第一話 「それ、本気か?」
駄文上等。加筆修正は時間があればしていきます。
芸能人はすごいなと思うところがある。
いや、芸能人だけでなく女優と俳優、お笑い芸人といろいろ類があるけれど、その辺は気にしないでおこう。
なぜ凄いのか。
そりゃ、早いときには朝の六時にロケが始まって終わって帰ってくるころには日付が変わっている。
朝もスタジオ入室ぎりぎりに来て、打ち合わせに間一髪のところでスライディングする人も中には。
その中で子供がいる人は尚更だ。特に女優。
遠いところでロケやテレビ番組の特集に出演。子供と過ごす時間より仕事。それが原因で離婚する夫婦もしばしば……。
まあ、それが仕事なのだから仕方ない。子供もその点は理解しているはずだ。
逆はどうなのか。子役として活躍する子がいれば、親はさぞかし鼻も高いだろう。
将来有望と謳われ、数年後にはアイドルクループへ加入し世間を沸かせる大スターに。なんて、夢見ている人も多かれ少なかれ、その人の親でなくても想像する。
実際、その大スターがなんと7歳の女の子だったことに、メディアや世間の眼はどれだけ丸くしたことか。
少しでも触れれば折れてしまうくらい華奢な四肢。小さい子供でもこんなに可愛くなるのか!? 親御さんは女優か何かか!? なんて言われるのは当然だ。
それもそのはず。その子役の母親も年間女優人気ランキングで、ベストファイブに入るくらい有名な女優だったから。
母親の遺伝か、またはその名の反響か。子供向けの番組に出演したところ、数々のテレビ局からオファーが殺到。
当時所属していた事務所の電話が鳴りやむことはなかった。それくらい、その子は着々と人気の座をとっていった。
案の定、ドラマに出演すればたちまち話題に。
『天使じゃん!!』『本当に子ども!?』『親が女優だからわかるけれど……これ反則』『ぬいぐるみだな』など、SNSサイトではその子の話題で持ちきり。
その反響の嵐は収まることはなく、むしろ拡大していく一方だった。
しかし、ドラマの出演依頼やドキュメント番組でのゲスト出演などあらゆる仕事が舞い込むにつれて、その子自身の体力が持つわけではなかった。
女優ではある母親もつかれていた。自分が女優という職業に就いているからこそ、演技や収録に臨む子供の体調管理はいちばん気遣っていた。
だが、それが裏目に出た。
子供の人気と比例して親にも人気が出たのは無論、自分の仕事と子供のスケジュール管理をしているだけで、休む暇なんてなかった。
そして、極度の疲労と精神的苦痛の連鎖によって。
過労死。
瞬く間に人気を博していた女優、『星野燿子』は思わぬ形で亡くなった。
それは、芸能界だけでなく世間を揺るがしたニュースだった。
それと同時に星野燿子の子でもある人気子役、『星野輝夜』も、何の前触れもなく芸能界を引退した。
一部メディアでは、母親の死のショックで表には出れなくなっただろうという推測だ。
この出来事は後世でも語り継がれる、もっとも人気を博し、もっともその人気を持続させた人物として、のちに数々の女優俳優、アイドルを生み出す結果となったのは言うまでもなかった。
それから10年。
絶大な人気を誇った人気子役、星野輝夜という人物が世間の記憶が埋もれいく中で今は……
どこにでもいる、普通の男子高校生だった。
□ □ □
平日の早朝。
ボケッとしてたら、聞きなれた歌声が耳に入った。
なんで呆けていたのかは分からないけど、我に帰ったらテレビで今人気沸騰中の高校生アイドル、『神崎燐』が歌っていた。
こんな朝からライブかよ。って思っていたけれどニュースの特集だった。
歌手、タレント、さらに女優までこなすユーティリティな美女。
老若男女問わず、人気がある。
さわやかな笑顔に、はきはきとした声。元気なその姿から見せるダンスや歌声、演技力から『20年に一人の逸材』とまで言われている。
でも俺がすごいと思っているのが、今放送している朝番のニュースキャスター。
早朝の仕事で眠いのにもかかわらず、眠気を表情で出さないのがその人たちの凄さだよな。朝の五時からやっているこの『めざニュ~』を担当している人を尊敬するわ。
渋い趣向を持った人と、姉ちゃんからよく言われるけれど。
「ほら、テレビなんか見ていると学校に遅れるわよ」
ベーコンエッグの横に添えていたレタスが、まだ俺の口に入りきっていなかった時。
それを見て、姉の生野燿里が俺の肩をつっついてきた。
時計を見れば、家を出る時間が近づいていることに気づく。
「姉ちゃん、今日も帰り遅い?」
むしゃむしゃと、食事をするウサギのようにキャベツを頬張りながら姉ちゃんの帰宅時刻を聞く。
「そうね……ドラマの撮影次第かな。今日の夕ご飯何?」
残りのものを牛乳で流し込んだ後、脇に置いてある鞄の中身を確認する。
いつもこんな風に、きっちりとした時間は教えられない。
明確な時間を知らないうえに、晩御飯が何か聞いてくるから頭が上がらない。
そんな姉ちゃんは女優だ。今、テレビに映っている神崎燐と同じくらい人気の。
その神崎燐と姉ちゃんが所属する事務所『ティーンズ』は毎年入所するひとがかなりいる。合格するのはほんの一握り。入ってからも厳しいし、ブラック企業に入っているのと変わらない。って、時々愚痴を聞かされる。
「あ、そうそう。最近燿君の作ったお弁当を同じ事務所の人に食べさせたら、気に入られちゃってね。だから近々ご馳走してくれない?」
「それ本気か?」
「本気じゃなかったら言わないよぉ」
誰かに食べてもらうのはいいとして、ご馳走か。あまり芸能人……とくに女の人とは関わりを持ちたくない。
年頃だからという理由じゃない。根本的に、女性という存在が俺の心と体が受け付けていない。
それ故、いまだに姉ちゃんを除いた女の人と手を繋いだ試がない。
「都合がいい日でいいわよ。私もこの時期はいろいろな番組の収録あるからね」
「毎日ご苦労様です。では、俺はそろそろ登校する」
「ご武運を、我が弟」
ひょんなことから始まった謎の儀式。ある芸人さんがやっていたから真似てみた。が、始まりのようだが別に嫌ではない。むしろ、こっちの方が俄然やる気が出る。
毎朝おなじみの姉の敬礼を背に、俺は学校へと向かった。