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8/12

執行

 ブーランは偽勇者である天野由宇の部屋を探していた。

 祭典やお祭り騒ぎを続けている街の影響で、今日は城内部の警備は手薄になっている。

 有力貴族としてある程度そこらの事情を熟知しているブーランにとって、城に侵入することなど造作もない事だった。


「ぐふふ……油断は禁物……」


 いかにシュベリア王家に恩義を売っているとはいえ、無断で城に侵入したとなれば厳罰は免れない。

 それに加え、国民の支持を失い、失脚は確実である。

 貴族は持って生まれたが故に、失うことを酷く恐れる。

 何故なら、それは持っていて当たり前のものだからだ。

 農民が生きていくために必要な農具、土地、人員。

 貴族にとってはそれこそが権力であり、金であり、従者なのだ。

 それながければ、貴族は生きていくことができない。

 ゆえに、何時なんどきも保身を忘れない。

 自分以外はすべて警戒する。

 隙を見せれば最後、同じく亡者の貴族共に骨一つ残さず喰われることだろう。


「…………っ」


 ブーランは前方から足音を聞いた。

 壁に背をつけ、その場でじっと立ち止まる。


――――カツ……カツ……カツ。


 規則的な足音を響かせ、その足音の主は近づく。


「…………」


 ブーランはじっと息を殺した。

 やはて、その姿が夕闇に浮かぶ。

 年若いメイドだ。

 ベットのシーツを交換していたのか、その両手には真っ白なシーツを抱えている。

 一瞬、メイドとブーランの視線が合う。

 だが、メイドは何の反応も見せずに、ブーランのすぐ傍を通り過ぎた。


「…………ふぅ」


 ブーランは息を吐く。

 万事問題なし。


「久々で肝を冷やしたが……その必要はなかったな」


 その正体は透過の魔術である。

 身体の全身に魔力の膜を張り、周囲の光を集め反射させる魔術。

 日が完全に落ちてしまってはその効力を失うが、そうでなければ非常に少量の魔力消費ですむ。

 一時期大々的に流行った魔術であるが、悪用された事件があまりに多発したために禁術指定されている。

 現在ではその魔術の存在口にするだけで捕えられてしまうと噂されていた。


 何故そんな魔術をブーランが扱えるかというと、それはブーランこそが透過魔術の生みの親だからだ。

 他国の王子である親友の恋人。

 学生時代にその恋人を気に入ったブーランが正体を知られずに、犯すために考案した下種の極みのような魔術である。


「あの時の事は今思い出しても滾るわい……まさか初物とは思わんかったが……ぐふふ」


 あの時、親友の恋人だった少女は体調を崩した――――という名目で母国に帰国してしまったため、二人のその後を知ることも聞くこともなかった。

 今更ながら誠実で品性方向だった若いカップルの絶望を想像して、ブーランは悦に入る。


 そのままメイドがやってきた方に向かうと、一つの部屋があった。

 万が一を考え、コンコンとノックをするが、無反応。

 ブーランは少し考えて、ドアを開ける。


 ――――ガチャリ。


「…………」


 部屋の中は無味乾燥としていた。

 荷物が少なく、あまり生活臭を感じない。

 目立つ物と言えばクローゼットに全身鏡と櫛や化粧品の類か。

 だが、ブーランには一つだけ確信した事があった。


「若い……若い女の匂いがする」


 老化によってあらゆる器官が衰えつつあるブーランにも、一つだけ誇れるものがある。

 それが嗅覚だ。

 特に、女の匂いにはことさら敏感であった。

 部屋は甘酸っぱいいくつかの香気で満たされている。


「エミリアのものとも違う……さっきのメイドとも違う……知らん匂いだ」


 ブーランは擦れ違った際に香ったメイドの匂いを記憶していた。

 幼いころから狙っていたエミリアのものは言わずもがな。

 この部屋からする匂いは三種類。

 メイドとエミリアと誰か。

 その知らない誰かの匂いが一番強い。


「……当たりか……運がいい、うひひ」


 若い女の匂いに中てられ、涎が漏れそうになる。

