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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
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第九話

 清十郎が駆けつけた時、そこには変わり果てた熾輝の姿があった。

全身が黒く焼け焦げ、至る所に挫創が認められ、四肢があらぬ方向に向いている。

誰が見ても死んでるとしか思えない。しかし、わずかに上下する胸が、彼がまだ死んでいないことを示していた。


 「熾輝!」

 「・・・。」


 しかし、清十郎の呼び掛けには答えない。

ヒューヒューと浅い息遣いを聞き取れるが、それ以外に熾輝が動く様子が全くない。

今、こうして息をしていることこそが奇跡と言っても過言ではないが、このまま放って置けば、彼は間違いなく死ぬであろう。


 清十郎とて、このまま見す見す彼を死なせるつもりは無い。

 

 「和也!屋敷に居る治療術師をかき集めろ!」

 「既に手配は済んでいます!間もなくこちらに来『ふざけるな!』」


怒りを表した子供の声が 和也の言葉を遮った。


 声の主を見れば、騒ぎを聞きつけた大人たちの手によって、押さえつけられている数名の子供がこちらを睨んでいる。


 「そいつは、お父さんの敵だ!そんな奴を助けるのに、どうしてお父さんを助けてくれなかったんだ!」


 子供の目からは、涙が流れ落ち、怒りの感情で、その顔は酷く歪んでいた。


 「お前たち・・・」

 「俺がそいつに、悪魔に止めを刺してやる!お父さんが味わった苦しみをそいつにも与えてやるんだ!」

 「悪魔だと⁉何を馬鹿な事を!一体誰がお前たちにそのようなデマを吹き込んだ!」

 「みんな言っている!そいつの親がそいつだけを生かすためだけに、俺のお父さん達を生贄にしたって!」

 「なにを」

 「だからそいつを殺してやる!そいつは100万人の命を喰って生き延びた悪魔の子供!生きていて良いはずがないんだ!」

 

 少年たちは、大人たちの手によって組み伏せられているが、今にも飛び掛からんとして暴れている。

だが、彼らを押さえつけているのは、分家とはいえ、五月女家で修行を積んできた強者達、五月女家の人間が、いくら武芸に優れているとはいえ子供の力では、その拘束を解くことは敵わない。


 「和也」


 暗く、どす黒い声に一瞬誰が自分を呼んだのか分からなかった。それ程に今まで聞きなれていたはずの声とは、明らかに異質なものを感じてた。


 目の前の男は、殺す気だ。

 そう直感してしまった。

 このままでは子供たちは殺されてしまう。

 間違いなく自分では、この人を止めることは出来ない。 


 しかし、自分は命を賭してでも目の前に居る男を止めなければならないと頭では、わかっていたが、心が、身体がそれを拒んでいる。


 目の前には、死に掛けの子供を抱きかかえる男と、その後ろからは、先程から自分を見つめる娘の姿が視界に入っている。


 父として、この男の傍に誰よりも近くで付き従ってきた者として、この男を止めなければならばいという使命感という炎が再び男に動く活力を与えた。


 和也は、意を決し、清十郎の方へ向かい一歩前に出る


「清十郎様、『頼む』」


しかし、覚悟を決めていた男の声を遮り、清十郎は、言葉を絞り出す


「頼むから、そいつらを俺の眼の届かないところへ連れて行ってくれっ!でないと、俺はそいつらを殺してしまいそうだ!」

「~~っ‼」

「早くしろ!」


和也は、子供たちを押さえつけていた者達に合図を送った。

その途端、子供たちを拘束していた大人たちは、子供の首元に手刀を入れて意識を刈り取ると、素早くその場から離れて行った。


こうして、その場は一時的にだが終息され、現場には五月女家の医療術に長けた者達が駆けつけてきた。


駆けつけてきた医療術者達は、清十郎から熾輝を引き受けると、その場での処置が不可能だと判断し、急ぎ屋敷の中へと消えていった。


 その場に残された清十郎と和也、先ほどから黙り込み、何も言わない自分の主に対し、掛ける言葉を失っていた。


どれ程そうしていたのか分からないが、沈黙状態がしばらく続いていた時、医療術班の代表を務める男が、二人の元へとやってきた。


「清十郎様、お話がありますので、来ていただいて宜しいでしょうか。」

「ここで話してくれ。」

「・・・わかりました。」


医療班の代表を務める男は、熾輝の病状及び処置について説明をしているが、どの怪我も余りに酷すぎて回復は望め無いことを話し、最後には絶望的な報告を告げる。


「――特に火傷の程度が酷すぎて、既に細胞が死んでいるため魔術を行使しても効果を得るには至らず、」

「御託はいいから、結果を教えてくれ。」

「・・・真に残念ですが、もってあと1日で確実に死に至ります。」


結果を言い終えた男は、その場を後にし、あとには和也と焦燥に暮れる男だけが残された。


「清十郎様」

「・・・なんだ?」

「非常に言いづらいのですが、熾輝様のお傍に居て差し上げた方が宜しいかと。」

「なぁ、和也」

「はい」

「少し出てくる。」

「なっ⁉」


一瞬、耳を疑ってしまった。自分の聞き間違いでなければ、目の前の男は出かけると言ったのだ。


「今なんと!?」

「お前、さっき俺に言ったよな?『例え泥にまみれようと、何があろうと、恥も外聞も捨てて守れ。それが熾輝を魔界から連れ戻した俺の責任だ。』と。」

「確かに言いましたが、しかし、今は」

「勘違いするなよ?俺はあの子を死なせるつもりは毛頭ない。」

「・・・どちらまで行かれるのですか?」

「あの女に会ってくる。」

「あの女?」

「ああ、俺と同じ五柱の一柱【東雲葵】だ。」

「東雲様と⁉しかし、あの方が力を貸してくれるとは」

「わかっている。だが今は、あいつの力が必要なんだ。」

「勝算があっての事なんですね?」

「・・・いざとなったら、この首を差し出すさ。」

「そういう冗談は、やめて下さい。」


「悪い」と一言謝り、清十郎は苦笑いをして、歩き出した。


「お戻りになるまで熾輝様の事は、お任せ下さい。」

「頼む。それと、師範にも急ぎ連絡を付けて、来てもらってくれ。おそらく師範の力も必要になるはずだ。」

「わかりました。」


頼むと言い残して、清十郎は屋敷を後にした。

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