閑話 夏休みのあれこれ
申し訳ありません。
所要により、更新する時間があまりなく、予定していた第三章は三月が終了してからになると思われます。
所要が理由じゃなく、いろいろ推敲していたらそれまでに間に合わなくなったからです。
自分の不憫な手際のせいで、ご迷惑おかけしてすいません。
第三章は、4/4に開始したいと思います。
俺、羽鳥光は聖城学園に通う一年生。
サッカー部に所属し、入ったころから先輩たちとは熾烈なレギュラー争いを繰り広げ、他校からも一目置かれている存在だと自分では思っている。いや、それくらい自意識過剰でなければ欧州リーグのチームにも入れないし、メッシやロナルド顔負けの10年連続バロンドールも夢のまた夢。俺はそれくらいの目標を持って、サッカーをしている。
そんなサッカー大好きな俺は、先日から始まった夏休みを如何にして有効に過ごすか、前々からその計画を練りに練ってきたのだ。
まず、課題は休みが始まる以前から半分は終わらせる。コツコツ派や追い込み派など人それぞれのやり方があるが、前者だと途中でやろうと予定していたところに行かず、結局は最後に後回し。後者の場合、一目瞭然。天国から地獄に行くようなものだ。
だからこそ、俺は高校生活最初の夏休みを有意義且つ、計画的に過ごそうと心がけていたんだった。
部活ももちろん、しっかりと参加する。遊ぶときには遊んで、部活をするときはする。メリハリをつけるのはとても大事なことだ。その面を踏まえて、俺はしっかりと計画をしていた。
そして、俺の夏休み特別計画案は順調に進んでいく予定だった……
□ □ □
「さ、さいし……」
目の前には一枚のA4の紙。
右上には50という何ともちょうどよく区切られた数字。
「あれ、もしかして光、再試なの?」
隣では、同じようなサイズの紙を受け取った由見がいた。心配そうに声をかけてくれたが、馬鹿にしている顔でうざかった……
「う、うるせえ。ちょっとしたミスだよ」
とか言いつつも、かなり大胆にミスしていたが……
ちなみに科目のほうは英語。あれだけ燿平に教え込まれたのに、全く歯が立たなかった。自信はあったんだが。
「そういうお前は……ウソだろ」
「まあ私のほうは余裕ね」
「カンペとか持っていたんだろ?」
「人聞きの悪いこと言わないでくれる? ちゃんと燐ちゃんに教えてもらったからできたのよ!!」
「じゃあ、燿平の教え方がまずかったのか……」
「あんた、ここに燿平いたら間違いなく殺されていたわよ」
夏休みが始まる前日。
担任のマツコ先生から夏休みの補習および追試があると言い渡され、すべての計画を台無しにした俺は泣きながら燿平に勉強を教えてもらうよう、嘆願した。そりゃあもう、地面に頭をこすり付けて。
最初の一週間くらい、補習などでつぶれても構わない。やることはあまりないから、目白押しにするほどでもなかった。
だが……
まさか再試という地獄が舞い降りてくるなんて。
51点以上取っている生徒はクリア。その時点で夏休みの補習はおさらば。俺もその中に入るはずだった。
なのに!!
「じゃあ、再試の人はまた三日後にこの教室でやるからね」
担当の先生がそう告げると、追試を受かりウキウキしている人もいれば再試にかかり頭を抱えている人もちらほら。
正直、何が起こったのかわからないくらい自分でも、何をしていいのかわからなかった。
「じゃあ光、私お先に行くから」
キメ顔を俺に向け、由見はあっさりと教室から出て行った。
くそっ、これじゃあ夢の夏休みライフが楽しめない!!
どこいった、俺の夏休み!!
カムバック!! なつやすみ!!
□ □ □
私、北村由見は悩んでいた。
最近太ってきたからとか、ニキビ少し増えてきたとか、現実的なこともあるけれど、もっと……なんというのか……言葉では表せないものであった。
「ようは、生野君の様子が以前とは打って変わっているっていうことでしょ?」
「そうなる……わね」
夏休みのある日。一日のハードな練習を乗り切った私は、同じ部活仲間と部室へ戻る途中だった。
部室棟の付近に設置されている水道には、髪の毛に紛れ込んだ砂利を取り除くために水をかぶっている人がいる。ほかの部活の人も、体育館からつながっている部室棟へ戻っている最中だった。
「幼馴染だから言えるとは限らないけれど、高校生になってからと中学生までだと、だいぶ大人になったというか落ち着きが見られたというか……」
「生野君、中学の時そんなに破天荒だったの?」
「そこまでじゃないよ。問題児とは言われてなかったけれど、周囲から一目置かれている存在はあったね」
「あの目つきで?」
「そうね」
燿平は、燿平のお母さんが亡くなって以来芸能活動に従事しなくなった。
私としては、遊ぶ時間が増えて嬉しいと思っていたけれど、悲しんでいる彼を見ているのは当然嫌だった。
学校に行っても、誰とも接しようとせず、休み時間はただ外の景色を眺めているだけだった。
ずっとこんな風に続くのかなと。とはうすうす思っていた。
だが、中学行って少し変わった。
特に印象的だったのが、目。
目つき。
ギャップがあったせいかもしれない。だが、それでも変わりすぎだとは思っていた。先輩からは異様に目をつけられては、校舎裏に呼び出されているところを見かけたのは、結構あったはず。
「それで、由見は生野君のどこが変わったと思ったの?」
露で覆い尽くされている顔面を、タオルで拭きながら友達は問う。
「目の色」
「はい?」
「目の色だよ。何となくかもしれないけれど、目の中に燃え滾る闘志の炎のように、燿平にもそれらしい何かが灯った気がするの」
「それって、神崎さんが転校してきてからでしょ?」
「……言われてみれば」
よく考えてみればそうだ。
燿平に変化の兆しがみられたのは、燐ちゃんが転校してきてから。
あれから、燿平と会話するたびに燐ちゃんの話題がちょくちょく出てくるし、話している時の顔もなんだか生き生きとしている風に見えた。
「そうだとは感づいていたよ」
「何を根拠なの?」
「女の勘かな」
女の勘……あてになるようであてにならない言葉だが、友人の言うことも納得できる。
私も、ちょっとはそういう風に思っていたから。
十何年間、一緒に遊んで一緒に笑って一緒に泣いて過ごしてきた日々。
心を閉ざされた燿平に、自分は何もしてやれなかったのは今でも後悔している。
結局、中学行って変わったのも燿平が自分の力で何とかしたからだろう。
高校へ行ってもそうだ。
燐ちゃんが来てから、燿平はまた変わった。
私の知らないところで、どんどん燿平が変わっていく。
それは、なんだかうれしいようで悲しいことかもしれない。
「幼馴染って、肝心な時に近くにいすぎて何もできない時ってあるよね」
「……急に重たくなったけれど、大丈夫?」
「平気!! それよりさ、この前のトランプで5連勝したんだからジュース買ってくれるよね?」
「話題転換しないで!? いつの話をしているのよ!!」
これでいいかもしれない。
燿平には、燿平が歩いていきたい道を歩いてほしいのだから。