 城に部屋を与えられ、お付のメイドを付けられ、尚且つエミリアが部屋に訪れるとなると、部屋の主は相当絞られてくる。

 シュベリアに他国の姫や貴族が留学ないし外交に来ているという情報もない。

 となると、件の小娘を除いて他にいなかった。


「はぁはぁ……ぐふ、ぐふふ……」


 笑いをこらえながら、部屋を見渡す。

 壁際に置かれたクローゼット。

 それにブーランは近づいて戸を開ける。

 中にはぎっしりとドレスや洋服を詰まっていた。

 どれもこれもヤーンスパイダーの糸を使ったもので、とても庶民に手が出せるものではない。


「あの小娘……あの態度から貴族じゃないかと思っていたが、やはりそうか」


 自国の貴族ではないだろう。

 ブーランが知らぬはずがない。


「なら同盟国のワーグナー共和国か?」


 ワーグナー共和国が共和国になるにあたって、貴族制を解体して未だ久しい。

 貴族という既得権益を奪われたくない旧ワーグナー王国の貴族が娘を引き換えにシュベリアの爵位を与えられたのかだろうか。


「まぁ、聞けばわかることよ」

 

 クローゼットに吊るされたドレスをすべて出し、それらをブーランはベッドの下に強引に押し入れ、クローゼット内部にスペースを作る。

 すると、ブーランの身体はクローゼットの中にピッタリと入り込んだ。

 その手には一着のドレスが握られていた。


「ぐふ、ぐふふふ、神が私の味方しているようだ」


 ブーランはクローゼットに隠れずとも、先程のように透過魔術で息を潜めるという手段をとることもできた。

 だが、そうしなかったのはブーランの趣味によるところが大きい。

 雰囲気や様式美を大事にする男――――ブーランはそう自称している。

 クローゼットの中でブーランは獲物の帰りを待ちわびる。

 じっと……声を殺して笑いながら……。










 俺が解放された時にはもう夕刻で日が落ちかかっていた。

 賑わっているという街を一目見てみたかったが、精神的な疲れでそんな気力は残ってなかった。

 俺は自室のドアをガチャリと開ける。

 ここが自室となって一月も経っていないが、最近ようやく慣れてきた。

 いろいろ家具を置いたり飾り立てたりしたい所だが、出立三日前からではさすがに遅すぎる。


「ふぅ……んっ?」


 やはり、どんな世界でも自室というのは落ち着ける空間であると、心底痛感しながらドアを開け、俺は異変を感じた。


「…………」


 それはドアを開けた瞬間に感じたものだ。

 部屋がいつもと違う。

 分かりやすく言えば、臭かったのだ。

 汗の匂いと……加齢臭。

 真夏の満員電車の中のような不快さで部屋が覆われていた。


「うっ……なんだっ?」


 吐き気を感じ、口と鼻を抑える。

 少なくとも、俺がこの部屋に入ってから、こんな異変は一度も感じたことはない。

 考えられる原因は最近少し言葉を交わすようになった俺のお付のメイドであるシュリだが、彼女は有能な人間だ。

 まさかこんな匂いを俺の部屋に撒き散らす趣味をもっている訳でもあるまい。


――――そもそも。


『これは雄の匂いじゃな……』


 鼻をつまんでいるように掠れたエルの声。

 そうこれはかつて俺の父からも、そして甚だ不本意ではあるが、体を鍛えて汗をかいた時の俺からも僅かにだが嗅いだことのある匂いだ。

 そして、もう一つ。

 青臭・・い匂いがする。

 それは男でなければ決して出せない匂い。

 耳をすませば、荒い息遣いと、シュッシュという何かを扱く様な音さえ聞こえる。


『……クローゼットじゃな』


 相変わらず掠れた声。


「誰か呼んで来よう」


 普段の俺からは絶対に出てこない言葉。

 誰かに助けを乞う言葉。

 もしかすると、人生で初めてかもしれない。


『ほ、ほう?お、お主の口から出た言葉とは思えんの~?』


 短い付き合いではあるが、一心同体であるエルには悟られる。

 だが、その声は僅かに震えていた。

 

 正直に言おう。

 俺とエルは正しく恐怖していた。

 クローゼットの中にいるであろう――――変質者に!


