第三話 「じゃあ、おやすみ。燿平くん」
いつもストックしてあるのを推敲してから投稿するけれど、今日のは今までで一番時間かかったwww
網戸から吹き抜ける風を受けながら、俺と神崎は冷やし中華を平らげた。 予め言ったように、野菜の切り方とか、盛り付けなどの出来栄えは気にしない。味さえよければ俺はいいと思っている。
テレビをつければ、早くも夏休み特集の番組をやっていた。
所謂、怖い話だ。
ちょうど心霊現象というタイトルが出ていて、何人かの芸能人がお寺の部屋で座らされている。
テロップを目にするだけで、叫びたくなりそうだ。
「お前、こういうの得意か?」
「ま、まあ」
ずいぶんと苦紛れでいるな……大丈夫なのか?
俺か? 俺はな……
「生野君は……その、こういうのは得意なわけ?」
「あ、ああ。も、もちろんだとも!! 夏だしな!!」
正直怖い。めちゃくちゃ怖いですよ。
見るのには十分いいけれど、見た後に霊が出てきそうで怖い。先入観というか、思い込みが激しいから。
心の中で少々嘆きながらも、所々で雷が鳴っていることに気づいた。
少し遅い夕立でも来るのだろうか。そう思って、全開にしている窓を閉めた。
ふと、神崎のほうを見てみると彼女は何の様子の変化もなく、ただ画面を見つめていた。。
しかし、見つめているだけであって目線が全然テレビに向いていない。
こいつ……見ているふりして全然違うところ見ているじゃねえかよ。
違うチャンネルに変えたい、怖いから消そうよとか言ってしまえば、男という名に傷がつきそう。
幸い、手元にあったリモコンを神崎にばれないように取る。
「生野君」
ぴくっ。
反射的に、俺の体が動いた。
リモコンを引き上げる手が止まる。
まさか、気づいているとか?
でも、俺はチャンネルを変えるつもりだ。どう見てもお前は怖がっているだろ? ここでお前が俺を刺し止めしたら、両方に利益がいかなくなる。それだけはまじで勘弁!!
「な、何かな?」
「その手に持っているもの。もしかして……」
ええ。そうですよ。そうですとも。
俺が手にしているモノは……
瞬間。
パチッと何かがはじける光と共に、大地を揺るがす轟音がこの辺りを覆い尽くした。
それに伴い、テレビ、扇風機、電気とあらゆるものが消灯。世界を暗闇に包み込んだ。
そして、待ってましたというように降り出す雨。
ほんの一瞬で、俺の鼻に雨のにおいが溶け込んだ。
「きゃあ!!」
更にタイムラグなしで起こった悲鳴。言わずとも神崎のだ。
「大丈夫か!?」
「ひぃぃぃぃぃ」
めっちゃかわいい声出しているな……おっと、堪能している場合じゃねえよ。懐中電灯は……
スマホのライトでもよかったが、あれだとバッテリーが長く持たないし範囲も狭い。懐中電灯だと、今更ながらラジオもついているし、持続時間もそれなりに長いから、万が一の時に備えて用意してある。
だが、懐中電灯を探すのに明かりが必要だ。スマホを操作してちょっとした明かりを出す。
確か、棚の引き出しにしまっていたよな……
一段目を開けると、早速懐中電灯を見つける。だが、色々なものが嵩張っているから実に取りにくい。
そういえば姉ちゃんがムヒ持っていくとかで、あちらこちら漁っていたっけ。ったく、片付けくらいはしてほしいよ。
「ほれ」
ガサゴソと綺麗に取り分けたおかげで、何とか取り出すことに成功。
早速明かりをつけると、スマホとは違う安心感。さすが範囲が広いだけあって使い勝手がいい。
「お前、雷ダメなのか?」
停電になってからの開口一番。
机の下に必死で隠れる神崎に問う。
「おーい」
……完全にダウンしているな。
しょうがないな。
机の下に潜り込んでいる神崎に声をかけても無駄なため、黙って様子を見てみると、
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
何に謝っているんだよ……
まあ、大丈夫そうだな。
屋根を叩く音は次第に弱まっていくが、いつ雷が来てもおかしくないくらい、天候の状態はあまり芳しくない。
「雨も当分止まないし、雷も鳴っているからなぁ……家に戻るか?」
ダメ出しで聞いてみた。八割NOで二割がYESと予想。
「帰らないわ……」
ですよね。
だってね、裾にしがみついているんだぜ? こんな状態で引きはがせると思うか?
断じて無理です。
「まあちょうどいい時間だし、そろそろ寝るか?」
「……そうだね」
やけにテンションが低いな。
「姉ちゃんの部屋使ってくれよ。何かあれば俺の部屋に来ればいいからさ」
「雷に怯える女の子を一人で寝かせるつもりなの?」
ようやく元気を取り戻したか!! って思えばその言葉かよ。
ってかその上目遣いやめない? どこで習ってきたの? 使う人間違えていない?
「一人って……いくらなんでも一緒に寝るのは常識的にないだろ?」
「ふぅん。じゃあ、あなたが星野輝夜だっていうこと、世間に公表してもいいのかな?」
「寝ます寝ます!! ぜひとも一緒に寝させていただきまするぅぅぅぅぅぅぅ!!」
あれ、何でだろ? アイドルと一緒の部屋で寝れるのはうれしいことなのに、どうしても涙しか出てこないなぁ!!
