第十一話 「いずれ分かるさ」
文化祭二日目の朝。学校へ行くと、昨日とどこか似たような空気が流れていた。
緊張感というか、喧噪した空気というか……とにかく、昨日と似ているようで似ていない空気がそこら中から漂っていた。
生徒玄関に掲げられた大きな看板は、昨日同様堂々とその姿を露わにし、聖城学園の文化祭の威厳さが見えているような気がする。
朝の八時。まだ学校に来るには早すぎる時間だ。
いつもならこの30分後についているが、俺にはシェフというよくわからない肩書を背負われているので、こうして一般生徒よりも早く学校へ来なければならない。
仕込みのため。
閑散としている中、俺は校舎の中へと入っていく。
生徒の姿は見られるが、ほとんどが生徒会関係の人だろう。それか俺のようによくわからない肩書を背負っている奴か……そんなことはどうでもいいか。
ひとまず調理室へ行き、昨日使わなかった食材がどれほどあるのか確かめる。量次第で買う量が決まるからな。
そんなことをしているうちに、三十分がすぎていた。
時間的にみんな、教室にいるはずだ。朝の仕事は大まかにしか言っていないから、俺が行かなければ始まらないのだ。
必要最低限の材料を袋に詰め、俺は調理室を出ていった。
調理室がある特別教室棟にはまだ誰もいない。まあ二日目だから特に準備をするクラスはないだろう。
今日の日程は、午前中一般公開のほうに手をかけ、お昼ごろには午後から始まる『女装コンテスト』の打ち合わせを行う。
正直、一般公開のほうには身が入らないと思っている。
何せ一般客までもが来場する企画だ。ただでさえ、全校生徒がいる中でも緊張するっていうのに……
そんなことを考えながら歩いていたら……
「おっと」
「っ!?」
曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。
反応が良かったのか、寸前でかわすことができてよかった。
「すいません。急に角から……」
硬直した。
「いや、私のほうこそ……って、君か」
「あ、はい」
桐原美里であった。
よりにもよって……こんなときにだ。
企画が始まるまであと6時間は悠に切っている。
それなのに、喧嘩を売買した相手を鉢合わせって……
修羅場かよ。
「あの、大丈夫ですか?」
とりあえずだが、ぶつかりそうになった相手なので謝らなくてはならない。
「ああ、大丈夫だ」
何ともないようで逆に良かった。
これでけがなんてしていたら、俺は今頃……
そう考えるだけで冷や汗をかいた。
「で」
「え?」
「君は今こんなところで何をしているんだ?」
何をしているんだって聞かれても……
「普通に調理室から材料を取りに来ただけですよ」
「材料?」
「クラスの出し物ですよ。俺たちのクラスは喫茶店やっているので、そのメニューの材料を取りに来たのですよ」
「まさかだとおもうが、料理は……」
「あ、そのまさかですね」
まさかで悪かったな。
桐原美里は相当驚いているようで……
「あなたこそ、ここで何をしたんですか?」
「今打ち合わせが終わったから教室へ戻ろうとしたら、マネージャーに呼ばれたんでな。生徒玄関へ行こうとしていたところなんだ」
この人もこの人でかなり多忙なんだな。
「それなら忙しいところ失礼しました」
「別にかまわないぞ」
「そ、そうですか」
先入観だったのか。
このひと、意外と話しやすいんだな。
始業式のことといい、この前の生徒会室のこともそうだ。
話しにくいし、友達ももしかしたらいないんじゃないかと、燐たちと話していた記憶がある。
それでも、実際に話してみればいけるじゃないか。
今だってこうして面と向かって話しているわけだ。
意外と、燐たちとも素直になれば……
いや、まず無理だな。
あいつらの場合、意固地になっているからな。
「本当に『女装コンテスト』に出るのか?」
「生徒会室でああなってしまえば、止むを得ませんよ」
「まあ、私も君が出てくれればそれで助かるんだがな」
「どういうことですか?」
「いずれ分かるさ」
何のことを話しているのかさっぱりわからない俺を置き去りにし、桐原美里は階段を上って行った。