 これが幽霊や化け物に類であったなら、些かの恐れを抱く間もなく消し飛ばしていただろう。

 でも――――


「こ、恐い! 変質者は恐い!!」


『…………ゴクリ』


 人間は恐ろしい生き物である。

 悪魔ですら想像さえしないことを平然とやってのけるのだ。

 俺は人間という種への評価を改める。

 どうやら舐めていたようだ。

 少なくとも、変態性という点では人類は悪魔を遥かに凌駕していた。


『いつまでこうしておる気じゃ?』


「……っ!」


 一度は助けを呼ぼうと本気で思いかけたが、心の奥底にある俺の魂は決してその軟弱な決断を認めはしない。

 屈するな!戦え!と俺の背を強く押す。


「い、行く……ぞ」


『…………』


 俺は決死の覚悟でクローゼットへ向かう。

 じりじると摺り足で距離を詰める。

 そして、近づけば近づくほどにクローゼットから聞こえる音が鮮明になる。


「ぐふふ……小娘ぇ……待っておれぇ……はぁ……はぁ……」


 一瞬、クローゼットごと燃やそうかと思った。

 だが、九割九分どころか百パーセントダメだと分かっていても、このクローゼットの中には俺の最近お気に入りの洋服が入っている。

 何より、正体も確かめずに燃やすのは逃げも同然だとも思う。

 俺はいつだって現実を見てきた。

 その現実を受け入れたい上で、それを乗り越えるよう努力してきたのだ。

 ゆえに俺は考える。


 これも俺をさらなる高みに導く試練である――――と。

 

 俺はクローゼットを一息で開け放つ。

 そして目があった。


「ぐふふふふ……小娘ぇ……覚悟しろ……」


 汗まみれで全裸のブーランとかいう貴族がそこにはいた。

 特に俺のお気に入りだった一着の洋服に顔を埋め、右手を上下運動させながら俺を見る。


「犯して……やるわい……気が狂うまでな……ぐふふ……うっ!」

 

 その右手に握りしめたかから、白い液体が放出される。

 それは俺の純白のドレスに降り注ぎ――――


「ぴ――――」


『ぴ?』


「ぴぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――」


「ぐへぇっ!!」


 二つの悲鳴。

 次いで、轟音を上げて吹き飛んだクローゼットが壁を破壊し、目にも止まらぬ速さで空中を飛翔する。

 俺も部屋から飛び出し、クローゼットの後を追う。


「殺す!」


 クローゼットを目視する。

 そこは城の裏手にある森。

 シュベリア皇族の私有地であり、代々にわたって魔術の研鑽をここで詰んできたといわれている。西日が微かに差し込む森に人目はなく、俺にとっては絶好のシチュエーションである。


「ぎ、ぎぎぃ……一体……何がっ……!?」


 俺が地面に降り立つと、ちょうどブーランがボロボロのクローゼットから這い出してきたいる所であった。

 さすが生命力だけはゴキブリ並だと感心する。

 今からその無駄な生命力を持って生まれた事を後悔させてやるっ!


「…………」


「ひっ!」


 俺は無言でブーランに接近する。

 未だ状況を飲み込めずに目を回しているブーランに蹴りをお見舞いするべく足を振り上げた。

 すると、ブーランはようやく己の危機を自覚したのか、焦りを浮かべ、口早に何事かを囀る。


「――――メタマテリアル!」


「っ!?」


 振り下ろされた俺の脚が空を切る。


「驚いた……」


 呟きながら俺は周囲を見渡す。

 ブーランの姿は夢や幻のように消失していた。


『魔術じゃな』


「…………だろうな」

 

 エルの意見に同意する。

 ただ、この世界に来てから魔術に対する講義はそれなりに受けたものの、透明になる魔術というのは初見であった。

 

「エル、あいつの場所分かるか?」


『もちろん』


「なら教え――――いや、なんでもない……」


 なんという事だろう。

 俺は今、何をしようとしていた?

 この俺が、天上天下唯一最強であると定めた俺が助力を請おうとしたのか?


「…………チッ」


 さっきの事といい、クソッ!

 苛立ち交じりに舌打ちを一つ。

 この世界に来て、いろんな人間と触れ合った。

 現状の醜態はそれが原因なのだろうか?

 俺が周囲に影響されているとでもいうのだろうか?


