~第八話~
セラフィナイトはそのまま踵を返して、その場から立ち去ろうとしていた。
「待、て……。待ってくれ、セラフィナイト殿っ! シェルを見つけるには貴方の協力がどうしても必要なんだっ!!」
オニキスの言葉にセラフィナイトは振り向く事なく
「私ではシェルタイト様の御心は護れない……とでも言う気か!?」
「そ、それは……」
「なら、貴様は何なんだ? シェルタイト様の御心を護ると言いながら、何故こんな肝心な時にシェルタイト様のお傍に居なかった!? 何故、地上に帰ったりしたんだ!?」
「それは……何と謗られても仕方がない。全て俺の咎だ!」
(言い訳はしない……という事か。貴様が地上に帰ったのはシェルタイト様の御意志を尊重したからだ……という事くらい私にも分かっている。私がイリス・アゲートから帰還した時、貴様はあの場に居た。シェルタイト様の御身を心配しての事なのだろう?)
「だからこそ、俺は一刻も早くシェルを見つけたい! 取り返しがつかなくなる前に! “真実”を知って傷ついたであろうシェルの心を癒さなければ……」
そこまで言って、オニキスは“しまった!”と思った。
だが、もう遅い。
「真実? “真実”とは何なんだ!? あの手紙には一体何が書いてあったんだ!? 取り返しがつかなくなるとは、どういう事なんだっ!? 言え、オニキスっ! 手紙の内容が分かれば、シェルタイト様の居場所が特定出来るかもしれないだろう!?」
「…………」
「オニキスっ!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
言えない!
生涯誰にも話さない……と俺はあの方と約束した。
けれど、あの方が隠し通そうとしたこの真実を一番知られたくなかったのは、他ならぬシェルだったのだ。
そのシェルが知ってしまった。
これは、あの方が恐れていた最悪の事態。
しかし、あの方の真の望みは真実を闇に葬り去る事ではなく、シェルを護る事だった。
その真実の過酷さから!
自らの犯した罪の深さから!!
そう、あの方の願いはシェルの幸せ。ただそれだけ……なのだ。
オニキスは覚悟を決めた。
「セラフィナイト殿。貴方は、誓えるか? 俺が今から言う事を己の胸一つに収めて、生涯誰にも話さない……と」
「貴様の、話の内容にもよるが……」
「俺は正直、貴方をそこまで信頼してる訳じゃない。でも、貴方を信じるシェルを俺は信じてるから。そして、貴方の俺への憎しみの深さは、そのまま貴方のシェルへの想いの深さだと思うから。……だから話そうと思う」
「…………」
「誓ってくれ、セラフィナイト殿! 誰にも話さないとっ!!」
「…………」
(貴様を殺したいほど憎んでいると言った、この私を信頼すると言うのか? いや“私を”ではなく、シェルタイト様を信じる……という事か)
「俺ではなく、シェルの為に誓うと言ってくれ! セラフィナイト殿っ!!」
「……それが、シェルタイト様の御為と言うのなら私に“否や!”はない。承知した。私の命に代えて、生涯誰にも話さないと誓おう!」
「セラフィナイト殿……っ!」




