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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
1/295

プロローグ

空が引き裂かれ、大地が割れ、空間が歪む。


突然に現れたソレは、存在するだけで、まるで世界そのものを呑み込んでいくように全ての物を文字通り無へと還していった。


少年と言うにはまだ幼く、おそらく4歳にも満たないであろう男の子は、自分の両親がそれと戦っている場面を目撃していた。


否、もはや戦いにすらなっていなかった。


男の子の顔は恐怖に歪み、自身の両親の身体から流れる赤い血の量が尋常ではないことは、幼くても理解が出来ていた。


男の子は知っていた。


自分の両親は最強の戦士であることを。


子供が親に思い描く強さではなく、間違いなく、男の子の両親は世界最強の一角とされる戦士なのである。


しかし、世界最強が二人揃っていても、ソレにとっては何の意味も持たなかった。


ついに二人は、地面に膝を付き、男の子へと視線を向けた。


その表情は、ソレに対して歯が立たない事への悔しさや憤りでもなく、ただ悲しいのだと男の子は感じた。


きっと自分達の命は、これまでなのだと理解し、最後は大好きな家族と一緒がいいと思い、男の子は両親の元へ駆け出した。


「とうさま、かあさま」


両親の元へとやってきた男の子は、涙を浮かべ、二人に抱きついた。


両親は、その小さく儚い存在を強く抱きしめる。


「・・・ごめんね」


 嗚咽交じりに、擦れた母の声が耳に入ってくる。


「ごめんね、ごめんなさい」


 母は、何度も謝った。


男の子は、母が何でそんなにも謝るのかが理解できなかった。


それは、自分が子供だから母の謝罪の意味が分からないのだと思うことにしようとした矢先に母から言われた言葉によって、意味不明となった。


「熾輝・・・私達のことを恨んでいいからね」


瞬間、男の子の胸に激痛が走った。


何が起きたのか確認しようと、自分の胸に視線を下げて理解した。


胸には一本の剣が突き刺さり、よく見ると、その剣は自分の胸だけではなく、母の背中から胸へと貫通して自分の胸へと到達していたのだ。


剣を握っているのは、男の子の父親だった。


その表情は窺えなかったが、頬を伝う涙だけが、ちらりと見えた。


男の子の意識が遠のき、遠くからは誰かの声が聞こえた


「兄貴っ!止めろ!ーーーっ!」


「この力が貴方を不幸にしないことを願うわ・・・」


そんな母の言葉を最後に、男の子は意識を手放した。



気が付けば男の子は傷だらけになって倒れていた。

 

身体の至る所には火傷や擦り傷が目立っていた。


視線を落とし、胸を摩る。


しかし、胸には先程貫かれたはずの傷が無い。


母の背後から剣を突き刺していたのは、間違いなく自分の父親であった。


何故、父がそんな事を、そう思い悩んでいたところで、少年は記憶の違和感に気が付いた。


「・・・思い出せない」


男の子は両親の顔を思い出せなくなっていた。


余りの出来事に記憶が混乱していたのか、それとも一時的な記憶喪失なのか。

 

そのどちらでも無い。現在進行形で、男の子のこれまでの記憶と感情の一切が次々と失われているのだ。

 

その喪失感は記憶・感情のみならず身体機能へと到達し、少年の右眼から視力が失われたところで喪失は止まった。



男の子の周りには何処までも続く真っさらな大地が広がっていた。


先程までは、いつもと変わらない街の風景が広がっていたはずなのに、得体の知れないソレが突如現れてからは、まさに地獄絵図のような光景が周辺を支配していたはずなのだが、今は綺麗さっぱりと何もない。


勿論、記憶を失った少年には、先程までの光景などわかるはずもない。


ただ立ち尽くす状態が続いていた。


真っさらな大地に唯一不自然な場所があるとすれば、何もない空間の所々が、ガラスを割ったように砕けていたのだ。


そして、男の子の足元には、今にも割れそうな空間の歪みが存在しており、呆然と眺めていたその時、歪みは音も無く砕け、男の子を呑み込んだ。



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