「…………ありえない」


 そんな劣化を俺は認める訳にはいかない。


 ひとまず――――


「あいつを殺してからだな……」


 話はそれからだ。







 目を瞑り、周囲の気配を探っている。

 ここは森。周りは木々に囲まれている。

 ブーランが逃げようとしても、そう簡単にはいかないはずだ。


「…………」


 次いで周囲に微弱な魔力を放ち、俺以外の魔力発生源がないかを探る。

 ブーランが消えたのが魔術によるものだとすれば、必ず何らかの反応があるはずだ。


「――――っ! 見つけたっ!? 後ろか!」


 振り返ると、ブーランは全裸を晒し、手に光の剣のようなものを俺に振り下ろそうとしていた。


「ふおおおおおおおおおっ!!」


 ぐぐもった息を吐き、腹回りの脂肪を揺らしながら、光が俺に迫る。

 しかし、俺は光の剣を冷静に見つめながら、スッと身体の軸を動かすだけで簡単にそれを交わした。


「なっ!?」


 ブーランが驚愕の声を漏らす。

 俺にもその心情は理解できた。

 先ほどのブーランの一撃はタイミング、太刀筋、技の切れ、どれをとっても必殺と言って相応しいものだった。

 

「なぁ? お前の実力ってどんなもの?」

 

 俺は問いかけながら、ブーランの悍ましい体液の付着した布部分に触れないように気を付けながら、汚れたドレスの裾を破る。

 大胆に細く滑らかな太腿が露出され、こんな状況だというのに、ブーランの視線が集中するのを感じた。


「…………私の実力だと……? ふんっ! 若い頃は名の知れた魔術師であった……貴様……偽勇者なんぞ及びもしないなっ!!」


 自慢げにブーランは胸を張り答える。

 事実かどうかはさておき、まるっきりのヘボと言う訳でもないらしい。

 だからこそ、俺は失望を禁じ得ない。

 てか、偽勇者ってなんだよ。


「はぁ……それなりでこの程度か……」


 がっかりだ。

 俺は王道が好きだ。

 ゆえに、敵も俺に勝るとも劣らないくらいに強くあって欲しい。

 多くの血を流し、死闘を繰り広げたいのだ。

 それでこそ、俺が至高の存在となる道として相応しい。

 その方がカッコイイ。


 それを……なんだこいつは……。

 俺の本格的な初戦闘だというのに、全裸!

 おまけに即モザイクレベルのセクハラ!

 オ〇ニー!

 そして全裸!


