~オニキスの苦悩2~
噂が広まっていた。
それは俺たちの足よりも遙かに早く、しかも行く先々で尾ひれがつく。
(いや、つき過ぎだ!)
「ねぇねぇ~知ってる? あの噂!」
「うん! 聞いた、聞いた! 何処かの国の王子様がお供を連れてお忍びで世直し旅をされてるんだよね」
「今まで権力を笠に着て私腹を肥やしてた領主とか、威張りまくってた役人とか……スネに傷持つ奴らはあたふたしてるらしいよ」
「ほんと、いい気味だよね~」
「王子様ってどんな人だろう?」
「すっごい美形らしいよ」
根も葉もない噂だ……とは言えない。
何故なら、噂の出処は他でもない“俺たち!”だからだ。
それにはこんな経緯がある。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
山道で怪我をした老人に出会った。
俺はその老人を負ぶって老人の家まで送って行った。
其処は山間の小さな村で宿屋もなかったし『是非お礼に我が家で!』という老人の言葉に甘えて一宿一飯の恩義に与った。
その夜、この村の人々が腹黒い領主に苦しめられている事実を知る事になる。
ムーカイトに居た頃は“憎まれ役”を演じていたシェルだったが、本来のシェルは困っている人を見捨てる事など到底出来ない。
黙って立ってるだけでもトラブルメーカーなのに、何も自ら進んでトラブルを背負い込まなくても……と思うのだが、そんなシェルに惚れたのだから仕方がない。
二人で一緒に領主に直談判に行く事になった。
しかし、当然の如く門前払い。
何度行っても結果は同じ。
……という訳で実力行使に出た訳だ。
(いや、俺は止めたんですけどね)
乱闘の最中、一人の男が飛び込んで来て、領主に何やら耳打ちをした。
その瞬間、領主の顔色が変わる。
どうやら、毎日直談判に来ていた俺たちが村人ではない事を不審に思った男が
(まあ、そうだろうなあ~)
俺たちの身元を調査していたらしい。
「ハウライトのオルソセラス侯爵家のご子息? ……あの男がっ!?」
(すみませんねぇ~。“らしく”なくて!)
「……という事は、侯爵家のご子息を供にしているあの少年はっ!?」
(いや、だから! 何で俺は供!?)
「もしや、ハウライト王家の……!?」
(えっ!? なんか、嫌な予感が……。何か誤解してません?)
…という訳で、めでたく一件落着。
(……って、ちっともめでたくなんかないが)
それに似たような事が何度かあって、今に至っている訳だ。
きゃあぁぁあああ~~~!
……と、まるで推し量ったかのように突如響き渡る女性の悲鳴!
(空気読み過ぎだ!!)
そう思いながらもシェルの後を追いかけて行く。←惚れた弱味
こうしてまた、オニキスの苦悩の旅は続くのである。
でも、それでもシェルが傍に居てくれるだけで楽しい。
やっぱりドМなオニキスであった。
★ ★ ★ ★ ★
【おまけイラスト】
今度こそカッコいいオニキスを!
……と思ったのですが、もはや別人。
それなりの格好をすればオニキスも“侯爵家のご子息”に見えない事はないと思うんですけどね。
「オニキス&シェルの~世直し旅☆奮戦記~」は他サイトでの連載当初、予想外に好反応で「シリーズ化してほしい!」というご要望もあったのですが、取りあえず二話で終了です。
そして、これをもちまして「aeon~アイオーン~」は完結という事になります。
ここまでお付き合い下さった皆様、本当にありがとうございます。
次回からは、再び本編に戻りまして「ノンマルタス伝説0~はじまり編~」を連載させて頂こうと思っています。
そちらも引き続き、お付き合い頂けましたら幸いでございます。




