第六話 「俺は企画に参加する。参加して、この二人が勝つために俺はなんだってやる」
一日一日が過ぎ去り、気づけば文化祭1週間前になっていた。
相変わらず学校は文化祭の準備で忙しく、廊下には段ボールやガムテープの屑が散らばっている。
クラスの催しの方も滞りなく進んでいき、順調にいけば当日までには間に合う仕上がり具合だそうだ。
俺の方か? もちろん、メニューはオムライスとスパゲッティのツートップですが? デザートはそこら辺のケーキ屋で買って来たやつを出せばいいだろ。材料まで負担したら赤字経営に陥る。
別に収入額で1位を狙おうとしているわけじゃない。まあ、狙えるほどの出来具合であるんなら、それまでだけれど。
もしも赤字でーすなんて、笑えない結末になって一人材料費を払ってください何て言う罰ゲームは勘弁。
調理の方は教室内でやるわけだけだが、狭い端っこを使ってやるのには抵抗はある。せめて調理室を借りたいくらい。
「随分と余裕そうね」
そんな準備の最中、俺の隣でルーズリーフにペンを走らせている女子一名。
「それは俺に対する嫌味かよ」
「滅相もないわ。私だって、仕事と同様にこれくらい忙しいときはあるのよ。ただ、自分はまるで文化祭の準備には関係ないような表情しているから、ちょっと棘をさしてみただけ」
「それを嫌味っていうんだけれど!?」
現在、クラス内では装飾の準備に取り掛かっている。
文化祭実行委員の木村をはじめ、多くの生徒が看板作りや店内装飾に勤しんでいる。
そうした中、俺と燐はこうして椅子にどっかりと座っているわけなんだが……
「まだコーディネートする奴が決まらないのか?」
「やって欲しい人がいるんだけれど、どうしてもやりたくないって意地張っているからね」
「なんで俺の顔を見て言うの?」
「察しなさいよ」
怒られてしまった……
確かに、何度も燐や雨宮には懇願された。『女装コンテスト』にどうしても出て欲しいと。
始業式の日、桐原美里から宣戦布告をされた挙句に侮辱され、闘志の炎はメラメラに燃え滾っている。が、それとこれとは別に話だ。
燐たちには悪いが、俺には到底無理かもしれない。
「まあ、あなたの意思を尊重するのは当たり前よ。強制的に参加させる気もないし、いなければ他を当たるつもりでいるわ」
「わ、悪いな」
そうなれば、ここに居座っていれば準備の邪魔になる。とりあえず適当なところで準備を手伝おうかとした時だった。
よく流れる、お知らせのチャイム。
『生徒の呼び出しをします、一年生の神崎燐さん、雨宮華蓮さん、生野燿平君。至急、生徒会室まで来てください』
クラスが静寂に包まれた。
同時に、俺をものすごい意味深な目で見つめるクラスメイト。
いやいやいや。俺は何もしていないからね?
とりあえず、俺と燐と雨宮は生徒会室へと赴いた。
生徒会室は以前、文化祭実行委員長の荷物運びを手伝った際に訪れたことがある。
教室棟とは別の位置に生徒会室があるからか、妙な雰囲気を感じられる。
「そわそわしているけれど、大丈夫?」
「大丈夫……って言われても、ちょっと緊張している」
「燿平さんもお呼びになるということは、よほどのことなんでしょうね」
「そのよほどが一体何なのか、俺は気になって仕方ないんだが」
「あの桐原美里が直々に呼び出すのだから、よほどのことで間違いないのじゃない?」
少しは人のことを心配はしてくれないのだろうか。
燐が引き戸を開ける。
中を見ると、一番奥に座っている女性がいた。
桐原美里。彼女だ。
「よく来てくれたわね」
やはり不敵な笑みを浮かべているのは、何かあるからだろう。
いや、そうじゃなきゃ俺を呼び出したりなんかしない。
「呼び出したのは、やはり『女装コンテスト』のことですか?」
「そうね。それを目的で呼び出したのも同然ね」
なぜか、彼女の目が俺を射止めた。
やっぱり……今回の招集は俺が目的のようだな。
「君は、生野燿平君ね?」
「はい」
一瞬の沈黙。
「君のことはいろいろと聞いているよ」
誰からだよ。
いいから早く要件を言ってほしい。この間取に耐えるほど、俺は強くないし早く帰りたい。
「『女装コンテスト』に出てみる気にはならないか?」
「……」
「やはり、そう来るとは思っていたよ」
「俺もそう来るとは思っていましたけれど、どういう脈略で俺をこの企画に誘うんですか?」
「そこの二人が妙に君のことを推しているからね」
燐と雨宮を一瞥した。
俺は怖くて二人の表情を見ることができなかった。さっき横目で見ていたら、ものすごい剣幕の顔をしていたからだ。
「つまり、二人がどれだけ懇願しても俺が企画に出ないから、ついにあなたまで動き出すことになったと?」
「そういうことになるわね」
だとすると、この二人がこの人に頭を下げてお願いしたとは思えない。単独行動という選択になるわけだ。
だが俺はだれに何を言われようとも、『女装コンテスト』には出ない……
「私のモデルにならないか?」
「……え?」
開いた口が塞がらないとはこういうことなのか?
彼女が発した言葉の意味が分からなかった。
俺だけじゃない。燐と雨宮も同様だ。
「女装というのは、思っているより簡単なことではないわ。それはもちろん、する側もしようとする側もよ。女装しようなんて言う軽はずみで今回の企画に参加する無能な男子は、ごみ屑同然だと思っているわ」
似たような罵詈雑言を口にしているけれど、いまはそれどころじゃない。
「女装というのは、やろうと思ってできるものじゃない。させようと思ってできるものではない。適性があるのよ」
「何が言いたいんだ?」
「見た感じ、あなたは女装の適性があると思うわ。そこの二人がそれを見抜いてあなたを引き抜こうとしたかはどうでもいいけれど、あなたをコーデするのも面白そうとおもったのよ」
「それで俺が手に乗ると思うか?」
「思わないわ。でも、やってみるだけの価値はあると思うわ。なぜなら……」
表情が変わり、口元が大きくゆるんだ。
「そこの二人が、あなたをコーデしても私には勝てないでしょう?」
刹那。
無意識なのか、隣にある椅子をけ飛ばした。
派手な音を立てて床に転がる椅子。
その光景を見て呆然とする二人。
表情が一切揺るがない桐原美里。
「誰があんたに勝てないだって? それを証明できるのか? 実績? そんなもん……」
決めた。
俺はやってやるよ。
出てやるよ。
吠え面かかせてやるよ。
「やってみなきゃわからねえだろうが!!」
「威勢がいいわね」
「俺は企画に参加する。参加して、この二人が勝つために俺はなんだってやる」
「そう来たのね」
「ちょっと燿平君!?」
「やってやるよ。女装なんてクソくらえだって、証明してやるよ!!」
今、俺の闘志の炎はメラメラだった。