 何かがおかしい。

 いや、すべてがおかしい。

 これではただの変態ではないか。

 俺の栄えある初戦の相手にまったく相応しくない。

 だから――――


「お前はなかったことにしてやるっ!」


 細胞一つ残さず、完全に滅ぼす。

 俺が決断すると同時、先に動いたのは以外にもブーランだった。

 淡い燐光を放つ光の剣を握りしめ、その巨体に似合わぬスピードで斬りかかってくる。

 目にも止まらぬ連撃を俺は目視・・して紙一重で交わしながら、冷徹な視線をブーランに向ける。


「くそっ! 何故当たらんっ!」


 全身から汗を流しながら、ブーランの表情は次第に焦りを帯びていく。

 それに対し、俺はまったくの余裕だった。

 俺は身体を鍛えたことはあっても、武術に関する経験も知識もない。

 俺とブーランの間に横たわっているのは、身体能力の差だ。

 生まれたての赤ん坊が大人を殺せないように、単純で純粋な能力がこの状況を生み出していた。

 俺にはブーランの攻撃がすべてスローモーションで見えている。

 躱す事は実に簡単だった。


「はぁ……はぁ……はぁっ」


 次第にブーランの息が荒れてくる。

 巨体の割にスピードはあるが、持久力に欠けるようだ。


「っ!」


 ブーランの動きが一瞬止まる。

 俺はその隙を見逃さず、顔面に拳を叩き込んだ。

 メシリと固いものを砕く感触を拳に感じる。

 拳を前に押し出すようにして、一歩踏み出すと、まるで漫画のようにブーランは吹き飛んだ。

 錐もみ状に回転し木々をなぎ倒していく姿は思わず俺の笑いを誘う。


「ふ、ふふふふふ」


 笑うときは口を手で覆い、上品に。

 それが淑女の鉄則だ。

 ゆっくりとブーランの身体を追いかけ、歩き出す。

 百メートル程先でブーランは倒れていた。

 鼻がへし曲り陥没している。

 だらだらと鼻血を流しており、脳への損傷もありそうだった。


 しかし――――


「……………………ぅぅ」


 ブーランの指先がピクリと動いた。

 顔を横向きにし、何度か咳き込むと、口の中から何本もの折れた歯を吐き出した。


「……しぶとい奴だ」


 これくらいで許してやる――――訳がない。

 ブーランにされた変態行為の数々を考えれば、まだ優しい部類だ。


「……こんな感じか?」


 ブーランの光の剣を頭の中でイメージする。

 そして、今、俺は光の剣を握っているのだと自分の頭を騙す。


 ブーランにできて、俺にできぬはずがない。


 ただそれだけの思いで、非現実は実現した。

 俺の手に握られた光の剣。

 それを基本として、頭の中で別のイメージすると、それだけで剣は炎を纏ったり、雷を纏ったりと変化していく。

 本に書いてあった魔法陣を思い浮かべる必要もなく、だ。


『悪魔はすべての魔術を無条件、無制限に扱うことができるのじゃ。なんたって『魔』術じゃからのぉ。その程度の形成魔術は容易い』


 エルの声。

 まったくもって、無駄にチートである。

 だが、世の中とはそういうものかと俺は納得もする。

 呆れる程無能な人間がいれば、恐ろしいほどに有能な人間がいるものだ。

 両者の間を隔てるのはただ一つ。

 生まれの運である。

 そして、人生は時に一発逆転というものが起こるものだ。

 すべてを生まれ持った貴族であるブーランと無能と大言壮語の権化だった俺。

 状況は容易く変異し、逆転した。

 俺とブーランを隔てのはただ一つ。


――――運である!


「ブーラン運が悪かったな」


 光の剣に炎を纏わせる。

 紅焔から放たれる熱気が空間を煮えたぎらせた。 


「ひぃぃぃぃぃっ!?」


 ブーランは最早動くこともできない。

 ブルブルと無様に脂肪を揺らして、死を待つだけの豚だ。

 俺は魔術制御の練習がてら、周りの木々を燃やさないように炎を制御し、剣をブーランに近づけていく。


 ジュウウウウウウウウウウウッッッ!!


「ぎゃああひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいうぇりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」


 最初に焼いたのは汚らわしい股間。

 そこからゆっくりと上へと突き上げ、下腹部から頭部へ両断した。

 肉の焼焦げる匂い。

 あまりいいものではない。

 ブーランは驚くことに、炎剣が腹部に到達するまで生きていた。

 その生命力だけは称賛に値する。


「さて、最後の仕上げか」


 炎剣を光剣に戻し、昏い暗黒の悪魔のイメージとその質量を拡大する。

 すると、すぐさま光剣は形状を変化させ、漆黒の巨大なフライパンのような形になる。

 俺はそれを振り上げると、ブーランの亡骸に振り下ろした。


 ズシン!


 大地を響かせながら、黒剣が地面にめり込む。

 黒剣に面している部分の作物、木々が飛躍的に枯れ落ちていく。

 

「…………」


 俺が念じると剣は消失し、ブーランの亡骸共々、幻だったかのように、森を静寂が支配した。


「……あぁ……私、人を殺したんだな……」


 罪悪感ではない。

 ましてや、後悔や悲しみでもない。

 ただ、どこかで始まりの音を告げる鐘の音のようなものを俺は聞いたような気がした。









 ブーランの失踪はシュベリアで大きなニュースとなった。

 有能だったのは事実だったらしく、国の政務に多大な影響が出ているとエミリアは涙目で俺に愚痴を言いに来た。

 俺の部屋の壁が崩壊していた件については、適当に魔術の制御を誤ったといえば納得した。


「あははは……気にしないでください、よくある事なんですよ」


 とはエミリアの言である。

 さすがは魔王が君臨し、魔術が飛び交う異世界。

 その度量の深さは見習いたいものである。


 

 


 










ここまで見てくれた方には分かってもらっていると思いますが、この物語はシリアルです。


気楽に欠伸でもしながら見てやってください(笑)

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