第四話 「なあ、さっきのことなんだが……」
遅くなって申し訳ございません。
テストに追われていたもので……
とりあえず間隔はせばめて提供します
「お待たせ」
「おう」
休日の昼下がり。
自宅の玄関先で俺は燐を待ち、隣の部屋のドアが開くと当の本人が姿を現した。
白を基調としたフリルのシャツに、デニムパンツ。アイドルらしい美脚を露わにしたその姿は、目のやりどころがないことに困る……
「じゃあ、行きましょうか?」
「そうだな」
まるでデートするカップルのように……と言っても、デートではない。単純に燐の買い物に付き合うだけだ。まあ、荷物持ちみたいなものだが。
休日で人がにぎわう場所へ行くからか、今日の燐はサングラスをしている。日差しが強いっていう理由もその一つなのかもしれないが、最近出演しているドラマのおかげで評判が上がっているらしいからな。男と一緒に買い物している姿を見られたら問題になるのは当たり前だろう。
「こうして二人で買い物するのは、二回目だよな?」
「一回目は水着を見に行ったんだっけ」
そういえばそんなことあったな。自分で言っておかしいが。
「そういえば、今日は何を買うんだ?」
さすがに水着はないよな……
「冬服が欲しいって思ったのよ。ほら、最近CMでやっているじゃない。冬服キャンペーン」
「そんなのやっていたな」
KIRIHARAグループのCMだった気がするが。
「私だってもう子供じゃないんだし、そろそろ異性の意見も交えて服選びしようかなってね」
「お前は水着を買う時点でその行動をしているだろ」
「それはそれ。これはこれよ」
納得いくようで、いかないな。
どちらにせよ、こいつの荷物持ちになるのは変わりないからな……ああ、むなしいな。
以前燐と一緒に来たショッピングモールは、夏休みの時は違ってまた違う雰囲気を醸し出している。
ファッションエリアに区分されている場所へ来ると、また違った感じがする。夏に来た時は水着を含め、夏服が店頭に並べられていたが今は違う。それとは全く逆の、冬服が店頭に並んでいる。
「ちなみに、今日は服だけを買うんだよな?」
「……うん」
「……」
今の間はいったいなんだよ。
どうみても俺を連れてくるっていうことは、服以外のものを買うことになるんだよな。靴とかならまだマシなほうになるけれど、ほかのものとかはな……特に重いものは勘弁してほしい。
「さあ、どこから回っていく?」
「無難に手前の店から回っていったほうがいいじゃねえのか?」
いちいち有名ブランドの店を回っていこうと思っても、遠かったら意味ないし。
ってか、よく見たらレディース多いな。
近くの案内板を見た。
……ファッションエリアの中にレディースエリアってどういうことだよ。広すぎるだろ。
「一つ一つ回っていったら、時間なくなるわよ? 適当に回っていきましょう」
「ちょ!? 引っ張るなって」
服の裾をつかまれ、適当なアパレルショップへ連れていかれた俺。入った店の名は『グランモール』なんかごつい名前だな。
「いらっしゃいませ……あ」
店内に入った俺らを店員は一瞥し、思わず声が漏れた。
どうやら、燐のことに気付いたのだろうか。いくらサングラスをしているとはいえ、ばれる人にはばれるもんなんだな。
「もしかして、女装コンテストで出ていた人ですか?」
「……」
は?
待てよ。今この従業員の人はなんて言ったんだ?
『女装コンテスト』?
あの女装コンテストか?
聖城学園の文化祭で行われた、『女装コンテスト』
「よかったじゃない。テレビで出ていることに気付いたのね」
燐も燐で、訳の分からないことを言っているし。
何が何だか俺にもさっぱりわからない。
「何を驚いているの? さっきからあなたのことを言っているのよ?」
「……は?」
「テレビに出ているくらいだから、わかる人は分かるでしょ?」
「テレビって……何のことだよ」
「文化祭の『女装コンテスト』はテレビ中継されたのよ?」
有料放送だったのかな? なんていうお気楽な言葉はさておき……
テレビ中継ってまじかよ。
そんなこと一言も聞いていないし聞かされていない。
ってか、本人に許可なしでそんなことしていいのか?
