第十話 「オムライス三つお願いします!!」
「これ……まじかよ」
「まじよ。燿平君にはこれを着てもらうわよ」
「似合うかどうかは分かりませんが……」
いやいや。
屋上に堂々と掲げられた、一つの衣装。
校内は文化祭熱で帯びている中、一人冷め切ってている俺。
目の前に掲げられた衣装は……なんと、昔俺が着たことのあるものだった。
「どこから持って来たんだよ」
「買ったのよ。わざわざ原宿のほうで」
「この前俺んちで広げていた服は?」
「あの服ですと、燿平さんとのイメージがいまいち合わないのです。耀里さんに聞いてみたら、この服になったのです」
それでわざわざ原宿まで、同じ服を買いに行ったわけか。
それにしても……
「本当にこれを着るの?」
「それ以外、選択肢はある?」
ないですね。すいません。
にしても、よく同じような服あったな。サイズが違うし何年も前のデザインだから、売っているだけで凄い。
「というわけだから、試着して」
「……え?」
「試着してください」
「……はい?」
訳わからん。
この二人は何を言っているのかな? 試着? え?
「今すぐこの衣装を試着して。今すぐ」
ハードル高っ……
今すぐかよ。
「べ、別に試着する必要はないんじゃないかな? 当日のお楽しみっていうことで」
「今すぐ着て」
「見てみたいですわ。燿平さんの女装姿」
待て待てお前ら。今すぐ女装しろと言われても、化粧していないし、女装って言わないし、ただの試着か女装かはっきりしろよな。
「いいじゃない。楽しみが減っても」
「いや、そういう問題じゃなくてだな」
どこまで俺にこの衣装を着させたいんだよ。
こうしている間にも、二人は目をキラキラさせているし、するにしたってこんな屋上でできるわけがない。
かといって、場所を変えてもする気はないんだが。
「試着だけでもダメ?」
「無理」
「かつらはないんだよ?」
「あったらつける予定だったのかよ」
「メイク道具もありませんわよ」
「同じ質問には答えないぞ?」
「……」
「……」
「なら仕方ないわね」
そうしてくれ。
こんなところで女装なんてしたら、男としてのプライドが廃れる。
それだけは回避したいところだ。
「そろそろ戻りましょうか? 私、お腹がすきましたわ」
「私も。ちょっとどこかで買っていこうかしら」
「え? お前ら何も食っていないの?」
てっきり昼飯なんて済ませていると思っていた。
「そんなわけないわよ。さっき帰ってきたばっかりなのだから」
「帰ってきた?」
どこから?
「原宿よ」
「あ……ああ」
なるほど。
どうりで皺ひとつ付いていないわけだ。
「仕方ねえな。腹減っただろ? 俺が何か作ってやるよ」
そうだよな。
こいつらだって、苦労しているんだから。
俺だってそれをサポートするくらいじゃなければ、ダメなんだ。
俺がやらなければ、こいつらの努力は水の泡になる。
それだけは、絶対に避けたかった。
□ □ □
文化祭一日目が難なく終了し、軽い片付けが終わったのが六時半過ぎ。
買い出し班に明日の分の材料を買いに行くよう頼み、俺は一人家に向かっていた。
「へぇ、じゃあ思ったより大盛況だったのね?」
「大盛況は大げさだけれど、思った以上に人は来たよ」
帰宅してからは、姉ちゃんに今日のことを軽く報告。
別に報告と言ってもたいしてするようなことではないが、姉ちゃんが文開催のことを聞きたいとせがんできたので、俺はしぶしぶ今日のことを話したのだった。
「じゃあ、燿君も大変だったのね~」
口でそう言ってくれるのだったら、料理してほしいよ。
日中料理しかしていなかったのにもかかわらず、家でも料理。手際が今日とあまり変わらない。
でも仕方がないことだ。姉ちゃんに料理なんかさせたらある意味終わる。
手つきや思考がなぜか、オムライスという方向にあったため、今日の晩御飯はオムライス。……にしても、見飽きたな。
「それじゃあ、本番は明日っていうわけね?」
「……要するにそうなるな」
明確には、午前中は普通に催しのほうに手を出す。
午後からが『女装コンテスト』だ。
「ところで、燿君は今回の『女装コンテスト』は何を目的に開催されるか知っている?」
急に姉ちゃんが訳の分からない質問をしてきた。
目的なんて、ただ一つしかないだろう。
「あれだろ? 『ティーンズ』と『KIRIHARA』が提携してやる、『女装コンテスト』の余興みたいな……まあ、悪く言えば試運転みたいなものだろ?」
「そう説明されると、そうとも言えなくなるわ」
「どういうこと?」
「その様子じゃ、燐たちからは何も説明されていないようね」
……言っている意味がさっぱり分からなかった。
本当のことと言われても、それ以外今回の企画の目的はないだろ?
