第八話 「あー。燿平の女装か」
『女装コンテストに出る!!』
「声が出けえって!!」
昼休みの食堂。
俺は光と由見に『女装コンテスト』に出ると伝えるべく、件のいきさつを語った。
その結果が、予想した通りのリアクションだ。
うれしいのか嬉しくないのか、俺としても受け取りにくいリアクションだ。
ちなみに、 『女装コンテスト』の出場者は近々配布されるパンフレットに記載されるらしい。俺の名前が印刷されているのを想像すると、寒気がする……
「お前、結構な修羅場を見ているんだな」
「あんたのこと見直したわ……」
「お前ら、俺を何だと思っているんだよ」
俺は戦場から還ってきた兵士かよ。
「まあ、出ようとしただけ進歩したっていうことだろ?」
「今までのあんたの行動力からすれば、今回の場合ありえないことだけどね」
本当に偏見ばっかり並べてきやがるやつらだな……
「仕方のないことだよ。燐や雨宮のことを考えれば、見過ごしているわけにはいかないからさ」
「それは言えているわね」
これに対してはみんなは共感している部分であろう。
単なる宣伝ゆえの企画でありながらも、侮辱されたわけだからあの二人も負けじと、いろいろ策を凝らしているはずだ。
「準備のほうは大丈夫なのか? 燿平だって、燐ちゃんたちだってほかの準備もあって忙しいんだろ?」
「あいつらの準備はどうかわからないけれど、俺のほうは何とか大丈夫だな」
「えらい余裕なんだね」
お前らほどじゃねえけれどな。
食堂のほうは相変わらず、時間を追うことによって閑散としていく。
文化祭まで残り少ないから、昼より準備に取り掛かる人も少なくはない。
おれもそろそろ追い込みの時期が来るかもな。
「由見のほうも準備は大丈夫なのか?」
「私のほうは大丈夫よ。当日用意するものなんて少ないし、役決めも決まってきているからね」
「お化け屋敷は楽でいいよな。こっちなんて接客しなきゃいけないんだから」
光の言う通り、お化け屋敷はただ驚かすことが仕事なのだから、喫茶店のように直接お客と接するようなことはない。
俺たちのクラスは、調理班と接客班、買い出し班に分かれていて掛け持ちをする。全員が同じ時間帯にシフトを入れるのは、スペース的にも効率的にも悪い。
だから、調理班に入っている人は買い出しも兼任。接客する人は調理も兼任。買い出しの人は調理と接客を兼任するという形で行くことになっている。
「本当なら、俺も企画のほうを手伝ってやりたいんだけれど、あいつらがなぜかさせてくれねえんだよ」
「何を手伝おうとしたの?」
「えーっと……。衣装の縫い合わせとか?」
「本番できる衣装を、本人が縫い合わせるってねえ……」
「それじゃあ俺は何をしていればいいんだよ……」
「あんたはモデルなんだから、与えられた服を着ればいいんじゃない?」
「俺は餌をもらう犬か」
しかし、いいのだろうか。
いくらモデルだからと言って、自分が着る衣装に何も手を付けないのは……
お節介といわれるかもしれないが、どうにも人にやってもらうのは気が進まない。
「そろそろ文化祭のパンフレットも出て、『女装コンテスト』の出場者もわかるからね。噂によると、桐原美里がコーデするのは三年生のモデルの卵らしいわよ」
卵?
「そんなやつ、この学校にいたんだ」
初耳だ。
それかしらの著名人は輩出している聖城学園だが、特に決まってこの人は有名だなんていう話題はない。
Jリーグのあるチームに、この学校出身の人がいるが日本代表に選出されても、そこまで騒がれたりしない。
だからなのか、たかがモデルの卵というやつでもあまり名を馳せていることはない。
「まあどのみち、その桐原美里っていう人に勝たなきゃいけないんだろ?」
「まあそうなるな」
「にしても、燿平が女装ね……」
おい、今何を考えているんだ?
「あー。燿平の女装か」
「お前ら二人とも、何を耽っているんだ」
こいつら、俺の女装姿は幼稚園の時から拝見している。
脳裏にその記憶が……残っているよな。あまりにもインパクトが強すぎて。
「でもさ、もし燿平が星野輝夜っていうことがばれたらどうするんだ?」
「え?」
唐突だった。
……確かに。
そんなこと、微塵も考えてもなかった。
俺の中で星野輝夜は十年前の時の俺。あれはその時で止まっている。
今の俺は普通の高校生だ。女装なんかする男の子なんかではない。
たかが文化祭の『女装コンテスト』で正体がばれるのか?
「無くは無いね。だって、当日は芸能界の人も見に来るのでしょ?」
「確かにそうだけど。それだけで俺を星野輝夜だって見るのは、少し難しいんじゃないのか?」
昔は童顔だったらしいけれど、今じゃこんなに立派な……まあ少し女の子っぽいようで目つきが鋭いとは言われるが、よほどマニアックな人じゃなきゃわからないだろう。
「でも、その正体がばれる以前に、星野輝夜のことを覚えている人なんていないでしょ?」
俺はそういい、食堂にある時計を見た。あと数分で昼休みが終わる。
文化祭一週間前を切っているから、今週はずっと準備期間になっている。
遅れることは悪くないけれど、まだ分担の説明や調理方法を教えていないから俺が遅れるわけにはいかない。
「じゃあ、俺は準備のほうあるから先行くな」
「あ!! ちょっ、待てよ燿平!!」
「……まあ、何も起こらなければいいんだけどね……」




