~第三話~
シェルはその場で立ち止まったが、振り返りはしなかった。
「違う! 俺はあんたに会いに来た訳じゃない。俺はもう二度と地上には来られないから、最後にもう一度! そう思っただけだ!」
「じゃあ何故、此処に居るんだ!?」
「あんたがオルソセラスに帰ってる事はクリソコラに聞いて知ってたから。昨日があんたの花嫁候補との顔合わせだったって事も知ってる! 俺はあんたが幸せになってくれたらいいって。だから、それを見届けに来たんだ。遠くから、一目でいい! あんたの顔が見られれば……って思ってたんだけど、此処に来るのが遅くなったから、それはもう無理だって。だから、せめてあんたの母上のバラ園を見ておこうかなあ~って思ったんだ」
「君がずっと、遠くからセレスを見守ってたようにか?」
「ああ。だから、会うつもりはなかったって言っただろ! なのに、何でこんな処に居るんだよ!?」
シェルの肩が小刻みに震えていた。
シェルはオニキスの手を振り解こうとした。
しかし、力ではオニキスに敵わない。
それでも、シェルは頑なにオニキスの方に向こうとはしない。
オニキスは背後からシェルを抱きしめると左手で強引にシェルの顔を自分の方に向けさせた。
(泣いてるのか?)
シェルの瞳から一粒の涙が零れ落ちた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「俺を見るな!!」
シェルはそう叫ぶとオニキスから逃れる為に一層の抵抗を試みた。
彼は自分の涙をオニキスに見られたくはなかった。
「シェル、何故?」
「…………」
「何で泣くんだ? 何故、俺を避けようとする?」
「…………」
「どうして、何も言わないんだ!?」
オニキスは半ば強引にシェルを横抱きにした。
「なっ! 何、するんだ? 放せって、言ってるだろっ!?」
突然の事にシェルは驚いてそう叫んだが、オニキスはまるで聞こえていないかのように、そのままガゼボまでシェルを抱いて行くと椅子に座らせた。
その椅子は元々、ガゼボの円形に建っている柱に沿うように作り付けられている大理石で出来た長椅子だった。
オニキスはシェルの両肩に手を置いて彼の顔を見つめた。
思わずその手に力が入る。
そうしなければ、シェルは自分から逃げるのではないか……という危機感がオニキスにはあった。
シェルは思わず横を向いてオニキスの視線を逸らそうとした。
「どうして目を逸らすんだ? 君は俺に会いに来てくれたんだろう?」
「違う! 会うつもりはなかったって何度も言ってるだろう? 今更、会える訳がない! 俺にはそんな資格はないんだ!!」
「資格って……。君は何時もどうしてそんな事を気にするんだ? 君と俺が会うのにどんな資格が必要だって言うんだ!? 俺は君に会いたかった。君もそうじゃないのか!?」