表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
aeon~アイオーン~  作者: トト
aeon~アイオーン~Ⅲ
20/30

~第十五話~

 オニキスは静かにシェルに歩み寄った。


「シェル、君が辛い記憶を封印してしまったのは仕方がない事だと思う。でも、君が忘れても“真実”は変わらない。セレスが死んだ事も、ムーカイトを沈めた事も。そして、ラピス女王の犯した罪もだ!」

「オニキス? 貴様、何をっ!? そんな事を言ったらシェルタイト様がっ!!」


「……セレスが、死んだ?」

「ああ、セレスはもう居ない。彼は君を庇って死んだんだ」

「やめろ! オニキスっ!!」


 止めようとしたセラフィナイトを右手で制しながら、尚もオニキスは言葉を続けた。


「シェル、哀しい時は泣いていいんだ。我慢する必要なんてない!」

「何を言ってるんだ? セレスは死んでなんていない! 俺は哀しくなんか、ないっ!!」



  挿絵(By みてみん)



「ラピス女王さえ、あんな事をしなければ……君は本当の父上と母上と、セレスと、幸福に暮らせた筈だった」



  挿絵(By みてみん)



「でも、君はそんな風には思っちゃいない筈だ」

「……っ!?」


「君は確かにずっとセレスたちを見守ってた。自分の存在を彼らに知らせる事が出来たらどんなにいいだろうと。共に“家族”として暮らせたらどんなに幸せだろうと。そう思っていた事も紛れもない君の“真実”だと思う。けれど、君が心の底で本当に願っていた事は、真に欲していた事は“ラピス女王の実子として産まれたかった”って事じゃないのか? だから君は、ラピス女王に罪を犯させた自分の存在が許せなかったんだろう? 『俺さえ産まれて来なければ母上は罪を犯さずに済んだ。俺の所為でずっと母上は苦しんでたんだ!』……そう思ってるんだろう? 君は何時だって他人を責めたりしない。自分を責めて、追い詰めていく。自分さえ居なければ……と」


「…………」

「でも、それは違うんだ。シェル、ラピス女王は確かにずっと苦しんでた。君の哀しみや苦しみは全て自分の所為だと……そう、ご自身を責めておられた。けれど、それと同じくらいに。いや、それ以上に女王は幸せだったんだ! 君という存在を得られた事を、君を我が子と呼べた事を!」

「そんな……嘘だ!」


(シェルタイト様! 記憶がっ!?)


「嘘なんかじゃない! ラピス女王は俺に『自分の罪を誰かに責めてほしかった! 懺悔がしたかったから話したんだ!』と仰った。でも俺は多分、ラピス女王はこうなる事を予測されてたんだと思う。君が“真実”を知ってしまう日が来るのを! だから俺に託されたんだ。君にラピス女王の本当の心を伝える為に! 女王は君を心の底から愛してた。ラピス女王の願いは君の“幸福”……ただそれだけなんだ!」


「母上が、俺を……?」

「ああ! シェル、もう一度言う。哀しい時は泣いていいんだ。泣いて、全てを洗い流してしまうといい」


 その時、シェルの瞳から一粒の涙が零れ落ちた。


「あの手紙を読んで……俺は、俺の存在は! たった一人の最愛の母さえ不幸にしてしまったんだと思った。譬え“予言”そのものは母上の“作り事”だったとしても、確かに“予言”は的中した。俺は結局、アクアオーラ一族を滅ぼしたんだ。沢山の罪もない人々の命を奪った。俺さえ産まれて来なければ誰も不幸にならなかったって。マイカ・アナテースだって犠牲者なんだ! やっぱり俺は呪われた存在なんだって! 俺は何時か、オニキスさん! あんたも不幸にするんじゃないかって!! 俺は辛かった。いや、怖かったんだ! 俺は、あの時セレスと共に死んだ方が良かったのかもしれない。けど、俺は“王”だから! 一族を護らなきゃならないから。今、死ぬ訳にはいかない。だから、みんな忘れてしまえたら、どんなに楽だろう……って思った!」


「シェル……」

「でも、少なくても母上は幸せだったって、俺は思ってもいいのか? 産まれて来て良かったって思っても?」

「ああ! ラピス女王だけじゃない。一族の人たちも、此処に居るセラフィナイトも! そして勿論、俺も!! 君が産まれて来てくれて良かったって心から思ってる。君に会えて良かったって!」

「オニキスさん。あんたは俺があんたを好きになった事、迷惑じゃないのか?」

「そんな事、一度だって思った事はない! シェル、俺は君の傍に居られるだけで……それだけで幸せなんだ! 誰よりも君を愛してる!!」


 シェルの瞳から大粒の涙が後から後から、零れ落ちてくる。

 オニキスはそっとシェルを抱きしめた。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 宝石のように美しい、緑がかった碧い瞳から流れ落ちる銀色の涙。

 セラフィナイトは、そのシェルの涙を……ただ見つめていた。



  挿絵(By みてみん)



 私がシェルタイト様に初めて御目通りを許されたのは、私が八歳、シェルタイト様が三歳の時だった。

 幼い頃から我慢強い方だったが、その頃はよく私に負けて悔し涙を流しておられた。

 剣の試合でもそうだ。


(五つも歳が離れてるんだから仕方がないと思うのに、負けず嫌いな方だなあ~)


 ……と子供心に何時も思っていた。


 けれど、シェルタイト様が五歳になられた……あの日。

 ご自身の出生の秘密を知られたあの日以来、シェルタイト様は人前で涙を御見せになる事は決してなかった。

 セレスタイト様が亡くなられた時も

 ラピス女王が崩御された時さえも

 シェルタイト様は毅然としておられた。



    挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