「とりあえず、見て回りましょ」
テレビ出演のことなんて慣れっこの燐は、またもや俺の服の袖を引っ張っては、上着が整列している場所へと行く。
「なあ、さっきのことなんだが……」
「これなんかどうかな?」
おい。
「このトレーナもいいねー。燿平君はどれがいい?」
「あー。俺はこのアディダスのパーカーが……」
って。
「俺の話を聞けよ」
思わず手にしていた服を引きちぎろうかと思った。いや、引きちぎるなんてダメなのは当たり前だが。
しかし燐は平然と。
「その話はまたあとでするわよ」
なんて、はぐらかされてしまった。
まあ、こんなところでそんな話をしても、落ち着きというか何というか……場所を変えたほうがいいのかもしれないな。
しかし。なんだろうか。
アイドルが隣にいて、一緒に買い物をしているっていうのにまるで普通の友達のような気がする。いや、実際そういう関係なんだけれどな。
それからは、値段的には高いスターなんちゃらに行った。いや、こういうところには初めて来たけれど、行きつけの喫茶店のほうが安いだろ。なんてワンコインもするんだよ。なんて、けちくさい俺が言うことではないんだが。
「どう? ここのスタバのフラペチーノは」
「どうって」
言われてもな……
正直言うと、いつも言っている喫茶店のコーヒーが舌に慣れているからな。美味しいといえば美味しいのだが……
「高いよな。カロリーも値段も」
一応受けを狙うつもりで行ってみた。
受けを狙うつもりだったのに……
「……結構ピンポイントでついてくるのね」
「え? まさかついちゃいけないところついた感じか?」
「減量は成功しているから大丈夫よ」
そういう問題かよ……
「本当にお昼はここでいいのか?」
「ええ。どうせ帰れば燿平君のごはんが食べることができるからね」
「……」
俺は専業主夫かよ。
でも、ここ最近は俺がごちそうしてもらっているわけだし、久しぶりにこいつにオムライスでも食べさせてやろうかな。
「次、どこ行くんだ?」
「そうね……服はある程度買えたからいいわ」
どこへ行こうかなんて悩んでいる。いや、行くところないなら帰らない?
そんな俺の心の懇願なんてかなうはずもなく。
「ゲームセンター行かない?」
「……ゲームセンター?」
「私、一度でいいから行ってみたかったのよ。ほら、太○の達人とか!!」
溢れんばかりの笑顔。
サングラス越しからでも、目がとても輝いているのがわかる。
「別にいいけれど……」
そんな顔されたら、帰りたくても帰れないよな。
余ったものをすべてかきこみ、その店から俺たちは出た。
店内にいるほとんどの客は、昼食をとるためか近くの飲食店に足を運んでいる。
あ、ラーメン屋ある。あ、チャーハンおいしそう。
「ほら、早くいきましょ!!」
食べ物屋を眺めていた俺の手を引っ張り、燐は近くのゲームセンターを指差した。
「デカいな……」
「どこもこんなものじゃないの?」
「いや、俺は最近行っていないから覚えてないからな」
「それよりも、何からやる?」
質問しながらも、太○の達人の前に行ってはバチを持ち始めやがった。
ま、何をやろうが全然構わねえからな。
コインを二枚入れ、画面で太鼓の形をしたキャラクターがしゃべり始めた。
「へえー、結構最近の曲があるんだね」
「そりゃあ、アーケードゲームでも一番需要があるからな」
「じゃあ、これにするわ」
選んだのは……自分の曲。
「自分の曲を選ぶなんて何か珍しいな」
「そうかな? 友達とか普通に選ぶらしいわよ?」
変わった友達をお持ちになったことで。
音楽が流れだす。
綺麗で、透き通った声が俺の耳を伝う。
なんだろうか。
最初はこいつと一緒にいることで、抵抗を持っていた自分がいた。
だが、時が経つにつれて燐がどういう人物なのか、俺はどういう人物なのかお互いの内を見せあえることができた気がする。完全ではないけれど。
なんだろうか、この気持ち。
一緒にいて楽しい。
一緒にいて……
これは、生まれて16年味わったことのない初めての気持ちであった。




