~最終話~
「誰かに聞かされた訳じゃない。ただ、俺を救って育ててくれた母上に、一族の人々に報いる為に立派な“王”になろう……と。セラフィナイトにも協力してもらって、歴代の王の事も色々と調べたりしたんだ。……それで気づいた。セラフィナイトは何も言わないけど、多分あいつも知ってると思う」
「…………」
(だろう、な。あの鋭い男が気づかない訳がない。彼も知っていた。知っていたからこそ、余計に君を護りたかったんだ!)
『オニキス殿。私は……私の愛と忠誠は生涯、シェルタイト様に捧げると誓った! その想いは未来永劫、変わらない。私は私の持てる力の全てをかけてシェルタイト様をお護りする。貴方は貴方にしか出来ない事を。シェルタイト様の御心を、笑顔を護ってくれ! シェルタイト様は私や一族の者の前では、あくまでも“王”なのだ。あの方の本心を引き出せるのは貴方しか居ないのだから!』
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「“気にしてない”って言えば、嘘になる。でも、俺は色々と“特別”みたいだから、碧い髪の法則が当てはまるかどうかも分からないし。それに、人の命なんてどうなるか分からないしな。己の死期を自覚して生きてる奴なんて居ないから」
「それは、確かにそうだが……」
それでも尚、複雑そうなオニキスの顔を見てシェルは
「そんな顔するなよ。あんたは俺より九つも上なんだからな。あんたの方がぽっくり逝く可能性の方が高いんだぞ」
「な……っ!!」
「でも、まさか……君からそんな言葉を聞けるとは思わなかったな」
「くよくよしてても仕方ないからな。あんたの“能天気”さがうつったんだ」
そう言いながらシェルはオニキスの胸に顔をうずめた。
(能天気って……。君は俺を何だと思ってるんだ? でも、君は元々、自分の事には無頓着だからな。これが誰か他の人間の寿命なら、もっと切実に心を痛めるんだろうが……)
「オニキスさん、俺は強くなる!」
意を決したようにシェルは呟いた。
彼の身体が僅かに震えている。
「シェル、君は今でも充分強い。それに、君には俺がついてる。セラフィナイト殿や、君を心から愛してる一族の人々が。君は一人じゃないんだ」
「ああ、そうだな。でも俺は今よりも、もっともっと強くならなきゃいけないんだ、心も身体も! そして俺の全身全霊で、俺の一族を護っていく!」
「だったら俺は、一族の為に生きる君を、この命かけて護る!」
「オニキスさん……」
「その為に俺は、此処に居るんだ!」
未来の事は分からない。
明日の事さえも誰にも分かりはしない。
人は“永遠”を手にする事は出来ない。
だからこそ、この一瞬一瞬を大切に生きたいと思う。
――二人の人生はこれからなのだから――
 




