく仲良くなれたのに。」

「もっと色々な所を案内したかったです。」


駅のホームで咲耶と可憐が惜しむように依琳と劉邦に別れを告げている。


「しょうがないわよ、私たちもずっと日本に居られる訳じゃないからね。」

「そうだけど・・・」

「別に会えなくなる訳じゃないわ。また休みを利用して会いに来るから。」


そう言った依琳は二人に手を差し出す。


差し出された手に二人は握手で答えた。


熾輝は4人から少しだけ離れた場所からその様子を見ている。


「いいの?行かなくて。」


3人の輪に入りづらいのか、熾輝はアリアの言葉に苦笑いで返すことしか出来なかった。


そんな熾輝の様子にアリアも困った子を見るような目を向けて肩を落とす。


すると、駅のアナウンスが流れ始めた。


どうやら間もなく出発の時刻らしい。


「おい、依琳!もうすぐ出発するぞ!」

「判っているわよ!ちょっとくらい待ちなさい!」


待っていろと言われて待つほど日本………どこの国の電車も寛容ではない。


2人との別れも済み、4人が揃ってやってくる。


「それじゃあねシキ。ひと段落したらまた中国に顔を出しなさいよ。」

「今度あったときは、絶対に俺が勝つからな!」

「うん、2人とも道中気を付けて。老師にもよろしくって伝えて。それと……」


この1週間、慌しく経過してしまったせいで、ゆっくりと出来なかった。


その原因は自分にあって、2人には申し訳ない気持ちで一杯だ。


その事を思うと自然と俯いてしまう。だから、最後に謝ろうとした。しかし―――


「シキ」


依琳は熾輝の名を呼んで抱きしめた。


「「「っ!?」」」


それを見ていた少女たちは驚いていたが、劉邦はヤレヤレといった感じで見て、アリアに関していえば、大人の余裕なのか、笑顔で見守っている。


「依琳?」

「…シキ、私は何があってもアンタの味方だから。」

「…うん」

「いつでも中国へ帰ってきてもいいんだから、あそこがアンタの家だってことを忘れないで。」

「……ありがとう。」


そう言って熾輝から離れた少女は、電車へと乗り込んだ。


それに続いて劉邦も電車へと乗り込み、二人はホームに向かって笑いかけてくると


「「またね!な!」」


清々しいまでに、たった一言、別れを口にすると彼等を乗せた電車のドアが閉まり、ゆっくりと走り去って行った。


嵐のようにやってきた二人が居なくなった街には、まるで嵐の後の静けさだけが残った様にも感じられる。


そして、少年等は帰路につく。



◇  ◇  ◇



セピア色の世界、この街の異相空間の中で激しい衝突音が鳴り響いている。


その正体は、一人の男と人ならざる者が応戦している。


男は素手で何発も攻撃を打ち込む


そして、もう一方は大剣を振りかざしてそれに応戦している。


勝負の優劣をいうのならば素手で相手をしている男の方が圧倒的に優勢であり、時折、笑みすらこぼれている。


ただ、これは男にとって勝負ではなく、相手を鍛えているような節すら感じさせる。


人ならざる者・・・妖魔が握る大剣は、もはや剣としての用途は担っておらず、刃体の刃こぼれがそれを物語っていた。


斬るというより、打つという方がこの大剣の使い道としては有効なのだろう。


だからなのか、妖魔は剣の刃ではなく腹の部分で、お構いなしに攻撃を放っているのは―――


『ゴオオオオオ!』


咆哮が空間を支配すると同時、妖魔の全力の攻撃が走る。


「……今の一撃は、よかったぞ。」


だが、男はその全力の一撃を真正面から受け止め、笑みを浮かべた。


妖魔は己の全力に対応されたことに驚愕すると同時に、目の前の男には勝てない事を悟った。


しかし、その目に宿る闘志には一欠けらの衰えもない。


「ふ、良い目だ。及第点といったところだが、これなら使い物になる。」


そういうと、男は文字でびっしりと埋まった紙を懐から取り出した。


その文字は不気味に蠢き、なにか得体の知れない力が宿っていると一目で理解した。


「行け、新しい宿主だ。」


そういうと、文字は獲物を見つけた獣のように一斉に妖魔へと群がった。


『グオオオオオ!』


断末魔のような絶叫が空間を支配する。


「準備は整ったのかい?」


絶叫が鳴り響く中、1人の男が異相空間に訪れた。


「ああ、首尾は上場だ。」


急に現れた男に驚くこともせず、未だに絶叫を上げている妖魔を見ながら答える。


「へぇ、中々いい具合じゃないか。」


絶叫を上げている元凶を一瞥した男もそれを見ながら薄ら笑いを浮かべている。


「・・・何かあったのか?」

「何でそう思うの?」

「理由も無しに、お前がこんな所に来るわけがないだろう。」


男の言葉に苦笑いを浮かべてしまう。


「ちょっとトラブルが発生してね。」


どんなトラブルだとは聞いたりせず、男は黙って言葉を待つ。


「刹那が八神熾輝と接触して敗れた。」


その言葉に男は僅かに眉を動かす。


「幸い刹那は回収できたけど、厄介な呪いを受けてしまって暫くは動けない。私も解呪に掛かりきりになると思う。」

「暫くとはどれくらいだ?」

「…皆目見当もつかない。だけど、予定に支障はでない。」


男の言葉を聞いて、そうかと短く答えを返す。


『ウオオオオオオ!』


そして、先程まで絶叫を上げていた妖魔が咆哮を上げたのは同時だった。


「ははは!いい感じじゃないか!これでまた従順なしもべの出来上がりだ!」


妖魔が纏う力を目にして、男は愉快そうに笑い声を上げる。


「刹那の返礼も含めて、精々苦しんでくれることを願うよ。」


男は咲耶達が苦しむ姿を想像すると、背筋が凍るような笑みを張り付けていた。





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