~第十八話~
「マイカ・アナテースに初めて会ったのは俺が六歳の時だったんだ。六歳って言えば、俺が出生の秘密を知って凄く荒れてて……。でも、みんなのお陰で立ち直って、落ち着いてた頃だから。多分、母上はもう大丈夫だと思って、俺とマイカ・アナテースを会わせたんだと思う。けど、マイカ・アナテースはその時俺を抱きしめて泣いたんだ。俺は、何故マイカ・アナテースが泣いてるのか分からなくて、ずっと不思議に思ってたんだけど……今なら、分かる!」
「そうだな。彼女もずっと苦しんでたんだろう」
オニキスはシェルに連れられて、王城から少し離れた場所にあるテラス棟に来ていた。
王城前に広がる大広場から水晶で出来た美しい橋で繋がっているテラス棟の地下には、巨大な収蔵庫がある。
元々王城は、王都が見渡せる小高い丘の上に建てられている為、そのテラス棟からはレムリアン・シードの美しい町並みが見渡せる。
初めて此処を訪れたオニキスは、王都を一望出来る――その素晴らしい景観に暫く言葉もなく見惚れていた。
シェルはそんなオニキスの様子を、黙ったまま見つめている。
「シェル……俺に何か言いたい事があるのか?」
「あ、ああ……」
何時ものシェルにしては歯切れの悪い返事だった。
此処に来るまでの間も会話が途切れたり、彼が何か別の事に気をとられているのがありありと感じられた。
オニキスは、彼が此処に自分を連れて来たのは、何か二人きりで話したい事があるからだ……という事は薄々察していた。
シェルはオニキスに話したい、その何かを……なかなか切り出せずにいるのだ。
「何か話したい事があるから、俺を此処に連れて来たんだろう? 城では話せない、他の誰かには聞かれたくない話なのか?」
「相変わらず……そういう事は鋭いんだよな、あんたは」
溜息をつきながらシェルは答えた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「そうか。俺が寝込んでる間の……あんたの心配の仕方が普通じゃなかったから、そうじゃないかなあ~って思ってた」
(ほんとは、あんたには知られたくなかった。余計な心配をかけたくはなかったんだ。でも……)
「もうあんたには、何も隠す必要はないんだな」
『オニキス殿、最後にもう一つだけ……貴方に伝えておかなければならない事があります』
それは、ラピス女王から聞いた最期の告白。
『ムーカイトの碧い髪……それは、ノンマルタスの王たる証しであり、最も濃い血を持つ証しでもある。しかし、それは同時に“諸刃の剣”でもあるのです。その発現する力が強ければ強いほど、能力が高ければ高いほど、それに反して、その者の寿命は短くなるのです』
『え……っ!?』
『私は歴代の碧い髪の王の中では最も長寿なのだと思います。それは私が女であり、子を授からなかった事もあるのだと思いますが……。我が一族が既に滅び逝く運命を背負っている事は貴方もご存知だと思います。一族の平均寿命も年々下がっている。しかし、このムーカイト王家のそれは一族の比ではありません。特に男性は……』
『…………』
『我が王家に男児が産まれぬのも、多分それが理由なのでしょう。勿論、人それぞれの寿命ですから杓子定規に決められるものではありません。個人差もあると思います。それに、シェルタイトはノンマルタスの血は絶えたと思われていたアクアオーラ一族の中に、突然産まれた碧い髪です。あの子の実父も実母も褐色の髪だった。あの子に、この法則が当てはまるのかどうかさえも定かではありません。最も近しい存在だと思われるのは、アクアオーラの始祖であり、混血だったカイですが……。残念ながら、カイの生命もそう長くはなかったと聞いています。彼の寿命は30代前半だったと……』
『そん、な……』
『オニキス殿、シェルタイトの力は歴代でも最強です。私はこの碧い髪の法則があの子には当てはまらない事を願っています。けれど、もし……もしも、そうであるならば、あの子の生命はカイよりも短いかもしれない。その覚悟だけは持っておいて下さい!』




