~後編~
『俺は、あんたとセラフィナイトは何時か手を取り合える日が来る……と思ってる』
そう言って、シェルは微笑んだ。
(シェルにはやはり先見の明があったんだなあ~)
……と、セラフィナイトが死んだ時、私は今更のようにそう思った。
私を殺したいほど憎んでいる――と言ったセラフィナイトは、シェルの一件以来、私を認め信頼してくれていた。
彼はそういう事をはっきりとした言葉で私に伝えた事は一度もなかったが、彼の言葉や態度の端々で感じ取る事が出来た。
『あいつは自分が認めた相手なら受け入れられる奴だから』
本当にシェルの言う通りだ!
このノンマルタスの都で、彼は最も信頼出来る存在だった。
シェルが逝ってからは共に幼い女王陛下の貢献としてアイフェを支えてきた。
彼は私の“無二の友”だったのだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お父様が愛し護ってきた一族を、今度は私が護っていく。それが私のお父様への恩返しであり、愛の証しだと信じていますわ」
「そうですね。彼は何時も何事に対しても真摯だった。彼は最期の瞬間まで、私と共に生きようとしてくれた。私は彼との約束を守りたい! 一つは貴女が成人するまでの貴女の後見。そしてもう一つ。それは貴女が産まれる遥か以前に彼と交わした約束。多分、彼はそれを一番望んでいたと……それが貴女やノンマルタス一族の真の願いであると信じています」
(私は地上に帰り、地上の人々にノンマルタス一族の事を伝えなければならない。そう! 何時の日か、『共に暮らそう!』と地上の人々が手を差し伸べて迎えに来る。それがノンマルタスの悲願なのだから……!)
テラス棟から一望出来るノンマルタスの都。
白い石造りの美しい町並み。
★ ★ ★ ★ ★
【あとがき】
この「アイオーン」はシェルが生きていたら……という想定の元に書いたものなので、実際の続編ではありません。
けれど、ノンマルタスが辿ったその後の運命は変わりません。
この物語ではシェルの娘が王となりますが、本編の流れでいくと王族の中からラピス女王の後継が選ばれます。
ですからどちらにしても碧い髪の王は誕生せず、銀の髪の王がその後のノンマルタス一族を護っていく事になります。
ただ、一族が滅びる直前!
炎が燃え尽きる前に一瞬火勢が強くなるように、ノンマルタス一族最後の生き残りの赤ん坊は碧い髪を持って産まれます。
その子が、番外編「幻の島」に登場する少年です。
ムーカイトの碧い髪を持ったその少年は、本来の力の他に、動物や精霊と心を交わす事が出来る独自の能力を授かっていました。
それ故に、その少年の命は儚く短いものでした。
少年の命が消えた瞬間(少年の脳波がムーカイトの神殿のメイン・コンピューターと直結されています)ムーカイトは海に沈み、その全機能を停止。
ここにノンマルタスはその痕跡を地上から完全に消し去ったのです。
その悲願は達成されぬまま――
【追記】
前編をブログにアップした時に「シェルのお嫁さんってどんな人?」っていう質問が多かったので、ちょこっと記述しておきますね。
元々シェルには花嫁候補が何人か存在してました。
みんな王族ないしは近しい血筋の姫君ばかりです。
シェルにはオニキスが居るし、妃は世継ぎをつくる為に必要だから……などという割り切った考えの出来る子ではないので、シェルはそれなりに色々と悩んだんですね。
シェルの妃となった女性は、シェルとオニキスの関係を理解し、シェルにはオニキスが必要なんだ……という事も分かってくれる聡明で優しい人でした。
どちらかと言うと、カイとマリオネットの関係に近いかもです。
激しい恋ではないけれど、お互いを尊敬して大切にしていました。
ビジュアルは皆さんのご想像にお任せします。
※カイでふと思い出したんですが、このノンマルタス伝説が今の形になったのは高校生の頃です。
その前、未だ原案の頃はこの物語の舞台は日本だったんですよね。
地元の島が沈んだ伝説の影響を受けてますし。
だからカイは漢字で“櫂”だったんですよ。
残念ながら名字は思い出せませんが……。
挿絵のアイフェは17歳、オニキス44歳です。
オニキスはこの後、地上に帰還しますが、オルソセラスには帰らず語り部となって諸国を巡ります。
自分の死期を悟ったオニキスはアクアオーラの、かつてムーカイトが存在した場所に戻って生涯を終えます。
享年86歳でした。
これも本編の流れと変わらないです。
 