俺の怪訝そうな顔を見て姉ちゃんは、
「これ、結果次第ではまたテレビに出るかもしれないからね~」
「へ?」
テレビに出る!? 何のことだ?
「あの二人から何も聞いていないなら、私から言おうかな。でさ、燿君。驚かないで聞いてね?」
その言葉は驚けっていうことだろ……
半信半疑、そう思いながら俺は姉ちゃんの話に耳を傾ける。
「今回の聖城祭での『女装コンテスト』の企画を立ち上げたのが、『ティーンズ』の一番偉い人なんだよ。それで、その人が聖城祭での『女装コンテスト』で優勝した人を、テレビに出すって言い始めたのがきっかけで……」
その後、姉ちゃんの話は長々続いていき……
気づいたら話は終わっていた。
最後までしっかり聞いていたのだが……
さっぱり状況を理解することができなかった。
「それってさ……俺が優勝すればテレビに出て、番組の企画に参加するっていうことなんだよね?」
「私がさっき言ったことそのままね」
悪いな。容量の悪い弟で。
にしても、あいつらの目的が何なのか……それが一番気になる。
単に桐原美里に勝ちたいだけなのか……それとも俺をテレビに出演させたいのか?
……解せないな。
「とにかく、あなたは明日の『女装コンテスト』に集中しなさいよ」
「言われなくても、そうするよ」
もっとも、集中したくするわけじゃないんだけどな。
「衣装はあれのようね」
「……知っていたのかよ」
「私が知らないとでも思っていた?」
「いないな」
「でしょう?」
「悪意感じるぞ、その返事」
「あれ、私が提案したって聞いた?」
「いや、そのことについては何も聞いていないけれど……」
「私の服や、あの子たちの服でコーデするのも悪くはないけれど、それじゃあ新鮮味がないのよ。服装にも流行っていうのもあるでしょ? あれに乗るっていうわけじゃないけれど、それにあらがったやり方もありじゃないかなって」
つまり、流行だけがすべてじゃないと。
今日俺に見せた服は、明らか今の流行している服ではない。見た感じ、あんなもの着ている奴なんているの? と思わせるくらいだ。
だが、あいつらはそんなことを気にしてない。
流行がどうこうという話ではなく、その人に見合った服を選びだしている。
姉ちゃんは、桐原美里のコーデをこう語った。
「あの子、たぶん新しいものや流行に乗ろうとしているものは、すぐ欲しがるタイプだと思うんだよ。たとえば、誰かがはやりの服を着てきた。その服も自分ですぐさま買っては、周囲の目を引き付ける。確かに可愛いところもあるけれど、単純に利益泥棒ね」
「利益泥棒……」
ものすごい嫌な響きだな。
給料泥棒を寄せ付けないほどの、芸達者な泥棒なんだろうな。
「とにかく、『女装コンテスト』は一番かわいい男の子が選ばれるからね」
「端的に説明すればそうなるよな」
一番かわいい男の子って……
美形の男子のほうが似合うだろ。
どうみたって俺は似合わない。
「それで、桐原美里は誰をコーデするのか、わかったの?」
「そんなの、わかっていればとっくに……は教えていないけれど、なんで姉ちゃんがそんなこと聞くんだよ」
「ちょっとねー。あの子があんたみたいな子を本気でコーデしようと思っていたのが、疑わしくてね」
「今の言葉はどう見ても、俺をバカにしているようにしか聞こえなかったぞ」
「あら、空耳よ」
俺にはそう捉えられているのですが。
「とにかく、あなたはあなたにできることをやっておきなさい。そうでもなきゃ」
この時の姉ちゃんは、勝負の行方を知っているのだろうか。
長年のキャリアはもちろん、血のつながった弟が出場するのだからか。
妙に自信満々の表情をし、意気揚々とした声に俺は少しだけ、安堵を覚えた。
この話、どうやって終わらせよう