仕方なく。どうしてもと、神崎が言うから。俺の要望には全く応えてもらえず、この日の夜は布団を並べて寝ることになった。一体、誰がこんなことを望んだのか? 誰も望んでいねえよ!!
「なあ」
「なによ」
「本当にこのフォーメーションで寝るのか?」
「フォーメーションという言葉に少し意味深な気持ちがあるけれど、これしかないわよ? 何なら、あなたが私の布団に来る手もあるけれど?」
「どこも意味深じゃねえよ。至って健全だ」
この野郎、人様をなんだと思っているんだが。
しかしなぁ……
布団を敷かれたのはあまり使われていない和室。
畳のにおいが鼻を衝く。
「そろそろ寝ましょ」
神崎に促されるが、どうにも乗り気にならない。本当にこの空間で、あの領域に達してもいいのだろうか。入ってしまえば、俺の人生は……
「私の隣では寝れないの?」
睨まれた。まずい、これは早くしないと俺がやられるパターンだ。
「……」
「三秒前」
「っておい!?」
「何よ……」
何よ。じゃねえ……
カウントダウンは理不尽だ。俺の意見を尊重する気全くないようなそぶりだな。
「隣はまずくないか?」
「誰が私の隣に来てといったのよ。あなたの布団はそこになるじゃない。……まさか!?私の布団に入ってあんなことやこんなことを……エッチ!!」
「おい待てコラ」
色々と面倒な誤解を招いてきやがる。もとはといえば、お前の語弊のある言葉が問題点だろ。あと最後の『エッチ!!』は可愛かったな。
「それに……ほら、また雷とか鳴ったら怖いじゃないの」
「……? 何言っているのかさっぱりわからねえよ?」
刹那。またしても稲光があたりを強く照らした。
「きゃっ!!」
咄嗟に布団へもぐりこみ、外敵から身を守るヤドカリのように見えてしまう。
……はぁ、仕方ないか。
どのみち、自分の部屋で寝たところで、こいつが侵入して来る可能性は高い。いや、まず侵入し来るな。
でもこれから先、ずっとこういう状態じゃないから今回だけはいいだろう。
半ば諦め。半ば納得し、俺は布団の中へと入った。
雨脚は、さっきよりも弱くなってきている。
ベランダからは水滴が垂れる音が、断続的に聞こえてくる。
「ねえ」
「……まだ起きているのかよ」
床に着いて、結構時間は経った。
いつもならぐっすりと寝ているのに、今日に限ってはやけに眼が冴えている。たぶん雨のせいだな。
「雨の音がうるさいかもしれないけど、時期に止むだろ。それまで我慢していろよ」
「……うん」
よし、これで寝られる。
明日は道場にでも顔を出そうかな。朝起きたら久坂先輩に電話してみるか。
頭の中で明日のスケジュールを確認する。目を閉じているから、次第に眠くなると思って、こんなことしている。ほら、そろそろ夢の中に……
「私、本当は男の子ってあまり得意じゃないのよ」
「……」
完全に目が冴えた……こいつ、寝息立てていなかったから起きていると思っていたのか?
「この前みたいに、佐々木に襲われた時、一種の男性恐怖症になったのよ。幸い、事務所には女の子しかいないからよかったけれど、中学校は共学。もういるだけで死にそうだったの。あれは地獄だったわ」
「分からなくも……ないかな」
「え?」
俺の言葉に、神崎は驚いた声を上げる。暗闇だから、表情までは分からないけど。
「俺の場合、恐怖症とかじゃなくて過去と決別できていなかったんだ。母さんを亡くしたショックかもな。今思えば情けないよな。いくら女装しているとはいえ、中身は男の子なんだしいつまでも引きずっているのはダメだと思っているんだ。でも、それを克服するのは無理だったな」
だから、俺はいっそ決めたんだ。自分自身。見た目から変えようと。
そうした結果。こんな目つき悪くて友達も碌にできない人間になってしまった……母さん。まじでごめんなさい。
「どっちもどっちなんだね」
「俺はまだ、男性恐怖症の方がましだと思うけれどな」
「それはないかな? だってほら、今でも生野君は私と話しているじゃない」
お前も同じだろ。
「それはそれだ。お前が俺に突っかかってきているから、それなりに付き合っているだけ」
「素直じゃないんだね」
「やかましい」
「ふふふっ」と、いつものように笑う神崎。
会話にオチはつけたことだし、そろそろ寝よ……って、うん? なんかもぞもぞしているけれど。
「やぁ」
「……やぁじゃねえよ」
何で人の布団に入ってくるんだ。
暑苦しいからやめてほしいんですけど……
「あのう、神崎さん? あなた、男性恐怖症じゃないんですか? こんな間近に男の顔合ってぶっ叩かれても、俺は一切責任負いませんけれど?」
「大丈夫よ。生野君なら……たぶん」
「そこは断言してくれ」
……。
うーん。隣に女の子が来ると、こんなに緊張するものなのか。
しかし、いい匂いだな。でも嗅いだら逮捕されそうで怖いな……
「表情硬いけれど、大丈夫?」
「大丈夫じゃねえよ。隣に女の子がいるっていうことは、俺の人生の終わりが近いっていうサインなんだぞ?」
「まるで私が人類最終兵器みたいに言うわね……」
俺みたいな男にとって、女の人は存在自体最終兵器だよ。
「でも、これで雷が来ても安心して眠れるわ」
「女の子が隣に来ても、安心して眠れない俺をどうにかしてくれ」
「じゃあ、おやすみ。燿平くん」
「……」
意味深な言葉を最後に、気づけば神崎は眠りについていた。
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